これはきみとぼくの出逢い〜黎明へと続く夜明け前の物語〜

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第十章 ルノールの混乱

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「わたしの存在そのものが、ルノール人にとっては不吉ということか。やれやれだ。レスターとは親しくしているからまだマシだか、これがレスターと面識を持つ前なら、華南とルノールは戦争状態に入りかねない」

「やけに落ち着いてるね、瀬希? きみの命が狙われる可能性が高いんだよ?」

「その辺はあまり心配していないというか」

「どうして?」

「綾が水神と逢っているからだ。そういう可能性が高いと知っていて、綾がオロオロしたままなんの策も持たずに帰還するとは思えない。なにか水神から解決策を貰ってるんじゃないのか? 綾?」

「あ、うん」

 頷いて綾は打ち明けた。

 瀬希の身は四神が護ること。

 それは瀬希の願いのひとつにはならないこと。

 瀬希を護ることが四神の義務であること。

 精霊使いでは四神には敵わないこと。

 だから、事実上瀬希皇子の暗殺は成功しないことを。 

「でも、綾。それはさ、言いにくいけど四神が召還されたらって条件付きの解決策じゃないのか? つまり問題の事態が起きた後しか解決策は用意されてない。違うか?」

「うん。そうなんだよね、兄さん。四神が今大人しく聖火を灯す役割に徹しているのは弱っているからで、力も大半を失っているみたい。それを取り戻させることができるのは、唯一瀬希皇子だけで、だから、召還は欠かせないんだけど」

「だか、それで十分じゃないか? わたしが四神を召還すれば聖火は消える。それが知られていなければ暗殺なんて起きようがないし、現実問題としてこれが漏れたとしても、朝斗やルパート、ルノエがいるからな。綾が望まないわたしの暗殺なんて許さないだろう?」

「あんた意外と計算高いな、瀬希皇子?」

「世継ぎなんてこのくらいでなければな」

 途中で暗殺されて終わりだと言われ、朝斗も肩を竦めた。

 深々とため息をつく。

「あ。瀬希皇子がルノールに行くのは、ぼくは反対だけど、ルパートとルノエは一度戻った方がいいかも」

「「どうしてですか?」」

「ふたりともルノールから離れ過ぎてて気付いてないのかな? それともぼくが幽体だったから気付いたのかな?」

「「あの?」」

 混乱しているふたりに綾都は打ち明ける。

 ルノールに行って感じたことを。

 レスターは二度目の驚愕を覚えた。

「つまり? 精霊たちが暴走しつつある?」

「うん。精霊たちの頂点に立つべきふたりがいるせいで、ルノールが活性化を引き起こしてるんだ。大神殿も混乱しているようだったし、それをなんとかできるのって、ルパートとルノエだけでしょ?」

「その状況だとボクは帰れないね」

「レスター?」

 瀬希が不思議そうな顔になる。

「ルノール最強の精霊はボクについてきてる。だから、その程度で済んでいる可能性が高いんだ。だから、ボクが四精霊を連れて戻れは、事態を悪化させる可能性が高いということ」

「いや。その状況だと俺たち全員一度ルノールに行った方がいい」

「兄さん?」

「「朝斗様?」」

「一段階めの方法として四精霊に精霊たちを静めてもらうようにレスターが頼む。これがダメならルパートたちにやらせる。それでもダメなら四神を召還するしかない」

「どうして? 四神を召還はさたら聖火が消えて、ルノールは余計に混乱するよ」

「精霊を超える力は四神しか持ってない。つまりその混乱状態をなんとかできるのは、最終的には四神のみということになるんだ」

 朝斗の指摘にレスターは思わずため息をついた。

 それは確かに最終的な手段だろうと。

 四神を召還すれば現在の混乱は静められる。

 だが、四神が召還されたことで、聖火が消えて二度目の大混乱が引き起こされるのだ。

 どうしろというのかとレスターは言いたかった。

 ルノールにとっては、どちらも存亡の危機なので。

「一段階めの作戦が成功するかどうかは、レスターにかかってる」

「ボクに?」

「レスターが最上級の精霊使いとして、直接四精霊を使役する。そうして使役した四精霊たちに他の精霊たちを静めさせる。それがレスターにできるかどうか、それにかかってるって言ってるんだよ」

「でも、ボクは今まで盛大に力を使ったことは」

「わかってる。だから、できない場合を考えて、全員で行った方がいいと言ってるんだ。ルパートたちを使うにしろ、四神を使うにしろ、できれば使いたくない手だけどな」

 ルパートたちについては朝斗が言えば嫌だとは言わないだろう。

 ルノールを救うことは綾都の望みでもあるのだ。

 そうなるとふたりとも綾都の願いは無視できない。

 だが、四神に関しては召還では瀬希に頼るしか手段がない。

 それは彼の身に危険を招く。

 それだけなら四神がなんとかしてくれるが、最悪国家間の問題になったら、朝斗の手には余る。

 それは一介の側室にどうにかできる問題ではないからだ。

 だから、なるべく使いたくない手だと言ったのだが。

「もう隠せないんだね。ボクが精霊使いであることは」

「仕方ないさ。それが一番安全な手なんだから」

「うん」


 ルノールを救うためにレスターは精霊使い、それも最上級の最高位の精霊使いとして立ち上がらなければならない。

 これは今まで己の役目から目を逸らし続けて来た報いだろうか。

 ロベールはどう思うだろう。

 それだけが気掛かりだった。

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