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第九章 思惑
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しおりを挟む第九章 思惑
「結局現状ですべてを理解し、また掌握しているのは華南の瀬希皇子のみ、ということか」
忌々しげにアレクが呟く。
あれからアレクは情報収集をしたが、ルパートとルノエと名乗るふたりが、ダグラスで召還された召還獣で、そのふたりが何故か瀬希皇子の側室のふたりに懐き、結果として召還主と召還獣の理を無視してウィリアムから離れたことしかわからなかった。
そうして現在ふたりは瀬希皇子の下にいるという。
それ自体はふたりとも嫌々と言った感じだったが。
「それはどうだろう?」
「カイン?」
「おれにはあの時点ではレスター王子も状況を把握しているように見えた。少なくとも今は別にしても、あの時点では瀬希皇子よりレスター王子の方が、事態をより詳しく理解していたような気がする」
あれから瀬希は無理矢理場を纏め、追い縋るウィリアムも放置して、彼らを連れ自分の宮に戻ってしまった。
幾らあのふたりを召還したのがダグラスでも、その理が通じないのでは留め置けないだろうから。
ウィリアム大統領は大層悔しそうだったが。
つまりあの場が終わってからされるだろう話し合いで、瀬希皇子にも詳しい説明がなされる可能性が高いということだ。
「しかしこうなると益々わからないな。結局重要なのは兄か、弟か?」
「わたしにはこう思えるのだけれど?」
それまで黙っていたシャーリーが口を開き、兄たちが揃って振り向いた。
「現時点で一番状況を把握していて、それなりの力を発揮できるのは兄。でも、実際に力を覚醒させた場合、上に立つのは弟」
「どうしてそう思うんだ? シャーリー?」
兄たちを振り向いてシャーリーは屈託のない笑顔を見せる。
「だってあの場を思い出すと、そうとしか思えないんだもの。あのルパートとルノエと名乗った召還獣‥‥‥って呼んでいいのかしらね? とにかくあのふたりは兄の方をご主人様と言ったわ。でも、弟の名を訊ねたときは、あの御方と言ったのよ? これ、どう考えても弟の方が重要視されているじゃない。普通ご主人様の方を丁寧な呼び方しない? 少なくともわたしなら大兄様よりお父様の方を丁寧に呼ぶわ」
「そういえばアレク。あのふたりが側室に近付いたとき、わざとらしさを幾分感じたな」
確かに妹の言っていることが当たっていた場合、あのふたりが膝をつくべきなのは、兄ではなく弟の方だろう。
それは理解できる。
弟を見る目つきが違ったからだ。
だが、実際にふたりが膝をついたのは兄の方だった。
これはどこかおかしくないか?
あの状況なら膝をつくべきなのは弟の方だ。
「それに急に出てきたあの小さな可愛い子たち。あれ、誰?」
シャーリーが興奮気味に言う。
まあ無理もないなと思う。
女子供は小動物に弱いものだ。
その上あれは‥‥‥。
「おそらく精霊だ」
「「精霊?」」
「それもあのときの会話が事実なら、ルノール最強の精霊とされている四精霊」
「ルノールの主神である火の精霊を含んで纏めて言われるあの?」
四精霊は確かにルノールの最強の精霊だが、その位が高位なのとあまりに気まぐれで扱いにくいため、滅多に姿を見せないという欠点がある。
それがどうしてあの場に? とカインは目を見開く。
「でも、四精霊って物凄く扱いづらくて、ルノールの精霊使いたちも手を焼くほどだって聞いたわ。彼らを素直に従わせられる精霊使いはいないとまで言われているって。どうしてあの場にいたの? 第一ここはルノールではなく華南よ? 彼らの守護する国ではないのに」
「守護するべき相手が国を出たからだろう」
「レスター王子か」
カインがやはりあの疑いは事実なのかと口に出す。
シャーリーはそれは聞いていなかったので不思議そうだ。
「ただあの場に何故突然現れたのか、それがわからない。しかも状況を見る限り全員に見えていたようだしな」
「あの朝斗という側室の言った言葉を信じるなら、四精霊は消滅していた?」
「そうなるわね。だって彼、あのふたりに四精霊を復活させてほしいって言ったもの。あのふたりにはそれができるって。ちょっと信じられないけど」
「だが、復活したばかり、つまり産まれたばかりだったから、全員に姿が見えたと判断した方が自然だ。これから先に四精霊の姿を見せることは、おそらくないだろう。そういう意味では貴重な経験したことになるが」
しかしそうなると誰かが四精霊を召還していなければならない。
四精霊を召還させてなにかをさせて、その結果四精霊は消滅した。
そのどちらもが重要なことだ。
四精霊を使役できる精霊使いがいることも、また四精霊を以ってしても消滅させるほどの現象についても。
「この結果をよかったと捉えるか、それとも瀬希皇子が、4人とも、いや、レスター王子が瀬希皇子に好意的なことを思えば、彼をも含めて取り込んでいることを危惧するべきか」
「瀬希皇子はわたしがなんとかするわ。だから、大兄上様は変わらずにあの綾都という側室を手に入れる努力をすればいいわ」
「「シャーリー?」」
「わたしね? なんとなくだけどあの綾都という人を放置していてはいけない気がするの。どうしてかしらね? 現状で重要視されそうなのは、どう考えたって兄の方だというのに。わたしには弟の綾都という人が重要な気がするの」
聡明な妹姫の髪をアレクは黙って撫でた。
シャーリーが幸せそうな顔になる。
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