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第二章 四大国家
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しおりを挟む「西国にあるのが新興国ダグラス。このダグラスが信じる宗教が一番古くて自然教という」
「自然教?」
「この世のすべてに意味があるとされていて、中心に位置するのは太陽神。太陽神の恩恵を授かることで、召還術という別の世界から獣を召還する術を持っているらしいんだ」
「え? それって……」
「だから、最初瀬希皇子は俺たちにもダグラスが関わっているんじゃないかと疑ったわけだ。現状でダグラスが関わらずに異世界から招くことはできないから」
「そういうことだったんだ?」
妙に感心してしまった。
疑われていたことにも意味はあったのか。
「最後にこれが一番厄介だと思うんだが、世界一の大国シャーナーン。シャーナーン人が信仰しているのは唯一絶対の大神イズマルで、一般にイズマル教と呼ばれている。言ってみれば地球のキリスト教だな」
「どんな力を持ってるの?」
「いや。ダグラスや華南、ルノールと違って、一番普及している宗教なのに、シャーナーンにはそういう加護はない」
「それでどうして一番浸透しているの? 普通なら実績のある方を信じない?」
「加護がないのにイズマル大神を信じるシャーナーンが、他国それも神の加護を持つ3か国を退けて頂点に立っているからだ。そのことからイズマル大神を主神とするイズマル教が広がった。シャーナーンが頂点に立ったのは、イズマル大神の加護だと彼らは信じているから」
ここまで言われて綾都は大体のことを把握した。
綾都は確かに物覚えは悪いが、頭が悪いわけではないのだ。
でなければほとんど学校を休んでいて、単位が必要な高校以外を留年せずに進級できなかっただろう。
ただお人好しだし、すぐに人を信じるので騙されやすく、勉強が嫌いなため、物覚えが悪いだけだ。
「つまり? シャーナーンにとっては他の3か国は目障りで、とても脅威的な存在なんだ? 自分たちにはない加護を持っているから」
「そういうこと。同じ意味で違う力を持っているが故に残りの華南を含む国々も、互いを敵対視していて世界は四つの国々の争いに常に怯えている。それが大まかな成り立ちかな」
「悲しいねえ。どうして人は争わないで生きていけないんだろう?」
「それは俺たちがどうこう言える筋合いじゃないよ、綾。俺たちは所詮余所者だ。なにを言っても責任なんて取れないし、この世界のことはこの世界の人間たちにしかどうにもできないよ」
「それはわかってるけど……」
「ただ俺たちが異世界から来ていて、すべての言語を操り、尚且つ四大国家のひとつ、華南に保護されているのは事実。それに俺の怪力のこととかあるし。だから、綾に教えたんだよ、今の説明。知っておかないと危険を避けられないと思ったから」
朝斗はできるなら綾都は真綿に包んで、どんな危険も近付けず自分の力だけで守ってやりたい。
でも、こちらの知識を知れば知るほど、自分ひとりでは守りきれない局面が必ず出てくるのではないかと思われた。
だから、教えたのだ。
そうでなければ余計な知識なんて与えていない。
「今日来たルノールの王子が、どんな人物かによっても、ぼくらの立場って変わってくるのかな?」
「さあな。取り敢えず目立つなとだけ言っておく。余計な興味を惹かないでくれよ、綾都」
このとき朝斗はそう言ったのだが、最初的に目立つようになるのが、実は自分だとこの時点では気付いていなかった。
綾都と朝斗の違い。
それによりルノールにとって有益なのは、綾都ではなく朝斗だということになるので。
ルノールが華南にやってきた。
そしてすぐにシャーナーンもやって来る。
このことがふたりをこの世界の宗教と国を巡る争いに巻き込んでいくことになるのだった。
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