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第八章 夜叉の王
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しおりを挟む「東天王と南天王に敵対する意思がないという意思表示をしていることはわかった」
場を移して人気のない公園に移動した途端、紫瑠が口火を切った。
静羅を囲むようにして紫瑠たちが陣取り、その正面に迦陵と祗柳、その両方がよく見える位置に夜叉王がいた。
「だが、帝釈天を天帝として迎えようとしていることも事実。その上で俺たちに名乗れと要求するのは筋が通らない。聖戦で天族がなにをやったか、天族要の天王たちに忘れられるのは不本意だ」
「忘れたわけではありません。わたしたちは貴方たちが何方だったとしても、例え静羅さんが阿修羅の御子だったとしても、敵対する意思はないと申し上げているのです。それはご理解頂けませんか?」
「天が覚醒して阿修羅の御子の命を再び狙ったとき、或いは狙うと宣言したとき、同じことが言えるのか? 天族要の天王のしかも中心たるお前たちに」
「それは……」
祗柳は言葉に詰まったが、ここは以前から思っていたことを迦陵が告げた。
「言ってみせるさ。今度天が阿修羅の御子を狙うと言っても、俺たちは従わない。道を違えようとする王を止めてみせる。その覚悟がなかったら、ここにいない」
「……東夜」
「それに俺たちも和哉を見て考えを変えたんだ。もしかしたら今の和哉なら、天なら、以前と同じ過ちは繰り返さないのかもしれないと。その希望にかけてみようと思ったから、天を迎えることに賛同する気になったんだ。阿修羅の御子が健在なら、別に天帝として迎えようとは思わない。だが、帝釈天は我等が王だ。王を必要とする一族の者の気持ちはわかってほしい」
一族の王として迎えたいだけだと言われて三人は顔を見合わせる。
主張は理解できるが受け入れるのは危険だった。
これは東天王と南天王の独断とも取れるので。
「わたしたちの独断かもしれないと危惧される気持ちはわかります。ですが今ではこれが大方の天族の意思です。勿論実際に阿修羅の御子が天帝として動き出したら、反発を覚える者もいるでしょう。ですがそれを乗り越えないと天族の未来はないと、わたしたちは思っています。そこのところをご理解頂けると幸いです」
祗柳が礼儀正しく頭を下げる。
夜叉王は彼らの主張を聞いていて紫瑠に声を投げた。
「信じてみてもいいんじゃないのか?」
「……夜叉王」
「疑ってばかりいても進展はしない。実際静羅がここに留まっていられるのは、後僅かな間だけだろう。なら彼らにかけてみたらどうだ? 敵対する気なら今だって、いや。さっきだって東天王は静羅を討てたんじゃないのか?」
神として覚醒していない阿修羅の御子なら倒すのは簡単。
そう言われて紫瑠も覚悟を決めた。
「信じてもいいんだな。東天王、南天王」
「この魂に誓って」
迦陵が代表で答え、祗柳も強く頷いた。
それを受けて紫瑠がため息を吐き出す。
「俺は阿修羅王の第二王子、紫瑠だ」
「「第二王子!?」」
「母上は第二妃だ。だから、兄者とは母親が違う」
「……そうだったのか」
「確かに阿修羅王は聖戦の直前にお妃様を迎えられていますから、別に産まれていても不思議はないのでしょうけど」
意外な伏兵といった感じだった。
ということは阿修羅族が姿を消したのは、まだ産まれていないもしくは生まれ手間もない第二王子を守るため、か。
世継ぎの君が戻るそのときまで、一族を統べるべき第二王子を守るために一族は存続を選んで姿を消した。
そういうことだろう。
それなら阿修羅族のあまりに見事だった滅亡劇も納得できる。
あれは仕組まれたことだったのだと。
「わたしは阿修羅族の長老の末子で巫女姫を名乗っている柘那と申します」
「わたしは紫瑠王子直属の配下の武将、志岐と言います。よろしく」
好意の欠片も感じさせずに志岐が名乗る。
確執はまだなくなってはいなかった。
すべての者の視線が静羅に集まる。
見られてもまだ認めていない静羅にはなにも言えないのだが。
「そしてそこで立っているのが我が兄者、阿修羅族の世継ぎの君アーディティアだ」
「……紫瑠」
違うと言いたそうな静羅に紫瑠は一言だけ付け加えた。
「まあ兄者はまだ認めていないんだが」
「認めていないって……ここまで状況証拠が揃って、まだ反論するっていうのは往生際が悪すぎないか? 静羅?」
「んなこと言ったって今まで十五年人間やって来てだぜ? いきなりお前は神です。しかも天帝となるべく特別な使命を持って産まれた神ですと言われて納得できる奴がいたら顔をみてみたいぜ、俺も」
「それはそうかもしれませんけど」
「案外和哉も今素性を教えたら同じことを言いそうだけどな」
それから繁々と静羅と紫瑠の顔を見た。
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