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第七章 運命の星
(7)
しおりを挟む静羅が4人を連れてきたのは屋上だった。
この学校は屋上が開放されていてガーデンテラス風になっている。
勿論安全のため金網はあるので情緒には欠けるが。
昼休みには人で溢れるこの場所も、普通の休み時間にはだれも来ない。
それには不便すぎた。
下手をすれば予鈴までに教室に戻れないので。
静羅は次の授業をフケる覚悟でここにやってきたのである。
彼らの話は長そうだと見抜いて。
「で? なんでおまえら知り合いなんだ?」
金網に凭れ掛かって静羅がそう言えば、正面に立っている紫瑠が肩を竦めてみせた。
「入寮のときに知り合ったというのは本当だ。俺たちはついさっき知り合ったばかりなんだ」
「その割には馴染んでないか?」
「まあ同族だからな」
ラーシャがそう言って静羅が怪訝そうに彼を見た。
「同族ってことはおまえも阿修羅族だなんていうオチじゃねえだろうな?」
「いや。違う。同じ一族ならさっき知り合うなんておかしいだろう?」
「そりゃそうか。でも、同族だって」
「それは同じ神々だという意味だ」
「神」
ラーシャの口から神という単語が飛び出して静羅は身構える。
やはりそうなのだろうかと。
「彼らの素性は俺は阿修羅族だということしか知らない。これはおまえと知り合っていたから見抜けたんだが」
「俺がなんの関わりがあるんだよ?」
青ざめた静羅にラーシャは気の毒そうな顔になる。
「自覚はないかもしれないが、おまえの放つ波動はこの3人と非常に酷似している。そのせいで同じ一族の者じゃないかと思ったんだ。俺がおまえに訊ねた相手を覚えているか?」
「ああ。なんかおまえたちを統べる……」
言いかけて静羅が黙り込む。
紫瑠はあのときなんて言った?
静羅のことを阿修羅の御子のことを闘神の帝王と言わなかっただろうか?
彼も、ラーシャも闘神だとしたら?
符合に気付き静羅は口を噤んだ。
「気付いたらしいな。あれは阿修羅の御子のことだ。俺はおまえが名乗っている『修羅』という名から、おまえが御子ではないかと疑って、あんな乱暴な手段に出たんだ。そのことは謝る。あの術は他族の者にやられると拷問と同じらしいから」
「なにわやったんだ? 夜叉の君?」
紫瑠が険しい顔で問いかけて、振り向いたラーシャが答える前に静羅が驚いた声を投げた。
「夜叉の君?」
「俺は夜叉一族の世継ぎの王子だ。既に夜叉王を継ぐことが決まっている。だから、人々は俺のことは夜叉の君って呼ぶんだ」
「夜叉の王子」
思いがけないところから天界の関係者が現れて、静羅は青ざめて口を閉ざす。
「それで話を戻すがなにをしたんだ、夜叉の君」
「いや。言うと責められるかもしれないが、阿修羅の御子ではないかと疑って紋章のアザを引き出すための術を掛けたんだ。中断させられたが」
「失敗ではなく中断させられたのですか?」
柘那が驚いた声をあげる。
本来なら静羅に無礼な行動に出たラーシャを責めるべき場面なのだが、それも忘れてしまっていた。
あの術は本来、他族の者が仕掛けても成功することは稀である。
紫瑠の場合は弟だからこそ、負担なくしかも呆気なく成功させられたのだ。
ラーシャのやろうとした方法はあまりに無謀だった。
「静羅の傍に和哉という名の少年がいただろう?」
「ああ。義理の兄だと聞いている」
答える紫瑠の声は苦々しげである。
弟として複雑な気分になるのを防げない。
「彼が現れた瞬間に術が断ち切られた」
「おい。変な言い方すんなよ。それじゃあ紫瑠たちが誤解するじゃねえか」
慌てた静羅にラーシャが落ち着いた目を向ける。
「そのことはおまえだって気付いているはずだ。彼が現れた瞬間に身体が楽になったことは」
「……それは」
言い返せない静羅に事実なのだと紫瑠たちも悟る。
「何者なんだ、彼は」
「大体東天王が傍にいること自体不思議です。彼は何故あの場にいるのですか?」
問いかけたのは柘那である。
柘那は力ある巫女姫なので東天王の変装くらいすぐに見抜ける。
あの教壇に立ったときから、そのことには気付いていた。
そして和哉がとても不思議な気を纏っていることも。
「東天王ってなんのことだ?」
静羅の不思議そうな声に4人が申し合わせたように複雑な顔になる。
「王子」
「志岐?」
「これは王子も知るべきだと思うから、わたしから打ち明けます」
「志岐。やめろ。まだ早い」
「いいえ。紫瑠さま。王子は知るべきです。御身を守り抜くためにも」
「紫瑠……志岐……」
ふたりの言い合いに静羅が困ったような顔になる。
なんのことかわからなかったからだ。
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