73 / 78
第七章 運命の星
(4)
しおりを挟む
「夜叉王が天を抜けた理由が阿修羅の御子なら納得できると思わないか? 阿修羅のおふたり」
「確かに。しかしするとずっと生命を狙ってきた?」
「その可能性も捨てきれないな。夜叉王が天を抜けたのが10年前。その間なにもなかったとは思いにくい」
「10年経ってから討伐に動くなんて遅すぎますよ、夜叉の君」
「志岐。口が過ぎるぞ。仮にも相手は夜叉の君だ」
「済みません、紫瑠さま」
「どうやらそちらは主君筋らしいな。長老の子か?」
「それに答える義務はないな」
実は王子の紫瑠はそのことだけは伏せていた。
宿命付けられた天敵同士。
その絆がどう動くかわからない現在、手の内は明かせなくて。
「恩を売るために教えるんだが」
「なんだ?」
「あの静羅という人間の傍には東天王と南天王がいるぞ」
「なに?」
「東天王と南天王が?」
難しい顔になってしまうふたりである。
それは予想外の情報だった。
「ごく親しい間柄のようだった。俺が知っているのはそれだけだが。ただ見慣れぬ名で呼んでいたから、たぶん素性は隠しているんだろう」
「そうか。教えてくれて助かった。礼を言う」
「大したことじゃないさ」
「でも、助かりました。これで対応も違ってきますから」
「静羅と出逢ったときにも思ったが、阿修羅族にはどうも惹かれてしまうな、俺は」
「……え?」
「父上が阿修羅の御子を狙っているなら止めたい。そう思っているのは本心だ。二心はない」
笑えば晴れやかな印象になる。
夜叉の王子に対する認識を新たにする紫瑠だった。
その瞬間、静羅は呆気に取られてしまった。
教壇に立つ3人を見て。
「松村柘那です。どうかよろしくお願い致します」
ペコリと柘那がお辞儀する。
「柘那のいとこの松村志岐です。よろしく」
柘那に小突かれて志岐もお辞儀する。
そんなふたりを苦笑しながら眺めて、最後に夜叉の王子が名乗った。
「葛城北斗。帰国子女だから1学年遅れているがよろしく」
(なんでラーヤ・ラーシャまで。この分だと紫瑠も3年辺りに転校してきてるな。でも、これじゃあ和哉の機嫌が悪くなるだけじゃないか。
この間の件でラーヤ・ラーシャを恨んでるだろうし。帰国子女? 胡散臭いぞ。物凄く。俺のクラスに入るための方便なんじゃないのか?
その証拠に最近になっていきなり3人も転校していったし。あれ、変だと思ってたんだ。もしかしてあいつらの仕業か?)
神ならそのくらい簡単だろう。
同じ日に転校してくるなんて仲間なんだろうか。
後で確認した方がいいかもしれない。
「静羅」
ラーシャが手を振れば、それに負けまいとするかのように、柘那と志岐も彼の名を呼んだ。
「「静羅さん」」
「なんだ。高樹。知り合いか?」
「えっとまあなんというか、その……」
和哉の視線を気にして静羅は曖昧な返事だ。
「まあいい。知り合いなら色々教えてやってほしい。その方が高樹のためにもなる。いつまでも殻に閉じ籠るのは良くないからな」
この教師は静羅の事情をよく知らない。
最近になって交通事故にあった担任の代わりとして赴任してきた教師である。
そのせいでそんなことを言ってしまったのだ。
お陰で和哉の機嫌がまた悪くなったが。
「確かに。しかしするとずっと生命を狙ってきた?」
「その可能性も捨てきれないな。夜叉王が天を抜けたのが10年前。その間なにもなかったとは思いにくい」
「10年経ってから討伐に動くなんて遅すぎますよ、夜叉の君」
「志岐。口が過ぎるぞ。仮にも相手は夜叉の君だ」
「済みません、紫瑠さま」
「どうやらそちらは主君筋らしいな。長老の子か?」
「それに答える義務はないな」
実は王子の紫瑠はそのことだけは伏せていた。
宿命付けられた天敵同士。
その絆がどう動くかわからない現在、手の内は明かせなくて。
「恩を売るために教えるんだが」
「なんだ?」
「あの静羅という人間の傍には東天王と南天王がいるぞ」
「なに?」
「東天王と南天王が?」
難しい顔になってしまうふたりである。
それは予想外の情報だった。
「ごく親しい間柄のようだった。俺が知っているのはそれだけだが。ただ見慣れぬ名で呼んでいたから、たぶん素性は隠しているんだろう」
「そうか。教えてくれて助かった。礼を言う」
「大したことじゃないさ」
「でも、助かりました。これで対応も違ってきますから」
「静羅と出逢ったときにも思ったが、阿修羅族にはどうも惹かれてしまうな、俺は」
「……え?」
「父上が阿修羅の御子を狙っているなら止めたい。そう思っているのは本心だ。二心はない」
笑えば晴れやかな印象になる。
夜叉の王子に対する認識を新たにする紫瑠だった。
その瞬間、静羅は呆気に取られてしまった。
教壇に立つ3人を見て。
「松村柘那です。どうかよろしくお願い致します」
ペコリと柘那がお辞儀する。
「柘那のいとこの松村志岐です。よろしく」
柘那に小突かれて志岐もお辞儀する。
そんなふたりを苦笑しながら眺めて、最後に夜叉の王子が名乗った。
「葛城北斗。帰国子女だから1学年遅れているがよろしく」
(なんでラーヤ・ラーシャまで。この分だと紫瑠も3年辺りに転校してきてるな。でも、これじゃあ和哉の機嫌が悪くなるだけじゃないか。
この間の件でラーヤ・ラーシャを恨んでるだろうし。帰国子女? 胡散臭いぞ。物凄く。俺のクラスに入るための方便なんじゃないのか?
その証拠に最近になっていきなり3人も転校していったし。あれ、変だと思ってたんだ。もしかしてあいつらの仕業か?)
神ならそのくらい簡単だろう。
同じ日に転校してくるなんて仲間なんだろうか。
後で確認した方がいいかもしれない。
「静羅」
ラーシャが手を振れば、それに負けまいとするかのように、柘那と志岐も彼の名を呼んだ。
「「静羅さん」」
「なんだ。高樹。知り合いか?」
「えっとまあなんというか、その……」
和哉の視線を気にして静羅は曖昧な返事だ。
「まあいい。知り合いなら色々教えてやってほしい。その方が高樹のためにもなる。いつまでも殻に閉じ籠るのは良くないからな」
この教師は静羅の事情をよく知らない。
最近になって交通事故にあった担任の代わりとして赴任してきた教師である。
そのせいでそんなことを言ってしまったのだ。
お陰で和哉の機嫌がまた悪くなったが。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
人気アイドルが義理の兄になりまして
雨田やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる