天則(リタ)の旋律

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第七章 運命の星

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「俺は転校手続きとやらを終えないといけないんだ。早く済ませたい。通してくれないか」

「……あ」

 だれなのか不意に気付いて紫瑠が声をあげる。

(夜叉の世継ぎの君だ。確か名はラーヤ・ラーシャ。何故ここに?)

 阿修羅と夜叉では阿修羅の方が格が上である。

 だから、見抜けるのだ。

 但しラーシャの方も紫瑠が人間ではないと見抜いていたが。

(何者だ?)

「それなら俺たちと一緒だな。何年に入るんだ?」

「帰国子女だから1年遅れで1年だ」

「へえ」

 紫瑠の声に驚きが混じる。

(まさか兄者のことを知っている?)

「突っ立っていないで通してくれないか。それとも俺に用でもあるのか?」

「あるかないかと言われればあるな。どちらかと言えば」

「紫瑠さまっ!!」

「さま?」

 ラーシャが怪訝な顔になる。

「なんのためにこの学校に来た? 夜叉の君?」

「……そちらこそなんのためだ? それにだれなんだ? 一方的に俺のことを知っているのは狡くないか?」

 どちらも素性を隠す気はないと言わんばかりの態度である。

 だが、紫瑠は素性を明かす気はなかった。

 天界の出身だとバレているだろうと思ったから問いかけただけである。

「お互いに天界の出身だとわかっているなら、指摘しておいた方が後々のためになる。そう思っただけだ。素性を明かす気はない」

「おまえ」

「俺に素性を問い質す権利は夜叉の君にはない。それだけ言っておこうか。言っておくが俺の邪魔をするなよ。そのときは容赦しない」

「邪魔というのがなにを指すのかわからなかったら答えようがないな」

 どちらもが惚けている。

 ラーシャがここにきたのは静羅を見張るためである。

 静羅の傍にいる和哉や東天王に南天王のこと気になったし、それに万が一彼が阿修羅の君だとしたら、夜叉王が関わってくる確率も高くなる。

 傍にいる方がなにかと便利なのだ。

 夜叉王が一族を捨てる。

 そこにはなにか余程の事情がなければならない。

 その事情が阿修羅の御子なら頷ける。

 ラーシャはそう思ったのである。

 尤も。

 それを認める気はなかったが。

 それが本当なら尚更父を諌めなければならない。

 夜叉は阿修羅に忠誠を誓った一族。

 逆賊に成り果てることなど認められない。

(そういえば似ている? あの静羅と名乗った人間の波動に。まさか)

「まさか……滅んだはずの幻の一族、阿修羅族の者か?」

「なんだ。意外と簡単にバレたな。どうしてわかった?」

「俺が知り合った静羅と名乗った人間に似ていたからだ。孤高の修羅を名乗ってみせた」

「修羅を名乗った?」

 驚きの声を投げる紫瑠にラーシャは頷いてみせる。

「取り敢えず俺は敵じゃない。それだけは言っておく。あいつが本物の阿修羅の御子だとしても敵対する気はない」

「聖戦の真実を知っているのか、夜叉の君は?」

「聖戦の真実?」

「知らないのか? ならいい。いつか竜帝陛下からでも聞けばいい」

「取り敢えず俺のことは葛城北斗と呼んでくれ」

「北斗? ああ。幼名から取ってるのか。確か夜叉の君の幼名はラーヤ・ラーシャ。古い言葉で北斗七星を意味すると聞いているが」

「そうだ。そちらは?」

「俺の名は紫瑠。地上にいる間は松村紫瑠と呼んでくれ。ここにいるのは俺の配下の武将、志岐。同じく松村志岐と呼んでくれ。一応従兄妹という設定にしてある」

「俺を警戒しないのは何故だ? 先程の宣言を信じてくれたということか?」

「それはこれからの夜叉の君の動き次第だな。今は様子見といったところだ」

「そうか。じゃあ転校手続きを終えないか? 俺としても早くあいつの下に行きたいし」

 夜叉の王子の言葉に阿修羅の王子が歩きながら問いかける。

「何故だ?」

「阿修羅族の者が関わってきているとなれば、あいつが阿修羅の御子である確率は高くなる。その場合、夜叉王が絡んでくる可能性もあがる」

「夜叉王が?」

 眉をしかめる紫瑠にラーシャは小さく頷いた。
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