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第六章 波紋
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「闘神の王がそう簡単に手折られるとも思えませんが、確かに性別による体格的な違いは如何ともしがたいですね。うっかり王子だと思い込んで想像していたのですが、おそらく現実の御子はだれもが想像すらしない外見のはず。迦樓羅王。同じ立場としてあなたはどう思いますか? 無理強いは可能ですか?」
これ以上はない失礼な質問なのだが、内容の重要性を思えば、迦樓羅王にも文句は言えなかった。
ムスッとしつつ答えてやる。
「はっきり言うならわたしが相手なら無理だ。幼少の頃より鍛えているし、相手が男でも負けないために頑張ってきたつもりだ。だが、御子は」
気掛かりそうなその顔が告げている。
闘神の王だという自覚もなく生きてきた阿修羅の御子には、それは当てはまらないと。
「体格的な問題で、ですか?」
「まあそうだ。御子が本当に類稀な力を持って生まれたなら体格負けしても、その強大な力を自由に操れるようになれば、おそらくそういう危惧は不要になるだろう。
言い換えるなら今身を護る術を持たない御子をできるだけ素早く保護して、なんとか力に覚醒してもらう必要がある。
自分で自分の身を護れるようになってもらわなければ、そういつまでも護りきれるものではないだろう。特に天に知られた場合には」
「あの子はどこまでも苦労する」
ぽつりと呟いた竜帝をふたりとも複雑な気持ちで見詰めていた。
「1番簡単な解決方法は御子が自分で伴侶を選び、そういう事態になる前に婚姻を終えることだが、まさか封印を解かれて15年の御子に、それを望むのも酷だし。護るしかないか。わたしの力の及ぶかぎり」
長老とも言える神族の要たる竜族の王が、ここまで言うのも凄いことである。
思わず迦樓羅王は繁々と天敵の顔を覗き込んでしまった。
「なにか、迦樓羅王?」
「いや。あまりに親身になっているので少し驚いていた。幾ら最後の肉親とはいえ行き過ぎているような気がして」
苦い表情になる竜帝に正直者の迦樓羅王は問わなくていい一言を問うた。
「もしかして御子のせいで今まで独り身を通していたわけか?」
「迦樓羅王?」
幾らなんでも明け透けすぎると竜帝が呆れた声を出している。
性格に難のある乾闥娑王は静かに笑っていた。
本当に人が悪い。
「いいことを教えてあげましょう、迦樓羅王」
「乾闥娑王っ!!」
怒鳴りつける竜帝を無視して(こういう真似ができるのは後にも先にも乾闥娑王だけなのだが)彼は言葉を続けた。
「竜帝陛下は婚約が内定していた頃があるのですよ」
「聞いたこともないぞ」
「それはそうでしょう。御子が消息を絶った途端、取り止めてしまいましたから。それで現在に至るわけです」
そこまで御子に溺れていたのかと言いたげに迦樓羅王が呆れた顔を向けている。
気まずい竜帝は薄情な友を睨み付けていた。
これ以上はない失礼な質問なのだが、内容の重要性を思えば、迦樓羅王にも文句は言えなかった。
ムスッとしつつ答えてやる。
「はっきり言うならわたしが相手なら無理だ。幼少の頃より鍛えているし、相手が男でも負けないために頑張ってきたつもりだ。だが、御子は」
気掛かりそうなその顔が告げている。
闘神の王だという自覚もなく生きてきた阿修羅の御子には、それは当てはまらないと。
「体格的な問題で、ですか?」
「まあそうだ。御子が本当に類稀な力を持って生まれたなら体格負けしても、その強大な力を自由に操れるようになれば、おそらくそういう危惧は不要になるだろう。
言い換えるなら今身を護る術を持たない御子をできるだけ素早く保護して、なんとか力に覚醒してもらう必要がある。
自分で自分の身を護れるようになってもらわなければ、そういつまでも護りきれるものではないだろう。特に天に知られた場合には」
「あの子はどこまでも苦労する」
ぽつりと呟いた竜帝をふたりとも複雑な気持ちで見詰めていた。
「1番簡単な解決方法は御子が自分で伴侶を選び、そういう事態になる前に婚姻を終えることだが、まさか封印を解かれて15年の御子に、それを望むのも酷だし。護るしかないか。わたしの力の及ぶかぎり」
長老とも言える神族の要たる竜族の王が、ここまで言うのも凄いことである。
思わず迦樓羅王は繁々と天敵の顔を覗き込んでしまった。
「なにか、迦樓羅王?」
「いや。あまりに親身になっているので少し驚いていた。幾ら最後の肉親とはいえ行き過ぎているような気がして」
苦い表情になる竜帝に正直者の迦樓羅王は問わなくていい一言を問うた。
「もしかして御子のせいで今まで独り身を通していたわけか?」
「迦樓羅王?」
幾らなんでも明け透けすぎると竜帝が呆れた声を出している。
性格に難のある乾闥娑王は静かに笑っていた。
本当に人が悪い。
「いいことを教えてあげましょう、迦樓羅王」
「乾闥娑王っ!!」
怒鳴りつける竜帝を無視して(こういう真似ができるのは後にも先にも乾闥娑王だけなのだが)彼は言葉を続けた。
「竜帝陛下は婚約が内定していた頃があるのですよ」
「聞いたこともないぞ」
「それはそうでしょう。御子が消息を絶った途端、取り止めてしまいましたから。それで現在に至るわけです」
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気まずい竜帝は薄情な友を睨み付けていた。
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