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第六章 波紋
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「下界に降臨されては如何ですか?」
「また型破りなことを」
竜帝が呆れて言えば迦樓羅王も呆れたと声に出した。
「乾闥娑王。幾らなんでも無責任すぎるぞ。その主張は。こんな詐欺師でも神族の要とも言える竜帝。そう簡単に現界に降臨されては」
どういう意味だと睨む竜帝と苦笑して振り返る乾闥娑王。
いい意味でも悪い意味でも迦樓羅王は正直者である。
「ですがわたしは感じているのですよ。下界に阿修羅の御子の強烈な気を」
ギクリと青ざめるふたりに乾闥娑王は淡々と事実を告げる。
「ここ最近で急激に強くなりました。わたしなりにずっと御子の行方を追っていたのですよ。楽師としての役回りを利用して情報を集め、星見のところでも様々な情報を得ました。その結果天が復活していることも知っていましたし、同じ理由から阿修羅の御子が、どうやら天界ではなく下界にいらっしゃるらしいということも知りました」
「それはまことか?」
動揺を隠しきれない竜帝に小さく頷いた。
「天空の星を意識して辿れば気配を追うことはそれほど難しくはないものです。天命は隠せません。どれほど巧妙に姿を消そうと御子が天空の星を背負う者であることに変わりはありませんから。天帝が存在するなら、その気配を断つことは不可能です。天の復活が関知されたように。本当のことを言えば、もう15年も前から御子の気配を感じていました」
あまりと言えばあまりな告白である。
「どうして言ってくれなかった?」
恨みの声をあげる竜帝に乾闥娑王は困ったような顔になる。
「……言えなかったのですよ」
「何故?」
「確かに気は感じます。伝説そのままに無防備に受け止めれば恐ろしくなるほど強烈な気を。ですが」
「「乾闥娑王?」」
珍しく天敵同士が息の合った様子を見せ、乾闥娑王はやるせなくかぶりを振った。
「それはヴェール越しに感じるような、とても曖昧な気配でした」
「それは」
「どういう意味だ?」
「御子が消息を絶ってかなりの時が流れています。下界にいらしたのなら、それはそれでいいのです。別段問題視するほどのことでもない。生きていらしたのなら。では何故15年前まではその存在すら感じさせなかったのでしょうか?」
消息を絶ってすぐに下界に降りたなら、幾ら当時が混乱していたとはいえ、全く気配を感じさせないのはおかしい。
乾闥娑王はそう言いたいのだ。
難しい顔になって黙り込む乾闥娑王。
竜帝はきつく唇を噛んでいた。
「これはわたしの推測ですが、御子は封印されていたのではないでしょうか」
「なっ」
唖然とする迦樓羅王に静かに知己の友に視線を投げる竜帝。
ふたりを見比べて乾闥娑王は今まで伏せていたことを打ち明けた。
時は満ちたと感じて。
「そしておそらく封印を仕掛けたのは亡くなった阿修羅王のはずです」
「何故お父上がそのような真似をする必要があるのだ? 口に出すのは悪趣味かもしれぬが、お父上のお陰で御子は生き延びた。あのまま無事にご成長されれば今頃は天帝を名乗っていたはずだ。何故?」
理解できないという迦樓羅王の訴えも無理からぬことだった。
「お父上がご健在であれば、それもよろしいでしょう。ですが当時の御子はまだ赤子。お父上を失い阿修羅を継ぐ者として、また天帝として御子を取り巻く情況は、きっと生易しいものではなかったはずです。
竜帝殿に頼るにも限界はありましょう。事は天を揺るがす覇権に関することですから。御子が自我を持たれる前に御子を養育する者たちが間違った認識を植え付けないと、御子を操って愚弄しないと何故言い切れますか」
「……」
まだ自我を持たない天帝。
どれほど強大な力を持とうと、それは傀儡にするには十分すぎる要素だった。
どれほど竜帝が誠心誠意庇ってもどこかで無理が出る。
ならばいっそ自我を持ち、自分で考えて判断できるようになるまで、御子の存在そのものを封印する。
その考え自体におかしなところなかった。
まさに父親ならではの思い遣りである。
「また型破りなことを」
竜帝が呆れて言えば迦樓羅王も呆れたと声に出した。
「乾闥娑王。幾らなんでも無責任すぎるぞ。その主張は。こんな詐欺師でも神族の要とも言える竜帝。そう簡単に現界に降臨されては」
どういう意味だと睨む竜帝と苦笑して振り返る乾闥娑王。
いい意味でも悪い意味でも迦樓羅王は正直者である。
「ですがわたしは感じているのですよ。下界に阿修羅の御子の強烈な気を」
ギクリと青ざめるふたりに乾闥娑王は淡々と事実を告げる。
「ここ最近で急激に強くなりました。わたしなりにずっと御子の行方を追っていたのですよ。楽師としての役回りを利用して情報を集め、星見のところでも様々な情報を得ました。その結果天が復活していることも知っていましたし、同じ理由から阿修羅の御子が、どうやら天界ではなく下界にいらっしゃるらしいということも知りました」
「それはまことか?」
動揺を隠しきれない竜帝に小さく頷いた。
「天空の星を意識して辿れば気配を追うことはそれほど難しくはないものです。天命は隠せません。どれほど巧妙に姿を消そうと御子が天空の星を背負う者であることに変わりはありませんから。天帝が存在するなら、その気配を断つことは不可能です。天の復活が関知されたように。本当のことを言えば、もう15年も前から御子の気配を感じていました」
あまりと言えばあまりな告白である。
「どうして言ってくれなかった?」
恨みの声をあげる竜帝に乾闥娑王は困ったような顔になる。
「……言えなかったのですよ」
「何故?」
「確かに気は感じます。伝説そのままに無防備に受け止めれば恐ろしくなるほど強烈な気を。ですが」
「「乾闥娑王?」」
珍しく天敵同士が息の合った様子を見せ、乾闥娑王はやるせなくかぶりを振った。
「それはヴェール越しに感じるような、とても曖昧な気配でした」
「それは」
「どういう意味だ?」
「御子が消息を絶ってかなりの時が流れています。下界にいらしたのなら、それはそれでいいのです。別段問題視するほどのことでもない。生きていらしたのなら。では何故15年前まではその存在すら感じさせなかったのでしょうか?」
消息を絶ってすぐに下界に降りたなら、幾ら当時が混乱していたとはいえ、全く気配を感じさせないのはおかしい。
乾闥娑王はそう言いたいのだ。
難しい顔になって黙り込む乾闥娑王。
竜帝はきつく唇を噛んでいた。
「これはわたしの推測ですが、御子は封印されていたのではないでしょうか」
「なっ」
唖然とする迦樓羅王に静かに知己の友に視線を投げる竜帝。
ふたりを見比べて乾闥娑王は今まで伏せていたことを打ち明けた。
時は満ちたと感じて。
「そしておそらく封印を仕掛けたのは亡くなった阿修羅王のはずです」
「何故お父上がそのような真似をする必要があるのだ? 口に出すのは悪趣味かもしれぬが、お父上のお陰で御子は生き延びた。あのまま無事にご成長されれば今頃は天帝を名乗っていたはずだ。何故?」
理解できないという迦樓羅王の訴えも無理からぬことだった。
「お父上がご健在であれば、それもよろしいでしょう。ですが当時の御子はまだ赤子。お父上を失い阿修羅を継ぐ者として、また天帝として御子を取り巻く情況は、きっと生易しいものではなかったはずです。
竜帝殿に頼るにも限界はありましょう。事は天を揺るがす覇権に関することですから。御子が自我を持たれる前に御子を養育する者たちが間違った認識を植え付けないと、御子を操って愚弄しないと何故言い切れますか」
「……」
まだ自我を持たない天帝。
どれほど強大な力を持とうと、それは傀儡にするには十分すぎる要素だった。
どれほど竜帝が誠心誠意庇ってもどこかで無理が出る。
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その考え自体におかしなところなかった。
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