天則(リタ)の旋律

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第五章 赤い狂星

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「両性具有として生まれるからか、迦樓羅の王族は子供がふたりとは決まっていない。また子供がどちらの性別を選ぶのも自由だから、そういう意味では縛られていない。但し今の迦樓羅王は一人っ子だから、他に兄弟はいないはずだが」

「ややこしいんだな」

「まあ阿修羅族だって他人事ではないんだが」

「どうして?」

「ごく稀にだが阿修羅族にも両性具有者が生まれるんだ」

「……え?」

 スッと青ざめた紫瑠が首を傾げる。

「破格の力を持って生まれた者が、ごく稀に両性具有者として生まれる。ごく稀にだから俺も詳しくはないんだが」

 ごく稀に両性具有者が生まれる家系?

 それって静羅がそうだということか?

 額に浮かんだ痣。

 ごく稀に生まれる両性具有の王族。

 すべて静羅を指している。

 信じたくはないが。

「あ。痣が」

 柘那が急に声を出し静羅も手鏡を覗いてみた。

 さっきまでくっきりと浮かんでいた痣が、薄くなって消えていくところだった。

「ずっと出てるわけじゃないんだ?」

「紋章の痣は呼び出したときしか現れないんだ。言ってみれば一族の王族であることの証だからな。生命を狙われやすい闘神の王族は、みな紋章の痣を封じて生きている」

 生命を狙われやすい?

 それって静羅が今まで生命を狙われ続けたことと関係あるのか?

 問うべきか問わざるべきか。

「その阿修羅の王子だけどさ。生命を狙ってる奴っているのか?」

「え。それはまあ天族なら狙う可能性も無ではないだろうが。今は大方伝説となっているからな。それでも狙うとは思えないが。兄者? なにかあったのか?」

「ちょっと待て。伝説ってどういうことだ? 阿修羅の王子が生まれたのって一体何時のことなんだ?」

 伝説なんて言葉は少しの年月では出てこない。

 静羅は阿修羅の王子が生まれたのは、そんなに昔ではないと判断していた。

 だから、冷静に聞けたのだ。

 だが、今の言葉の意味するところは……。

「そうだな。数値にしにくいが地上で言うなら万単位の昔かな。それか1億か2億は軽く経っているかもしれない」

 クラリと目が回った。

 この王子は静羅がそんな歳だと言いたいのだ。

 とんでもない話だった。

「じゃあその阿修羅の王子の弟だっていうおまえっ」

「え?」

「それに近い時代から生きていて、その姿なんだろう? 俺が兄貴だっていうなら外見合わないじゃないかっ」

「それはさっき説明しただろう? 兄者が地上で封印されていたから成長していないのだと。兄者はたぶん身近にいる人間を手本として、人間に擬態していたんだと思う」

 ギクリとした。

 確かに静羅の場合、人間に化けるために手本とするべき人間はすぐ傍にいた。

 双生児の兄として生きていた和哉が。

 それに小さい頃、静羅はなんでも和哉の真似をやりたがった。

 あれも人間に擬態するためだった?
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