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第五章 赤い狂星
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しおりを挟む一緒に付き合っていた少女が手鏡を差し出す。
なんだろうと受け取って鏡を覗き込んでみた。
そこに映る静羅の額には見たこともない紋章の痣が浮かび上がっていた。
「なんだ。これ」
「俺たち阿修羅族の王家の紋章だ。直系王族だけが持つと言われている王族の証だ」
「阿修羅族?」
「俺の額にもある。ほら」
言って相手が額に触れさせた手を離した。
そこには静羅と全く同じ紋章の痣が浮かび上がっていた。
静羅よりすこし小さくて薄いが。
「同じ痣?」
唖然とする。
これはどういうことだ?
阿修羅族?
それってなんだ?
これは現実なのか?
「信じられない気持ちはわかる。でも、これでわかっただろう? あなたは俺の兄者なんだ。ずっと行方不明だった」
「ちょっと待ってくれ。いきなりそんなこと言われても」
戸惑いが勝って静羅にはそんなことしか言えなかった。
「大体俺がおまえの兄って、それはぁかしいだろうが。どう見たっておまえの方が年上じゃないかっ」
「それはたぶん兄者が地上で封印されていたせいだ」
「封印?」
呟くと相手が頷いた。
「兄者は本当なら成人していてもおかしくないんだ。それほどの時代が流れているから。でも、兄者はこの地上でなんらかの封印を受けていた。それが解けたのが約15年前。だから、兄者の外見はその程度なんだ。今まで人間として生きていたから」
「人間として生きていたって……だったらなんだよ? 俺もおまえも傍にいる奴らも、みんな人間じゃないのか?」
ムッとして静羅が言い返すと、まだ名乗っていない青年が頷いた。
肯定されるとは思わなくて絶句する。
「俺の名は紫瑠。天界の阿修羅族の第二王子。後ろにいる女の子が阿修羅族のの巫女姫の柘那。柘那は俺の幼なじみで乳兄弟でもあるんだ。そして最後のひとりが俺と柘那の幼なじみで護衛としてついてきた一族の武将、志岐。みんな天界の阿修羅族の出身なんだ」
「神さま?」
呆然と呟くと笑いながら頷かれた。
思わず後ずさりそうになる。
天界?
阿修羅族?
王子?
巫女姫?
武将?
言われた言葉が頭の中で整理できない。
だが、否定するには静羅の額に浮かんだ痣が問題なのだが。
そんな痣は産まれてから一度もなかったのだ。
今紫瑠によって呼び覚まされるまで。
どうやって否定すればいい?
自分は人間だと。
「俺は……だれなんだ?」
「兄者は阿修羅族の第一王子。世継ぎの君だ。父上の後を継ぐ存在なんだ。一般的には阿修羅の御子と呼ばれている。兄者には辛い事実だろうが、兄者が産まれた直後に聖戦が起きた」
「聖戦?」
「天がふたつに別れて戦が起きたんだ」
「……戦争」
まるで自分が原因みたいに言われてイヤな気分だった。
「天帝軍と鬼神軍とに別れて。父上は天帝、帝釈天と戦った。兄者を護るために」
「なんで俺が……っていうか。阿修羅の御子が戦争の理由になったんだ?」
「それは兄者が天界に戻ってから説明したい。迂闊に口にできる内容じゃないんだ」
「……」
天界に戻ってから?
つまり彼らは静羅を……というか、阿修羅の御子を天界に連れ戻すためにやってきた?
そんなことをいきなり言われても、静羅には否定も肯定もできないのだが。
まだ自分がその阿修羅の御子だという自覚もないのに。
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