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第五章 赤い狂星
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しおりを挟む「柘那しゃな。この街で間違いないんだろうな?」
街中を歩きながら黒い髪、黒い瞳の少年が後ろを歩く少女を振り向いてそう言った。
服装はどこにでもいる少年の格好だ。
夏の終わりに相応しい五分袖のTシャツにジーンズ。
動きにくそうに見えるのは慣れていないのだろうか。
少女は白いワンピースを着ていた。
膝丈の物だ。
これでもなるべく抵抗のない服装を選んだつもりだが、もっと派手に脚を見せる装いが普通らしいので、すっかり困っていた。
「ふむ。柘那が脚を出している装いというのは初めてみるな」
「紫瑠しりゅうさま。揶揄わないでください」
顔を真っ赤に染めて柘那が俯く。
紫瑠と呼ばれた少年は回りを見渡しながら、さっきの問いをもう一度口にした。
「ところで柘那。本当に方角はこれで合っているのか? 気配も感じられないが」
「合っていますわ。こちらの方から強い気を感じますから。それがすぐに御子のものであると特定はできませんけど」
「そうか。難しいんだな。柘那にも感じ取らせないとは」
「力不足で申し訳ございません」
「柘那のせいじゃない。気にするな。それだけ兄者が特別だということだろう」
そこまでふたりで喋っていると、もうひとりの少年が口を開いた。
「王子。もうすこし御身にご注意を」
「その呼び名を出すな、志岐しき。なんのために変装しているのかわからないだろう」
志岐と呼ばれた若者は困ったような顔になる。
3人は似通った年恰好だが、実は志岐が1番年下だった。
柘那よりすこしだけ年下なのである。
紫瑠は18、9歳といった外見だが、年齢ではかなり年上だった。
本人が数えるのをやめているくらいには。
柘那が16、7。
志岐は15、6といった外見だ。
外見は年齢とは合わないが。
「それにしても供に選んだのが、わたしひとりというのは幾らなんでも不用心では」
「志岐には悪いが俺は本来、供の者は柘那ひとりで十分だと思っていたんだ。それが長老がどうしても供をつけろと譲らないから、それならと志岐にしたんだ」
「わたしはオマケですか?」
「実力を認めていないわけではないんだ。そう拗ねるな」
「拗ねてはいません」
幼なじみらしく言いたいことを言い合うふたりに柘那が苦笑している。
この3人は幼なじみだった。
特に柘那と紫瑠は乳兄弟である。
紫瑠は柘那の母親に育てられたのだ。
といっても柘那は遅い子供なので柘那が赤ん坊の頃には紫瑠は少年の姿にまで成長していたが。
路地を曲がったときだった。
信号の向こう側にひとりの少年、いや、少女だろうか? が、いた。
言うまでもないかもしれないが静羅である。
静羅は初対面だと性別を間違えられやすいので。
その姿を見て柘那がハッと息を呑んだ。
「どうした、柘那?」
「あの方のお姿は」
「あの方?」
「この道の正面で立っている方です。長い黒髪の」
「ずいぶん綺麗な少女だな。あの子がどうかしたのか?」
「肖像画で見た沙羅さまにそっくりです。紫瑠さまはご覧になったことは?」
「沙羅というと兄者の母上か? いや。俺は見ていない。なんだか悔しくて」
父の寵愛を独り占めしていた竜族の王女、沙羅。
阿修羅王の正妃。
母の影が薄いのもそのせいである。
そのため紫瑠は兄の母親の肖像は見たことがなかった。
見たら負けるような気がして。
しかし。
「そんなに似ているのか?」
「はい。瓜二つです。といっても遠目ではっきりしませんが、美貌はあの方の方が勝っているようですが。本当に綺麗な方」
「他人の空似だろうか。兄者が女顔というのはあり得ないだろうし」
「それにあの姿はどう見ても少女では?」
志岐もそういうので紫瑠も疑わしい気分になる。
どうしてもあり得ないと思ってしまうのだ。
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