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第五章 赤い狂星
(5)
しおりを挟むラーシャに妙な術を掛けられた静羅は、その日熱を出して倒れた。
翌日には下がっていたのだが、心配性の和哉が許してくれず、学校を休む羽目になった。
和哉も学校を休むと言ったのだが、これには静羅が誠心誠意を込めて説得し、和哉には学校に行ってもらった。
まさか静羅が休むからといって、和哉にまで学校を休ませるわけにはいかない。
それではまた親戚連中にいいだけ責められてしまうだろう。
これで静羅もなかなか大変なのである。
「寝てる必要もねえか」
身体はすっかり良くなっていた。
寝てるのも邪魔くさいので起き上がる。
昼食はさっき摂った。
病欠の生徒の昼食はちゃんと出されるのである。
それを食べないと和哉にバレるので、そこまではきちんと休んでいたのだ。
「それよりここ半年ほど穏やかな生活が続いてるなあ。中学を卒業する辺りから、あれ、ご無沙汰してるし」
小首を傾げて考える。
静羅が地元を離れたからだろうか。
もしかして静羅の行方を掴んでいない?
「確かめるとしたら今が絶好の機会だけど、今までは夜だったからな。果たして昼にひとりだからって仕掛けてくるか?」
確証はない。
でも、ラーシャの件もあるし疑問は片付けておくべきだろう。
仕掛けやすいように人気のないところへ行けばいいか。
それで仕掛けてきたら様子を見ていたということだ。
「となると早く動かないとな。和哉が戻ってくるまでには部屋にいないとならないし」
今日は6時間目までだからH/Rも入れて大体16時くらいか。
役員にでもなっていたら、もうすこし遅かったかもしれないけど、転校してきたこともあって役職にはついてないし。
部活もやっていないから。
学生やってて役職を持たないのは小学3年生以来だと、いつだったか和哉が苦笑していた。
そのことは悪いなとは思っていたのだが。
和哉が生徒総長をやってきたのは静羅のとばっちりだったので。
静羅が素直にやっていれば、和哉は悪くても副生徒総長くらいで済んでいたのだろう。
和哉の実力的に役職を受け持たないということはないだろうから。
「さっさとするか」
服を着替えて慌てて窓に近付いた。
さすがに玄関から堂々とは出られない。
学校を休んでいる身だし。
見付かったらコトだ。
このとき、静羅は思いもしなかった。
このお忍びが自分の運命を変えることになると。
運命の出逢い。
そう呼ぶべきときが近付いている。
静羅が自分の運命と出逢うときが。
「補導されるかと思ったけど、思ったほど注目されないな。俺って童顔のはずなのに」
自分で認めるのは腹が立つが、そうなのだから仕方がない。
和哉と並ぶと必ず年下に見られるし。
街中を歩いていてふと気付く。
自分は異質なのだと。
「今思えばラーヤ・ラーシャだけなんだ。俺に関連がある行動を見せたのって。人間じゃないと仮定して、だけどな」
人間離れしている静羅に似ている行動を見せたラーヤ・ラーシャ。
静羅を行方不明のだれかじゃないかと疑っていた。
それは行方不明のだれかが静羅と似ている現実を意味する。
確かめておくべきだったのかもしれない。
それはだれのことだと。
静羅とだれが似ているのだと。
そこにしか静羅の出生に関する手掛かりがないのだとしたら……。
「俺。自分の出生の手掛かりを掴み損ねたのか?」
和哉には感謝している。
あの地獄のような苦しみから解放してくれたのだから。
そのことを恨みはしない。
でも、そのために確認する機会を逸してしまった。
そのことを今になって悔やんでいる。
「暗殺者も出てくるんだったら、さっさと出てこいってんだ」
物騒な科白を吐きながら静羅は街を歩く。
ひとつの出逢いに向けて。
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