天則(リタ)の旋律

文字の大きさ
上 下
54 / 81
第五章 赤い狂星

(5)

しおりを挟む




 ラーシャに妙な術を掛けられた静羅は、その日熱を出して倒れた。

 翌日には下がっていたのだが、心配性の和哉が許してくれず、学校を休む羽目になった。

 和哉も学校を休むと言ったのだが、これには静羅が誠心誠意を込めて説得し、和哉には学校に行ってもらった。

 まさか静羅が休むからといって、和哉にまで学校を休ませるわけにはいかない。

 それではまた親戚連中にいいだけ責められてしまうだろう。

 これで静羅もなかなか大変なのである。

「寝てる必要もねえか」

 身体はすっかり良くなっていた。

 寝てるのも邪魔くさいので起き上がる。

 昼食はさっき摂った。

 病欠の生徒の昼食はちゃんと出されるのである。

 それを食べないと和哉にバレるので、そこまではきちんと休んでいたのだ。

「それよりここ半年ほど穏やかな生活が続いてるなあ。中学を卒業する辺りから、あれ、ご無沙汰してるし」

 小首を傾げて考える。

 静羅が地元を離れたからだろうか。

 もしかして静羅の行方を掴んでいない?

「確かめるとしたら今が絶好の機会だけど、今までは夜だったからな。果たして昼にひとりだからって仕掛けてくるか?」

 確証はない。

 でも、ラーシャの件もあるし疑問は片付けておくべきだろう。

 仕掛けやすいように人気のないところへ行けばいいか。

 それで仕掛けてきたら様子を見ていたということだ。

「となると早く動かないとな。和哉が戻ってくるまでには部屋にいないとならないし」

 今日は6時間目までだからH/Rも入れて大体16時くらいか。

 役員にでもなっていたら、もうすこし遅かったかもしれないけど、転校してきたこともあって役職にはついてないし。

 部活もやっていないから。

 学生やってて役職を持たないのは小学3年生以来だと、いつだったか和哉が苦笑していた。

 そのことは悪いなとは思っていたのだが。

 和哉が生徒総長をやってきたのは静羅のとばっちりだったので。

 静羅が素直にやっていれば、和哉は悪くても副生徒総長くらいで済んでいたのだろう。

 和哉の実力的に役職を受け持たないということはないだろうから。

「さっさとするか」

 服を着替えて慌てて窓に近付いた。

 さすがに玄関から堂々とは出られない。

 学校を休んでいる身だし。

 見付かったらコトだ。

 このとき、静羅は思いもしなかった。

 このお忍びが自分の運命を変えることになると。

 運命の出逢い。

 そう呼ぶべきときが近付いている。

 静羅が自分の運命と出逢うときが。




「補導されるかと思ったけど、思ったほど注目されないな。俺って童顔のはずなのに」

 自分で認めるのは腹が立つが、そうなのだから仕方がない。

 和哉と並ぶと必ず年下に見られるし。

 街中を歩いていてふと気付く。

 自分は異質なのだと。

「今思えばラーヤ・ラーシャだけなんだ。俺に関連がある行動を見せたのって。人間じゃないと仮定して、だけどな」

 人間離れしている静羅に似ている行動を見せたラーヤ・ラーシャ。

 静羅を行方不明のだれかじゃないかと疑っていた。

 それは行方不明のだれかが静羅と似ている現実を意味する。

 確かめておくべきだったのかもしれない。

 それはだれのことだと。

 静羅とだれが似ているのだと。

 そこにしか静羅の出生に関する手掛かりがないのだとしたら……。

「俺。自分の出生の手掛かりを掴み損ねたのか?」

 和哉には感謝している。

 あの地獄のような苦しみから解放してくれたのだから。

 そのことを恨みはしない。

 でも、そのために確認する機会を逸してしまった。

 そのことを今になって悔やんでいる。

「暗殺者も出てくるんだったら、さっさと出てこいってんだ」

 物騒な科白を吐きながら静羅は街を歩く。

 ひとつの出逢いに向けて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

処理中です...