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第五章 赤い狂星
(1)
しおりを挟む天界とも地上とも違う空間。
そこに黒い髪、黒い瞳の少年がいる。
そこから地上を見下ろして微笑んでいた。
「どうした、翔?」
そう声を掛けるのは青銀の髪に青い瞳が印象的な青年である。
人間でいうなら社会人1年生といった外見だろうか。
中学生くらいの少年とは、ずいぶん年齢差がある。
黒髪の少年の年齢はどう見ても12、3歳といったところだった。
似ているところを挙げるとするなら、どちらもがタイプは違えどとてつもない美形だということだろうか。
「ねえ。兄さん」
振り向いて翔と呼ばれた少年が笑う。
兄と呼ぶわりにこのふたりは全く似ていなかった。
「もうすぐ天空の星が覚醒めざめるよ」
「見付けたのか。阿修羅の御子を」
「まだ弱々しいものだけどね。覚醒の時は近いよ」
「そりゃよかったじゃねえか。阿修羅の御子のことじゃ、翔もずいぶん気にしてたみたいだからな」
もうひとついやに元気な声がそう言って、翔が声の聞こえた方を振り向いた。
そこには声を掛けてきた白銀の髪、銀の瞳の少年(15歳くらいだろうか?)と、紅蓮の髪と真紅の瞳をもつ19歳くらいの青年が立っている。
こちらもいずれ劣らぬ美形揃い。
だが、その中でも真紅の瞳の青年の美貌は群を抜いていた。
だれも比較対象にならない。
外見はまるで違うが、この4人は兄弟だった。
青い瞳の青年が長男で真紅の瞳の青年が次男、銀の瞳の少年が三男で翔と呼ばれた少年は末弟だった。
「兄さんが言うとずいぶんお気楽に聞こえるね」
呆れたような声に銀の瞳の少年が、ムッとした顔になる。
心配してやってんのにとでも言いたそうな顔だった。
「それでどこにいるかわかったんですか、翔?」
「それはまだ。封印をされてるみたいでぼくの力をもってしても、どこにいるのかはわからないよ。でも、地上にいることは確かだけど。それはあの聖戦直後からわかってたから」
「それは翔が探していないだけのことだ。翔がその気になれば見つけ出せないわけがない」
青い瞳の青年に指摘され、翔が憂い顔になる。
力があって行使しないのは罪だ。
それはわかっている。
でも、してはいけないこともあるのだ。
少なくとも阿修羅の御子が天界に戻るまでは、自分たちは手出しをするべきではない。
自分たちは待った。
阿修羅の御子と出逢うこのときを。
今になって我慢しきれずに御破算にするわけにはいかないのだ。
それがどんなに辛くとも。
「沙羅はどう思っているのかな」
「「「翔」」」
「ぼくのために死んでいった彼女は、子供をおいて逝くしかなかった彼女は、今どう思っているんだろう」
助けたかった。
禁忌を犯してでも助けたかった。
沙羅が死ねば阿修羅王も死ぬ。
それはわかっていたから。
阿修羅の御子をひとりをおいて皆死んでしまう。
そうして阿修羅の御子を待ち構えているのは過酷な運命。
わかっているから運命の根源を断ち切るために、運命を変えるために沙羅を助けたかった。
それが許されないのが自分たちの宿命だったけれど。
「どう思っていようと変えられないものもある」
「兄さん」
「俺たちがどれほどの力を持っていようと、やってはいけないこともある。理を乱さないために。これが阿修羅の御子がもって生まれた宿命なんだ。そう思って諦めた方がいい。そこで翔が自分を責めたところで現実が変わるわけじゃない」
長兄の言葉はいつも理性的だ。
翔には長兄のようには考えられない。
すべて自分のせいだと思うから。
それでも長兄の言葉は正しいのだろう。
今ここで翔が自分を責めたところで阿修羅の御子がもって生まれた宿命が変わるわけじゃない。
「竜族はどう動くかな。ぼくらはいつ頃関われるかな」
「さあな。それは阿修羅の御子がどう動くかによるんじゃねえの? そこまでは俺らにだって予測できねえよ。俺らだって全能じゃねえんだ」
「確かにそうですね。ぼくらが阿修羅の御子に関われる日がくるとしたら、阿修羅の御子が竜族の城に行ったときだと思います。竜族の魔剣はそこに眠っていますから。遙かなる昔からずっと」
「どちらにせよ、今は覚醒めの時を待つしかない。すべてはそれからだ」
長兄の揺るぎない声に3人の弟たちは頷いた。
長兄で名を煌。またの名を東海竜王。
次男の名を颯。またの名を南海竜王。
三男の名を焔。またの名を西海竜王。
末弟の名を翔。またの名を北海竜王。
合わせて四海竜王。
天界で最強と言われた伝説の4人の竜王である。
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