45 / 78
第四章 宿星、集う
(10)
しおりを挟む
「俺は世羅。あんたは?」
「北斗」
一言だけ名乗ったが、どちらもが偽名を名乗ったことを感じ取っていた。
「胡散臭い野郎だな」
「お互い様だ」
お互いを見据える瞳に気に入らないという感情が見え隠れする。
「あんた本気で人間なのか? さっき瞳が赤く光ってたって言ったら認めてたけど」
「偽名を答えるような奴に答える義務はないな」
「てめぇだって偽名を名乗ってるだろうがっ」
言ってから「あっ」となった。
これでは認めたようなものである。
北斗はニヤッと笑った。
「お互い様だな。しかしおまえ本当に人間なのか?」
「失礼な質問を何度もするんじゃねえよ」
「いや。しかしその波動、その闘気。どこから見ても人間には見えないんだが」
「は?」
意外なことを言われ、静羅の目が点になった。
波動とか、闘気とか。普通日常生活で使うだろうか。
大体そんなものが見えるなんて益々人間とは思えない。
「それに最初に問いかけたとき、すぐさま否定しなかっただろう。なにか心当たりでもあるんじゃないのか?」
「うるせぇよ。てめぇには関係ねえだろうが」
「そうとも言えないんだ。俺は人を捜している。おまえだと思うには外見的な感じが合わないが、可能性があるなら無視できないからな」
(天は俺たちと同じ雷神。その天がこんなに華奢な体格をしているとは思えない。人違いか? それにしては気になるが)
そんなことを思いつつ、北斗は静羅の全身を検分する。
ムカッとした静羅が反射的に回し蹴りを放った。
直感的なものでそれを避けた北斗が、切り裂かれた上着を見て顔色を変える。
風圧でやられたのは地上では初めてだった。
対する静羅もケンカを仕掛けて初めてかわされて、驚いて彼を見ていた。
和哉以外が相手のときに避けられたことはない。
和哉が相手のときは静羅が本気を出さないので、どちらが優れているかは判断できないが。
「あんたマジで人間じゃないのか? 俺の蹴りをかわしたのって、あんたが初めてだ」
「俺も人間に風圧でやられたのは初めてだ。ほんとに人間なのか?」
異口同音を口にして、ふたりが黙り込む。
「もしかしておまえも同族か?」
「はい?」
同族?
今時そんな言葉を使う日本人がいるだろうか。
いつの時代からやってきたバカだよ、こいつは?
「いや。しかし俺に内密に降臨している同族がいるなんて、ナーガからも聞いてないし」
ひとりで納得している。
危ない奴じゃなかろうかと静羅は密かに青ざめた。
「本名だけでも教えてくれないか?」
「おまえが偽名を名乗ってるのに俺に名乗れってのか?」
静羅の言い返しに相手は困ったような笑みを見せた。
「俺はしばらくの間は、この名前を本名として使うつもりなんだ。おまえたちの言う戸籍ってやつがないからな。それでも本名を知りたいというなら、意味などなくても本名を名乗るが?」
こいつどこか狂ってんじゃないのかと、静羅は本気で疑った。
彼の口調には淀みがない。
彼は自分の出自を掴んでいる。
これは静羅の確信だった。
戸籍がないというのも変である。
彼の口調からは産まれたときに親の都合で戸籍を作れなかったというような理由が感じられなかったのだ。
高樹の御曹司としてそういう奴がいるという噂も入ってこない。
この街のことなら高樹の家の者の耳に入らないはずがないのに。
本当にこいつは何者なんだ?
「俺はどうしても本名は名乗れない。だから、本名に近い名として世羅を名乗る。これは俺の本名から捩ってる名前だからな。
俺が名乗っていないのにおまえに名乗れっていうのは、筋が通ってないと思うけど、ここまで聞いたら気になるから訊くよ。おまえは一体何者なんだ」
きちんと筋道を通して非礼を断ってくる静羅に北斗は好感を覚えた。
こういう気性は好きだ。
これでどうして反感を感じてしまうのかが謎なのだが。
普通なら親しくなれる性格をしているのに。
「北斗」
一言だけ名乗ったが、どちらもが偽名を名乗ったことを感じ取っていた。
「胡散臭い野郎だな」
「お互い様だ」
お互いを見据える瞳に気に入らないという感情が見え隠れする。
「あんた本気で人間なのか? さっき瞳が赤く光ってたって言ったら認めてたけど」
「偽名を答えるような奴に答える義務はないな」
「てめぇだって偽名を名乗ってるだろうがっ」
言ってから「あっ」となった。
これでは認めたようなものである。
北斗はニヤッと笑った。
「お互い様だな。しかしおまえ本当に人間なのか?」
「失礼な質問を何度もするんじゃねえよ」
「いや。しかしその波動、その闘気。どこから見ても人間には見えないんだが」
「は?」
意外なことを言われ、静羅の目が点になった。
波動とか、闘気とか。普通日常生活で使うだろうか。
大体そんなものが見えるなんて益々人間とは思えない。
「それに最初に問いかけたとき、すぐさま否定しなかっただろう。なにか心当たりでもあるんじゃないのか?」
「うるせぇよ。てめぇには関係ねえだろうが」
「そうとも言えないんだ。俺は人を捜している。おまえだと思うには外見的な感じが合わないが、可能性があるなら無視できないからな」
(天は俺たちと同じ雷神。その天がこんなに華奢な体格をしているとは思えない。人違いか? それにしては気になるが)
そんなことを思いつつ、北斗は静羅の全身を検分する。
ムカッとした静羅が反射的に回し蹴りを放った。
直感的なものでそれを避けた北斗が、切り裂かれた上着を見て顔色を変える。
風圧でやられたのは地上では初めてだった。
対する静羅もケンカを仕掛けて初めてかわされて、驚いて彼を見ていた。
和哉以外が相手のときに避けられたことはない。
和哉が相手のときは静羅が本気を出さないので、どちらが優れているかは判断できないが。
「あんたマジで人間じゃないのか? 俺の蹴りをかわしたのって、あんたが初めてだ」
「俺も人間に風圧でやられたのは初めてだ。ほんとに人間なのか?」
異口同音を口にして、ふたりが黙り込む。
「もしかしておまえも同族か?」
「はい?」
同族?
今時そんな言葉を使う日本人がいるだろうか。
いつの時代からやってきたバカだよ、こいつは?
「いや。しかし俺に内密に降臨している同族がいるなんて、ナーガからも聞いてないし」
ひとりで納得している。
危ない奴じゃなかろうかと静羅は密かに青ざめた。
「本名だけでも教えてくれないか?」
「おまえが偽名を名乗ってるのに俺に名乗れってのか?」
静羅の言い返しに相手は困ったような笑みを見せた。
「俺はしばらくの間は、この名前を本名として使うつもりなんだ。おまえたちの言う戸籍ってやつがないからな。それでも本名を知りたいというなら、意味などなくても本名を名乗るが?」
こいつどこか狂ってんじゃないのかと、静羅は本気で疑った。
彼の口調には淀みがない。
彼は自分の出自を掴んでいる。
これは静羅の確信だった。
戸籍がないというのも変である。
彼の口調からは産まれたときに親の都合で戸籍を作れなかったというような理由が感じられなかったのだ。
高樹の御曹司としてそういう奴がいるという噂も入ってこない。
この街のことなら高樹の家の者の耳に入らないはずがないのに。
本当にこいつは何者なんだ?
「俺はどうしても本名は名乗れない。だから、本名に近い名として世羅を名乗る。これは俺の本名から捩ってる名前だからな。
俺が名乗っていないのにおまえに名乗れっていうのは、筋が通ってないと思うけど、ここまで聞いたら気になるから訊くよ。おまえは一体何者なんだ」
きちんと筋道を通して非礼を断ってくる静羅に北斗は好感を覚えた。
こういう気性は好きだ。
これでどうして反感を感じてしまうのかが謎なのだが。
普通なら親しくなれる性格をしているのに。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる