天則(リタ)の旋律

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第四章 宿星、集う

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「俺は世羅。あんたは?」

「北斗」

 一言だけ名乗ったが、どちらもが偽名を名乗ったことを感じ取っていた。

「胡散臭い野郎だな」

「お互い様だ」

 お互いを見据える瞳に気に入らないという感情が見え隠れする。

「あんた本気で人間なのか? さっき瞳が赤く光ってたって言ったら認めてたけど」

「偽名を答えるような奴に答える義務はないな」

「てめぇだって偽名を名乗ってるだろうがっ」

 言ってから「あっ」となった。

 これでは認めたようなものである。

 北斗はニヤッと笑った。

「お互い様だな。しかしおまえ本当に人間なのか?」

「失礼な質問を何度もするんじゃねえよ」

「いや。しかしその波動、その闘気。どこから見ても人間には見えないんだが」

「は?」

 意外なことを言われ、静羅の目が点になった。

 波動とか、闘気とか。普通日常生活で使うだろうか。

 大体そんなものが見えるなんて益々人間とは思えない。

「それに最初に問いかけたとき、すぐさま否定しなかっただろう。なにか心当たりでもあるんじゃないのか?」

「うるせぇよ。てめぇには関係ねえだろうが」

「そうとも言えないんだ。俺は人を捜している。おまえだと思うには外見的な感じが合わないが、可能性があるなら無視できないからな」

(天は俺たちと同じ雷神。その天がこんなに華奢な体格をしているとは思えない。人違いか? それにしては気になるが)

 そんなことを思いつつ、北斗は静羅の全身を検分する。

 ムカッとした静羅が反射的に回し蹴りを放った。

 直感的なものでそれを避けた北斗が、切り裂かれた上着を見て顔色を変える。

 風圧でやられたのは地上では初めてだった。

 対する静羅もケンカを仕掛けて初めてかわされて、驚いて彼を見ていた。

 和哉以外が相手のときに避けられたことはない。

 和哉が相手のときは静羅が本気を出さないので、どちらが優れているかは判断できないが。

「あんたマジで人間じゃないのか? 俺の蹴りをかわしたのって、あんたが初めてだ」

「俺も人間に風圧でやられたのは初めてだ。ほんとに人間なのか?」

 異口同音を口にして、ふたりが黙り込む。

「もしかしておまえも同族か?」

「はい?」

 同族?

 今時そんな言葉を使う日本人がいるだろうか。

 いつの時代からやってきたバカだよ、こいつは?

「いや。しかし俺に内密に降臨している同族がいるなんて、ナーガからも聞いてないし」

 ひとりで納得している。

 危ない奴じゃなかろうかと静羅は密かに青ざめた。

「本名だけでも教えてくれないか?」

「おまえが偽名を名乗ってるのに俺に名乗れってのか?」

 静羅の言い返しに相手は困ったような笑みを見せた。

「俺はしばらくの間は、この名前を本名として使うつもりなんだ。おまえたちの言う戸籍ってやつがないからな。それでも本名を知りたいというなら、意味などなくても本名を名乗るが?」

 こいつどこか狂ってんじゃないのかと、静羅は本気で疑った。

 彼の口調には淀みがない。

 彼は自分の出自を掴んでいる。

 これは静羅の確信だった。

 戸籍がないというのも変である。

 彼の口調からは産まれたときに親の都合で戸籍を作れなかったというような理由が感じられなかったのだ。

 高樹の御曹司としてそういう奴がいるという噂も入ってこない。

 この街のことなら高樹の家の者の耳に入らないはずがないのに。

 本当にこいつは何者なんだ?

「俺はどうしても本名は名乗れない。だから、本名に近い名として世羅を名乗る。これは俺の本名から捩ってる名前だからな。
 俺が名乗っていないのにおまえに名乗れっていうのは、筋が通ってないと思うけど、ここまで聞いたら気になるから訊くよ。おまえは一体何者なんだ」

 きちんと筋道を通して非礼を断ってくる静羅に北斗は好感を覚えた。

 こういう気性は好きだ。

 これでどうして反感を感じてしまうのかが謎なのだが。

 普通なら親しくなれる性格をしているのに。
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