天則(リタ)の旋律

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第四章 宿星、集う

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「あれ? 気のせいか?」

 暗がりに人影が見えた。

 それはいいのだが、その人物が光って見える。

(目が光ってる?)

 赤く光って見えるのは目の錯覚か?

 細身の長身。

 全身がバネのような印象があった。

「だれかいるのか?」

 グラサン越しではわからないので、静羅はトレードマークのグラサンを外し、赤く光る人物に声を投げた。

 やはり赤い光が見える。

 それがスッと消えた。

 人影が近付いてくる。

 現れたのは黒の上下に身に包んだ静羅と2、3歳違って見える少年だった。

 17、8だろうか?

 さっきまで光って見えたのは幻覚?

「人間か?」

 相手の第一声がそれだった。

 は? といった気分だった。

 人間かと訊く奴も珍しいが、普通人間かと訊かれたら人間だと答えるものではないのだろうか。

「……変なこと訊くんじゃねえよ」

 人間かと真面目に訊かれたら答えられない。

 すべての薬を無効化し、すべてのウィルスに感染しない身体。

 IQで数値にできない頭脳。

 身体の特徴のすべてが人間ばなれした静羅。

 人間じゃないと言われても全く不思議はないし、実際高樹の親戚連中からは陰口で「化け物」と言われている。

 国籍だって不明だし、純粋な日本人ですらないらしい。

 だから、瞳が紫がかっているのだ。

 そのことは静羅のコンプレックスになっていた。

 紫がかってた瞳を怒りに輝かせる。

 すると相手が笑った。

 鋭利な感じが消えて、なんだかあったかい感じになる。

「怒らせたなら悪かった。ちょっと不思議な感じを感じたから」

「そっちこそ人間なのかよ? さっき目が赤く光って見えたけど」

「見たのか?」

 意外そうな顔だった。

 まさか肯定されるとは思わなくて静羅は驚く。

 あれは見間違いじゃなかった?

 今相手の少年は黒い瞳をしている。

 だから、見間違いだと思ったのに。

 違った?

 当たっていた?

「コンタクトには見えねえけど」

「なんだ? そのこんたく、とというのは?」

 不思議そうに首を傾げられ、静羅の方が不思議そうな顔になる。

 悪質な冗談かと思ったが相手は至って真面目な顔をしていた。

(本気で訊いてる?)

 黒の上下。

 どこか違和感のある現実感の乏しい印象の少年。

 ある意味で静羅に似ているかもしれない。

(あっ)

「もしかしてあんた黒豹か?」

「黒豹? 俺は豹ではないが?」

「だれがあんたのことを豹だって言ったんだよ?」

 呆れて肩の落ちる静羅である。

「あだ名だよ。あだ名。そう呼ばれてる奴がいるって、前に聞いたことがあったから」

「悪いがそれが俺のことかどうかはわからない。勝手に使われているあだ名なら、俺が知るはずもないだろう?」

「そりゃそうだけど」

 黒豹の由来はその黒ずくめの服装にあると、あれから聞いたことがある。

 だから、印象が似て見えるのだろうと納得した覚えがあった。

 夜に出歩くとき、静羅は大抵黒で纏めた服装をしているから。

 元々モノトーンで服を統一するのは、静羅の好みのコーディネートだった。

 そういえば黒豹らしい噂を湘南のある街でも聞いたことがあった。

 あのときは別人だろうと判断したが。
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