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第四章 宿星、集う
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やはり起きてから2時間近く人形状態の静羅を、普通に食堂で食事させるわけにはいかない。
静羅が和哉がくるまで外食やコンビニ弁当で済ませていた理由がそれである。
東夜や忍は仲がいいとはいっても、一緒に住んでいたわけではないので、初めて静羅の人形ぶりを見せられたときには、どんな反応も返せなかったが。
とにかく言われる通りに動き、言われる通りのことをこなす。
人形が独りでに動いていると言っても間違っていないのだ。
これを見た東夜と忍が静羅の身元にもっと疑念を抱いたのは事実である。
人間だと思うには彼には不都合な点が多すぎた。
そして朝食や夕食を共にするようになってから疑問に思ったことがもうひとつ。
和哉は静羅の着替えにはタッチしない。
静羅が人形状態のときですら、着替えさせようとはしない。
ただ何度も静羅の耳許で着替えるように言い聞かし、静羅がそれを自分でも繰り返すと、ホッとしたように部屋にひとり残すのだ。
不思議な一面だが静羅は言われたことを自分でも繰り返すと、それを完璧にやってくれるのである。
例え本人に意識がなくても。
それに不思議なことは、それだけではなかった。
和哉から静羅が起きるまでと夜9時以降は静羅の部屋には行かないでくれと頼まれた。
それはなにも東夜や忍を遠ざけるための言い訳ではなく、実際に和哉も9時を過ぎると絶対に静羅の下には行かなかった。
これは部屋が隣り合っているから確かである。
静羅は何度か夜に抜け出していたようだが、静羅を5時に起こさなければならず、従って自分は最低でも4時には起きている和哉は早寝早起きが習慣なため、そのことには気付いていないようだったが。
和哉が寝静まるのを待って静羅は何度か抜け出していた。
そのときの格好はやはりあのときみたような、モデル顔負けの決まった姿だった。
おそらく変装の意味もあるのだろう。
普段とは正反対にしてしまえば気付かれにくいから。
それを窓から見送る東夜に忍はこんなことを言っていた。
「迦陵。あまり静羅さんに深入りしすぎるのは感心しませんね」
「……祗柳」
「わたしたちとは生きる世界の違う人です。何れは別れなければならないのですから、深入りすると傷付くのはあなたです。やめた方がいいと、わたしは思いますよ、迦陵」
「わかってる」
答えながらもひとり鬱憤を晴らすために街に飛び出す静羅を、その度毎に窓から見送る東夜……迦陵だった。
静羅が街に飛び出すには一定のパターンがある。
昼に高樹の家が絡んで揉めた夜である。
厄介者だと指摘される現実に直面したとき、静羅は必ず街へと飛び出した。
おそらくストレス発散のためだろう。
だから、気掛かりそうに見送ってしまう迦陵なのである。
和哉の方は変化なしだ。
この2年以上、和哉には覚醒の兆候は見られない。
そのことにすこしホッとしている迦陵だった。
「もうすぐ満月か。前の満月は適当にやり過ごしたけど、今回はそれまでに屋敷に戻るしかねえな」
満月。
そのことを思うと静羅は苦々しい気分になる。
周りとの接点を断ってしまう満月。
このときばかりは和哉とも逢わない。
こちらにきてからの満月は適当にやり過ごしたが、その度に学校を休むので疑問は持たれている。
和哉も誤魔化すのに苦労しているみたいだ。
和哉には詳しい話をしていないが、どうやら知っているみたいだった。
もしかしたら父さんから聞いたのかもしれない。
言えないことを済まないと思いながらも、これだけは気付かれたくないのだと静羅は思う。
静羅が和哉がくるまで外食やコンビニ弁当で済ませていた理由がそれである。
東夜や忍は仲がいいとはいっても、一緒に住んでいたわけではないので、初めて静羅の人形ぶりを見せられたときには、どんな反応も返せなかったが。
とにかく言われる通りに動き、言われる通りのことをこなす。
人形が独りでに動いていると言っても間違っていないのだ。
これを見た東夜と忍が静羅の身元にもっと疑念を抱いたのは事実である。
人間だと思うには彼には不都合な点が多すぎた。
そして朝食や夕食を共にするようになってから疑問に思ったことがもうひとつ。
和哉は静羅の着替えにはタッチしない。
静羅が人形状態のときですら、着替えさせようとはしない。
ただ何度も静羅の耳許で着替えるように言い聞かし、静羅がそれを自分でも繰り返すと、ホッとしたように部屋にひとり残すのだ。
不思議な一面だが静羅は言われたことを自分でも繰り返すと、それを完璧にやってくれるのである。
例え本人に意識がなくても。
それに不思議なことは、それだけではなかった。
和哉から静羅が起きるまでと夜9時以降は静羅の部屋には行かないでくれと頼まれた。
それはなにも東夜や忍を遠ざけるための言い訳ではなく、実際に和哉も9時を過ぎると絶対に静羅の下には行かなかった。
これは部屋が隣り合っているから確かである。
静羅は何度か夜に抜け出していたようだが、静羅を5時に起こさなければならず、従って自分は最低でも4時には起きている和哉は早寝早起きが習慣なため、そのことには気付いていないようだったが。
和哉が寝静まるのを待って静羅は何度か抜け出していた。
そのときの格好はやはりあのときみたような、モデル顔負けの決まった姿だった。
おそらく変装の意味もあるのだろう。
普段とは正反対にしてしまえば気付かれにくいから。
それを窓から見送る東夜に忍はこんなことを言っていた。
「迦陵。あまり静羅さんに深入りしすぎるのは感心しませんね」
「……祗柳」
「わたしたちとは生きる世界の違う人です。何れは別れなければならないのですから、深入りすると傷付くのはあなたです。やめた方がいいと、わたしは思いますよ、迦陵」
「わかってる」
答えながらもひとり鬱憤を晴らすために街に飛び出す静羅を、その度毎に窓から見送る東夜……迦陵だった。
静羅が街に飛び出すには一定のパターンがある。
昼に高樹の家が絡んで揉めた夜である。
厄介者だと指摘される現実に直面したとき、静羅は必ず街へと飛び出した。
おそらくストレス発散のためだろう。
だから、気掛かりそうに見送ってしまう迦陵なのである。
和哉の方は変化なしだ。
この2年以上、和哉には覚醒の兆候は見られない。
そのことにすこしホッとしている迦陵だった。
「もうすぐ満月か。前の満月は適当にやり過ごしたけど、今回はそれまでに屋敷に戻るしかねえな」
満月。
そのことを思うと静羅は苦々しい気分になる。
周りとの接点を断ってしまう満月。
このときばかりは和哉とも逢わない。
こちらにきてからの満月は適当にやり過ごしたが、その度に学校を休むので疑問は持たれている。
和哉も誤魔化すのに苦労しているみたいだ。
和哉には詳しい話をしていないが、どうやら知っているみたいだった。
もしかしたら父さんから聞いたのかもしれない。
言えないことを済まないと思いながらも、これだけは気付かれたくないのだと静羅は思う。
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