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第四章 宿星、集う
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これは結城には言っていないが、一部の間では静羅が養子だと知られている。
名前は知らなくても、その程度の情報は入ってくるのだ。
彼はあまりに本家の人間に溺愛されているので、分家筋の人間からは毛嫌いされ、敬遠されているという。
彼が養子で親戚から煙たがられていることと、突然こんなところに入学してきたことに繋がりはあるのだろうか?
余程のことでもないかぎり、世界の共有資産とまで言われている静羅が、こういう真似をすることを周囲は認めないだろうし。
これから一波瀾ありそうで甲斐は重いため息を吐き出した。
静羅のことが心配で和哉が転校してきた日、静羅は久々に電話で母親と話した。
そこで仕入れた情報は、やはりというか推測通りだった。
確かに静羅は高校に進学する際に学校側からなんらかの報告があったら、もうワガママは聞かないと言われていた。
が、実際にその事態が起きたとき、和哉が両親に言ったらしいのだ。
静羅の世話は和哉がするから、そんなに心配しなくていい、と。
そうして和哉の転校が決まったのである。
実際、学校側もあまりに不用心な静羅に困り果てていたので、常に護衛をしていたという兄である和哉の転校は、諸手をあげて歓迎された。
転校するに当たって和哉がつけた数々の条件も、手放しで受け入れたほどである。
どれだけ静羅の身が案じられていたか知れようというものだ。
5月祭も間近な五月晴れの日、静羅は和哉と再会したのだった。
「おまえ。一体なにを食ったんだ?」
寮の静羅の部屋まで点検にやってきた和哉は、ダイニングテーブルの上に投げ出された茶碗を見てげんなりした。
食べたものをそのままにしておいたこともそうだが、なにを食べたのか想像がつかなかったのだ。
なにしろお茶碗がキレイに真っ白に染まっていたのだから。
お粥を作ったにしても変である。
東夜や忍まで引き連れてやってきた和哉に呆れられ、静羅は素直に答えた。
「あっためたご飯に牛乳掛けたんだ」
「「「はあ?」」」
呆気に取られる3人に静羅がテーブルに腰掛けて笑いながら事情を説明する。
「なんかなあ、俺この手の才能なかったらしいんだよな。なにを作っても不味いんだ。ラーメン作んだろ? 麺が鍋の底にこびりついていてスープがないんだ。スゲー壮絶な味だぜ、あれは。吐きそうになったから」
「……静羅」
頭を抱えてしまう和哉に東夜が気の毒そうな顔をしている。
「おじや作ろうとしたらラーメンと同じ状態になるんだ。なんでか知らないけど。なにを作っても不味いから、それなら作らない方がいいやと思って外食とか、コンビニの弁当で済ませてたんだけどな。昨夜はそれも忘れちまって、それで牛乳掛けご飯になったわけ」
「掃除……どうしてたんだ、おまえ?」
見たくない。
本気で見たくないのだが、キッチンの流し台には、これまでに食べたらしい食器が無造作に放置されていた。
洋服も洗濯していないのか、あちこちにTシャツやジーンズが置いてある。
部屋が広いのでまだ我慢できるレベルだが、これは酷い。
通いの家政婦でもつけておくんだった。
「掃除なあ。それは父さんにするなって言われたからしてない」
「え?」
東夜が不思議そうに呟けば、和哉が納得の声をあげた。
「そういえばそんなこともあったな。確かおまえが9歳のときだったっけ。なにかやっていて部屋を汚して、バレたら怒られるってんで、慌てて片付けようとして部屋を壊滅状態にしたんだよな。そのときに部屋の惨状を見た父さんから、二度と部屋の掃除は自分でするなって厳命されたんだっけ」
それでこの程度で済んでいたのかと納得した。
静羅が掃除しようとなんてしていたら、きっとこの部屋は見る影もなかったに違いない。
それにしてもそんな頃の指示を、今になっても守っているなんて、静羅はやっぱり可愛い。
そういえば静羅は未だに食べるときに「いただきます」終わったら「ごちそうさまでした」と両手を合わせる可愛い一面があった。
それも母さんの躾の結果である。
両親の言い付けはすべて守らなければならないと、静羅はそう思っていて、それを実行しているのだ。
そういうところは可愛いなと和哉も思うのだが。
名前は知らなくても、その程度の情報は入ってくるのだ。
彼はあまりに本家の人間に溺愛されているので、分家筋の人間からは毛嫌いされ、敬遠されているという。
彼が養子で親戚から煙たがられていることと、突然こんなところに入学してきたことに繋がりはあるのだろうか?
余程のことでもないかぎり、世界の共有資産とまで言われている静羅が、こういう真似をすることを周囲は認めないだろうし。
これから一波瀾ありそうで甲斐は重いため息を吐き出した。
静羅のことが心配で和哉が転校してきた日、静羅は久々に電話で母親と話した。
そこで仕入れた情報は、やはりというか推測通りだった。
確かに静羅は高校に進学する際に学校側からなんらかの報告があったら、もうワガママは聞かないと言われていた。
が、実際にその事態が起きたとき、和哉が両親に言ったらしいのだ。
静羅の世話は和哉がするから、そんなに心配しなくていい、と。
そうして和哉の転校が決まったのである。
実際、学校側もあまりに不用心な静羅に困り果てていたので、常に護衛をしていたという兄である和哉の転校は、諸手をあげて歓迎された。
転校するに当たって和哉がつけた数々の条件も、手放しで受け入れたほどである。
どれだけ静羅の身が案じられていたか知れようというものだ。
5月祭も間近な五月晴れの日、静羅は和哉と再会したのだった。
「おまえ。一体なにを食ったんだ?」
寮の静羅の部屋まで点検にやってきた和哉は、ダイニングテーブルの上に投げ出された茶碗を見てげんなりした。
食べたものをそのままにしておいたこともそうだが、なにを食べたのか想像がつかなかったのだ。
なにしろお茶碗がキレイに真っ白に染まっていたのだから。
お粥を作ったにしても変である。
東夜や忍まで引き連れてやってきた和哉に呆れられ、静羅は素直に答えた。
「あっためたご飯に牛乳掛けたんだ」
「「「はあ?」」」
呆気に取られる3人に静羅がテーブルに腰掛けて笑いながら事情を説明する。
「なんかなあ、俺この手の才能なかったらしいんだよな。なにを作っても不味いんだ。ラーメン作んだろ? 麺が鍋の底にこびりついていてスープがないんだ。スゲー壮絶な味だぜ、あれは。吐きそうになったから」
「……静羅」
頭を抱えてしまう和哉に東夜が気の毒そうな顔をしている。
「おじや作ろうとしたらラーメンと同じ状態になるんだ。なんでか知らないけど。なにを作っても不味いから、それなら作らない方がいいやと思って外食とか、コンビニの弁当で済ませてたんだけどな。昨夜はそれも忘れちまって、それで牛乳掛けご飯になったわけ」
「掃除……どうしてたんだ、おまえ?」
見たくない。
本気で見たくないのだが、キッチンの流し台には、これまでに食べたらしい食器が無造作に放置されていた。
洋服も洗濯していないのか、あちこちにTシャツやジーンズが置いてある。
部屋が広いのでまだ我慢できるレベルだが、これは酷い。
通いの家政婦でもつけておくんだった。
「掃除なあ。それは父さんにするなって言われたからしてない」
「え?」
東夜が不思議そうに呟けば、和哉が納得の声をあげた。
「そういえばそんなこともあったな。確かおまえが9歳のときだったっけ。なにかやっていて部屋を汚して、バレたら怒られるってんで、慌てて片付けようとして部屋を壊滅状態にしたんだよな。そのときに部屋の惨状を見た父さんから、二度と部屋の掃除は自分でするなって厳命されたんだっけ」
それでこの程度で済んでいたのかと納得した。
静羅が掃除しようとなんてしていたら、きっとこの部屋は見る影もなかったに違いない。
それにしてもそんな頃の指示を、今になっても守っているなんて、静羅はやっぱり可愛い。
そういえば静羅は未だに食べるときに「いただきます」終わったら「ごちそうさまでした」と両手を合わせる可愛い一面があった。
それも母さんの躾の結果である。
両親の言い付けはすべて守らなければならないと、静羅はそう思っていて、それを実行しているのだ。
そういうところは可愛いなと和哉も思うのだが。
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