39 / 81
第四章 宿星、集う
(4)
しおりを挟む
ここでふたりのことを詳しく知っているのは、上杉甲斐と斉藤結城のふたりだけ。
それだけでも静羅には救いかもしれないと、チラリと考えた。
それも伝わったのか、静羅には睨まれたが。
「和哉。学校を出てくるとき、引き止められなかったのか?」
「おまえな。オレより先にさっさと学校を捨てた奴に言えた義理じゃないだろうが。当然止められたよ。振り切ったけど」
「ま。無理もないよな。和哉は東城大付属の期待の星だったわけだし」
静羅がサラリとそう言ったとき、ひそひそとざわめきが広がっていった。
東城大付属とは湘南と肩を並べる名門校である。
幼稚舎から大学院まで一貫した教育で知られているが、入学するためには必ず家柄の有無が問われるため、湘南よりも入学が規制されてしまう。
つまり東城大付属に通っているということは、名家の生まれ、もしくは財産家の御曹司であることを意味する。
確かに近寄りがたい雰囲気はあるものの、どちらかといえば砕けた話し方をするふたりが、実は名家の御曹司だったと知ってざわめきが生まれたのだ。
静羅の実力的には出身校が東城大付属でも全く不思議はないのだが。
「なんでみんな過保護なんだよ?」
頭を抱えてしまった静羅に東夜と和哉は顔を見合わせて笑った。
「和哉君が? 本当に?」
驚いた顔で問い返したのは湘南の生徒会長、上杉甲斐だった。
受け止めて結城が首肯する。
人気のないところまで甲斐を引っ張ってきて報告を始めたのだ。
「信じられる? あの修羅がそうだったんだって」
「まさか……噂の『高樹の御曹司』?」
その呼び名を使われるのは跡取りの和哉ではなく、名前も公表されていない次男である。
父親同士が親しい関係にある甲斐ですら、和哉としか逢ったことはなく、従って弟の名も知らなかった。
『高樹の次男は全世界の財産』
そこまで言われるほど特別な少年だ。
全世界の者が静羅を欲しがっている。
そのため厳しいセキュリティの元で保護されているはずだった。
それがノコノコ関西の学校に入学してくるなど、一体だれが想像するだろう?
「ねえ、甲斐。ぼくの情報が正しかったら、確か『高樹財閥の御曹司』って世界中に存在するありとあらゆる薬を無効にする特殊な体質を持っていて、どんなウイルスにも影響されないんだよね? あの修羅が?」
そこまで言われるためには静羅は一度、そういった環境の下に置かれた時期がなければならない。
……そう。
赤ん坊の頃、静羅は生態実験を受けていたのだ。
生まれたばかりの赤ん坊だった静羅に、科学者たちはありとあらゆる薬を投与し、世界中に存在するウイルスに感染させたと言われている。
だが、静羅はそれらをすべて無効化させるのだという。
それがハッキリした当時、静羅の処遇を巡って世界中の人間が暗躍したらしい。
それを阻止したのが世界的な大財閥、高樹家の当主、和之だった。
以後、静羅は高樹家のバックアップで全力で保護されてきた。
和之たちが長男の和哉より静羅を可愛がっているのは公然の秘密だった。
静羅は常に狙われている。
その身も、生命も。
だから、今までその名前すら公表されなかった。
その静羅が何故ここに?
「身体検査の謎……今頃、理解できた」
「うん。修羅が噂の御曹司だったら普通に身体検査なんてしないよね。ううん。できないんだよ、きっと」
静羅の肉体そのものが神秘なのだ。
迂闊な真似はできない。
素性を知れば今まで疑問に思っていたこと、すべてに答えが出る。
「とりあえず父さんに確かめてみるから、結城は迂闊にそういった話題を出さないようにすること。いいな?」
「うん。それ和哉さんにもクギを刺された」
「ここに通っていることが公になったら、とんでもないことになりかねないからな。無理もない」
最悪スパイ映画とかサスペンスドラマとか、そういった世界が突如出現してもなんら不思議はない。
生徒に危険を近付けないためにも、静羅の素性は徹底的に伏せるべきだった。
それだけでも静羅には救いかもしれないと、チラリと考えた。
それも伝わったのか、静羅には睨まれたが。
「和哉。学校を出てくるとき、引き止められなかったのか?」
「おまえな。オレより先にさっさと学校を捨てた奴に言えた義理じゃないだろうが。当然止められたよ。振り切ったけど」
「ま。無理もないよな。和哉は東城大付属の期待の星だったわけだし」
静羅がサラリとそう言ったとき、ひそひそとざわめきが広がっていった。
東城大付属とは湘南と肩を並べる名門校である。
幼稚舎から大学院まで一貫した教育で知られているが、入学するためには必ず家柄の有無が問われるため、湘南よりも入学が規制されてしまう。
つまり東城大付属に通っているということは、名家の生まれ、もしくは財産家の御曹司であることを意味する。
確かに近寄りがたい雰囲気はあるものの、どちらかといえば砕けた話し方をするふたりが、実は名家の御曹司だったと知ってざわめきが生まれたのだ。
静羅の実力的には出身校が東城大付属でも全く不思議はないのだが。
「なんでみんな過保護なんだよ?」
頭を抱えてしまった静羅に東夜と和哉は顔を見合わせて笑った。
「和哉君が? 本当に?」
驚いた顔で問い返したのは湘南の生徒会長、上杉甲斐だった。
受け止めて結城が首肯する。
人気のないところまで甲斐を引っ張ってきて報告を始めたのだ。
「信じられる? あの修羅がそうだったんだって」
「まさか……噂の『高樹の御曹司』?」
その呼び名を使われるのは跡取りの和哉ではなく、名前も公表されていない次男である。
父親同士が親しい関係にある甲斐ですら、和哉としか逢ったことはなく、従って弟の名も知らなかった。
『高樹の次男は全世界の財産』
そこまで言われるほど特別な少年だ。
全世界の者が静羅を欲しがっている。
そのため厳しいセキュリティの元で保護されているはずだった。
それがノコノコ関西の学校に入学してくるなど、一体だれが想像するだろう?
「ねえ、甲斐。ぼくの情報が正しかったら、確か『高樹財閥の御曹司』って世界中に存在するありとあらゆる薬を無効にする特殊な体質を持っていて、どんなウイルスにも影響されないんだよね? あの修羅が?」
そこまで言われるためには静羅は一度、そういった環境の下に置かれた時期がなければならない。
……そう。
赤ん坊の頃、静羅は生態実験を受けていたのだ。
生まれたばかりの赤ん坊だった静羅に、科学者たちはありとあらゆる薬を投与し、世界中に存在するウイルスに感染させたと言われている。
だが、静羅はそれらをすべて無効化させるのだという。
それがハッキリした当時、静羅の処遇を巡って世界中の人間が暗躍したらしい。
それを阻止したのが世界的な大財閥、高樹家の当主、和之だった。
以後、静羅は高樹家のバックアップで全力で保護されてきた。
和之たちが長男の和哉より静羅を可愛がっているのは公然の秘密だった。
静羅は常に狙われている。
その身も、生命も。
だから、今までその名前すら公表されなかった。
その静羅が何故ここに?
「身体検査の謎……今頃、理解できた」
「うん。修羅が噂の御曹司だったら普通に身体検査なんてしないよね。ううん。できないんだよ、きっと」
静羅の肉体そのものが神秘なのだ。
迂闊な真似はできない。
素性を知れば今まで疑問に思っていたこと、すべてに答えが出る。
「とりあえず父さんに確かめてみるから、結城は迂闊にそういった話題を出さないようにすること。いいな?」
「うん。それ和哉さんにもクギを刺された」
「ここに通っていることが公になったら、とんでもないことになりかねないからな。無理もない」
最悪スパイ映画とかサスペンスドラマとか、そういった世界が突如出現してもなんら不思議はない。
生徒に危険を近付けないためにも、静羅の素性は徹底的に伏せるべきだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」
ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。
学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。
その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

離婚しましょう、私達
光子
恋愛
「離婚しましょう、私達」
私と旦那様の関係は、歪だ。
旦那様は、私を愛していない。だってこの結婚は、私が無理矢理、お金の力を使って手に入れたもの。
だから私は、私から旦那様を解放しようと思った。
「貴女もしつこいですね、離婚はしないと言っているでしょう」
きっと、喜んで頷いてくれると思っていたのに、当の旦那様からは、まさかの拒否。
「私は、もう旦那様が好きじゃないんです」
「では、もう一度好きになって下さい」
私のことなんて好きじゃないはずなのに、どうして、離婚を拒むの? それどころか、どうして執着してくるの? どうして、私を離してくれないの?
「諦めて、俺の妻でいて下さい」
どんな手を使っても手に入れたいと思った旦那様。でも違う、それは違うの、そう思ったのは、私じゃないの。
貴方のことが好きだったのは、私じゃない。
私はただ、貴方の妻に転生してしまっただけなんです!
―――小説の中に転生、最推しヒロインと旦那様の恋を応援するために、喜んで身を引きます! っと思っていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか……
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。魔法ありの世界です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
R15です。性的な表現があるので、苦手な方は注意して下さい。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

幼馴染と義妹、合わされば魔王レベルだと思いませんか? なので、逃げさせてもらいます
井藤 美樹
恋愛
先日――
三年上の先輩方が、卒業式後のパーティー会場で、あろうことか婚約破棄騒ぎをおこしましたの。
それも、二件同時に。
勿論、男性側の不貞ですわ。
どちらも浮気ではなく、〈真実の愛〉だと騒いでいたと聞きました。
一人は幼馴染と、もうひと方は義妹と。
なら、私はどうなるのでしょう。
だって、私の婚約者のそばには、常に元幼馴染であり義妹でもある方が寄り添っておられますから。
あのような晒し者になる前に対処しなければなりませんね。それとも、このまま放置して、気ままなスローライフを手に入れるのもいいですね。
ほんと、どうしましょうか……
まぁ、どちらに転んでも、私は私が生きたいように生きるだけですけどね。
鋼なみにメンタルが強い少女が兄姉の手を借りながら、様々な障害を乗り越え、自分の居場所を探し掴み取る物語です。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
【R-18・連載版】部長と私の秘め事
臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里(うえむらあかり)は、酔い潰れていた所を上司の速見尊(はやみみこと)に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と尋ねワンナイトラブの関係になってしまう。
かと思えば出社後も部長は求めてきて、二人はただの上司と部下から本当の恋人になっていく。
だが二人の前には障害が立ちはだかり……。
※ 過去に投稿した短編の、連載版です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる