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第四章 宿星、集う
(3)
しおりを挟む静羅の兄が同学年の同じクラスに転校してきたという事実は、次の休み時間には学校中に知れ渡っていた。
それもどうやら普通の転校生ではないらしいとの噂までオマケでついてくる始末。
話しかけたいのだが、その勇気のない面々は、結城が動くのを期待を込めて待っていた。
「あの。きみもしかして」
和哉の顔を見てから、ずっと首を捻っていた結城が、戸惑いながらそんな声を出す。
振り向いて和哉は瞳を細くした。
「なにか?」
「和哉さん……かな? 確か甲斐のアルバムに子供の頃の写真が」
「ああ。上杉のお嬢さんの子供の結城君、か」
納得の声を出す和哉に結城の方は、ギョッとしたように静羅を見返した。
彼があの「高樹和哉」だとすれば、その弟の静羅こそが噂の人物だったということになる。
気付いた事実に絶句してしまう。
「悪いけどその話は公にはしたくない。上杉さんにもそれは頼むつもりだし。これ以上事態を深刻にしたくないんだ。悪いけど」
「……どうして……彼がここに?」
どこかの王子並の護衛を受けて生活していても当然とも言える相手の、あまりに非現実的な事態を知って、結城にはそれしか言えなかった。
無防備なんて言葉では済まない。
無謀すら通り越している。
誘拐されたりしたらどうするつもりだったのか。
理解不能だ。
「立ち入りすぎだぜ、斉藤。それだけの度胸がてめえにあるのかよ?」
低い声で静羅にそう皮肉られ、結城は口を噤んだ。
「静羅。そう脅すなよ。そうならないためにオレたちがきたんだし」
「自分から事態を悪化させた人間がよく言うぜ」
兄に諭されても静羅は嫌味な路線を崩さなかった。
この現実を1番否定したいのは、他ならぬ静羅なのだから。
「それで和哉たちはどこに住むんだよ? 寮の特別室はもうないぜ?」
「ああ。それなら今日中になんとかするつもりだぜ?」
「……先週からなんか周囲がうるさいと思ってたんだ。あれは和哉の指図だったのか」
静羅の部屋の周辺が騒がしかったのは事実である。
なにやら改装をしていたらしいということは聞いていた。
まさかそれを指示したのが和哉だとは思わなかったが。
「東夜と忍先輩はオレの隣。その方がおまえのことも安心だしな」
言われて笑ってみせたのは、和哉の転校にわざわざ付き合ったもうひとりの転校生だった。
まだ名乗っていないが天野東夜という。
別に雇われているわけでもないし、そういう義務もないのだが、酔狂にもここまでくっついてきたのだ。
静羅に腰巾着と言われる心当たりが全くないわけじゃない。
だから、苦笑いで済ませてしまうのだった。
普通の人間から見れば非常識な立場にいる静羅たちだが、それでも東夜と彼の従兄弟の忍の言動は不可解極まりない。
彼らに対する静羅の感想は「胡散臭い奴ら」の一言で済む。
その辺の感想は和哉とは180度違った。
まあ彼らが優先するのは和哉なので、それは仕方がないのかもしれないが。
「あーあ。過保護な兄貴にも困りものだぜ」
「あの……年子の兄弟、とか?」
勇気のある女子のひとりがそう訊ねたが、当然の如く静羅には無視された。
仕方がないので和哉が微笑みつつ答える。
これがふたりの兄弟関係だった。
「いや。全くの同い年。見えないだろうけど双生児なんだ、オレたち」
見えないどころか、なにからなにまで違いすぎる。
身長や体格だけでなく顔付きからなにから、まるで赤の他人みたいに違う。
唖然として黙り込む周囲に和哉は肩を竦めてみせた。
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