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第二章 新たなる土地で
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「勘づかれるとヤバイから週末毎にくるのはやめてくれって。どうもおまえの情報ぐらいは掴んでるらしくて、名前だって知ってるんだと。
で、おまえが週末毎にきて名前がバレたりしたら、芋づる式に静羅の素性までバレるから困るってあいつはそう言ってたけど?」
静羅の意見もよくわかるのだが、和哉に言わせれば、そういう状況で孤立無援の状態を維持する方が、よっぽど危険だと思う。
上杉が絡んでいたら素性がバレるのは時間の問題だろう。
静羅が地味に目立たない生徒をやれるとは思わないし、好奇心の的になれば自然と厄介事も増えるはずだ。
厄介事が起きたら静羅を護るために、すべての者が動くはずで、そうなれば不自然さに気付く者もいるだろう。
だったら警戒はしておいて損はないはずだ。
傍にいれば護ってもやれるが、遠く離れていたら、それもままならないし。
それに静羅が傍にいない喪失感は、やっぱり心を苛むから、できれば傍にいたい。
上手く立ち回って静羅が反論できない状況を築く必要があるだろう。
なんとか手を打つしかない。
静羅の無自覚には困ったものだ。
それが和哉の決断だった。
報告書を読み終わり読書でもするつもりなのか、教室で分厚い書物を開く和哉に、東夜はさりげなく教室中に視線を巡らせた。
和哉の一挙一動を追うようにクラスメイトの視線が絡んでいる。
当の和哉はそんなことには意識も向けず黙殺状態だが。
こういう排他的なところは静羅と和哉はよく似ている。
東城大付属の期待の星とまで言われる高樹和哉。
小学部に入学したときから不動の学年ナンバーワンをキープしていて、4年生からなれる生徒総長を中学1年の頃まで歴任。
2年になる頃には「飽きたから」の一言で辞退したが、後釜になった忍に泣きつかれ、結局副総長をやるハメになった。
つまり名前がすこし変わっただけで、実質的な総長は変わらずに和哉だったということである。
文武両道を地でいく和哉は、頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗。
おまけに権力、財力まで併せ持つスーパーアイドル。
一言で言ってしまえばモテる。
男にも女にも大人気。
恋人志願、下僕志願。
選り取り見取りの選び放題。
が、友達にすらなれた者はいない。
唯一対等に付き合えるのがクラスメイトの天野東夜と、東夜の従兄で1学年年上の浅香忍のふたりだけだった。
友達というよりも和哉の配下とか臣下。
そんな感じの付き合いではあったが。
和哉のプライベートに関わっていても出過ぎた真似はしない。
彼に言われた通りに動き、絶対に自己主張をしない。
そういった付き合い方をしていた。
これは和哉がそう望んだのではなく、ふたりがそういうふうに和哉に近付いたからだった。
深入りしても出過ぎない。
そんなふうに接していく内に和哉の警戒心も薄れたというわけだった。
だから、週末に和哉の頼みを二つ返事で引き受けて、関西まで出掛けることもやってのける。
不思議な関係なのだが、彼らがそういう関係だと知る者は少ない。
またそういう関係でありながら、東夜だけは友達のような接し方もしていた。
忍は絶対に乱暴な口の聞き方をしないが、東夜は和哉と対等に喋る。
別に和哉はふたりを部下にしたつもりはないので、特に疑問は感じていない。
それでもやはり和哉は東城大付属のキングなのである。
ただ今でこそ受け入れられている東夜と忍だが、和哉の信頼を勝ち取るためにまずなにをしたかと言えば、毛を逆立てた猫みたいに警戒心バリバリの静羅の信頼を勝ち取ることだった。
この場合の信頼とは敵だと判断されないところに重点を置いていて、別段、静羅がふたりを信じて受け入れたわけではない。
ただ静羅に敵視されたままでは、和哉が絶対に警戒を解かないことが、ふたりにはよくわかっていたのである。
将を射んと欲すればまず馬から。
この言葉ほど和哉と静羅の兄弟を表すのに、適切な表現もないだろう。
和哉の信頼を得たければ、まず彼よりも弟の静羅から崩さないといけないのだ。
そのことに気付いている者がいないのが不思議なほどである。
和哉は常に静羅を護っているから、当たり前のことだが、静羅が警戒する相手は彼も警戒する。
時には静羅が無視している相手ですら、不穏な動きをしたら威嚇するくらいだ。
その辺のところを皆がわかっていないのが、東夜には不思議だった。
「しっかしおまえってさあ。自分のこと不遇だなあ……とかって感じたことないか?」
「不遇? どうして?」
読んでいた本から顔を上げて、和哉が不思議そうな顔をする。
で、おまえが週末毎にきて名前がバレたりしたら、芋づる式に静羅の素性までバレるから困るってあいつはそう言ってたけど?」
静羅の意見もよくわかるのだが、和哉に言わせれば、そういう状況で孤立無援の状態を維持する方が、よっぽど危険だと思う。
上杉が絡んでいたら素性がバレるのは時間の問題だろう。
静羅が地味に目立たない生徒をやれるとは思わないし、好奇心の的になれば自然と厄介事も増えるはずだ。
厄介事が起きたら静羅を護るために、すべての者が動くはずで、そうなれば不自然さに気付く者もいるだろう。
だったら警戒はしておいて損はないはずだ。
傍にいれば護ってもやれるが、遠く離れていたら、それもままならないし。
それに静羅が傍にいない喪失感は、やっぱり心を苛むから、できれば傍にいたい。
上手く立ち回って静羅が反論できない状況を築く必要があるだろう。
なんとか手を打つしかない。
静羅の無自覚には困ったものだ。
それが和哉の決断だった。
報告書を読み終わり読書でもするつもりなのか、教室で分厚い書物を開く和哉に、東夜はさりげなく教室中に視線を巡らせた。
和哉の一挙一動を追うようにクラスメイトの視線が絡んでいる。
当の和哉はそんなことには意識も向けず黙殺状態だが。
こういう排他的なところは静羅と和哉はよく似ている。
東城大付属の期待の星とまで言われる高樹和哉。
小学部に入学したときから不動の学年ナンバーワンをキープしていて、4年生からなれる生徒総長を中学1年の頃まで歴任。
2年になる頃には「飽きたから」の一言で辞退したが、後釜になった忍に泣きつかれ、結局副総長をやるハメになった。
つまり名前がすこし変わっただけで、実質的な総長は変わらずに和哉だったということである。
文武両道を地でいく和哉は、頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗。
おまけに権力、財力まで併せ持つスーパーアイドル。
一言で言ってしまえばモテる。
男にも女にも大人気。
恋人志願、下僕志願。
選り取り見取りの選び放題。
が、友達にすらなれた者はいない。
唯一対等に付き合えるのがクラスメイトの天野東夜と、東夜の従兄で1学年年上の浅香忍のふたりだけだった。
友達というよりも和哉の配下とか臣下。
そんな感じの付き合いではあったが。
和哉のプライベートに関わっていても出過ぎた真似はしない。
彼に言われた通りに動き、絶対に自己主張をしない。
そういった付き合い方をしていた。
これは和哉がそう望んだのではなく、ふたりがそういうふうに和哉に近付いたからだった。
深入りしても出過ぎない。
そんなふうに接していく内に和哉の警戒心も薄れたというわけだった。
だから、週末に和哉の頼みを二つ返事で引き受けて、関西まで出掛けることもやってのける。
不思議な関係なのだが、彼らがそういう関係だと知る者は少ない。
またそういう関係でありながら、東夜だけは友達のような接し方もしていた。
忍は絶対に乱暴な口の聞き方をしないが、東夜は和哉と対等に喋る。
別に和哉はふたりを部下にしたつもりはないので、特に疑問は感じていない。
それでもやはり和哉は東城大付属のキングなのである。
ただ今でこそ受け入れられている東夜と忍だが、和哉の信頼を勝ち取るためにまずなにをしたかと言えば、毛を逆立てた猫みたいに警戒心バリバリの静羅の信頼を勝ち取ることだった。
この場合の信頼とは敵だと判断されないところに重点を置いていて、別段、静羅がふたりを信じて受け入れたわけではない。
ただ静羅に敵視されたままでは、和哉が絶対に警戒を解かないことが、ふたりにはよくわかっていたのである。
将を射んと欲すればまず馬から。
この言葉ほど和哉と静羅の兄弟を表すのに、適切な表現もないだろう。
和哉の信頼を得たければ、まず彼よりも弟の静羅から崩さないといけないのだ。
そのことに気付いている者がいないのが不思議なほどである。
和哉は常に静羅を護っているから、当たり前のことだが、静羅が警戒する相手は彼も警戒する。
時には静羅が無視している相手ですら、不穏な動きをしたら威嚇するくらいだ。
その辺のところを皆がわかっていないのが、東夜には不思議だった。
「しっかしおまえってさあ。自分のこと不遇だなあ……とかって感じたことないか?」
「不遇? どうして?」
読んでいた本から顔を上げて、和哉が不思議そうな顔をする。
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