天則(リタ)の旋律

文字の大きさ
上 下
14 / 78
第二章 新たなる土地で

(4)

しおりを挟む
「静羅……高樹、静羅?」

 ぶつぶつと繰り返す様子に眉を潜めた。

「なんだよ? 言いたいことがあったら、はっきり言えよ。気持ち悪い」

「いや。ちょっと引っ掛かっていただけなんだ。特別室を使う奴なんて開校以来初めてだし。しかもそれが新入生で総代だなんて前代未聞だから。おまえって何者?」

「だから、言っただろ。修羅だって」

「いや……高樹?  高木でも喬木でも高城でもなく高樹?」

 マジマジと見入る視線にマズイかな? と、わからないように冷や汗を掻く。

「俺の苗字がどうかしたか? 別に変哲のない名前だろ? さすがに鈴木には負けるけど」

 巧妙にズラす。

 キョトンとした顔をわざと作って。

 その瞬間に上杉の御曹司だと見抜いたことは黙っておくことに決めていた。

「さすがに日本で1番多い名前とは言わないけど、たしかに珍しい名前ってわけでもないのは本当だな。ただ」

「だから、なんだよ? 俺早く部屋で休みたいんだけど?」

「いや。もしかして世界的な大財閥の高樹家の御曹司か?」

「は? 高樹って名前の大金持ちでもいるわけ?」

 自分でもわざとらしいなと思いつつ一応そう言っておいた。

 実際のところ、高樹の家は世界でも有数の大財閥なのだが。

 が、ここで明かす気はなかった。

 大騒ぎになったりしたら厄介を増すだけだし。

「知らないのか。なら、いい。大体高樹財閥の御曹司といえば、世界的に有名でその分、厳重な警備の中にいるって話だから、こんなところにのほほんとひとりで現れるわけがないからな。長男の和哉君の噂とは全然合わないし」

 結構ヤバいところまで知っているらしい。

 たしかに静羅は世界的に有名だ。

 はっきり言って自分でも嬉しくない理由で有名なので、人の3倍も4倍も警戒しないと、いつ誘拐されても不思議のない境遇にいた。

 そのせいで影のように寄り添っていたのが、長男にして高樹の正当な跡取りである和哉だった。

 文武両道で知られ、その道のプロが恐れるほどの腕前を持つ和哉が、弟には激甘なブラコンだとは、だれも思わないだろう。

 高樹家の跡取りである長男の和哉は今年高校1年生になる。

 つまり静羅とは同学年の兄ということだ。

 それも当然。

 静羅の情報は伏せられてはいるが、静羅は戸籍上では和哉の双生児の弟扱いになっている。

 だから、学年が同じなのだ。

 何故戸籍上なのか。

 それは時と共にわかるだろう。

「なんかよくわかんねえけど、そういう話題に敏感だってことは、ひょっとしてあんたもどっかのお坊っちゃんだったりするわけ? だったら笑えるよなあ。頼りねえし」

 ケラケラ笑ってそう言えば、ムスッとした声が返ってきた。

 ツボに嵌まりきった反応が却って可笑しい。

「悪かったな。その、まさか、だ」

「へ? ホントに金持ちの坊っちゃんなわけ? その腰の低さで?」

「おまえの態度がでかすぎるんだろうが、新入生!!」

 頭を殴ろうとしたので、さっと避けてやった。

 からかいはするが、素直に殴られてやるつもりなどサラサラなかった。

 笑ってやったら呆れたような顔をしていた。

「ホント。外見と中身のギャップが激しいよな。声をかけるまでは、もしかして女子寮と間違えてるのかと疑ってたのに」

「ヒデェ感想だな、それ」

「この髪で男だと思えって?」

 背中でひとつに括った黒髪をサラリと掻き上げて甲斐がそう言った。

「ああ。これはなあ。切るなってうるせぇ奴がひとりいるんだ。おかげで何年切ってなかったかな。忘れたな、俺も」

 腰には届いていないが肩はとっくに越している。

 鬱陶しいのだが和哉が切るなとうるさい。

 おまけに父も母も切ろうとすると飛び付いてきて説得するし。

 母に泣かれると途端に気力が萎える。

 高校進学を期に切ろうかな? と企んでいたのだが、これには和哉にクギを刺された。

『その髪を切ったりしたら、その日の内に連れ戻すからな、静羅』

 真顔でクギを刺されたときには、どんな反応も返せなくて固まってしまったものである。

 ブラコンもここまでいくとちょっと怖い。

「それでよく今まで文句を言われなかったな。普通は校則違反じゃないのか、それ?」

「まあ、な」

 言葉を濁すと甲斐もそれ以上同じ話題を続けようとはしなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...