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第二章 新たなる土地で
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「静羅……高樹、静羅?」
ぶつぶつと繰り返す様子に眉を潜めた。
「なんだよ? 言いたいことがあったら、はっきり言えよ。気持ち悪い」
「いや。ちょっと引っ掛かっていただけなんだ。特別室を使う奴なんて開校以来初めてだし。しかもそれが新入生で総代だなんて前代未聞だから。おまえって何者?」
「だから、言っただろ。修羅だって」
「いや……高樹? 高木でも喬木でも高城でもなく高樹?」
マジマジと見入る視線にマズイかな? と、わからないように冷や汗を掻く。
「俺の苗字がどうかしたか? 別に変哲のない名前だろ? さすがに鈴木には負けるけど」
巧妙にズラす。
キョトンとした顔をわざと作って。
その瞬間に上杉の御曹司だと見抜いたことは黙っておくことに決めていた。
「さすがに日本で1番多い名前とは言わないけど、たしかに珍しい名前ってわけでもないのは本当だな。ただ」
「だから、なんだよ? 俺早く部屋で休みたいんだけど?」
「いや。もしかして世界的な大財閥の高樹家の御曹司か?」
「は? 高樹って名前の大金持ちでもいるわけ?」
自分でもわざとらしいなと思いつつ一応そう言っておいた。
実際のところ、高樹の家は世界でも有数の大財閥なのだが。
が、ここで明かす気はなかった。
大騒ぎになったりしたら厄介を増すだけだし。
「知らないのか。なら、いい。大体高樹財閥の御曹司といえば、世界的に有名でその分、厳重な警備の中にいるって話だから、こんなところにのほほんとひとりで現れるわけがないからな。長男の和哉君の噂とは全然合わないし」
結構ヤバいところまで知っているらしい。
たしかに静羅は世界的に有名だ。
はっきり言って自分でも嬉しくない理由で有名なので、人の3倍も4倍も警戒しないと、いつ誘拐されても不思議のない境遇にいた。
そのせいで影のように寄り添っていたのが、長男にして高樹の正当な跡取りである和哉だった。
文武両道で知られ、その道のプロが恐れるほどの腕前を持つ和哉が、弟には激甘なブラコンだとは、だれも思わないだろう。
高樹家の跡取りである長男の和哉は今年高校1年生になる。
つまり静羅とは同学年の兄ということだ。
それも当然。
静羅の情報は伏せられてはいるが、静羅は戸籍上では和哉の双生児の弟扱いになっている。
だから、学年が同じなのだ。
何故戸籍上なのか。
それは時と共にわかるだろう。
「なんかよくわかんねえけど、そういう話題に敏感だってことは、ひょっとしてあんたもどっかのお坊っちゃんだったりするわけ? だったら笑えるよなあ。頼りねえし」
ケラケラ笑ってそう言えば、ムスッとした声が返ってきた。
ツボに嵌まりきった反応が却って可笑しい。
「悪かったな。その、まさか、だ」
「へ? ホントに金持ちの坊っちゃんなわけ? その腰の低さで?」
「おまえの態度がでかすぎるんだろうが、新入生!!」
頭を殴ろうとしたので、さっと避けてやった。
からかいはするが、素直に殴られてやるつもりなどサラサラなかった。
笑ってやったら呆れたような顔をしていた。
「ホント。外見と中身のギャップが激しいよな。声をかけるまでは、もしかして女子寮と間違えてるのかと疑ってたのに」
「ヒデェ感想だな、それ」
「この髪で男だと思えって?」
背中でひとつに括った黒髪をサラリと掻き上げて甲斐がそう言った。
「ああ。これはなあ。切るなってうるせぇ奴がひとりいるんだ。おかげで何年切ってなかったかな。忘れたな、俺も」
腰には届いていないが肩はとっくに越している。
鬱陶しいのだが和哉が切るなとうるさい。
おまけに父も母も切ろうとすると飛び付いてきて説得するし。
母に泣かれると途端に気力が萎える。
高校進学を期に切ろうかな? と企んでいたのだが、これには和哉にクギを刺された。
『その髪を切ったりしたら、その日の内に連れ戻すからな、静羅』
真顔でクギを刺されたときには、どんな反応も返せなくて固まってしまったものである。
ブラコンもここまでいくとちょっと怖い。
「それでよく今まで文句を言われなかったな。普通は校則違反じゃないのか、それ?」
「まあ、な」
言葉を濁すと甲斐もそれ以上同じ話題を続けようとはしなかった。
ぶつぶつと繰り返す様子に眉を潜めた。
「なんだよ? 言いたいことがあったら、はっきり言えよ。気持ち悪い」
「いや。ちょっと引っ掛かっていただけなんだ。特別室を使う奴なんて開校以来初めてだし。しかもそれが新入生で総代だなんて前代未聞だから。おまえって何者?」
「だから、言っただろ。修羅だって」
「いや……高樹? 高木でも喬木でも高城でもなく高樹?」
マジマジと見入る視線にマズイかな? と、わからないように冷や汗を掻く。
「俺の苗字がどうかしたか? 別に変哲のない名前だろ? さすがに鈴木には負けるけど」
巧妙にズラす。
キョトンとした顔をわざと作って。
その瞬間に上杉の御曹司だと見抜いたことは黙っておくことに決めていた。
「さすがに日本で1番多い名前とは言わないけど、たしかに珍しい名前ってわけでもないのは本当だな。ただ」
「だから、なんだよ? 俺早く部屋で休みたいんだけど?」
「いや。もしかして世界的な大財閥の高樹家の御曹司か?」
「は? 高樹って名前の大金持ちでもいるわけ?」
自分でもわざとらしいなと思いつつ一応そう言っておいた。
実際のところ、高樹の家は世界でも有数の大財閥なのだが。
が、ここで明かす気はなかった。
大騒ぎになったりしたら厄介を増すだけだし。
「知らないのか。なら、いい。大体高樹財閥の御曹司といえば、世界的に有名でその分、厳重な警備の中にいるって話だから、こんなところにのほほんとひとりで現れるわけがないからな。長男の和哉君の噂とは全然合わないし」
結構ヤバいところまで知っているらしい。
たしかに静羅は世界的に有名だ。
はっきり言って自分でも嬉しくない理由で有名なので、人の3倍も4倍も警戒しないと、いつ誘拐されても不思議のない境遇にいた。
そのせいで影のように寄り添っていたのが、長男にして高樹の正当な跡取りである和哉だった。
文武両道で知られ、その道のプロが恐れるほどの腕前を持つ和哉が、弟には激甘なブラコンだとは、だれも思わないだろう。
高樹家の跡取りである長男の和哉は今年高校1年生になる。
つまり静羅とは同学年の兄ということだ。
それも当然。
静羅の情報は伏せられてはいるが、静羅は戸籍上では和哉の双生児の弟扱いになっている。
だから、学年が同じなのだ。
何故戸籍上なのか。
それは時と共にわかるだろう。
「なんかよくわかんねえけど、そういう話題に敏感だってことは、ひょっとしてあんたもどっかのお坊っちゃんだったりするわけ? だったら笑えるよなあ。頼りねえし」
ケラケラ笑ってそう言えば、ムスッとした声が返ってきた。
ツボに嵌まりきった反応が却って可笑しい。
「悪かったな。その、まさか、だ」
「へ? ホントに金持ちの坊っちゃんなわけ? その腰の低さで?」
「おまえの態度がでかすぎるんだろうが、新入生!!」
頭を殴ろうとしたので、さっと避けてやった。
からかいはするが、素直に殴られてやるつもりなどサラサラなかった。
笑ってやったら呆れたような顔をしていた。
「ホント。外見と中身のギャップが激しいよな。声をかけるまでは、もしかして女子寮と間違えてるのかと疑ってたのに」
「ヒデェ感想だな、それ」
「この髪で男だと思えって?」
背中でひとつに括った黒髪をサラリと掻き上げて甲斐がそう言った。
「ああ。これはなあ。切るなってうるせぇ奴がひとりいるんだ。おかげで何年切ってなかったかな。忘れたな、俺も」
腰には届いていないが肩はとっくに越している。
鬱陶しいのだが和哉が切るなとうるさい。
おまけに父も母も切ろうとすると飛び付いてきて説得するし。
母に泣かれると途端に気力が萎える。
高校進学を期に切ろうかな? と企んでいたのだが、これには和哉にクギを刺された。
『その髪を切ったりしたら、その日の内に連れ戻すからな、静羅』
真顔でクギを刺されたときには、どんな反応も返せなくて固まってしまったものである。
ブラコンもここまでいくとちょっと怖い。
「それでよく今まで文句を言われなかったな。普通は校則違反じゃないのか、それ?」
「まあ、な」
言葉を濁すと甲斐もそれ以上同じ話題を続けようとはしなかった。
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