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第二章 新たなる土地で
(1)
しおりを挟む「だからっ。俺はこの環境から離れて、自分ひとりで生きたいんだってばっ。他に意味なんてないんだ!! 俺ひとりでどこまでやれるか、やらせてくれよ、父さん、母さん!!」
「しかし、だな。おまえの境遇は普通ではないし、危険だろう?」
賛成しかねるといった顔の父親に、イライラと髪を掻き乱した。
「大体ひとりでは起きることもできないのに、どうしてそんなに無茶なことを言うの? わたしたちが重荷なの?」
少女のような母に泣き出しそうな顔をされて、途端に気が滅入る。
だれの入れ知恵なのやら。
「深い意味はないって言っただろ。俺は自分の可能性を試したいだけなんだ。
ここにいたら、それは安全に暮らせるだろうし、なにも心配する必要なんてないんだろうけど、俺がそれじゃあいやなんだ。
わかってくれよっ!! 決して父さんたちが負担だとか、いやになったとか、そういう意味じゃないからっ!!」
「じゃあそうだと仮定して現実問題として、おまえ自分ひとりではまともに起きれない。起こされてからも、完全に意識が覚醒するまでは、ほとんど人形状態のくせに、それをどうする気なんだ?」
家族の中で最も触れ合いが深く、どんなに言いにくいことでも言いたい放題してきた兄貴の声にムッとした顔になる。
続く科白を予想したからだ。
「そんな状態じゃあ独り暮らしなんて無理だよ。そもそもまともに登校できるのか?」
グッと詰まったのを見て、ここぞとばかりに父や母まで言い募った。
「それでもどうしてもと言うのなら、せめて」
父と母が揃って兄貴の名を出す前に、サッと言い切ってやった。
「それに関しても自分ひとりでやる気だぜ? 言っただろ? 自分の可能性を試したいんだって。このままおんぶに抱っこなんて人間としても欠陥品じゃん? 自分ひとりでどこまでやれるか、俺は試したいんだ」
強情に言い張るのを見て、呆れたのかはたまた諦めたのか、さすがに付き合いの深い兄貴は深々とため息の嵐である。
「じゃあマンションをこっちで手配するから」
「いらねー」
「おいっ」
「なんでも遠くから通っている生徒のための寮があるらしいんだ。俺そこに入るから」
すでに入寮通知も貰っている。
実は今更変更不可能なほどの確実的なお話であった。
だから、説得ができないと知ると、早々とマンションの話が出たのだ。
が、この切り返しは意外だったのか、3人とも固まってしまった。
まあ無理もないが。
「おまえさ、寮って普通、だれそれと同室とか、そういうやつじゃなかったか?」
「そうだけど? 確か2年生の半数が、ふたり部屋。3年生になると完全なふたり部屋になるっていう、まあある意味で上級生になるほど、リッチな暮らしができるシステムらしいな。1年生は基本的に3人から4人らしいけど」
「おまえ……それはまずいだろう?」
呆れ顔の兄貴の顔にこめかみなど掻いた。
「まずいかな? やっぱ」
「まずくないはずないだろうが」
今すぐ断れとでも言いかねないほど、不機嫌そうな顔だった。
「あのさ、なにを言いたいのかわかんねえほど、俺も子供じゃないつもりだし、いきなりキレる前に言っておくけど」
なんだよ? と眼で促されて、些か心配になった。
過保護なこの兄貴に家から出て学校すらも変わって、弟離れしてくださいと望むのは無理な気がする。
何ヶ月くらいもつだろう?
離れ離れの状態で。
ここはきっちりとクギを刺しておかなければ。
「俺だって道徳的な観念はしっかりしてるつもりだし、そんな狼の前の羊同然の状況を、甘んじて受け入れる気はねえよ。
狡い手だなとは思ったけどさ。入寮に関しては家のコネを使わせてもらった。特別室のひとり暮らしだから、安心しろよ」
ふくれつつそういえば、両親はとたんに安堵したようだが、さすがに過保護な兄貴。
顔色ひとつ変えなかった。
「でも、それってさ。特別室ってことは、一般の生徒はいないんだろうし、完全に個室なら起こしてくれる奴もいないはずだし、余計に困らないか、おまえ?」
「あのさあ。さっきはヤローと同室はやめろとか言ってたくせに、今度は逆かよ? どっちかひとつに決めてくれよ、頼むから……」
うんざりしてしまうのも無理のない堂々巡りなのだが、逆の立場から言わせると、まあ主張を受け入れて独立を許したとしても、その境遇的に普通は入寮なんてしないものである。
なぜなら肉体的に問題があったからだ。
そのせいで厄介な境遇にいるくせに、ここまで呑気だと、兄貴として過保護になるなと言われても無理である。
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