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第一章 黒い瞳の異邦人
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静羅が闇に消え、その静羅を追うように東夜が店を飛び出し、その更に後を和哉と忍が追いかけるという、まるで鬼ごっこのような構図が出来上がってしまった。
東夜も静羅を見失ったが、和哉たちも足の速い東夜を見失ってしまった。
東夜が静羅を見つけたのは15分ほど経ってからだった。
肩で息をしながら遠くを見る。
路地の片隅に10人ぐらいのグループが集まっていた。
静羅はその中心にいて、周囲の揉め事をどうでもよさそうに見ている。
そうそうところはいつもの静羅だった。
息を整えながら近づいていく。
すると会話が聞こえてきた。
「今日の特権は和泉が持ってったのかよ」
「そうよ、ズルいわ、和泉。和泉はいつもズルをして権利を手に入れるのよ」
「悪いか? 世羅は最初の奴が手に入れる。それがルールだろ?」
言って静羅の肩を抱き寄せると、いきなりキスをした。
さすがにびっくりする。
静羅がそれを許していることにも。
すると静羅は相手の胸を押して引き離した。
いやそうな顔をしているような気がした。
帽子とグラサンで顔は隠れているが。
「見せつけるためだなんて俺は御免だ。出直してくるか?」
「どうしたんだよ、世羅? 今日は不機嫌すぎるぜ? こんなのいつものことだろ?」
困惑顔の和泉に静羅はプイッと顔を背ける。
すると静羅の隣に並んでいた美少女が、甘えるように静羅の腕を掴みしなだれかかった。
露骨な色仕掛けにげんなりする。
静羅はなんとも思っていないようだが。
「ねえ、世羅。卒業祝はくれないの?」
「なんの卒業祝だよ? ナミは18って言ってなかったか?」
笑いながらそう言うと「意地悪ね」と腕をつねられた。
その顔に幼い素顔が覗いて、静羅は細い腰を抱き寄せた。
その耳許にささやく。
「15の祝いだ。高校行っても負けんなよ、ナミ」
「世羅」
一度イジメの問題で世羅に愚痴ったことのあるナミは無防備な顔をした。
その唇に静羅がキスをする。
漏れる声も奪うようなキスに、生唾を飲み込む音が幾つも聞こえた。
権利を持っている和泉が気に入らない場面に抗議を言いたそうな顔をしている。
静羅がゆっくり離れると、解かれていくその場の緊張。
静羅が中心人物である証拠だった。
いつまで続くかわからない夜の狂宴。
東夜は靴音をわざと立てながら、静羅に近づいていった。
夜の路地裏に響く靴音に静羅が何気なく視線を向ける。
ついで絶句した。
振り切ったと思った東夜が立っていたからだ。
見覚えのない新顔の登場に周りが気色ばむ。
「さっきはよかったよな、バレなくて」
「……」
無駄な抵抗と知りつつ静羅は顔を背ける。
「気づいたとたんにバックレて、今度はシカトかよ。ナメてんじゃないぜ」
「おまえ、だれだよ」
和泉が怪訝そうに言う。
だれに対して言っているのかわからなくて。
「こいよ。俺にはバレてんだぜ。それとも御本尊を呼んでこようか? それで困るのはおまえじゃないのか?」
「……なに熱くなってんだよ?」
「おまえがサイテーな鈍感野郎だからだろうが。くるかこないかはっきりしろっ。殴りたくなるだろうがっ」
「他人のことで熱くなれる。おまえは変わった奴だよ、トーヤ」
変わったイントネーションで名を呼んで、静羅は歩き出した。
「おい、世羅っ!?」
「悪いな。この埋め合わせは今度するよ。今日は帰らせてくれ」
一度帰ると言った以上、世羅を引き止められる奴なんていない。
その証拠に悪いと言いながら、世羅は振り向きもしなかった。
東夜も静羅を見失ったが、和哉たちも足の速い東夜を見失ってしまった。
東夜が静羅を見つけたのは15分ほど経ってからだった。
肩で息をしながら遠くを見る。
路地の片隅に10人ぐらいのグループが集まっていた。
静羅はその中心にいて、周囲の揉め事をどうでもよさそうに見ている。
そうそうところはいつもの静羅だった。
息を整えながら近づいていく。
すると会話が聞こえてきた。
「今日の特権は和泉が持ってったのかよ」
「そうよ、ズルいわ、和泉。和泉はいつもズルをして権利を手に入れるのよ」
「悪いか? 世羅は最初の奴が手に入れる。それがルールだろ?」
言って静羅の肩を抱き寄せると、いきなりキスをした。
さすがにびっくりする。
静羅がそれを許していることにも。
すると静羅は相手の胸を押して引き離した。
いやそうな顔をしているような気がした。
帽子とグラサンで顔は隠れているが。
「見せつけるためだなんて俺は御免だ。出直してくるか?」
「どうしたんだよ、世羅? 今日は不機嫌すぎるぜ? こんなのいつものことだろ?」
困惑顔の和泉に静羅はプイッと顔を背ける。
すると静羅の隣に並んでいた美少女が、甘えるように静羅の腕を掴みしなだれかかった。
露骨な色仕掛けにげんなりする。
静羅はなんとも思っていないようだが。
「ねえ、世羅。卒業祝はくれないの?」
「なんの卒業祝だよ? ナミは18って言ってなかったか?」
笑いながらそう言うと「意地悪ね」と腕をつねられた。
その顔に幼い素顔が覗いて、静羅は細い腰を抱き寄せた。
その耳許にささやく。
「15の祝いだ。高校行っても負けんなよ、ナミ」
「世羅」
一度イジメの問題で世羅に愚痴ったことのあるナミは無防備な顔をした。
その唇に静羅がキスをする。
漏れる声も奪うようなキスに、生唾を飲み込む音が幾つも聞こえた。
権利を持っている和泉が気に入らない場面に抗議を言いたそうな顔をしている。
静羅がゆっくり離れると、解かれていくその場の緊張。
静羅が中心人物である証拠だった。
いつまで続くかわからない夜の狂宴。
東夜は靴音をわざと立てながら、静羅に近づいていった。
夜の路地裏に響く靴音に静羅が何気なく視線を向ける。
ついで絶句した。
振り切ったと思った東夜が立っていたからだ。
見覚えのない新顔の登場に周りが気色ばむ。
「さっきはよかったよな、バレなくて」
「……」
無駄な抵抗と知りつつ静羅は顔を背ける。
「気づいたとたんにバックレて、今度はシカトかよ。ナメてんじゃないぜ」
「おまえ、だれだよ」
和泉が怪訝そうに言う。
だれに対して言っているのかわからなくて。
「こいよ。俺にはバレてんだぜ。それとも御本尊を呼んでこようか? それで困るのはおまえじゃないのか?」
「……なに熱くなってんだよ?」
「おまえがサイテーな鈍感野郎だからだろうが。くるかこないかはっきりしろっ。殴りたくなるだろうがっ」
「他人のことで熱くなれる。おまえは変わった奴だよ、トーヤ」
変わったイントネーションで名を呼んで、静羅は歩き出した。
「おい、世羅っ!?」
「悪いな。この埋め合わせは今度するよ。今日は帰らせてくれ」
一度帰ると言った以上、世羅を引き止められる奴なんていない。
その証拠に悪いと言いながら、世羅は振り向きもしなかった。
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