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第一章 黒い瞳の異邦人
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「仲間ができたんなら、そっちと楽しんでくれよ、和哉。俺は家に帰ってるから」
全員が呆気に取られる中、ひとり歩きだした静羅を見て、和哉が我に返った。
「ちょっと待てよ、静羅。そういうわけにはいかないだろう? おまえも卒業するんだから主役だろう? 主役が帰ってどうするんだ?」
「したくてするんじゃねえよ。義務教育だ。俺や和哉なら黙ってたって卒業できるさ」
「だからってオレだけに楽しんでこいっていうのか、静羅?」
「俺は元々気乗りしてなかったんだ。でも、和哉も卒業する当人だし、付き合った方がいいかと思ってただけで。仲間ができたんならそっちと楽しんでこいよ」
「どうしてもか?」
「真っ平御免だぜ」
吐き捨てる静羅に和哉は複雑な顔である。
ふたりの後をついて歩いていた3人も複雑な顔になっていた。
こういう感想は当人ではなく、周囲にいる者を複雑な気分にさせるが、静羅はそれに頓着する気はなかった。
「わかったよ。どうしてもいやだっていうんなら強制はしない。土産を買って帰るから、まっすぐ家に帰れよ?」
苛立ったように静羅が振り向いた。
「心配すんなよ、和哉。もう俺はおとなしく誘拐されるほど子供じゃねえし素直でもねぇよ」
常に誘拐、その他の危険の付きまとう静羅である。
言われても不安が拭えなくて、和哉は曖昧に頷いた。
時計は午後10時を指していた。
高樹財閥の本宅、3階かにある自室で静羅はふと時計を見る。
和哉がこんなに遅くなるなんて珍しい。
この分だと帰ってくるのは午前零時を過ぎるかもしれない。
午後10時をすぎると和哉は絶対に静羅の部屋には現れない。
父親に制止されているのだ。
だから土産を渡すのは明日にするだろう。
「ならちょっとぐらいなら時間はあるかな?」
呟いて静羅はクローゼットの方に歩いていった。
だれにも内緒で改造し二重構造にしたクローゼットの内部には、お手伝いの手にも見つからないように隠された静羅秘蔵の品がある。
流行の最先端をいくような服や、宝石類の数々。
すべて普段の静羅なら身につけないような、興味もない類の数々である。
その中から純白のシルクのタンクトップを取って身につける。
黒いジーンズを履いて、まだ春先なので革のジャケットを着る。
タンクトップ以外はすべて黒で統一されている。
そこに貼り付けるタイプのピアス。
何故かというと本物のピアスをして穴を空けてしまったら、両親や和哉にばれるからである。
最高の純度を誇る金の。
同じタイプのブレスレットをして寂しい首元にはスカーフを巻き付けた。
華美にならない程度に抑えられたファッションである。
普段のトドの静羅からは想像もできないほど決まった姿だった。
モデルばりである。
そこに夜のトレードマークの黒いグラサン。
そのまま出ていこうとしたが、今日は街に和哉もいることを思い出して、黒い帽子を目深に被った。
帽子を目深にかぶりグラサンで顔を隠すと、素顔なんてほとんどわからない。
これで見抜く者がいるとしたら……。
「東夜と忍くらいかな。あのふたりもどことなく人間離れしてるからな。俺とは似て非なる意味で」
苦い声で呟いて窓に近づいた。
サンルーフに続いた窓を開いて外に出る。
それから窓を閉めた。
バレるわけにはいかないのだ。
この夜遊びは。
近くにある大木を伝って音を立てずに降りていく。
直接、地面に着地する術もあったが、音を立てない方法を選ぶとこうなってしまうのだ。
木を揺らさないようにするのが大変だが。
3階から飛び下りても静羅なら怪我もしないし。
こうして静羅はだれにも気づかれることなく、高樹の屋敷を後にした。
「よお、世羅(せら)。久しぶりじゃん」
「世羅じゃない。元気だった?」
次々かかる声に軽く手を振って応え静羅は歩を進める。
世羅というのは静羅の夜の通り名だ。
あだ名の修羅も本名の静羅も使えないので、どちらにも似ている世羅という名を使っていた。
昼と決別するのが動機だから、夜の静羅は昼ほど排他的ではない。
やはり高樹財閥ほどの大財閥になると色々あるのだ。
全員が呆気に取られる中、ひとり歩きだした静羅を見て、和哉が我に返った。
「ちょっと待てよ、静羅。そういうわけにはいかないだろう? おまえも卒業するんだから主役だろう? 主役が帰ってどうするんだ?」
「したくてするんじゃねえよ。義務教育だ。俺や和哉なら黙ってたって卒業できるさ」
「だからってオレだけに楽しんでこいっていうのか、静羅?」
「俺は元々気乗りしてなかったんだ。でも、和哉も卒業する当人だし、付き合った方がいいかと思ってただけで。仲間ができたんならそっちと楽しんでこいよ」
「どうしてもか?」
「真っ平御免だぜ」
吐き捨てる静羅に和哉は複雑な顔である。
ふたりの後をついて歩いていた3人も複雑な顔になっていた。
こういう感想は当人ではなく、周囲にいる者を複雑な気分にさせるが、静羅はそれに頓着する気はなかった。
「わかったよ。どうしてもいやだっていうんなら強制はしない。土産を買って帰るから、まっすぐ家に帰れよ?」
苛立ったように静羅が振り向いた。
「心配すんなよ、和哉。もう俺はおとなしく誘拐されるほど子供じゃねえし素直でもねぇよ」
常に誘拐、その他の危険の付きまとう静羅である。
言われても不安が拭えなくて、和哉は曖昧に頷いた。
時計は午後10時を指していた。
高樹財閥の本宅、3階かにある自室で静羅はふと時計を見る。
和哉がこんなに遅くなるなんて珍しい。
この分だと帰ってくるのは午前零時を過ぎるかもしれない。
午後10時をすぎると和哉は絶対に静羅の部屋には現れない。
父親に制止されているのだ。
だから土産を渡すのは明日にするだろう。
「ならちょっとぐらいなら時間はあるかな?」
呟いて静羅はクローゼットの方に歩いていった。
だれにも内緒で改造し二重構造にしたクローゼットの内部には、お手伝いの手にも見つからないように隠された静羅秘蔵の品がある。
流行の最先端をいくような服や、宝石類の数々。
すべて普段の静羅なら身につけないような、興味もない類の数々である。
その中から純白のシルクのタンクトップを取って身につける。
黒いジーンズを履いて、まだ春先なので革のジャケットを着る。
タンクトップ以外はすべて黒で統一されている。
そこに貼り付けるタイプのピアス。
何故かというと本物のピアスをして穴を空けてしまったら、両親や和哉にばれるからである。
最高の純度を誇る金の。
同じタイプのブレスレットをして寂しい首元にはスカーフを巻き付けた。
華美にならない程度に抑えられたファッションである。
普段のトドの静羅からは想像もできないほど決まった姿だった。
モデルばりである。
そこに夜のトレードマークの黒いグラサン。
そのまま出ていこうとしたが、今日は街に和哉もいることを思い出して、黒い帽子を目深に被った。
帽子を目深にかぶりグラサンで顔を隠すと、素顔なんてほとんどわからない。
これで見抜く者がいるとしたら……。
「東夜と忍くらいかな。あのふたりもどことなく人間離れしてるからな。俺とは似て非なる意味で」
苦い声で呟いて窓に近づいた。
サンルーフに続いた窓を開いて外に出る。
それから窓を閉めた。
バレるわけにはいかないのだ。
この夜遊びは。
近くにある大木を伝って音を立てずに降りていく。
直接、地面に着地する術もあったが、音を立てない方法を選ぶとこうなってしまうのだ。
木を揺らさないようにするのが大変だが。
3階から飛び下りても静羅なら怪我もしないし。
こうして静羅はだれにも気づかれることなく、高樹の屋敷を後にした。
「よお、世羅(せら)。久しぶりじゃん」
「世羅じゃない。元気だった?」
次々かかる声に軽く手を振って応え静羅は歩を進める。
世羅というのは静羅の夜の通り名だ。
あだ名の修羅も本名の静羅も使えないので、どちらにも似ている世羅という名を使っていた。
昼と決別するのが動機だから、夜の静羅は昼ほど排他的ではない。
やはり高樹財閥ほどの大財閥になると色々あるのだ。
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