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第一章 黒い瞳の異邦人
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「俺はどこでもいい。特に行きたい場所があるわけでもないし。和哉に任せるから楽しませてくれよ」
「しょうがないな、おまえは。相変わらずトドなんだから」
今は制服だからわからないが、普段の静羅はものぐさなトドである。
服装には構う意思もなく、清潔感だけに拘っている。
そのせいでいつも着崩したTシャツにジーンズだった。
で、寒くなったらGジャン。
それだけで年中過ごす。
髪型にも頓着する気はなく、今の髪型は和哉の好みだ。
和哉が切るなとうるさいし、美容院などは両親指定の美容師がくるので、すべてお任せだった。
ただ長い髪が本人は鬱陶しいので、後ろで雑に括ってしまっているが。
これは和哉には不評だったが、静羅は直そうとしなかった。
そこまで和哉の意向を取り入れる気はないという意思表示である。
このくらいで我慢しろ、と。
ふたりは大財閥の御曹司なのである。
高樹財閥と言えば世界的に有名な大財閥だ。
和哉はその正式な跡取りである。
東城大付属は入るときに家柄の有無が問われるため、入学するのがとても難しい。
おまけにエリート校だけあって、頭の出来は全国でもトップクラス。
そのせいか生徒たちにも特権意識のようなものが垣間見れた。
それがないのは、頂点に位置する高樹の御曹司であるふたりくらいだ。
長い黒髪を背中に流し、兄を見上げる静羅は影のよう。
対して生まれつき色素の薄い和哉は光のようである。
そのふたりが並ぶとどうしても眼が行ってしまう。
そこだけ異次元。
そんな感じだった。
ふたりが並んで歩いていると、廊下の途中で和哉は声をかけられた。
「あれ、和哉。今帰りか?」
振り向けば曲がり角のところに同級生の天野東夜(あまの とうや)が立っている。
排他的とも言われる和哉にしてみれば、珍しく親しくしている相手だ。
2年前に1学年年上の従兄と転入してきて以来、親しくしている。
和哉が排他的なのはすべて静羅のためなのだが。
本当に排他的なのは静羅だ。
静羅は兄以外とは打ち解ける気がないとばかりに、ほとんど話もしない。
笑いもしなければ怒ることもない。
眼中にないのだ。
それでも東夜だけは相手にしている部類に入る。
その好意が本物だとわかるので。
が、和哉とふたりきりだったときは、笑顔の出し惜しみなどしない静羅だが、東夜が絡んできたとたん、突然ムスッと黙り込んでしまった。
これもいつものことである。
別段いやがっているわけではないのだ。
興味がないだけで。
「東夜も今帰りか?」
「忍(しのぶ)を待ってんだ。卒業祝に羽目外してもいいって言ってくれたから。散々奢らせてやるんだ。おまえらは?」
「オレらも卒業祝に街に繰り出すところだぜ? 静羅と約束してんだよ、前から」
「だったら一緒に行かないか? ちょうど忍もきたみたいだし」
言われて視線を投げれば高等部の方向から、浅香忍(あさか しのぶ)がやってくるところだった。
「忍先輩。お久しぶりです」
「やあ。お久しぶりですね、和哉さん。元気そうでよかったですよ。静羅さんも」
「名前で呼ぶんじゃねえよ」
ボソッと愚痴る静羅である。
静羅は幼い頃から「修羅(しゅら)」というあだ名を持っていた。
そこにも意味はあるのだが、今ではその名を気に入ってしまって、本名は家族だけに呼ばれたいと思い始めていた。
そのせいで学校でも「修羅」と呼ぶようにと、周囲にも徹底させている。
しかしこの忍と東夜のふたりだけは、何度注意しても名前で呼ぶのだ。
おかげで文句もボソッとしか言えない静羅である。
無駄だと知り尽くしているので。
「なあ、忍。和哉たちもさ、街に繰り出すんだってさ。だったら一緒に行かないか? その方が絶対に楽しいぜ?」
「それもそうですね。でも、あまり期待しないでくださいよ、東夜」
「あれ? 和哉に東夜じゃないか!! それに忍先輩もっ」
「俊樹(としき)」
「俊樹も街に出るのか?」
東夜に言われ、明るい笑顔で頷く俊樹である。
「卒業も間近だし、すこしくらい羽目外しても許されるだろうから。そっちもか?」
「ああ。なんだったら一緒に行くか? そうしたら和哉も楽しいだろうし」
「嬉しい誘いだな。乗らない手はないだろうな」
すでに4人のあいだで話が纏まってしまっていて、それを眺めていた静羅がふっと口を開いた。
「しょうがないな、おまえは。相変わらずトドなんだから」
今は制服だからわからないが、普段の静羅はものぐさなトドである。
服装には構う意思もなく、清潔感だけに拘っている。
そのせいでいつも着崩したTシャツにジーンズだった。
で、寒くなったらGジャン。
それだけで年中過ごす。
髪型にも頓着する気はなく、今の髪型は和哉の好みだ。
和哉が切るなとうるさいし、美容院などは両親指定の美容師がくるので、すべてお任せだった。
ただ長い髪が本人は鬱陶しいので、後ろで雑に括ってしまっているが。
これは和哉には不評だったが、静羅は直そうとしなかった。
そこまで和哉の意向を取り入れる気はないという意思表示である。
このくらいで我慢しろ、と。
ふたりは大財閥の御曹司なのである。
高樹財閥と言えば世界的に有名な大財閥だ。
和哉はその正式な跡取りである。
東城大付属は入るときに家柄の有無が問われるため、入学するのがとても難しい。
おまけにエリート校だけあって、頭の出来は全国でもトップクラス。
そのせいか生徒たちにも特権意識のようなものが垣間見れた。
それがないのは、頂点に位置する高樹の御曹司であるふたりくらいだ。
長い黒髪を背中に流し、兄を見上げる静羅は影のよう。
対して生まれつき色素の薄い和哉は光のようである。
そのふたりが並ぶとどうしても眼が行ってしまう。
そこだけ異次元。
そんな感じだった。
ふたりが並んで歩いていると、廊下の途中で和哉は声をかけられた。
「あれ、和哉。今帰りか?」
振り向けば曲がり角のところに同級生の天野東夜(あまの とうや)が立っている。
排他的とも言われる和哉にしてみれば、珍しく親しくしている相手だ。
2年前に1学年年上の従兄と転入してきて以来、親しくしている。
和哉が排他的なのはすべて静羅のためなのだが。
本当に排他的なのは静羅だ。
静羅は兄以外とは打ち解ける気がないとばかりに、ほとんど話もしない。
笑いもしなければ怒ることもない。
眼中にないのだ。
それでも東夜だけは相手にしている部類に入る。
その好意が本物だとわかるので。
が、和哉とふたりきりだったときは、笑顔の出し惜しみなどしない静羅だが、東夜が絡んできたとたん、突然ムスッと黙り込んでしまった。
これもいつものことである。
別段いやがっているわけではないのだ。
興味がないだけで。
「東夜も今帰りか?」
「忍(しのぶ)を待ってんだ。卒業祝に羽目外してもいいって言ってくれたから。散々奢らせてやるんだ。おまえらは?」
「オレらも卒業祝に街に繰り出すところだぜ? 静羅と約束してんだよ、前から」
「だったら一緒に行かないか? ちょうど忍もきたみたいだし」
言われて視線を投げれば高等部の方向から、浅香忍(あさか しのぶ)がやってくるところだった。
「忍先輩。お久しぶりです」
「やあ。お久しぶりですね、和哉さん。元気そうでよかったですよ。静羅さんも」
「名前で呼ぶんじゃねえよ」
ボソッと愚痴る静羅である。
静羅は幼い頃から「修羅(しゅら)」というあだ名を持っていた。
そこにも意味はあるのだが、今ではその名を気に入ってしまって、本名は家族だけに呼ばれたいと思い始めていた。
そのせいで学校でも「修羅」と呼ぶようにと、周囲にも徹底させている。
しかしこの忍と東夜のふたりだけは、何度注意しても名前で呼ぶのだ。
おかげで文句もボソッとしか言えない静羅である。
無駄だと知り尽くしているので。
「なあ、忍。和哉たちもさ、街に繰り出すんだってさ。だったら一緒に行かないか? その方が絶対に楽しいぜ?」
「それもそうですね。でも、あまり期待しないでくださいよ、東夜」
「あれ? 和哉に東夜じゃないか!! それに忍先輩もっ」
「俊樹(としき)」
「俊樹も街に出るのか?」
東夜に言われ、明るい笑顔で頷く俊樹である。
「卒業も間近だし、すこしくらい羽目外しても許されるだろうから。そっちもか?」
「ああ。なんだったら一緒に行くか? そうしたら和哉も楽しいだろうし」
「嬉しい誘いだな。乗らない手はないだろうな」
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