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序章

1人語り

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 序章



 人間一寸先は闇だなんてよく諭された言葉だけど、それを実感する奴なんてそんなにいないんじゃないか?

 理屈じゃわかってんだよ。

 人間は神じゃないから、欠点だらけだから、明日どころかすこし先の未来になにが起きるかすら予測不可能。

 だから、用心しろ。

 そういう教訓だってことは。

 だけど、それでも、だ。

 だれが予想できる?

 アハハー。

 夜には別人になってましたー。

 みたいな現実を。

 いやあ。

 あのときは本気で自分の正気を疑ったね。

 豊満な胸をあちこち触ってみたり、長すぎるほどに伸びた黒髪を手ですいてみたり。

 とにかくこれが自分なんだと色々やって確認した。

 結果、荒れたねー、俺は。

 救いはちょっと見かけないくらいの美少女だったことだけど、それでもいやだった。

 俺は男だって叫び散らしたかった。

 なのにそれすらできないってどうよ?

 あのときはホントお先真っ暗な気分だった。

 だって声が出ないんだ。

 何度もチャレンジしたけど一言も声を出せない。

 このまま人に見つかるのを待つしかないのかと、絶望しながら一晩を過ごして、翌朝驚いたね。

 なにせ男に戻ってたんだから。

 声も出たし髪も瞳も元の色。

 女だった面影なんてどこにもない。

 そっかあ。

 あれは悪夢だったんだあと楽観したノーテンキな俺。

 一月後また同じ事態に陥るとは思わなくて。

 それから一月毎に女になるという事態を繰り返して、ようやく気づいた。

 月が関係していることに。

 月が丸くなってくると体調が狂う。

 どうにも具合が悪くて寝込むようになる。

 すると満月には女の子の出来上がり。

 そのことに気づいて15の誕生日から半年後。

 俺は家出した。

 俺の立たされている立場とか、家のことを考えると家出して自活するのが1番いい方法に思えたんだ。

 この俺が満月に振り回されて女性化する。

 そんなことが公になったら、父さんだって母さんだって困るし、兄貴だってきっと可哀想な弟だって、余計に可愛がってくれるようになるだろう。

 それは俺の立場的には歓迎できないことだ。

 3人のアキレスになり兼ねない俺はいなくなった方がいい。

 それが15になって半年後、俺の出した結論だった。

 まあいいじゃん?

 女になるのは満月の夜だけなんだし、自由も悪くないかもよ?

 そんなふうに強がってないと、ひとりぼっちでは生きていけない気がした。

 さようなら。

 昨日までの俺。

 こんにちは。

 満月になると物言わぬ美少女になる俺。

 そう楽観してないと気が狂いそうな現実を前にして、俺は自立に迫られたのだった。

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