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5章
16話 結婚式直前
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結婚式当日。
要塞内に急遽建てられた特設会場の控え室で、僕はストレスによる胃痛に悩まされていた。
今回の結婚式は、シェーンシュテット公国の公王家を立てるために、ヴィルヘルミーネさんとベアトリクスさんがメインになる。
会場への入場もトップ。
これは予め根回ししてあったらしく、すんなり話が進んだ。てか、みんな物分かりが良すぎて怖い。
メインの二人に次ぐのは、公国貴族であるデリアさん。これも公国の顔を立てるため。
次は、元公国貴族のヒルデグント、ヘレーネ、アンゲラの三人。この三人には手を出していないのに、なぜか今回の嫁リストに入っていた。
続いて、エミーリエさん。
付き合いが長くなった彼女は元ベンケン王国貴族なので、公国を立てる配慮のために、元公国貴族の次に入場する。
次は、ジルヴィア。
団内ではあまり目立たないけど、マーヤ並みの隠密で姿を隠して僕の後ろにいる。
マーヤと同じくおはようからおやすみまで僕を世話してくれている。
そんな彼女がこの位置なのは、狂信者が珍しくゴリ押ししたからだそうだ。
まあ、ジルヴィアの性格からしたら、なにも言わずに最後に回りそうだったから、マーヤが気遣ってくれたんだろう。
次は、鞘さんと瞳子。
日本では十八歳で結婚というのは早いと思うんだけど、二人とも、高校を卒業したらすぐに許嫁と望まぬ結婚をさせられるはずだったので、それほど気にしていなかった。むしろ喜んでくれている。
で、マクシーネさん。
エミーリエさんと同様に、昨日の今日で結婚式に新婦として出れるのは、予め予想されていたんじゃないだろうか。
妻たちの掌の上を蛙が転がってます。
それはともかく、マクシーネさんは入場順は後ろで構わないと言っていたけど、長い付き合いになった彼女を無下に扱いたくはないので、この位置になった。
お次は先生二人。
手を出した順番的には最後なんだけど、なぜかこの位置。
そういえば、非戦闘員以外の団員も御影さんたちの授業を受けていたな。
新婦の大半が二人の教え子だから譲った?
まあ、ともかく高梨実里さんと赤坂咲耶さんには、あらためてプロポーズをして今回の結婚式に滑り込んでもらった。
さて、こっからが胃痛の原因だ。
まず、比較的良識のある元ヴィンケルマン士族の面々。
数人ほど性癖がアレな人がいるけど、この後の連中よりは大人しい。
続きましては人馬族。
うん。駄馬部隊全員に手を出してしまったのは僕の責任だ。後悔はしない。
けど、結婚式のプログラムの草案には、"竜骨と竜皮でできた乗馬鞭で駄馬全員を罵りながらシバく"と書いてあるのを見てしまうと、後悔しかしない。
とりあえず、その一文は塗り潰しておいたけど、あくまで草案。本番でどう変わるかはわからない。
ツェツィとエッテが「お任せください」と力強く請け負ったのが、さらに不安を煽る。
最後は樹部隊だ。
こいつらがなにをするかは予想がついていた。
どうせ、縄化粧なんだろ?
しかし、そう思って草案を見たら、予想を裏切られた。
なんだよ、それ。
普通、結婚式で上から登場って、ゴンドラじゃね?
なのに、あいつらときたら、毎朝見てるシャンデリア状態で登場したいんだってよ。
縛られるのも吊るされるのも好き過ぎる。
勿論、塗り潰しておいたよ。念入りに。
でも、イレーヌとイヴェットが「任せといて」と吊るされながらウィンクしていたから、凄く不安だ。
ああ、不安だ。
さっき会場を覗いたら、デリアパパとデリアママがいたよ。二人ともいい人だから、こんなカオスな結婚式を見せたくない。
さらに不安になるのは、ロジーネ姉さんが「ほんじゃあ、公王一家を拉致ってくる」と早朝から出掛けていったことだ。
本気じゃないよね?
会場に貴賓席みたいなのがあったけど、あそこに拉致るの?
ああ、胃が痛い。
「兄さん。またもや兄のエスコート役に抜擢されてしまった義妹を、慰めてください」
俯く僕の視界に縁の生足が入り込む。
……スカート、短くないか?
そう思って顔を上げると、その途中で理由がわかった。
「なぜ、白スク水?」
「結婚式を滅茶苦茶にしたくて……」
これ以上の厄介事は勘弁してください。
椅子の背凭れに掛けられたドレスを手にして、スク水の上から着せ……ダメだ。下にスク水を着ていたら、式の途中でドレスをキャストオフしそうだ。
一旦、スク水を脱がす。
あれ? 義妹を全裸にする義兄って……。
「マゴイチ。準備でき……自分ルールは?」
扉が開く音に振り向くと、ユリアーナが扉を開けたまま首を傾げていた。
「これはその……愚妹の企みを阻止しようと……」
苦しい。間違ってないんだけど、この言い訳は苦しい。
どこの世界に義兄の結婚式に白スクで出席して式をぶち壊そうと企む義妹がいるんだよ。
縁を見ると、ニヤリと笑っている。確信犯か。
「ああ、愚妹がやらかしただけか」
さすが正妻様。愚妹の上を行く。
ツカツカと愚妹の前まで来ると、手早く愚妹に下着を装着させる。
されるがままの愚妹が抵抗しようと身を捩る。
「逃げたら、正妻権限でユカリの結婚を五年後に、って、土下座はえーな」
ユリアーナが言い終わる前に、愚妹が土下座した。残像が残る速度で。
「ほんじゃあ、そろそろ始めるから、マゴイチは……うん。大丈夫ね。ユカリ、早く着て」
不満が消えたわけではないので、縁はのろくさ立ち上がり、ドレスに手を伸ばす。
待ちきれないユリアーナがドレスを奪い、手早く着せた。
「さあ、楽しい結婚式にするわよ」
現時点で正妻様は楽しそうだ。
要塞内に急遽建てられた特設会場の控え室で、僕はストレスによる胃痛に悩まされていた。
今回の結婚式は、シェーンシュテット公国の公王家を立てるために、ヴィルヘルミーネさんとベアトリクスさんがメインになる。
会場への入場もトップ。
これは予め根回ししてあったらしく、すんなり話が進んだ。てか、みんな物分かりが良すぎて怖い。
メインの二人に次ぐのは、公国貴族であるデリアさん。これも公国の顔を立てるため。
次は、元公国貴族のヒルデグント、ヘレーネ、アンゲラの三人。この三人には手を出していないのに、なぜか今回の嫁リストに入っていた。
続いて、エミーリエさん。
付き合いが長くなった彼女は元ベンケン王国貴族なので、公国を立てる配慮のために、元公国貴族の次に入場する。
次は、ジルヴィア。
団内ではあまり目立たないけど、マーヤ並みの隠密で姿を隠して僕の後ろにいる。
マーヤと同じくおはようからおやすみまで僕を世話してくれている。
そんな彼女がこの位置なのは、狂信者が珍しくゴリ押ししたからだそうだ。
まあ、ジルヴィアの性格からしたら、なにも言わずに最後に回りそうだったから、マーヤが気遣ってくれたんだろう。
次は、鞘さんと瞳子。
日本では十八歳で結婚というのは早いと思うんだけど、二人とも、高校を卒業したらすぐに許嫁と望まぬ結婚をさせられるはずだったので、それほど気にしていなかった。むしろ喜んでくれている。
で、マクシーネさん。
エミーリエさんと同様に、昨日の今日で結婚式に新婦として出れるのは、予め予想されていたんじゃないだろうか。
妻たちの掌の上を蛙が転がってます。
それはともかく、マクシーネさんは入場順は後ろで構わないと言っていたけど、長い付き合いになった彼女を無下に扱いたくはないので、この位置になった。
お次は先生二人。
手を出した順番的には最後なんだけど、なぜかこの位置。
そういえば、非戦闘員以外の団員も御影さんたちの授業を受けていたな。
新婦の大半が二人の教え子だから譲った?
まあ、ともかく高梨実里さんと赤坂咲耶さんには、あらためてプロポーズをして今回の結婚式に滑り込んでもらった。
さて、こっからが胃痛の原因だ。
まず、比較的良識のある元ヴィンケルマン士族の面々。
数人ほど性癖がアレな人がいるけど、この後の連中よりは大人しい。
続きましては人馬族。
うん。駄馬部隊全員に手を出してしまったのは僕の責任だ。後悔はしない。
けど、結婚式のプログラムの草案には、"竜骨と竜皮でできた乗馬鞭で駄馬全員を罵りながらシバく"と書いてあるのを見てしまうと、後悔しかしない。
とりあえず、その一文は塗り潰しておいたけど、あくまで草案。本番でどう変わるかはわからない。
ツェツィとエッテが「お任せください」と力強く請け負ったのが、さらに不安を煽る。
最後は樹部隊だ。
こいつらがなにをするかは予想がついていた。
どうせ、縄化粧なんだろ?
しかし、そう思って草案を見たら、予想を裏切られた。
なんだよ、それ。
普通、結婚式で上から登場って、ゴンドラじゃね?
なのに、あいつらときたら、毎朝見てるシャンデリア状態で登場したいんだってよ。
縛られるのも吊るされるのも好き過ぎる。
勿論、塗り潰しておいたよ。念入りに。
でも、イレーヌとイヴェットが「任せといて」と吊るされながらウィンクしていたから、凄く不安だ。
ああ、不安だ。
さっき会場を覗いたら、デリアパパとデリアママがいたよ。二人ともいい人だから、こんなカオスな結婚式を見せたくない。
さらに不安になるのは、ロジーネ姉さんが「ほんじゃあ、公王一家を拉致ってくる」と早朝から出掛けていったことだ。
本気じゃないよね?
会場に貴賓席みたいなのがあったけど、あそこに拉致るの?
ああ、胃が痛い。
「兄さん。またもや兄のエスコート役に抜擢されてしまった義妹を、慰めてください」
俯く僕の視界に縁の生足が入り込む。
……スカート、短くないか?
そう思って顔を上げると、その途中で理由がわかった。
「なぜ、白スク水?」
「結婚式を滅茶苦茶にしたくて……」
これ以上の厄介事は勘弁してください。
椅子の背凭れに掛けられたドレスを手にして、スク水の上から着せ……ダメだ。下にスク水を着ていたら、式の途中でドレスをキャストオフしそうだ。
一旦、スク水を脱がす。
あれ? 義妹を全裸にする義兄って……。
「マゴイチ。準備でき……自分ルールは?」
扉が開く音に振り向くと、ユリアーナが扉を開けたまま首を傾げていた。
「これはその……愚妹の企みを阻止しようと……」
苦しい。間違ってないんだけど、この言い訳は苦しい。
どこの世界に義兄の結婚式に白スクで出席して式をぶち壊そうと企む義妹がいるんだよ。
縁を見ると、ニヤリと笑っている。確信犯か。
「ああ、愚妹がやらかしただけか」
さすが正妻様。愚妹の上を行く。
ツカツカと愚妹の前まで来ると、手早く愚妹に下着を装着させる。
されるがままの愚妹が抵抗しようと身を捩る。
「逃げたら、正妻権限でユカリの結婚を五年後に、って、土下座はえーな」
ユリアーナが言い終わる前に、愚妹が土下座した。残像が残る速度で。
「ほんじゃあ、そろそろ始めるから、マゴイチは……うん。大丈夫ね。ユカリ、早く着て」
不満が消えたわけではないので、縁はのろくさ立ち上がり、ドレスに手を伸ばす。
待ちきれないユリアーナがドレスを奪い、手早く着せた。
「さあ、楽しい結婚式にするわよ」
現時点で正妻様は楽しそうだ。
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