一人では戦えない勇者

高橋

文字の大きさ
上 下
166 / 285
5章

14話 ミッシングリンクを埋める

しおりを挟む
 後悔は先に立たない。
 流水は源に返らない。
 覆水も盆に返らない。

 朝起きたら、隣に英語教師の赤坂咲耶先生が寝ていた。
 全く覚えていないが、状況からすると、また、やらかしたんだと思う。見たまんま事後だし。

 そういえば、昨夜は結構な量のお酒を呑んだような気がする。

 僕みたいな奥さんが沢山いる男が、フェミニストの赤坂先生をどう口説いてここに連れ込んだのか、凄く気になる。後でストーカーに聞こう。

 他にも犠牲者がいるかもしれないと思い、まずは、天井に吊るされてるエロフの中に見慣れない顔がないか調べ……祥子がいたけど、彼女はスルー。いや、彼女の年齢は自分ルールに抵触する。手を出してないか、後で要確認だ。

 天井には他に異常はない。森人族が吊るされてるのは異常ではない。なので、異常なしだ。

 色っぽい吐息に右隣を見る。
 ……灯台もと暗し。
 右隣には、数学教師の高梨実里先生が寝ていた。こちらも見た感じ事後だ。
 義妹の副担任がなぜいる? 口説いたのか?
 そういえば、以前、酔った勢いで高梨先生を口説いたことがあったけど、その時は連れ込まなかったな。けど、今回は連れ込んだ。
 なにか心境の変化が? その変化は僕の心境? それとも、先生の?

 口説いた記憶がないので、考えても下手の考えになる。

 それより、起きた時から気になってはいたけど、意識から意図的に外していたことに目を向けなければ。

 僕の下半身に、全裸の誰かが抱きついて寝ている。

 股間を枕にしてるから、最初はマーヤかと思ったけど、マーヤは現在、僕の足の指を嘗めている。見なくてもわかる。
 どうでもいい特技だけど、足の指を嘗める舌の感触で、それが誰なのか当てられるようになった。本当に使い道のない特技だ。

 マーヤでないとしたら誰だろう。
 このムッチリした体は、御影さんの感触に似てるけど、妊婦の御影さんなら、お腹が出てるはずだ。

 ……見た方が早いね。

 ……そうきたかぁ。

 僕は歳上が好きだ。
 これは、母親の愛情を受けずに育ったから、母性を求めているんだと思う。

 けど、四十四歳のマクシーネ・レーヴェニヒさんに手を出すかぁ。
 確か、僕の母親が四十一だったはず。母親より歳上かぁ。
 いやいや、それを言ったら、ベレニスは四百越えだ。イレーヌだって二百越えだ。まあ、見た目は美少女だけど。
 んー、でもまあ、マクシーネさんも年齢より若く見えるんだよな。出会った頃はやつれていて年齢より上に見えたけど、今は美魔女ってやつだ。
 日本にいる頃は、テレビで美魔女と呼ばれてるオバサンを見て鼻で嗤っていたのに、二十代に見えるマクシーネさんに手を出してしまうなんてね。
 てか、胸、デカくね? 着痩せするの? 脱いだら凄いんだね。

 下半身に全裸の美魔女を付けたまま上体を起こす。
 うん。足の指を嘗めてるのはマーヤだ。
 左右を見渡すと、いつもの死屍累々。
 見慣れない顔はない。数人、俯せで顔がわからないけど、知ってる頭だ。

 ……あれ? エミーリエさんがいる。
 あー、えっと……あの姿からすると、ヤってしまったんだろうねぇ。
 昨晩は、デリアさんのご両親を送ってもらってから……見てない……よな? あ、デリアさんもいる。

 これは早く縁から昨晩の顛末を聞かないと。

 ノックもなく寝室の扉が開き、真弘が入ってくる。

「おはよう。いつものことだけど、凄いね」

 なにが凄いのか聞くのはセクハラかな?

「縁ちゃんからの伝言で、"お風呂で待ってる"って。稽古の後でもいいみたいだけど……どうする?」
「じゃあ、稽古の後で」

 昨晩の顛末が気になるけど、稽古を後にすると素振りの回数が増える。

「ん。そこのお風呂で待つって」

 寝室のすぐ前には僕専用のお風呂がある。
 僕らが戦場へ行ってる間に改築したらしい。
 家の増改築を押し付けられた由香と由希に聞いたら、僕が「お風呂でイチャイチャしたい」と無意識に呟いたのを聞いたマーヤが、重量計算とか耐久力とか建築基準法とかを無視して、勝手に僕専用の大浴場を造ろうとしたので二人が止めたら、「では、お二人にお願いします」と丸投げされたんだそうだ。

 マーヤは、僕のことに関して人を頼ろうとしなかったんだけど、人を頼るようになったんだねぇ。成長したねぇ。丸投げは、どうかと思うけどねぇ。



 稽古を終えて、二階の寝室前のお風呂に入る。

 汗を吸った運動着を脱衣場で脱ぐ。
 洗濯籠に放り投げると、ビシャっと音がした。どんだけ汗かいてんだよ。

 稽古を先にしたのに素振りの回数が増えたのは、ちょっと納得いかない。
 というか、本当に強くなってるのか?
 〈剣術〉スキルの取得は、勇者クラスがネックになってるから諦めているけど、剣の扱いが上手くなっているのかはわからない。
 稽古の相手が、第一クラスに【剣神】をセットしたユリアーナが相手では、多少強くなっても誤差でしかない。
 稽古に対するモチベーションが、少しばかり下がってるなぁ。だから、素振りの回数が増えたのかな?

 鏡に映る自分の裸体を見る。
 腹筋が割れている。
 稽古の成果かわからないけど、ちょっと嬉しくなってポーズを取ってみる。

「兄さん。風邪ひきますよ」

 気配もなく、浴場の扉から顔を覗かせた縁に、鏡越しに注意された。

 ……気まずい。

「私は、お腹プニプニの兄さんも好きですよ」

 そうじゃない。気遣うのはそこじゃない。
 兄が鏡の前で格好つけてても見なかったことにするのが、本当の気遣いだ。
 まあ、それを縁に言っても理解できるのかなぁ。この子、頭が良すぎてバカだもんね。



 妹に招かれ、二人並んで湯船に入る。一応言っておくと、縁は旧スク水。なぜ旧かは謎。

「では、昨晩の兄さんの武勇伝を見ましょう」

 武勇伝じゃないよ。ミッシングリンクだよ。場合によっては黒歴史だよ。

「大丈夫です。十五分に編集しておきました」

 わーい。それなら、お風呂でのぼせたりしないね。

「クライマックスは、ヴィルヘルミーネ姉さんとベアトリクス姉さんのお尻を攻める所です」
「え? 待って。あの二人にも手を出したの?」

 ベッドにいなかったけど、床で倒れてる人はちゃんと調べなかった。

「兄さんが起きる少し前に、トイレに駆け込んでましたよ」

 垂れてきたのかな?

「しかし、兄さんもやりますね。前は処女のまま、後ろから調教するなんて。しかも王族。滾りますね」
「え? 拡張もせずに挿れたの?」

 括約筋が切れちゃうよ。垂れ流しになっちゃうよ。

「何度か切れて、イルムヒルデ姉さんが治してました」

 強引な拡張も、魔法があれば安心。

「ちなみに、デリアさんも後ろの穴からです」

 僕の性癖? 彼女の性癖?

「それでは兄さんの武勇伝を上映します」

 いつの間にか出したスクリーンに、蛙のアニメーションが映し出される。あれか? 波しぶきのアレみたいなヤツか?

「ほら、酔い潰れたヴィルヘルミーネ姉さんとベアトリクス姉さんを置いて、マクシーネ姉さんを口説きますよ」

 酔い潰れた二人を置いてくシーンはカットされてるけど、潰れた女性を放っておくなんて、出足から酷いな。

「あー……すっごい強引に迫ってるな」
「ええ。マクシーネ姉さんは押しに弱いですから、丁度いいです。むしろ、天然で相手の望む口説き方ができる兄さんが凄いですよ」

 ここで「父親にそっくり」と言わないのは縁なりの気遣いか? もっと別の所でも遣ってほしい。

「あ、堕ちましたね」
「ん? 赤坂先生が……」

 僕とマクシーネさんの間に割り込んで、僕を叱ってる。

「はい、ここで問答無用の性感強化です。悪どいです。凶悪です。魔王です」

 赤坂先生がダメな顔になる。
 この時、僕がどんなことを考えていたかわからないけど、それを知った赤坂先生の琴線に触れたのだろう。

「男にしろ女にしろ、平等に性欲があるんですから、いくらフェミニストでも性感を強化されて、相手の心をダイレクトに感じてしまったら、あっさり堕ちますよね」

 性欲の前では男女同権か。
 世界中のフェミニストに怒られそうな縁の意見はともかく、映像の僕がマクシーネさんと赤坂先生を侍らせて寝室へ向かう。

 寝室の扉を開けたら、高梨先生が待っていた。

「はい、出会い頭の性感強化です。極悪ですね」

 僕の両サイドにいる二人を見て、なにか言おうとした高梨先生がダメな顔になる。

 魔王じゃ、魔王がおる。

 そのまま三人をベッドに押し倒して、自分主演のエロ動画が始まる。
 ここまで五分だけど、残り十分もコレが続くの?

 あ、三人がダウンしたタイミングで、ヴィルヘルミーネさんとベアトリクスさんとデリアさんが乱入。

「はい、確保。お三人が興味津々だった性感強化です」

 へー。興味津々だったのか。

「ちなみに、私も興味津々です」
「縁にはまだ早い」
「ふむ。"まだ"ですね?」

 ここで肯定すると、言質を取られるような気がして黙ってしまった。

「まあ、いいです。外堀は埋まってるんですから」

 マジで? 知らぬ間に埋まってんの?

「あ、報告に来たエミーリエ姉さんが、蟻地獄に堕ちますよ」

 せめて、他の物に例えて。成虫になっても、すぐに死んじゃうよ。

「ウスバカゲロウって、一ヶ月くらい生きるそうです。三日で死ぬのは別のカゲロウですよ」

 え? そうなの?

「あ、ほら、王女をほったらかして、エミーリエ姉さんをトロトロになるまで焦らしますよ。二時間ほど」

 長っ!
 焦らしプレイが長……いわけでもないか。鞘さん相手に、半日焦らしたこともあったな。最後は本気で泣かれたので、長時間の焦らしは控えるようにしているけど。

「そして、返す刀でヴィルヘルミーネ姉さんとベアトリクス姉さんのお尻攻め」

 城攻めみたいに言うなよ。中国大返しかよ。
 てか、シレっとイルムヒルデが混ざって、お尻攻めをサポートしてるよ。

「この後はいつも通り、エロフどもを縛って吊るしていたので、割愛しました」

 エロフじゃないのも混じってたよ。

「祥子ちゃんには手を出してませんから、安心してください」

 そう、それ。それが聞きたかったの。

「こっからはエンドロールです」

 うん。出演者以外はお前の名前しかないけどね。
 あと、スタッフロールの後ろで流れてる、お尻を押さえながら小走りで部屋を出ていくヴィルヘルミーネさんとベアトリクスさんは、某香港映画のNGシーン的な扱いか?

「まあ、なんにせよ、これでミッシングリンクが埋まったな」

 大体理解した。
 理解した上で、今度こそ決意する。

「お酒は程々にしよう」

 ユリアーナの禁酒令は遵守する必要はないみたいだし、昨晩の宴会みたいに注意されないこともある。

 なにより、呑みたい時もある。例えば今。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...