一人では戦えない勇者

高橋

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3章

20話 酒に呑まれる

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 目が覚めて、天幕の天井を見ながら二日酔いに苦しむ。
 横目で柱時計を見ると、いつも目を覚ます時間より一時間早い。だから、今日はマーヤが足を舐めていない。

 今日は右腕だけ痺れている。てことは、左腕は御影さんかロクサーヌか? あれ? 二人とも、妊娠してからは別の天幕で寝てるはずだよな。酔った勢いで誘っちゃったか? てか、記憶がないぞ。

 えっと……馬ザビーネを見送って呑み直したのは覚えてる。
 その後、顔に青痣を付けた狼ザビーネが泣きついてきたのも覚えてる。
 自然治癒力強化を使って狼ザビーネの痣を消しながら、彼女にワインを勧めたのも覚えてる。
 ピッタリくっついてきたジークルーンと話したのは覚えてる。なにを話したかは覚えてないけど……あれ? その後、どうなったんだ? そこから記憶がない。
 とりあえず、僕の右腕の血流を止めてるのは誰か確認する。

 ……なぜ、ザビーネ?
 凄く幸せそうな寝顔だ。
 ザビーネ越しに鞘さんと瞳子が抱き合ってるのが見えて気になるけど、ちょっと頭が正常に回らない。

 ここは、左腕で腕枕をしているであろう御影さんかロクサーヌに助けを求めよう。

 ……なぜ、ジークルーン?
 こちらも凄く幸せそうな寝顔だ。
 ……え? ロクサーヌに続いて、また未亡人に手を出したの?
 ダメだ。全く思い出せない。ジークルーン越しに見えるジルヴィアが、全く動かないのも気になるし。
 心臓がバクバク鳴ってる。背中もジットリしてる。頭痛いし気持ち悪い。

 今必要なのは記憶と水分とブドウ糖だな。頭は回ってないけどそれだけはわかる。

「ん……あぁ……」

 艶っぽい声と共に、ジークルーンの目が覚める。

「おはようございます。旦那様」

 僕は、どうやって未亡人とこんなにも距離を詰めたんだ? 一晩の間になにがあった?
 ああ、姿見に録画機能があればわかったのにぃ。後悔より先にフラグが立ったよ。

「えと……ジークルーン?」
「はい?」

 聞けない。こんな幸せそうな笑顔を向けてくれる人に、「なんでいんの?」なんて聞けないよ。

「お、おはよう」

 これは、後でストーカーに聞いておかなければ。縁なら、僕の記憶のミッシングリンクも埋めてくれるはずだ。

「ここ……あ……」

 声の方を向くと、右腕を枕にしているザビーネと目が合った。

「おはようござ、います」

 挨拶しながら、赤い顔を隠すように僕の脇に顔を突っ込む。この子、こんなに可愛かったっけ?
 あ、右手の血流が戻る。

「ザビーネ?」
「あの、素敵なプロポーズを、ありがとうございます」

 僕はなにをした?

「う、うん。喜んでもらえてなによりだよ」

 早く縁に確認しないと。
 けど、二人は余韻に浸っているのか離してくれない。

「ユリアーナちゃんにお礼を言わないとね」

 ジークルーンの言葉に、ザビーネは嫌そうな顔を上げる。

「早めに言っておかないと、後になると言いにくくなるわよ」
「んー。今言ってくる」

 ザビーネはそう言って起き上がり、手早く服を着て天幕から出ていく。
 よし。僕の手柄ではないけど、あとはジークルーンだけだ。

「旦那様。覚えてませんよね?」

 首に突きつけられた言葉のナイフを幻視した。

「な、なぜ?」

 自白同然の返事をしてしまった。

「目が覚めた私と目が合った時、"なんでいるの?"って顔をしてました」

 土下座したくても左腕を押さえられている。

「旦那様と呼び続けてもいいですか?」

 綺麗なお姉さんから不安気に聞かれたら否とは言えない。

「酔った勢いで覚えていないけど、ジークルーンとザビーネに手を出したことは後悔してないし、後悔させないつもりだ。二人には、俺の側室になってほしい」

 ホッとしたジークルーンを抱き締める。朝稽古の前に、縁から昨晩のことを聞き出したかったけど……三十分くらいなら。



 三十分のつもりが、ジークルーンがエロくて朝稽古の時間まで延長してしまった。

 時間ギリギリだったので、マーヤと駄馬姉妹の足舐めはキャンセルしたら、三人に凄く悲しそうな顔をされた。
 結局、すがるような目をされて「少しだけなら」と言ってしまい、朝稽古に遅刻したので、いつもより念入りにボコられて、いつもより素振りの回数が増えた。

 朝稽古が終わり、朝風呂で湯船に蕩けていたら、縁が男風呂に突撃してきた。全裸で。
 周囲の魔力から、人避けの結界を張ってあるんだろうけど、可愛い義妹の裸体を他の男の目に晒したくないという兄心は、わかってもらえないようだ。あと、ちょっとは恥じらえ。

「兄さんが気になっているであろう昨晩の出来事を、撮影、編集をしておきましたので、ダイジェストで見ましょう」

 さすが義妹様。わかってらっしゃる。
 全裸の義兄妹が湯船の縁に並んで座って、妹が出したデッカいスクリーンに映し出された兄の奇行を見る。

 ……これは酷い。

「酔いどれ兄さん、素敵です」

 やめて。これは僕の人生でも特大の黒歴史だ。

 笑い上戸はいい。酒の席が明るくなる。
 泣き上戸はちょっと困る。相手にするのが面倒だ。

 これはなんだ? 僕のこれに名前をつけるなら……口説き上戸、か?
 女性を片っ端から口説いてる。

 名前も知らない女子生徒を口説いてるし、新しく団員となった狼人族の女性も口説いてるし、まだ本当に団員になるか確定していないフーベルトゥス士族の女性も口説いてる。

 うわー。今の台詞、父親がドラマで言ってたヤツだ。うわー。蛙顔でそんなこと言われてもねー。……あれ? 言われた女教師の顔が赤くなってる。えっと、この先生は……なんて名前だっけ? ……そうだ。数学の高梨実里先生だ。確か一年生を受け持ってた新任教師のはず。

「妹の副担任にも手を出すんですか?」

 出してま……出してないよね? ベッドに連れ込んだのは二人だけだよね?

「にしても、父親の影響を受けすぎでは?」
「言わないで!」

 僕のライフがゴリゴリ削られていく。

「あ、ジークルーン姉さんを口説きますよ」

 はい、壁ドンからの顎クイで、そっから父親がドラマで言った台詞。

「いっそ殺してよぉ」

 残念ながら、羞恥心では人は死ねない。
 自分は父親と違って、肉体関係を持った相手が受動的に増えていくと思っていたけど、これを見た限りでは、能動的に増やしているように見える。

 ……あれ? 思い返してみると、今までも結構能動的に増やしてる。

 マーヤはユリアーナに勧められてだったし、てか、あいつはユリアーナとの初夜から紛れ込んでたので、受動的と言っていいだろう。

 御影さんは僕から口説いたなぁ。人間って、弱ってる時に優しい言葉を言われると、簡単に騙されてしまうんだ。

 他にも、ロジーネ姉さんや、駄馬姉妹や、緊縛エロフ母娘など、能動的に手を出した心当たりが沢山ある。

 ……あれ? 僕、結構なクズじゃね?

「大丈夫ですよ。兄さんはあの父親と違います。手を出した女性をポイ捨てしないでしょ?」

 それは、まあ……。けど、手を出した女性に養ってもらってるヒモですよ?

「私たちが稼げるのは、兄さんの〈支援魔法〉があるからです。みなさんちゃんと理解してますよ」

 そっか。それなら良かった。ヒモであることに変わりはないけど。

「それに、日本に帰って実るかどうかわからない努力を続けるより、兄さんの側室になって、いろんなことができるようになった方がいい、って意見もあります」

 クラスメートが言ってたそうだ。
 確かに、この世界では努力が実ったかどうか〈人物鑑定〉を使えば確認できるしね。

「側室にしか使わない、ってわけじゃないんだけどな」

 男にも使ってる。
 元捕虜の家族たちにも成長チートを使うつもりなので、一気に男が増えた。
 フーベルトゥスの村でも、元捕虜の家族を受け入れる予定なので、数日中にもう少し増えるはずだ。

 スクリーンの僕が、ザビーネの頭をポンポンしている。あ、天幕に連れ込んだ。
 ベッドで待ってたジークルーンとエンカウント。
 一瞬険悪な空気が流れたけど、空気を読んだ僕が素早く性感強化を使い、有耶無耶にする。ズルい。ズルいしいつもの手口だ。

 ここからは、まあ……自分出演のエロ動画を見てる気分だ。

「なんというか……そりゃあ、魔王って呼ばれるよね」

 客観的に自分の行為を見たら、納得してしまう。特に駄馬姉妹と緊縛エロフ母娘との行為は、魔王と呼ばれてもしょうがない。あれは色欲の勇者だし、支援の魔王だ。

「こうして今日も、ロジーネ姉さんがダウンして私の仕事が増えるんです」

 映像の中のロジーネ姉さんが、白目剥いて痙攣してる。

「だって、姉さんの反応が可愛いから」
「あんな女性がしちゃいけない顔をさせてるのに"可愛い"ですか?」
「いや、可愛いでしょ」

 呆れられた。
 ストーカーに呆れられた。
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