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3章
16話 魔王は受けではありません。いや、魔王じゃねぇし
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翌朝。
女子生徒がヒソヒソ話しているのを聞いてしまった。
「ついに支援の魔王が生徒会を乗っ取ったね」
「まだ会長がいるわよ」
「時間の問題でしょ」
「やっぱり魔王が攻めかな?」
「あ? 魔王の誘い受けでしょ」
それ、尊いの?
その後始まった不毛な聖戦は聞かなかった。
昨日、戦争をしたばかりなのに、僕と会長の逆カプ問題で喧嘩できるんだから、彼女たちは大丈夫だろう。
大丈夫じゃないのは鞘さんと瞳子だ。
鞘さんは、僕の着替えの手伝いに起きようと頑張ったけど、上体を起こすのもしんどいようで、ネクタイだけお願いした。
不器用なのか、かなり不格好になってしまったけど、鞘さんらしかったので今日はこれで過ごそう。
結局、二人とも朝食の席に起きてこなかった。
ごめんね。年上のテレ顔とか大好物なんだ。頑張っちゃったよ。それに、僕も初陣で大量の血を見て、生存本能を刺激されたのか全然収まらなかった。
他の妻が援軍として来るのが遅れたのも原因だけど、翌日の予定を決めるのに団長不在だったため遅れたのだそうだ。
まったく。困った団長だ。
*
なだらかな下り坂を進む隊列の真ん中で、変化のない周囲の景色に飽き始めた頃、縁が愛スレイプニルのスルを松風に寄せてくる。
「理性をどこかに落とした兄さんのために、昨晩決まったことを教えてあげます」
僕のやることならなんでも許してくれる縁ですら、昨晩のことは呆れている。反省しよう。またやると思うけど。
「ヴィンケルマン士族とフーベルトゥス士族の連合軍に動きがありました」
両軍は、ここから真西に一日ほど行った所で陣を構えているらしい。
「位置的に、ヴィンケルマン士族の村に続く分かれ道の辺りか?」
「ええ。そこから北に少し行くとヴィンケルマン士族の村です。ちなみに、分かれ道をさらに西へ二日行くと、南に続く分かれ道があって、その先がフーベルトゥス士族の村です」
自分の村に近い方が、食料とかの輸送が楽になるから、フーベルトゥス士族の方が折れたのかな?
「というわけで、今夜の夜営地から見える距離に陣を構えていますよ」
「近すぎない?」
「夜襲の心配ですか? むしろ、夜襲してくれた方が早く終わります」
この世界の戦争は王宮の書庫にあった歴史書で学んだだけだけど、地球と同じで、夜襲する側が油断する傾向にあるようだ。
「いっそ、こちらが夜襲して終わらせるのも有りだけど……いや、ないか。油断大敵、だな」
昨日の王国軍だって、夜通しの行軍で疲弊した状態じゃなければ、もう少しだけ善戦できたかもしれない。……したかな? たぶん、した。
「今日の夜営地の選定は?」
「それは終わってます。あちらが攻めやすい場所にしました」
「俺としては、後顧の憂いを取り除けるなら取っちゃおう程度の考えだから、両士族を滅ぼすつもりはないんだよ」
なんか、滅ぼす前提で話が進んでる気がしてきた。
「ユリアーナ姉さんは、ヴィンケルマンを滅ぼすつもりですよ。まあ、私たちが手を下さなくても滅びると思いますけど」
経済的にはガタガタだからね。
「ユリアーナは復讐したいのか?」
そんな風には見えなかったけど。
「姉さん自信の復讐ではなく、エルフリーデ姉さんたちにしたことの意趣返しとして、滅ぼすつもりみたい」
彼女たちと仲良しだったのか? そんな話は聞いてないけど。
「あれですよ。姉さんのストーカーと縁を切るには、士族ごと滅ぼすのが手っ取り早い、って思ったみたいですよ」
物騒だな。
ストーカーって、次期族長のロホス・ヴィンケルマンだっけ。放置しても害になりそうにないけどなぁ。
いや、妻がストーカーならともかく、妻のストーカーなら放置するわけにはいかないか。でも、士族ごと潰すのはなぁ。
やりすぎないように、釘を刺すくらいはしておこう。
*
遠くにヴィンケルマン士族とフーベルトゥス士族の混成軍の陣が見える。
天幕の設営が終わったユリアーナが、僕の隣に音もなく並ぶ。
「ユリアーナ。ヴィンケルマンを滅ぼす必要はある?」
「ないわね。ないけど、結果的に滅びるなら私の手で滅ぼしたい」
「別に、ヴィンケルマン士族の全てに恨みがある訳じゃないでしょ?」
他の元ヴィンケルマン士族の子にも聞いたけど、士族全てを憎んでる人はいなかった。
「俺としては、奪えるものは奪うけど、滅ぼすつもりはないんだよ。結果的に滅びるのは、それは村に残った連中の自助努力が足りないだけだ。だからね、必要以上に殺す必要はない」
「……そうね。あまり血を流すと、マゴイチの生存本能を刺激して、ベッドが凄惨なことになるしね」
結局、鞘さんと瞳子は、昼過ぎまで動けなかった。
「そうだね。妊娠中の正妻に夜這いたくなったら大変だ」
最近のユリアーナは、マーヤと御影さんとロクサーヌ、フルール母娘の四人と一緒に別の天幕で寝てるのから、夜這いに行くと、彼女たちも巻き込んでしまう。我慢? 理性さんが単身赴任中です。
「ヴィンケルマン士族に関しては、ユリアーナに固執してる次期族長を殺せば解決する」
最低でも彼一人の首が必要。
「けど、フーベルトゥスはどうしたもんかな。駄馬姉妹の復讐を恐れてるんだよね?」
「認めはしないでしょうけど、潜在的な恐怖として残るなら、いっそ、どうにもならない力の差を見せつければ、復讐なんて考えなくなるんじゃないかしら?」
「あちらの兵力は?」
見た感じ、そんなに多くはなさそう。
「ヴィンケルマンからは五十。フーベルトゥスからは三十よ」
少ない。いや、非戦闘員を含めて六十人程度の集団に向ける兵力としては充分か。フーベルトゥスがちょっと少ないのは油断か? 舐めてかかってるだけか?
「ねえ。ユリアーナとツェツィとエッテの三人でやれる? 広域攻撃魔法なしで」
「んー。手数が足りないかな。早い段階で逃げる奴がいたら逃げ切られる」
「構わない。村へのメッセンジャーに、三人くらい逃げてもらわないと」
恐怖を伝染させるためにも、三人くらいがいいだろう。
「ヴィンケルマンは、働き手となる若い戦士は生かして、年長者だけ殺す。フーベルトゥスは、逃がす三人以外、殺しても構わない」
恐怖を植え付けるためではなく、捕虜として運ぶ手間を惜しんで、だ。
後ろから蹄の音が聞こえたので振り返ると、ユリアーナから連絡が行ったのか、駄馬姉妹が膝を折っていた。
ついでに言うと、話をしていたらゴゴゴと、足元の地面が持ち上がり城壁が出来上がっていた。
「聞いてた?」
「はい。フーベルトゥスは殲滅。それでいいと思います」
姉のツェツィーリアが頷き賛同する。
「ですが、女性は助命していただきたい」
続く妹のヘンリエッテの言葉と共に、二人は地面に手をついて嘆願する。
膝を折り、地面に手をつくのは人馬族にとっての服従のポーズだ。プライドの高い人馬族がこのポーズをして嘆願するのは、自分の命と引き換えでも構わないレベルの願いだ。ただ、この二人のこの姿は見慣れてるけど。……こいつらのプライド、どこに行ったんだろうね。
そういえば、人馬族はガッチガチの男尊女卑だったな。
「二人みたいな女性の戦士は多いの?」
「いえ。二十人ほどでしょうか。こちらの思惑通りに油断してくれたようで、女戦士を全員連れてきてくれたようです」
「男は三人逃がして二人捕虜。他は全員殺して、女性は捕虜にした後、うちの戦力になるように説得しようと思います」
「戦力は欲しいけど、女性に拘る理由は?」
男尊女卑の社会から抜け出したいと思う女性を引き抜きやすいのは、わかる。わかるけど。
「それと、その女性の家族はどうする?」
「勿論、面接はしますよ。家族も面接した上で入団させるか決めます」
まあ、それならいいか。
正直言うと、団員の女性率が高すぎて「女性だけを採用している」と、名前も知らない女教師に言われてしまったのを気にしてたんだ。三年生の担任だったかな?
「それと、ユカリ様から傭兵団の正式装備案として作った、量産型『偽ドラ』の試験運用を頼まれました」
そういえば、僕が使ってる『偽ドラ』って、消費プラーナが多過ぎるから、ユリアーナですら使いこなせない武器だった。
消費プラーナを抑えた『偽ドラ』を傭兵団の正式装備にしたいって話を、ワインを飲みながらした記憶がある。確か……充填できる魔石を開発できたら作れるって言ってたような? 妊婦なのに酔い潰れた御影さんを介抱してたから、聞き流してた。
「そういえば、ユカリが充填できる魔石の試作品ができたって言ってたわ。確か魔晶石って名付けたって」
縁にしては短い名前。
「魔石の加工に関しては、ロクサーヌさんとフルールの方が詳しいみたいで、二人の手を借りたらすぐできたってさ」
「それで短い名前なのか」
「ユカリ様が仰るには、量産型『偽ドラ』の名前は、『量産型魔法狙撃銃 EX-偽ドラグノフ』だそうです」
縁らしいセンスで安心する。
「長いわね。『エクゼノフ』で」
ユリアーナらしいセンスで安心する。
「狙撃銃としての性能は若干落ちますけど、この世界の射撃武器として見たら、神器と呼ばれるレベルの魔道具です」
まあ、製作者の縁も神様だしな。
「使ってみて問題なかった?」
たぶん実践投入前に一度は使ってみたはず。
そう思って聞くと三人とも頷き返す。続く感想を聞く限り、好感触のようだ。
「なら、明日は正面から対陣して、三人に頑張ってもらおう」
「任せて。ヴィンケルマンの陣中に可愛い子が七人いるから、捕虜はあの七人にするわね」
また、あの女教師にネチネチ文句を言われるんだろうな。
残す問題は……。
「夜襲を仕掛けてきたりしないかな?」
夜戦が苦手ってわけではないけど、予期せぬ事故が起こるとしたら視界の悪い夜だろう。
「この砦に?」
言われて気づいた。
昨日より高い城壁になってる。
攻城兵器があっても、ちょっとやそっとでは落ちない砦になってる。
城壁の見た目は、この世界の技術に合わせてあるようだけど……城壁から魔力を感じる。
「旧シュトルム帝国の建国時代は戦乱の時代で、その頃の技術を再現してみたって言ってたわ」
転移魔法無効化とか魔法反射とかが付与されているらしい。
これらの技術が使われていた旧シュトルム帝国の建国時代は、おおよそ千五百年ほど昔だ。
その旧シュトルム帝国が崩壊したのが、千年前。その後、長い戦乱を経て今に至る。
その頃には、これらの技術は失伝していたので、今、僕の足元にある城壁はロストテクノロジーの塊だったりする。
たとえ子供に魔術を教えるついでに造った物でも、ゴリゴリのロストテクノロジーだ。
「逆に、この砦を見て、勝ち目がない、って逃げちゃわないかな?」
ユリアーナが目を逸らす。駄馬姉妹に視線を向けると、二人も目を逸らす。
「まあ、明日になればわかるか」
逃げたら逃げたで三人に追撃させて、予定通りの逃亡者と捕虜を作ってしまえば帳尻は合う。
女子生徒がヒソヒソ話しているのを聞いてしまった。
「ついに支援の魔王が生徒会を乗っ取ったね」
「まだ会長がいるわよ」
「時間の問題でしょ」
「やっぱり魔王が攻めかな?」
「あ? 魔王の誘い受けでしょ」
それ、尊いの?
その後始まった不毛な聖戦は聞かなかった。
昨日、戦争をしたばかりなのに、僕と会長の逆カプ問題で喧嘩できるんだから、彼女たちは大丈夫だろう。
大丈夫じゃないのは鞘さんと瞳子だ。
鞘さんは、僕の着替えの手伝いに起きようと頑張ったけど、上体を起こすのもしんどいようで、ネクタイだけお願いした。
不器用なのか、かなり不格好になってしまったけど、鞘さんらしかったので今日はこれで過ごそう。
結局、二人とも朝食の席に起きてこなかった。
ごめんね。年上のテレ顔とか大好物なんだ。頑張っちゃったよ。それに、僕も初陣で大量の血を見て、生存本能を刺激されたのか全然収まらなかった。
他の妻が援軍として来るのが遅れたのも原因だけど、翌日の予定を決めるのに団長不在だったため遅れたのだそうだ。
まったく。困った団長だ。
*
なだらかな下り坂を進む隊列の真ん中で、変化のない周囲の景色に飽き始めた頃、縁が愛スレイプニルのスルを松風に寄せてくる。
「理性をどこかに落とした兄さんのために、昨晩決まったことを教えてあげます」
僕のやることならなんでも許してくれる縁ですら、昨晩のことは呆れている。反省しよう。またやると思うけど。
「ヴィンケルマン士族とフーベルトゥス士族の連合軍に動きがありました」
両軍は、ここから真西に一日ほど行った所で陣を構えているらしい。
「位置的に、ヴィンケルマン士族の村に続く分かれ道の辺りか?」
「ええ。そこから北に少し行くとヴィンケルマン士族の村です。ちなみに、分かれ道をさらに西へ二日行くと、南に続く分かれ道があって、その先がフーベルトゥス士族の村です」
自分の村に近い方が、食料とかの輸送が楽になるから、フーベルトゥス士族の方が折れたのかな?
「というわけで、今夜の夜営地から見える距離に陣を構えていますよ」
「近すぎない?」
「夜襲の心配ですか? むしろ、夜襲してくれた方が早く終わります」
この世界の戦争は王宮の書庫にあった歴史書で学んだだけだけど、地球と同じで、夜襲する側が油断する傾向にあるようだ。
「いっそ、こちらが夜襲して終わらせるのも有りだけど……いや、ないか。油断大敵、だな」
昨日の王国軍だって、夜通しの行軍で疲弊した状態じゃなければ、もう少しだけ善戦できたかもしれない。……したかな? たぶん、した。
「今日の夜営地の選定は?」
「それは終わってます。あちらが攻めやすい場所にしました」
「俺としては、後顧の憂いを取り除けるなら取っちゃおう程度の考えだから、両士族を滅ぼすつもりはないんだよ」
なんか、滅ぼす前提で話が進んでる気がしてきた。
「ユリアーナ姉さんは、ヴィンケルマンを滅ぼすつもりですよ。まあ、私たちが手を下さなくても滅びると思いますけど」
経済的にはガタガタだからね。
「ユリアーナは復讐したいのか?」
そんな風には見えなかったけど。
「姉さん自信の復讐ではなく、エルフリーデ姉さんたちにしたことの意趣返しとして、滅ぼすつもりみたい」
彼女たちと仲良しだったのか? そんな話は聞いてないけど。
「あれですよ。姉さんのストーカーと縁を切るには、士族ごと滅ぼすのが手っ取り早い、って思ったみたいですよ」
物騒だな。
ストーカーって、次期族長のロホス・ヴィンケルマンだっけ。放置しても害になりそうにないけどなぁ。
いや、妻がストーカーならともかく、妻のストーカーなら放置するわけにはいかないか。でも、士族ごと潰すのはなぁ。
やりすぎないように、釘を刺すくらいはしておこう。
*
遠くにヴィンケルマン士族とフーベルトゥス士族の混成軍の陣が見える。
天幕の設営が終わったユリアーナが、僕の隣に音もなく並ぶ。
「ユリアーナ。ヴィンケルマンを滅ぼす必要はある?」
「ないわね。ないけど、結果的に滅びるなら私の手で滅ぼしたい」
「別に、ヴィンケルマン士族の全てに恨みがある訳じゃないでしょ?」
他の元ヴィンケルマン士族の子にも聞いたけど、士族全てを憎んでる人はいなかった。
「俺としては、奪えるものは奪うけど、滅ぼすつもりはないんだよ。結果的に滅びるのは、それは村に残った連中の自助努力が足りないだけだ。だからね、必要以上に殺す必要はない」
「……そうね。あまり血を流すと、マゴイチの生存本能を刺激して、ベッドが凄惨なことになるしね」
結局、鞘さんと瞳子は、昼過ぎまで動けなかった。
「そうだね。妊娠中の正妻に夜這いたくなったら大変だ」
最近のユリアーナは、マーヤと御影さんとロクサーヌ、フルール母娘の四人と一緒に別の天幕で寝てるのから、夜這いに行くと、彼女たちも巻き込んでしまう。我慢? 理性さんが単身赴任中です。
「ヴィンケルマン士族に関しては、ユリアーナに固執してる次期族長を殺せば解決する」
最低でも彼一人の首が必要。
「けど、フーベルトゥスはどうしたもんかな。駄馬姉妹の復讐を恐れてるんだよね?」
「認めはしないでしょうけど、潜在的な恐怖として残るなら、いっそ、どうにもならない力の差を見せつければ、復讐なんて考えなくなるんじゃないかしら?」
「あちらの兵力は?」
見た感じ、そんなに多くはなさそう。
「ヴィンケルマンからは五十。フーベルトゥスからは三十よ」
少ない。いや、非戦闘員を含めて六十人程度の集団に向ける兵力としては充分か。フーベルトゥスがちょっと少ないのは油断か? 舐めてかかってるだけか?
「ねえ。ユリアーナとツェツィとエッテの三人でやれる? 広域攻撃魔法なしで」
「んー。手数が足りないかな。早い段階で逃げる奴がいたら逃げ切られる」
「構わない。村へのメッセンジャーに、三人くらい逃げてもらわないと」
恐怖を伝染させるためにも、三人くらいがいいだろう。
「ヴィンケルマンは、働き手となる若い戦士は生かして、年長者だけ殺す。フーベルトゥスは、逃がす三人以外、殺しても構わない」
恐怖を植え付けるためではなく、捕虜として運ぶ手間を惜しんで、だ。
後ろから蹄の音が聞こえたので振り返ると、ユリアーナから連絡が行ったのか、駄馬姉妹が膝を折っていた。
ついでに言うと、話をしていたらゴゴゴと、足元の地面が持ち上がり城壁が出来上がっていた。
「聞いてた?」
「はい。フーベルトゥスは殲滅。それでいいと思います」
姉のツェツィーリアが頷き賛同する。
「ですが、女性は助命していただきたい」
続く妹のヘンリエッテの言葉と共に、二人は地面に手をついて嘆願する。
膝を折り、地面に手をつくのは人馬族にとっての服従のポーズだ。プライドの高い人馬族がこのポーズをして嘆願するのは、自分の命と引き換えでも構わないレベルの願いだ。ただ、この二人のこの姿は見慣れてるけど。……こいつらのプライド、どこに行ったんだろうね。
そういえば、人馬族はガッチガチの男尊女卑だったな。
「二人みたいな女性の戦士は多いの?」
「いえ。二十人ほどでしょうか。こちらの思惑通りに油断してくれたようで、女戦士を全員連れてきてくれたようです」
「男は三人逃がして二人捕虜。他は全員殺して、女性は捕虜にした後、うちの戦力になるように説得しようと思います」
「戦力は欲しいけど、女性に拘る理由は?」
男尊女卑の社会から抜け出したいと思う女性を引き抜きやすいのは、わかる。わかるけど。
「それと、その女性の家族はどうする?」
「勿論、面接はしますよ。家族も面接した上で入団させるか決めます」
まあ、それならいいか。
正直言うと、団員の女性率が高すぎて「女性だけを採用している」と、名前も知らない女教師に言われてしまったのを気にしてたんだ。三年生の担任だったかな?
「それと、ユカリ様から傭兵団の正式装備案として作った、量産型『偽ドラ』の試験運用を頼まれました」
そういえば、僕が使ってる『偽ドラ』って、消費プラーナが多過ぎるから、ユリアーナですら使いこなせない武器だった。
消費プラーナを抑えた『偽ドラ』を傭兵団の正式装備にしたいって話を、ワインを飲みながらした記憶がある。確か……充填できる魔石を開発できたら作れるって言ってたような? 妊婦なのに酔い潰れた御影さんを介抱してたから、聞き流してた。
「そういえば、ユカリが充填できる魔石の試作品ができたって言ってたわ。確か魔晶石って名付けたって」
縁にしては短い名前。
「魔石の加工に関しては、ロクサーヌさんとフルールの方が詳しいみたいで、二人の手を借りたらすぐできたってさ」
「それで短い名前なのか」
「ユカリ様が仰るには、量産型『偽ドラ』の名前は、『量産型魔法狙撃銃 EX-偽ドラグノフ』だそうです」
縁らしいセンスで安心する。
「長いわね。『エクゼノフ』で」
ユリアーナらしいセンスで安心する。
「狙撃銃としての性能は若干落ちますけど、この世界の射撃武器として見たら、神器と呼ばれるレベルの魔道具です」
まあ、製作者の縁も神様だしな。
「使ってみて問題なかった?」
たぶん実践投入前に一度は使ってみたはず。
そう思って聞くと三人とも頷き返す。続く感想を聞く限り、好感触のようだ。
「なら、明日は正面から対陣して、三人に頑張ってもらおう」
「任せて。ヴィンケルマンの陣中に可愛い子が七人いるから、捕虜はあの七人にするわね」
また、あの女教師にネチネチ文句を言われるんだろうな。
残す問題は……。
「夜襲を仕掛けてきたりしないかな?」
夜戦が苦手ってわけではないけど、予期せぬ事故が起こるとしたら視界の悪い夜だろう。
「この砦に?」
言われて気づいた。
昨日より高い城壁になってる。
攻城兵器があっても、ちょっとやそっとでは落ちない砦になってる。
城壁の見た目は、この世界の技術に合わせてあるようだけど……城壁から魔力を感じる。
「旧シュトルム帝国の建国時代は戦乱の時代で、その頃の技術を再現してみたって言ってたわ」
転移魔法無効化とか魔法反射とかが付与されているらしい。
これらの技術が使われていた旧シュトルム帝国の建国時代は、おおよそ千五百年ほど昔だ。
その旧シュトルム帝国が崩壊したのが、千年前。その後、長い戦乱を経て今に至る。
その頃には、これらの技術は失伝していたので、今、僕の足元にある城壁はロストテクノロジーの塊だったりする。
たとえ子供に魔術を教えるついでに造った物でも、ゴリゴリのロストテクノロジーだ。
「逆に、この砦を見て、勝ち目がない、って逃げちゃわないかな?」
ユリアーナが目を逸らす。駄馬姉妹に視線を向けると、二人も目を逸らす。
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