48 / 58
第46話 麻雀④ それぞれの思惑
しおりを挟む
「よぉ、来てくれて嬉しいよ」
「当たり前だ、テープがそっちにあるのだから。 で、テープは持って来ているだろうな」
「ここに」
俺は鞄から取り出した5本のテープを見せる。
「その5本だけか?」
「ああ、中身を確認するか?」
「それは、1本ずつ貰った都度確認する」
「分かった」
「本当にそれ以外は無いな!」
「安心しろ、誓ってこの5本以外にテープはない。 君こそ金は持ってきたんだろうな」
「ああ、だが払うつもりはない。 俺は勝つからな」
「良い心がけだが、ギャンブルは何があるか分からないからな。 もちろん俺も負けるつもりはない」
そのテープを鞄にしまうとヤツが聞いてくる。
「で、どこで勝負する? このあたりには麻雀ギルドは無かったはず」
「それは大丈夫だ、宿泊先の従業員に聞いたら麻雀ギルドの場所を教えてくれたよ」
「麻雀ギルドがあるのか? 俺も散々探したが見つけられなかったのに」
「その従業員の話だと場所もわかりにくい上、看板も何もないから知らない人間はそこが麻雀ギルドだとまず気づかないそうだ」
従業員に書いてもらった地図を頼りに歩き始める。
教えてもらわなければ確実に迷っただろう。
地図を見てもそれほど分かりにくい場所だ。
タケシ曰く、他のギャンブルに比べ決して人気があるとは言えない麻雀だそうだが、客商売でもあるギルドがこんな場所に本当にあるのかと疑ってしまう。
暫く歩くと、目的の場所へ着いた。
従業員の言う通り、看板も何もない。
事前に教えて貰っていなければ、確実にスルーした建物だ。
「ぃらっしゃい」
中に入ると声が掛かる。
ぶっきらぼうだが、「いらっしゃい」と言うあたり俺達は客と認識されたようだ。
そこには麻雀卓が数卓あり、ここが麻雀ギルドであると伺える。
その中の一卓に一組の男女が座っていた。
男は新聞を広げ、女は化粧を気にしているのか手鏡を覗いている。
タケシとコフィレだ。
他には誰もいない。
ここまでは計画通りだな。
促そうとする間もなくゴトーはズンズンと二人が座っている卓へ進み、空いている席に腰を掛けた。
俺も続いて残りの席に腰掛ける。
「牌を改めさせても?」
「牌を?」
なぜ牌を調べる必要があるのかと一瞬疑問に思ったが、このギルドは俺が案内したギルドだ。
牌に何か細工でもしていないかと疑ったんだな。
牌に細工なんかしていないが、他のメンツは俺側の人間だ。
そこを疑われる事を考えると良いカモフラージュになったな。
「いいとも、気の済むまでどうぞ」
了承すると、ゴトーは牌を調べ始めた。
それもじっくりと。
俺はギルマスにコーヒーを頼む。
届いたコーヒーを啜りながら暫く待つと、満足したのかゴトーが顔を上げる。
「よし、オーケーだ。 始めるか」
「その前にルールの確認をしよう。 後でもめるのはイヤだからな」
「……そうだな」
ルール確認の提案をした俺に対しゴトーは頷く。
ルール確認は大事だ。
俺はルールの説明をする。
ルールは何でもアリの東南戦。
フリテンは通常の麻雀のルールに準じ、ダブロンはなし。
役満の重複はあり。
レートはデカデカリャンピン。
25000点持ちの30000点返しだから、スタート時の25000点を維持できても十万エソの負け。
箱割れした時点で六十万エソの払いなのだが箱割れはなし。
最終局に親がアガればそこで終わるか続けるかの権限は親にある。
つまり、親が終了と宣言しない限り、親以外がアガるor親がノーテンで流局となるまで続行となるのだ。
ウマは俺とヤツの間でのみ適用され、百点でも多い方が二十万エソを貰い受ける。
二十万エソの数字にヤツは眉を顰めたが了承した。
俺の対面にゴトー。
上家にコフィー、下家にタケシが座る形で勝負開始となった。
「ツモ、満貫。 二千四千」
最初にアガったのはゴトー。
そのアガリも5順目と早い。
手にある麻雀タコから予想はしていたが、かなりの打ち手のようだ。
タケシ曰く、卓上の全ての牌を把握するのに5順は要ると言っていた。
さすがのタケシでも、ここまで早いアガリには対応できないのか。
そのタケシをチラリと見ると、なんでもないように点棒を払っている。
親のコフィーも同様だ。
俺も習い点棒を渡す。
まぁ、いくらなんでもゴトーのアガリが全て5順以内って事はないだろう。
必ず、腰を据えて打たなければならない局は訪れる。
それに局を重ねれば重ねる程、タケシは牌の在りかが分かるんだ。
本番は中盤~後半か。
それまではジッとガマンだ。
*****
「ぃらっしゃい」
ギルマスの声に入口の方を見ると、サトシと一人の男が入ってきた。
サトシが連れてきた男を凝視する。
この男がコフィーから一千万エソを騙し取った男か。
殴りかかりそうな所をグッと堪える。
そんな事をすればサトシが立てた計画が台無しだ。
チラリとコフィーを見れば、手鏡を握りしめた手が震えている。
同じ心境なのだろう。
「牌を改めさせても?」
俺達が座っている卓に男が腰掛け、サトシに向かって言う。
サトシは気の済むまで確認すれば良いと言った。
男はその言葉に、卓上にある牌を改め出した。
……この男。
その両手の全ての指には指輪があった。
それが何を意味するか。
この男、技を使える。
指輪は牌を握ったりするのに非常に便利だ。
指輪に掛かり牌を取りこぼしたりする事が激減するからだ。
それに見た所この男、その指輪を使って牌に傷をつけている。
ガン付けと呼ばれる物で、特定の牌に傷をつける事によって伏せられた状態でもその牌が何かが分かる。
所謂ガン牌だ。
技も使えてガン牌も使用する。
この男、これまで麻雀ではそう負けた事はないだろう。
これは、強敵かもしれない─
サトシの『すまーとふぉん』に映っていた映像を観たときはそう思った。
その手にある麻雀タコは、相当に打ち込んでいないと出来ない程にそれだとハッキリと分かった。
だから、この男と卓を囲むのかと思うと、高いレベルで麻雀が打てるかもと少し期待した。
そして今、その男が目の前にいて牌を改めている。
ガン牌自体はまだ良い。
普通に打っていて牌に傷がつくのは当たり前にある。
その傷を覚えていてガンに利用するのは勝つ為の一つの手段だ。
だが、普通に打っていて分かりやすいガンが出来るのはごくごく稀。
ましてや、ギルドも定期的に牌のチェックをしている程ガンには気を付けている。
だから、ガン師は自分だけにしか分からないガン付けを行うのだが、一流は気づかせないよう対局中に行う。
それを、この男は対局中ではなく、牌のチェックだと言いガン付けを行っている。
一見すれば普通に牌をチェックしているように見えるが、見る者がみれば一目瞭然。
二流の証だ。
高いレベルで打てると思っていたが期待外れのようだ。
技に関しても、指輪を利用するようなら二流以下。
いや、それはまだ分からないか。
ガン付けはこの目で見たが、技はまだ見ていないどころか始まってもいない。
それに、敢えて二流ぶりを装って油断を誘っている事も考えられる。
「よし、オーケーだ。 始めるか」
男が言うと、その前にルール説明をとサトシが言う。
サトシがルール説明を行っている間、男は隙を見て新たなガンを刻んでいる。
その行動に心の中でため息を漏らす。
なんとも二流以下の行動だ。
サトシのルール説明が終わった所で勝負開始となった。
「ツモ、満貫。 二千四千」
男が牌を倒す。
様子見などお構いなしに技を駆使した結果、5順目と言うスピードで満貫をアガった。
この男に警戒という概念は無いのか?
見知らぬ連中と大金を賭けて麻雀をしているのだ。
最初から自分の手の内を晒すとは、俺には悪手としか思えない。
よほど麻雀に自信があるのか。
それとも、他に何かあるのか。
とりあえず、東場は牌の把握に徹した方が良さそうだ。
*****
「ぃらっしゃい」
ギルマスの声に入口の方を見ると、サトっちゃんと一人の男が入ってきた。
サトっちゃんが連れてきた男を横目で見る。
この男が私から一千万エソを騙し取った男ね。
睨みつけそうな所を堪えて、手鏡にそっと視線を落とす。
せっかくサトっちゃんが立ててくれた計画が台無しになるものね。
チラリとタケさんを見れば、今にも殴りかかりそうなのを必死で堪えている。
同じ心境なのでしょうね。
「牌を改めさせても?」
私達が座っている卓に男が腰を掛け、サトっちゃんに向かって言う。
サトっちゃんは気の済むまで確認すれば良いと言った。
男はその言葉に、卓上にある牌を改め出した。
そのしぐさを見てタケさんが肩を落としているのが分かった。
サトっちゃんからこの計画を聞いた時、一番乗り気だったのがタケさんだった。
映像を観た時の麻雀タコを見て、高いレベルで麻雀が打てるかもと楽しみにもしていたからね。
そして今、タケさんがあからさまに落胆している。
それもそうよね。
私から見ても、この男がタケさんの望むレベルに居ないのは明らかだもの。
牌を改めると言いながらガンを付けているのもそうだし、十本の指全てに指輪を付けているのもそうだからね。
「ツモ、満貫。 二千四千」
始まって5順と言う速さで男がアガった。
技は勿論、ガン牌も利用して。
こんな序盤から手の内を晒すなんて二流、いや三流以下ね。
でも、おかげでガン付けをしている牌が、一牌だけだけど分かったわ。
タケさんもそれは気付いているはず。
気付いているけれど、まだ動く気はなさそうね。
何か策があるのかもと警戒しているのかしら。
それなら、序盤は私が変わってこの男から回収してやるわ。
*****
「こんな所、分かる訳がない」
ムコウマルに連れてこられたのは、もう一度同じ場所へ来いと言われても絶対にたどり着けない場所だった。
本当に麻雀ギルドなのかと疑ってしまう。
場所もそうだが、あそこが麻雀ギルドだと指さす建物には看板どころか人が居る気配すらない。
それよりも、一人で帰れるのかこれ。
ムコウマルに続き中に入ると麻雀卓がいくつかあった。
どうやら、麻雀ギルドで間違いないようだ。
その中の一卓に男女が座っていた。
こんな廃れたギルドにも客は居るのだなと感心してしまう。
だが、これでメンツも揃った。
ならば、まずは最初にやらなければならない事がある。
無言で二人が座る卓に向かい空いている席に腰を下ろす。
「牌を改めさせても?」
ムコウマルに向かい問う。
ここはお前が連れてきたギルドだ。
牌に何か細工でもされているのじゃないかと暗に疑った形だ。
それに対し、ムコウマルは気の済むまで構わないと言う。
俺の思惑が通じ頬が緩む。
細工のチェックはカモフラージュだ。
本当の目的はガン付けをする事。
今回の勝負は一本二百万エソのテープを譲り受ける為の麻雀だ。
ムコウマルが言うにはレートもそれなりだと言う。
ならば、レートは相当に高い。
ここは、いつもより多めにガン付けをする。
それに、今日は全部の指に指輪を付けてきた。
技をより確実にする為、それを補助する役割のある指輪だ。
普段は全ての指には付けないが今日は特別だ。
「よし、オーケーだ。 始めるか」
いつもなら、マン・ピン・ソーの『3』と『7』に各々1牌だけガンを打つのだが今回はその倍、各々2牌『3』と『7』にガン付けをした。
準備が整ったから始めようと言うと、その前にルールの説明をするとムコウマルは言う。
確かにルールの確認は必要だ。
ならば、その隙に新たにガンを刻む。
いっその事、全ての『3』と『7』に。
これで、俺の勝ちは揺るがない。
そのガンを刻んでいる最中、左に座っている男がチラリと俺を見たかのような気がした。
視線を向けると、若干肩を落としているように見える。
なんだ?
お前もウマに混ざりたいのか?
勝ちが見えている俺にとって二十万エソと言う金額に不満は残るが、一般人にとっては大金だろう。
それはこの男も同様のはず。
ならば、なんでこの男はウマに混ざりたがる。
金持ちの道楽か、はたまた麻雀に自信があるのか?
それともムコウマル同様、只の麻雀ジャンキーか。
ウマの金が俺に入らないのは残念だが、お前が混ざる事を認める訳にはいかない。
この麻雀は、俺とムコウマルの勝負だ。
ムコウマルだけに集中したいからな。
謂わば、お前らはメンツが足りない場合の時の為に集めただけの只のエキストラ。
空気に徹しているなら、多少の負けで済ましてやるから大人しくしていろ。
**********
ゴトー
────────
コ | |
フ | | ハ
ィ | | バ
レ | |
────────
ムコウマル
席順はこんなカンジです。
「当たり前だ、テープがそっちにあるのだから。 で、テープは持って来ているだろうな」
「ここに」
俺は鞄から取り出した5本のテープを見せる。
「その5本だけか?」
「ああ、中身を確認するか?」
「それは、1本ずつ貰った都度確認する」
「分かった」
「本当にそれ以外は無いな!」
「安心しろ、誓ってこの5本以外にテープはない。 君こそ金は持ってきたんだろうな」
「ああ、だが払うつもりはない。 俺は勝つからな」
「良い心がけだが、ギャンブルは何があるか分からないからな。 もちろん俺も負けるつもりはない」
そのテープを鞄にしまうとヤツが聞いてくる。
「で、どこで勝負する? このあたりには麻雀ギルドは無かったはず」
「それは大丈夫だ、宿泊先の従業員に聞いたら麻雀ギルドの場所を教えてくれたよ」
「麻雀ギルドがあるのか? 俺も散々探したが見つけられなかったのに」
「その従業員の話だと場所もわかりにくい上、看板も何もないから知らない人間はそこが麻雀ギルドだとまず気づかないそうだ」
従業員に書いてもらった地図を頼りに歩き始める。
教えてもらわなければ確実に迷っただろう。
地図を見てもそれほど分かりにくい場所だ。
タケシ曰く、他のギャンブルに比べ決して人気があるとは言えない麻雀だそうだが、客商売でもあるギルドがこんな場所に本当にあるのかと疑ってしまう。
暫く歩くと、目的の場所へ着いた。
従業員の言う通り、看板も何もない。
事前に教えて貰っていなければ、確実にスルーした建物だ。
「ぃらっしゃい」
中に入ると声が掛かる。
ぶっきらぼうだが、「いらっしゃい」と言うあたり俺達は客と認識されたようだ。
そこには麻雀卓が数卓あり、ここが麻雀ギルドであると伺える。
その中の一卓に一組の男女が座っていた。
男は新聞を広げ、女は化粧を気にしているのか手鏡を覗いている。
タケシとコフィレだ。
他には誰もいない。
ここまでは計画通りだな。
促そうとする間もなくゴトーはズンズンと二人が座っている卓へ進み、空いている席に腰を掛けた。
俺も続いて残りの席に腰掛ける。
「牌を改めさせても?」
「牌を?」
なぜ牌を調べる必要があるのかと一瞬疑問に思ったが、このギルドは俺が案内したギルドだ。
牌に何か細工でもしていないかと疑ったんだな。
牌に細工なんかしていないが、他のメンツは俺側の人間だ。
そこを疑われる事を考えると良いカモフラージュになったな。
「いいとも、気の済むまでどうぞ」
了承すると、ゴトーは牌を調べ始めた。
それもじっくりと。
俺はギルマスにコーヒーを頼む。
届いたコーヒーを啜りながら暫く待つと、満足したのかゴトーが顔を上げる。
「よし、オーケーだ。 始めるか」
「その前にルールの確認をしよう。 後でもめるのはイヤだからな」
「……そうだな」
ルール確認の提案をした俺に対しゴトーは頷く。
ルール確認は大事だ。
俺はルールの説明をする。
ルールは何でもアリの東南戦。
フリテンは通常の麻雀のルールに準じ、ダブロンはなし。
役満の重複はあり。
レートはデカデカリャンピン。
25000点持ちの30000点返しだから、スタート時の25000点を維持できても十万エソの負け。
箱割れした時点で六十万エソの払いなのだが箱割れはなし。
最終局に親がアガればそこで終わるか続けるかの権限は親にある。
つまり、親が終了と宣言しない限り、親以外がアガるor親がノーテンで流局となるまで続行となるのだ。
ウマは俺とヤツの間でのみ適用され、百点でも多い方が二十万エソを貰い受ける。
二十万エソの数字にヤツは眉を顰めたが了承した。
俺の対面にゴトー。
上家にコフィー、下家にタケシが座る形で勝負開始となった。
「ツモ、満貫。 二千四千」
最初にアガったのはゴトー。
そのアガリも5順目と早い。
手にある麻雀タコから予想はしていたが、かなりの打ち手のようだ。
タケシ曰く、卓上の全ての牌を把握するのに5順は要ると言っていた。
さすがのタケシでも、ここまで早いアガリには対応できないのか。
そのタケシをチラリと見ると、なんでもないように点棒を払っている。
親のコフィーも同様だ。
俺も習い点棒を渡す。
まぁ、いくらなんでもゴトーのアガリが全て5順以内って事はないだろう。
必ず、腰を据えて打たなければならない局は訪れる。
それに局を重ねれば重ねる程、タケシは牌の在りかが分かるんだ。
本番は中盤~後半か。
それまではジッとガマンだ。
*****
「ぃらっしゃい」
ギルマスの声に入口の方を見ると、サトシと一人の男が入ってきた。
サトシが連れてきた男を凝視する。
この男がコフィーから一千万エソを騙し取った男か。
殴りかかりそうな所をグッと堪える。
そんな事をすればサトシが立てた計画が台無しだ。
チラリとコフィーを見れば、手鏡を握りしめた手が震えている。
同じ心境なのだろう。
「牌を改めさせても?」
俺達が座っている卓に男が腰掛け、サトシに向かって言う。
サトシは気の済むまで確認すれば良いと言った。
男はその言葉に、卓上にある牌を改め出した。
……この男。
その両手の全ての指には指輪があった。
それが何を意味するか。
この男、技を使える。
指輪は牌を握ったりするのに非常に便利だ。
指輪に掛かり牌を取りこぼしたりする事が激減するからだ。
それに見た所この男、その指輪を使って牌に傷をつけている。
ガン付けと呼ばれる物で、特定の牌に傷をつける事によって伏せられた状態でもその牌が何かが分かる。
所謂ガン牌だ。
技も使えてガン牌も使用する。
この男、これまで麻雀ではそう負けた事はないだろう。
これは、強敵かもしれない─
サトシの『すまーとふぉん』に映っていた映像を観たときはそう思った。
その手にある麻雀タコは、相当に打ち込んでいないと出来ない程にそれだとハッキリと分かった。
だから、この男と卓を囲むのかと思うと、高いレベルで麻雀が打てるかもと少し期待した。
そして今、その男が目の前にいて牌を改めている。
ガン牌自体はまだ良い。
普通に打っていて牌に傷がつくのは当たり前にある。
その傷を覚えていてガンに利用するのは勝つ為の一つの手段だ。
だが、普通に打っていて分かりやすいガンが出来るのはごくごく稀。
ましてや、ギルドも定期的に牌のチェックをしている程ガンには気を付けている。
だから、ガン師は自分だけにしか分からないガン付けを行うのだが、一流は気づかせないよう対局中に行う。
それを、この男は対局中ではなく、牌のチェックだと言いガン付けを行っている。
一見すれば普通に牌をチェックしているように見えるが、見る者がみれば一目瞭然。
二流の証だ。
高いレベルで打てると思っていたが期待外れのようだ。
技に関しても、指輪を利用するようなら二流以下。
いや、それはまだ分からないか。
ガン付けはこの目で見たが、技はまだ見ていないどころか始まってもいない。
それに、敢えて二流ぶりを装って油断を誘っている事も考えられる。
「よし、オーケーだ。 始めるか」
男が言うと、その前にルール説明をとサトシが言う。
サトシがルール説明を行っている間、男は隙を見て新たなガンを刻んでいる。
その行動に心の中でため息を漏らす。
なんとも二流以下の行動だ。
サトシのルール説明が終わった所で勝負開始となった。
「ツモ、満貫。 二千四千」
男が牌を倒す。
様子見などお構いなしに技を駆使した結果、5順目と言うスピードで満貫をアガった。
この男に警戒という概念は無いのか?
見知らぬ連中と大金を賭けて麻雀をしているのだ。
最初から自分の手の内を晒すとは、俺には悪手としか思えない。
よほど麻雀に自信があるのか。
それとも、他に何かあるのか。
とりあえず、東場は牌の把握に徹した方が良さそうだ。
*****
「ぃらっしゃい」
ギルマスの声に入口の方を見ると、サトっちゃんと一人の男が入ってきた。
サトっちゃんが連れてきた男を横目で見る。
この男が私から一千万エソを騙し取った男ね。
睨みつけそうな所を堪えて、手鏡にそっと視線を落とす。
せっかくサトっちゃんが立ててくれた計画が台無しになるものね。
チラリとタケさんを見れば、今にも殴りかかりそうなのを必死で堪えている。
同じ心境なのでしょうね。
「牌を改めさせても?」
私達が座っている卓に男が腰を掛け、サトっちゃんに向かって言う。
サトっちゃんは気の済むまで確認すれば良いと言った。
男はその言葉に、卓上にある牌を改め出した。
そのしぐさを見てタケさんが肩を落としているのが分かった。
サトっちゃんからこの計画を聞いた時、一番乗り気だったのがタケさんだった。
映像を観た時の麻雀タコを見て、高いレベルで麻雀が打てるかもと楽しみにもしていたからね。
そして今、タケさんがあからさまに落胆している。
それもそうよね。
私から見ても、この男がタケさんの望むレベルに居ないのは明らかだもの。
牌を改めると言いながらガンを付けているのもそうだし、十本の指全てに指輪を付けているのもそうだからね。
「ツモ、満貫。 二千四千」
始まって5順と言う速さで男がアガった。
技は勿論、ガン牌も利用して。
こんな序盤から手の内を晒すなんて二流、いや三流以下ね。
でも、おかげでガン付けをしている牌が、一牌だけだけど分かったわ。
タケさんもそれは気付いているはず。
気付いているけれど、まだ動く気はなさそうね。
何か策があるのかもと警戒しているのかしら。
それなら、序盤は私が変わってこの男から回収してやるわ。
*****
「こんな所、分かる訳がない」
ムコウマルに連れてこられたのは、もう一度同じ場所へ来いと言われても絶対にたどり着けない場所だった。
本当に麻雀ギルドなのかと疑ってしまう。
場所もそうだが、あそこが麻雀ギルドだと指さす建物には看板どころか人が居る気配すらない。
それよりも、一人で帰れるのかこれ。
ムコウマルに続き中に入ると麻雀卓がいくつかあった。
どうやら、麻雀ギルドで間違いないようだ。
その中の一卓に男女が座っていた。
こんな廃れたギルドにも客は居るのだなと感心してしまう。
だが、これでメンツも揃った。
ならば、まずは最初にやらなければならない事がある。
無言で二人が座る卓に向かい空いている席に腰を下ろす。
「牌を改めさせても?」
ムコウマルに向かい問う。
ここはお前が連れてきたギルドだ。
牌に何か細工でもされているのじゃないかと暗に疑った形だ。
それに対し、ムコウマルは気の済むまで構わないと言う。
俺の思惑が通じ頬が緩む。
細工のチェックはカモフラージュだ。
本当の目的はガン付けをする事。
今回の勝負は一本二百万エソのテープを譲り受ける為の麻雀だ。
ムコウマルが言うにはレートもそれなりだと言う。
ならば、レートは相当に高い。
ここは、いつもより多めにガン付けをする。
それに、今日は全部の指に指輪を付けてきた。
技をより確実にする為、それを補助する役割のある指輪だ。
普段は全ての指には付けないが今日は特別だ。
「よし、オーケーだ。 始めるか」
いつもなら、マン・ピン・ソーの『3』と『7』に各々1牌だけガンを打つのだが今回はその倍、各々2牌『3』と『7』にガン付けをした。
準備が整ったから始めようと言うと、その前にルールの説明をするとムコウマルは言う。
確かにルールの確認は必要だ。
ならば、その隙に新たにガンを刻む。
いっその事、全ての『3』と『7』に。
これで、俺の勝ちは揺るがない。
そのガンを刻んでいる最中、左に座っている男がチラリと俺を見たかのような気がした。
視線を向けると、若干肩を落としているように見える。
なんだ?
お前もウマに混ざりたいのか?
勝ちが見えている俺にとって二十万エソと言う金額に不満は残るが、一般人にとっては大金だろう。
それはこの男も同様のはず。
ならば、なんでこの男はウマに混ざりたがる。
金持ちの道楽か、はたまた麻雀に自信があるのか?
それともムコウマル同様、只の麻雀ジャンキーか。
ウマの金が俺に入らないのは残念だが、お前が混ざる事を認める訳にはいかない。
この麻雀は、俺とムコウマルの勝負だ。
ムコウマルだけに集中したいからな。
謂わば、お前らはメンツが足りない場合の時の為に集めただけの只のエキストラ。
空気に徹しているなら、多少の負けで済ましてやるから大人しくしていろ。
**********
ゴトー
────────
コ | |
フ | | ハ
ィ | | バ
レ | |
────────
ムコウマル
席順はこんなカンジです。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
博打英雄
海川鮮魚
ファンタジー
誰よりもヒーローになりたかった少年
親友を目の前で亡くして以降夢を諦めて
しまったが青年になりある事をきっかけに
再びヒーローを目指すが青年の能力がまさかの...!?
天弓のシュカ ~勇者の生まれ変わりの少年は、世界を救うために七色の魔竜を巡る旅に出る~
卯崎瑛珠
ファンタジー
王道RPGのようなファンタジーです!ワクワクとドキドキの冒険を、個性豊かなパーティメンバー&もふもふと共に、あなたへ――勇者が魔王を倒し、訪れた平和は束の間だった。やっと安心して生きられる、と世界中の人々が喜んだ矢先、何を思ったか勇者の手によって世界の核である『キーストーン』が破壊され、勇者自身も死んでしまう。各地には魔竜や魔物が生まれ、危険な世界に戻ってしまっていた。人々が勇者を恨む中、『シュカ』と名乗る肩に白い鷹を乗せた銀髪黒目の少年が、ある王国を訪れる。彼は国王謁見の叶う『金貨集めの日』を利用して、王国南の森に居る雷竜を見たいと国王に申し出るものの、当然追い返されてしまう。が、王都で偶然?『剣聖』ヨルゲンと出会ったことで、雷竜討伐へ赴くことにし――勇者はなぜ核を破壊したのか。魔竜巡礼の意味とは。シュカとともに旅をして、ぜひ世界の真実を探してください。
-----------------------------
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙絵:nao様(https://skima.jp/profile?id=153308%0A%E2%80%BB)
※無断転載禁止
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
神から与えられたスキルは“ドールマスター”
みょん
ファンタジー
この世界では12歳になるとスキルが与えられる。剣術や魔法、色々な戦いに役立つスキルだ。
だがそんな中で俺が授かったのはドールマスター……それは読んで字の如く人形たちの主人を意味する。
俺が作るドールはみな人間のように意思を持ち、自分の考えを持って生きることが出来る、そこで俺は閃いた。俺の作った人形たちを売りに出して金稼ぎをしようと! ……ただ、そう上手くは問屋が卸さなかった。
「なあ、君を売りに……」
「嫌です」
「……………」
これはそんな俺と、俺に仕える人形たちのお話だ。
※異世界ファンタジーは初の試みです。
のんびり書いていきます。
なろうとカクヨムにも書いています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる