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第43話 麻雀③

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「そんな事が」
「もう、昔の話だ」


移動での最中、タケシとコフィーが初めて出会った話を聞いた。
それから、コフィーはタケシを麻雀でなんとか負かそうと、頻繁に勝負を持ち掛けたのだがタケシは全て返り討ちにしてきたと言う。


「だから、俺が店を開けられたのはコフィーのおかげでもある」
「そんな事ないわよ~。 店を開いたのはタケさんの努力のおかげよ~」
「開店資金の三分の一はコフィーが出してくれたようなものだからな」
「あら、そんなに負けたかしらぁ~、私」


ケラケラと笑うコフィーに、「いや、三分の一は大げさだったな」と困り顔のタケシ。
二人は頻繁に勝負するうちにお互い惹かれ合い、タケシが店をオープンしたと同時に結婚したそうだ。

ケッ、リア充め、なんて思わない。
俺も、もういい大人だからな。
だから素直に祝福してやろうじゃないか。
爆発しろおめでとう


「そうか、今も麻雀は?」
「今はもう、金銭のやりとりはしていない。 牌は握ってはいるがな」
「私とノアちゃんとナナちゃんでよく卓を囲むのよ~」
「ノアとナナと?」
「ああ、あの二人が技を教えてくれとうるさいからな」
「なら、二人も技を使えるのか?」
「いや、まだまだヒヨッコだな」
「それはタケさんレベルで見るからよ~。 あの二人はそこそこ使えるんじゃないかしら~」


だが、あの二人は金銭を掛けた麻雀はしないと言う。
ギャン中の二人にしては珍しいと思ったが、バケモノタケシをこの目でみているからとの理由だそうだ。

確かに、いつそんなバケモノと対局するか分からない。
そんな打ち手と遭遇すればギャンブルにならないだろう。

二人にタケシクラスの打ち手とはそうそう出会わないとコフィーが言っても、ビビッてとても金銭のやりとりなんて出来ないとの事。
タケシの麻雀はそれほどなのか。


「そうか、じゃぁ、タケシは相当な腕前なんだな」
「そうよ~、3順もあれば、卓上にある牌は全部盗み見れるんじゃないかしら~」
「それは、自分が積んだヤマ以外も?」
「当然よ~。 他の人が積んだヤマから配牌後の全員の手牌もね」
「そっ、それはすごいな」
「コフィー、それは大げさだ」


タケシがコフィーに突っ込む。
それはそうだろう。
いくらなんでも、3順で場の全ての牌を把握するのは無理だ。


「5順は要る」


ごっ、5順!?
5順でもそう変わらないと思うぞ。


「まぁ、全員の手牌を覗くだけなら配牌時で十分だがな」


バケモノだ。
正真正銘のバケモノが目の前に居る。
ノアナナがビビるのも頷ける。

ちなみに、どうやって相手の手牌を覗くのか聞いてみた所、覗くのはごく一部で手牌の配列と役の絡みとで牌姿の予想を立てるとの事。
同様に、積んだヤマを覗くのも全てではなく、必要に応じ覗く数は変わるそうだ。

それで、どうやって全ての牌を把握するのかと再度聞いてみた所、タケシは驚くべき答えを出してきた。
前局で晒された牌は全て記憶していて、伏せられた牌(倒されなかった手牌含む)はその捨て牌から手牌を予想し、消去法で牌の位置を予想するとの事。

そして、洗牌されても全て目で追っており、どこに何の牌が積まれたかが大まかだが把握できるという。
自分が積んだヤマは全て記憶しているから、ここでも消去法で大まかな所を調整。
さらに、配牌で自ヤマが残ればさらに情報は手に入り、予想の精度はさらに高まる。
ここで、初めて他人の手牌を覗くと言う。

覗くと言っても、気づかれない程素早く牌の腹を指でなぞるのみ。
所謂盲牌と言うヤツで予想との違いを確認する。

このあたりは、配牌時にどのヤマが残っているかで順番は前後するようだが、タケシも特に決まった順番はなく、対戦相手の目線や、何に気を取られているかでも変わるそうだ。

時には、残りのヤマを全て覗いた後に、他人の手牌を覗く事もあるし、必要に応じ相手の手牌を全て覗くケースもあると言う。
これまで一度も注意されるどころか、怪しまれた事すらないそうだ。


「それは…… 絶対負けないじゃないか」
「そうねぇ~、ほとんどの牌の位置が分かっているからねぇ~。 局を重ねる度に精度は上がっていくからどんどん負けなくなっていくわねぇ~」


さらに、すり替えを行う事で他人のツモまでも自由自在。
もはや、卓上では神だな。


「ノアとナナに教えない日でも牌を触っていないとなんだか落ち着かなくてな。 寝る前には牌を触っているのだが、おかげでこの有り様だ」


タケシは手を広げて見せる。
その手は一部皮膚が分厚くなっている所があった。


仕事調理に支障があるから削ってはいるが、どうしても少し厚い所は残ってしまう」


所謂、麻雀タコと呼ばれる物だ。
確かに放置しておけば、調理に支障があるだろう。
支障どころか、下手すればケガをしかねない。

タケシは剃刀で削っているそうだが、それで今までケガしなかったのか?
だが、まぁ、ケガをしていたのであれば、以降は剃刀を使わないだろうからこれまで大丈夫だったって事だ。
これからも気を付けて欲しいものだ。

それとコフィーだ。
パチスロといい麻雀といい凄い女だな。



*****



そして、今に至る。
ズームしたヤツの手にはタケシの手に似ていた物があった。
そう、その手には麻雀タコらしきものがあったのだ。
それも大きめの。
ヤツはタケシのように削ってはいないのだろう。

手配書には麻雀タコの記述がなかったからヤツも放置したのか。
確かに、手のタコなんかは位置こそ違えど、麻雀を打たない者でも職によっては出来るから手配書には書かないだろうし、そもそも気づかない。
今回はスマホのズーム機能に助けられたな。

一通り録画が出来たのでマシュウの到着を待つ。
その間、ヤンキーモードのコフィーが例の男にイチャモンをつけに行きそうなのを必死に宥めていた。
20分程経った所でマシュウが戻ってきたのでギルドを出る。


「サトシさん、このビデオカメラはどうするのですか?」
「このスマホで撮った動画をそのビデオカメラで録画する」
「スマホ?」
「あー、お前は知らないか」


スマホはミヅノが亡くなった直後に普及し世界中に広がっていった。
マシュウが知らないのも頷ける。
説明してやると驚いていた。


「でも、なぜわざわざこんな面倒な事を?」
「ホントメンドくせぇ~。 手っ取り早くアイツをボコったらいいじゃねぇ~か」


マシュウとコフィレの言い分も解るがこれは必要な事だ。
コフィーのヤンキーモードが過激になっているし、俺のプランを説明してやるか。


ここではなんだから、どこか話が出来る場所へ。 考えすぎだとは分かっているが念の為内密にしたい」


どこでどんな耳目があるかは分からない。
ましてや、ここは旅行先。
プランが漏れると失敗の可能性、いや、その場を作る事も難しくなるので秘匿したい。


「なら、宿に戻りますか?」
「そうだな、話は宿に戻ってからでもできるから、食べ歩きをしてから戻ろう」


コフィーはジッと俺を見るが、こうして証拠も残したのだから焦る必要はない。
逃げられる事も考えたが、それは対策してきた。
尤も、本気で逃げられたら対策は無駄になるだろうが、そもそも本気で逃げる気ならこんな所で呑気にパチスロなんか打ってはいないだろう。
そう説明し、なんとかコフィーを宥めた。

その後は予定通り食べ歩きをした。
もちろん酒も堪能した。
コフィーも酒が入り、いつの間にかヤンキーモードも解除されていた。
解除されてはいたのだが、今度はラブラブモードにでも入ったのかタケシにベッタリだ。
爆ぜろ!


「で、なぜこんな面倒な事を?」


マシュウが俺のスマホの動画をビデオカメラで録画しているのを眺めながらタケシが尋ねてくる。


「この動画をギルドへ見せれば被害届は出すかもしれない。 だが、それだとコフィーがだまし取られた金は返ってこない可能性が高いだろ?」
「可能性が高いどころか、返ってこない物だとあきらめていたが」
「そうねぇ~。 だからせめてボコッてやろうかと」
「コフィー」


解除されたヤンキーモードに再び突入しそうになったコフィーをタケシが宥める。
コフィーの気持ちは分かるが、実行すると傷害で逮捕されかなない。
マシュウも苦笑いだ。


「だから、全額──は難しいかも知れないが、ヤツから少しでも回収出来ないかと思ってな」
「 「えっ!」 」


タケシとコフィーの驚いた声がかぶる。
苦笑いだったマシュウがいい笑みに変えて言う。


「やはり、何か考えがあるのですね。 じゃないと面倒くさがりのサトシさんがこんな面倒な事をするはずないですからね」


おい。
それは褒めているようにもとれるが、貶しているようにもとれるぞ。
まぁ、今それはいいとして。


「かっ、回収ってどうやって?」


コフィーが食い気味で尋ねてくる。
回収にはタケシの協力が必要になるから二人には説明はするがその前に。


「マシュウ、録画は?」
「出来ています」
「なら、ダビング──は出来ないか。 すまないが同じのをあと4本頼む」
「かしこまりました。 すまないなんておっしゃらないで下さい」


ダビングできれば手間が省けるのだが、そんな機能はこのビデオカメラにはない。
マシュウはすまないなんて言うなと言うが、手間をかけさせているのは事実だ。
俺は、出来ればそんな面倒くさい事は避けたいからな。


「その前にタケシの協力が必要になる。 それは問題ないか?」
「ああ、もちろんだ」
「それは助かる。 まず、そうだな…… マシュウ、途中で悪いがちょっとスマホを」
「少々お待ち下さい、もうすぐ2本目が撮り終わりますので。 それに謝らないで下さいと言ったでしょう」
「そっ、そうだったな」


これは俺に非があるな。
申し訳ない気持ちはあるが、それ以上に感謝の気持ちが大きい。
だから、言い方としては。


「ありがとう」


これが正解で本心だ。
そう言うと、マシュウは満面の笑みでスマホを渡してくる。
ナナがこの顔を見たらどうなるだろうな。
ナナに限らず世の女性の多くはイチコロだろう。


「これを見てくれ」


受け取ったスマホをタケシとコフィーに見せる。
画面にはヤツが盤面押しをしている所が写し出される。


「もう少し先だな」


動画を早送りし、問題のシーンに差し掛かった所で止める。
ちょうど、手元をズームした所だ。


「これを見て、タケシとコフィーはどう思う?」
「これは……間違いないな」
「私も間違いないと思うわぁ~」


可能性は高いとは思っていたが、俺の場合はあくまでも推測だった。
だが、二人共間違いないと言うなら確定だろう。


「俺もそうだとは思ったが、俺は二人ほど精通していないから確認したんだが」
「ああ、間違いなくコイツの手にあるのは麻雀タコだ」


これで、コイツは麻雀を打つ事が確定した訳だ。
残りは。


「なるほど、麻雀でコイツから回収すると」
「任せてぇ~」
「確かにそうなんだが、一つ問題があってな」
「問題?」
「ああ、どこで場を立てるかだ。 できれば部外者は入れたくない」


俺たちが宿泊しているこの場所でも良いのだが、肝心の牌と卓がない。
まぁ、牌と卓はこのホテルに頼めば貸し出してくれるだろう。

だが、貸し出してくれるのはこのホテルの宿泊客のみ。
だから、俺がこの場に誘ったとしても、俺が宿泊客なんてのはヤツにバレバレだ。
そこに、予め二人の打ち手がいる。
どう考えても、二人と俺は繋がっていると思われてしまう。
そうなると、まず勝負をしてこない。
だから、二人は偶然同じ卓についただけで、全く関係のない間柄だという事を演出し信じさせなければならない。
だから、フリー麻雀ギルドへヤツを誘い、二人はたまたまメンツが揃うのを待っていた客、もしくは俺とヤツが待っている時に二人が偶然来たと言うシチュエーションが必要となる。

二人が麻雀ギルドで俺とヤツを待つ事は出来る。
だが、待っている間に俺とヤツ以外でメンツが揃ってしまうと二人は打たざるを得なくなる。
俺とヤツが待っているケースでも同じだ。

そうなってしまうと、回収はまずできない。
俺は麻雀をそこそこ打てる方だが、どうしても運に左右されてしまう。
タケシ達のように技は使えないからな。


「そうか…… 場……か」
「だな。 ここはスポーツギルドの影響で人も多く他のギルドも多く見られるのに麻雀ギルドだけは見かけなかった。 麻雀は人気がないのか?」
「人気という点だけ見ると他のギャンブルと比べたら確かにあるとは言えないが、麻雀ギルドはここにもあるぞ」
「そうねぇ~。 あっ、それならあそこのギルドはどうかしら?」
「あそこ? って、あそこか!」
「私は今でもあそこのギルマスとは交流があるから、事情を話せば協力してくれるはずよ~」


どうやら、二人は場に心当たりがあるようだ。
しかも、ギルマスが協力してくれると言う。
なら、決まりだな。


「それなら、場は任せてもいいか」
「ああ、任せてくれ」
「二人は明日から三日間ゴルフだな、だから決行日は四日後で」
「分かった」
「その間、俺はヤツと接触し場につくように仕向ける」
「お願いねぇ~」
「なに、観光の間にできるぐらい簡単な事だ。 二人共楽しんできてくれ」


計画も立て、打ち合わせも済んだ。
後は実行するのみだ。
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