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第38話 旅行
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「そ、その話は本当か? いや、サトシを疑う訳ではないが」
「ああ、本当だ。 尤も『宝馬記念』同様俺の記憶で、だがな」
知っての通り、『宝馬記念』では人気や他の細かい箇所は違った所もあったと説明する。
だが、肝心な部分は『宝馬記念』と同じように変わらないのではないか、とも補足すると皆は頷いた。
「ほんなら、ムコウマルさんはブックメーカーでその優勝者にベットするんやね」
「ああ、稼げる手段が無くなってきたからちょうどいい」
「でも、パリミュチュエル方式と違ってブックメーカー方式やから、配当は低いんとちゃう?」
「それは厚く張るから問題ない」
これまで、各種攻略法で稼いできた蓄えがある。
その総額約1千万エソ。
マシュウに迷惑を掛ける訳にはいかないので念の為全ツッパはしないが、80%程ツッコむつもりだ。
「で、誰が勝つの?」
「ノア!」
ノアもベットするつもりなのか、優勝者を俺に聞いてきた所でタケシが激しく制す。
「それは、俺の居ない所で聞いてくれ」
純粋にゴルフを愛しているなら、先に結果を聞くのは本意ではないだろう。
その気持ちはよく分かる。
「そう言う事だ、後で教えてやるよ」
「ベッドの中でお願いします」
「はいはい、気が向けばな」
相変わらず俺を揶揄うノアだが、もう慣れたもので俺も適当にあしらう。
ノアはいつものように不満そうな顔をしている。
「同情するよノアちゃん。 サトシさんは信じられない程鈍感だから」
マシュウが横から口をはさむ。
鈍感ってなんだ鈍感って。
今も、世界メジャーの勝者を俺の記憶から引っ張ってきたんだから鈍感って事はないだろう。
でも、まぁ、俺は人にどう思われようがあまり気にしない質だ。
鈍感だと思うなら、そう思えばいいさ。
「私も前世では、サトシさんに猛烈にアタックしていたのに全く気付いたそぶりはなかったからね」
何!?
そうなのか?
確かに、必死で俺の役に立とうとしてくれていたし、事実、想像以上に役に立ってくれた。
俺としては最高のビジネスパートナーだと思っていたのだが、マシュウはまた違う感情を抱いていたと言う。
いや、マシュウだと語弊があるからこの場合はミヅノか。
「そ、そうだったのか。 気付かなかったとは言え悪い事をした」
「いえ、もう過ぎた事ですので。 ただ、鞄をプレゼントして頂いた時はもう死んでもいいと思いました」
「お前…… それは笑えない冗談だぞ」
「そうですね…… 失礼しました」
俺が低い声でマシュウと窘めると、マシュウは沈痛な面持ちをし俯く。
「えぇ! ベップさんがライバルなんて、そんなん敵わへんわ」
重くなった空気を振り払うようにノアが大きな声を出す。
ライバル?
「心配しなくても大丈夫だよノアちゃん。 私にはもうそんな感情はないから」
そうなのか?
じゃぁ、常に俺と居たがるのはどういう事なんだ?
俺がマシュウをジト目で見るとニコリと返された。
ドユコト?
だが、まぁ、今はそんな事より。
「で、そのギルドはどこにあるんだ?」
「う~ん。 スポーツギルドはこの国にも3つしか支部がないねんけど、一番近い所でもだいぶ遠いなぁ~」
「そうなのか?」
「せやねん。 だから電話投票の方がえ~んちゃうかなぁ~」
「電話投票?」
元いた世界でも、昔は競馬等のギャンブルは電話投票が可能だった。
本来なら、そのギャンブルが開催している場所か、決まった施設でのみしか投票券は購入できない。
しかし、僻地など開催場所や施設に行くには困難な場所に住んでいる人間は大勢いる。
そんな人達の為、どこに居ても電話で投票券を購入できるシステムがあったのだが、この世界のスポーツギルドとやらはそれとは逆だと言う。
スポーツギルドは海外に本部を置く、一つの超巨大な世界的組織だそうだ。
世界各国に支部はあるのだが、各々の国に配置されるギルドはせいぜい1か所。
あらゆるスポーツでのギャンブルを扱っており、多くすると管理が大変だからだ。
この国のように3つも支部がある国は片手で数えられる程だと言う。
それだけ、この国はギャンブルが盛んだと言う事だな。
スポーツギルドがこの国に支部を置くとなった際、その支部の誘致合戦が始まった。
世界中のスポーツをギャンブルの対象にするのだから、数も多く年中無休の24時間営業。
当然人が多く集まるのだから、交通費や滞在費など経済効果は大きい。
勿論、依存症や治安悪化などを理由に反対意見も多く出たのだが、雇用も増え、なによりその経済効果を考えると反対派は矛を収めるしかなかった。
その誘致に成功したのが、地価が比較的安価な地方の自治体。
加えて、スポーツギルドの意向により観光地も備えた自治体だった。
なんだか、「南国」に似ているな。
「なるほどな、だから電話投票か」
「せやねん。 スポーツギルドで直接ギャンブルするのは旅行がてらっての人がほとんどちゃうかな。 大体の人は電話投票するはずやで」
旅行か。
それも悪くはない。
元いた世界では旅行なんて行く暇はなかったし、この世界を見て回りたいのもある。
それに、電話投票は俺には無理だ。
だから、直接スポーツギルドに行く必要がある。
「聞くが、その一番近いスポーツギルドはここからどれぐらいで行ける?」
「う~ん、飛行機で片道1時間半ぐらいかな。 って行くん?」
「ああ、そのつもりだ」
「ええっ! なんで電話投票せぇへんの」
理由は簡単。
この世界では銀行口座を俺は開設できないからだ。
戸籍もなにもないからな。
電話投票には銀行口座が必要になる。
ベットする金をその口座から引き落としたり、配当金を振り込んだりする為だ。
だから、電話投票をしたくても出来ない。
「アタシの口座を使ったらえ~んとちゃう?」
ノアが言うがそれはダメだろう。
尤も、俺が元いた世界での基準だが、マシュウとナナの複雑そうな顔をみるとこっちの世界でもそうなのだろうな。
「それは…… ダメだろうな」
「そうですね」
「せやね」
マシュウとナナもやはりダメだと言う。
「なんでなん?」
「それは、『ノミ』にあたるからだ」
「『ノミ』って、あっ、そうか。 でも別にえ~んちゃうの? アタシは呑んだりせぇへんで」
「バカ言え、ナナの立場を考えろ」
ノミ行為。
対象ギャンブルのベットや払い戻しを、主催者を通さずに行う行為を指すのだが、今回のようにギャンブルの購入を第三者から依頼される、もしくは第三者へ依頼する事も含まれる。
人間と言うのは愚かな生物で、大金が絡むと人が変わると言うのは良くある話だ。
大金でなければ、第三者は依頼者にそのまま配当金を全て渡すだろう。
だが、その配当が大金になれば、依頼者に買う事ができなかったと預かった金をそのまま返す。
中には、迷惑料として少し色を付けて返す者もいるらしい。
依頼者はチャンスを逃したとは言え、損をした訳ではないし、迷惑料を受け取った者は少しだが利益もある。
しかし実の所、第三者はそのギャンブルに投票していて配当を受けている。
所謂横領だな。
そうした、自分はノーリスクで大金を得られる事が一般的にノミ行為と呼ばれ、例え信用している相手だとしても禁止されている。
だが、知り合いに金を預けてギャンブルに投票してもらうのは普通に行われている。
ニュアンスは少し違うが必要悪とも俺は思う。
誰にでも、どうしても都合が悪い時はあるだろうからな。
ノアが言う通り、彼女は呑んだりしないだろう。
だから、個人的にはノアに頼んでもいいのだが、身内にナナがいる。
身内が表向き禁止されている行為をしたとなれば、ナナの警官としての立場が危うい。
それに、俺が配当を受ければノアの口座に大金が振り込まれる事になる。
これは、考えすぎかもしれないが、そうなるとノアに納税の義務が発生してしまう可能性もある。
ノアは決して呑んだりはしないだろうから、1エソも儲けていないのに、だ。
それは回避しなければならない。
「だから、旅行がてら直接買いに行くよ」
「日程はどうしますか?」
俺が事情を説明し、直接買いに行くと言うとマシュウが日程を聞いてくる。
「そうだな、その世界メジャーが始まるのは来週なんだろ。 ブックメーカーの締め切りはいつなんだ?」
「クラキ、締め切りはいつだ?」
「え~と、大会初日の午前5時やったはずです。 あっ、でも現地時間の朝5時で時差があるからこっちの時間やと、え~っと」
「午後の6時か。 だそうですサトシさん」
「大会初日は、10日後か。 なら、その前日には現地入りしたい所だな」
「承知しました、手配します」
「おっ、おう」
そうして、俺はスポーツギルドへ旅行がてら行く事になった。
~ 9日後 ~
「おはようございます」
「お、おう、おはよう」
出発の日の朝、マシュウが声を掛けてくる。
手配すると言ったマシュウは、俺の分は勿論、自分の分も手配していた。
まぁ、マシュウは護衛と言う立場上付いて来るのは予想できた。
つい最近俺は大ピンチに陥り、その場に居合わせる事が出来なかったから護衛失格だとマシュウは言っていたからな。
だから、マシュウが付いてくるのはまだいい。
だが。
「軍資金はいくらぐらい用意したん? ナナ」
「フッフッフ。 スポーツギルドなんてそうそう行かれへんからな、500万エソや。 ノアは?」
「うわぁ~、『宝馬記念』で儲けたのは分かるけどやりすぎなんちゃう? アタシは30万エソやなぁ~。」
ノアナナ姉妹も付いて来た。
二人とも休暇をとったそうだ。
「ナナ、あまり使い過ぎるなよ。 前にも言ったが税金を払わなければならないからな」
「そうよぉ~。 納税は来年だからそれまで残しておかなきゃダメよぉ~」
なぜか、タケシとコフィーも付いて来た。
タケシ曰く、ここの所忙しくて休んでいなかったからちょうどいいと、店を休みにしたそうだ。
忙しくさせた原因は、俺にも少なからずあるのだから一緒に行くとはコフィーの談だ。
そりゃぁまぁ、ティラミヌやイタ飯を提案したのは俺に間違いない。
間違いないのだが、忙しいのは俺のせいではないだろうとツッコミを入れたい所をグッと堪えた。
ノアナナ姉妹は目いっぱいギャンブルを楽しむそうだ。
タケシとコフィーは共にゴルフ三昧だと言う。
俺は、例の世界メジャー以外ギャンブルはしないつもりなので、ゆったり温泉に入ったり観光したりする予定だ。
マシュウは俺に張り付くだろう。
全員行動を共にするのは、世界メジャー戦の最終日の夜。
スポーツギルドでパブリックビューイングが行われるとの事なのでその日までは自由行動だ。
「全員集まったな。 じゃぁ、そろそろ行くか」
そうして、俺達は旅行に出発したのだった。
「ああ、本当だ。 尤も『宝馬記念』同様俺の記憶で、だがな」
知っての通り、『宝馬記念』では人気や他の細かい箇所は違った所もあったと説明する。
だが、肝心な部分は『宝馬記念』と同じように変わらないのではないか、とも補足すると皆は頷いた。
「ほんなら、ムコウマルさんはブックメーカーでその優勝者にベットするんやね」
「ああ、稼げる手段が無くなってきたからちょうどいい」
「でも、パリミュチュエル方式と違ってブックメーカー方式やから、配当は低いんとちゃう?」
「それは厚く張るから問題ない」
これまで、各種攻略法で稼いできた蓄えがある。
その総額約1千万エソ。
マシュウに迷惑を掛ける訳にはいかないので念の為全ツッパはしないが、80%程ツッコむつもりだ。
「で、誰が勝つの?」
「ノア!」
ノアもベットするつもりなのか、優勝者を俺に聞いてきた所でタケシが激しく制す。
「それは、俺の居ない所で聞いてくれ」
純粋にゴルフを愛しているなら、先に結果を聞くのは本意ではないだろう。
その気持ちはよく分かる。
「そう言う事だ、後で教えてやるよ」
「ベッドの中でお願いします」
「はいはい、気が向けばな」
相変わらず俺を揶揄うノアだが、もう慣れたもので俺も適当にあしらう。
ノアはいつものように不満そうな顔をしている。
「同情するよノアちゃん。 サトシさんは信じられない程鈍感だから」
マシュウが横から口をはさむ。
鈍感ってなんだ鈍感って。
今も、世界メジャーの勝者を俺の記憶から引っ張ってきたんだから鈍感って事はないだろう。
でも、まぁ、俺は人にどう思われようがあまり気にしない質だ。
鈍感だと思うなら、そう思えばいいさ。
「私も前世では、サトシさんに猛烈にアタックしていたのに全く気付いたそぶりはなかったからね」
何!?
そうなのか?
確かに、必死で俺の役に立とうとしてくれていたし、事実、想像以上に役に立ってくれた。
俺としては最高のビジネスパートナーだと思っていたのだが、マシュウはまた違う感情を抱いていたと言う。
いや、マシュウだと語弊があるからこの場合はミヅノか。
「そ、そうだったのか。 気付かなかったとは言え悪い事をした」
「いえ、もう過ぎた事ですので。 ただ、鞄をプレゼントして頂いた時はもう死んでもいいと思いました」
「お前…… それは笑えない冗談だぞ」
「そうですね…… 失礼しました」
俺が低い声でマシュウと窘めると、マシュウは沈痛な面持ちをし俯く。
「えぇ! ベップさんがライバルなんて、そんなん敵わへんわ」
重くなった空気を振り払うようにノアが大きな声を出す。
ライバル?
「心配しなくても大丈夫だよノアちゃん。 私にはもうそんな感情はないから」
そうなのか?
じゃぁ、常に俺と居たがるのはどういう事なんだ?
俺がマシュウをジト目で見るとニコリと返された。
ドユコト?
だが、まぁ、今はそんな事より。
「で、そのギルドはどこにあるんだ?」
「う~ん。 スポーツギルドはこの国にも3つしか支部がないねんけど、一番近い所でもだいぶ遠いなぁ~」
「そうなのか?」
「せやねん。 だから電話投票の方がえ~んちゃうかなぁ~」
「電話投票?」
元いた世界でも、昔は競馬等のギャンブルは電話投票が可能だった。
本来なら、そのギャンブルが開催している場所か、決まった施設でのみしか投票券は購入できない。
しかし、僻地など開催場所や施設に行くには困難な場所に住んでいる人間は大勢いる。
そんな人達の為、どこに居ても電話で投票券を購入できるシステムがあったのだが、この世界のスポーツギルドとやらはそれとは逆だと言う。
スポーツギルドは海外に本部を置く、一つの超巨大な世界的組織だそうだ。
世界各国に支部はあるのだが、各々の国に配置されるギルドはせいぜい1か所。
あらゆるスポーツでのギャンブルを扱っており、多くすると管理が大変だからだ。
この国のように3つも支部がある国は片手で数えられる程だと言う。
それだけ、この国はギャンブルが盛んだと言う事だな。
スポーツギルドがこの国に支部を置くとなった際、その支部の誘致合戦が始まった。
世界中のスポーツをギャンブルの対象にするのだから、数も多く年中無休の24時間営業。
当然人が多く集まるのだから、交通費や滞在費など経済効果は大きい。
勿論、依存症や治安悪化などを理由に反対意見も多く出たのだが、雇用も増え、なによりその経済効果を考えると反対派は矛を収めるしかなかった。
その誘致に成功したのが、地価が比較的安価な地方の自治体。
加えて、スポーツギルドの意向により観光地も備えた自治体だった。
なんだか、「南国」に似ているな。
「なるほどな、だから電話投票か」
「せやねん。 スポーツギルドで直接ギャンブルするのは旅行がてらっての人がほとんどちゃうかな。 大体の人は電話投票するはずやで」
旅行か。
それも悪くはない。
元いた世界では旅行なんて行く暇はなかったし、この世界を見て回りたいのもある。
それに、電話投票は俺には無理だ。
だから、直接スポーツギルドに行く必要がある。
「聞くが、その一番近いスポーツギルドはここからどれぐらいで行ける?」
「う~ん、飛行機で片道1時間半ぐらいかな。 って行くん?」
「ああ、そのつもりだ」
「ええっ! なんで電話投票せぇへんの」
理由は簡単。
この世界では銀行口座を俺は開設できないからだ。
戸籍もなにもないからな。
電話投票には銀行口座が必要になる。
ベットする金をその口座から引き落としたり、配当金を振り込んだりする為だ。
だから、電話投票をしたくても出来ない。
「アタシの口座を使ったらえ~んとちゃう?」
ノアが言うがそれはダメだろう。
尤も、俺が元いた世界での基準だが、マシュウとナナの複雑そうな顔をみるとこっちの世界でもそうなのだろうな。
「それは…… ダメだろうな」
「そうですね」
「せやね」
マシュウとナナもやはりダメだと言う。
「なんでなん?」
「それは、『ノミ』にあたるからだ」
「『ノミ』って、あっ、そうか。 でも別にえ~んちゃうの? アタシは呑んだりせぇへんで」
「バカ言え、ナナの立場を考えろ」
ノミ行為。
対象ギャンブルのベットや払い戻しを、主催者を通さずに行う行為を指すのだが、今回のようにギャンブルの購入を第三者から依頼される、もしくは第三者へ依頼する事も含まれる。
人間と言うのは愚かな生物で、大金が絡むと人が変わると言うのは良くある話だ。
大金でなければ、第三者は依頼者にそのまま配当金を全て渡すだろう。
だが、その配当が大金になれば、依頼者に買う事ができなかったと預かった金をそのまま返す。
中には、迷惑料として少し色を付けて返す者もいるらしい。
依頼者はチャンスを逃したとは言え、損をした訳ではないし、迷惑料を受け取った者は少しだが利益もある。
しかし実の所、第三者はそのギャンブルに投票していて配当を受けている。
所謂横領だな。
そうした、自分はノーリスクで大金を得られる事が一般的にノミ行為と呼ばれ、例え信用している相手だとしても禁止されている。
だが、知り合いに金を預けてギャンブルに投票してもらうのは普通に行われている。
ニュアンスは少し違うが必要悪とも俺は思う。
誰にでも、どうしても都合が悪い時はあるだろうからな。
ノアが言う通り、彼女は呑んだりしないだろう。
だから、個人的にはノアに頼んでもいいのだが、身内にナナがいる。
身内が表向き禁止されている行為をしたとなれば、ナナの警官としての立場が危うい。
それに、俺が配当を受ければノアの口座に大金が振り込まれる事になる。
これは、考えすぎかもしれないが、そうなるとノアに納税の義務が発生してしまう可能性もある。
ノアは決して呑んだりはしないだろうから、1エソも儲けていないのに、だ。
それは回避しなければならない。
「だから、旅行がてら直接買いに行くよ」
「日程はどうしますか?」
俺が事情を説明し、直接買いに行くと言うとマシュウが日程を聞いてくる。
「そうだな、その世界メジャーが始まるのは来週なんだろ。 ブックメーカーの締め切りはいつなんだ?」
「クラキ、締め切りはいつだ?」
「え~と、大会初日の午前5時やったはずです。 あっ、でも現地時間の朝5時で時差があるからこっちの時間やと、え~っと」
「午後の6時か。 だそうですサトシさん」
「大会初日は、10日後か。 なら、その前日には現地入りしたい所だな」
「承知しました、手配します」
「おっ、おう」
そうして、俺はスポーツギルドへ旅行がてら行く事になった。
~ 9日後 ~
「おはようございます」
「お、おう、おはよう」
出発の日の朝、マシュウが声を掛けてくる。
手配すると言ったマシュウは、俺の分は勿論、自分の分も手配していた。
まぁ、マシュウは護衛と言う立場上付いて来るのは予想できた。
つい最近俺は大ピンチに陥り、その場に居合わせる事が出来なかったから護衛失格だとマシュウは言っていたからな。
だから、マシュウが付いてくるのはまだいい。
だが。
「軍資金はいくらぐらい用意したん? ナナ」
「フッフッフ。 スポーツギルドなんてそうそう行かれへんからな、500万エソや。 ノアは?」
「うわぁ~、『宝馬記念』で儲けたのは分かるけどやりすぎなんちゃう? アタシは30万エソやなぁ~。」
ノアナナ姉妹も付いて来た。
二人とも休暇をとったそうだ。
「ナナ、あまり使い過ぎるなよ。 前にも言ったが税金を払わなければならないからな」
「そうよぉ~。 納税は来年だからそれまで残しておかなきゃダメよぉ~」
なぜか、タケシとコフィーも付いて来た。
タケシ曰く、ここの所忙しくて休んでいなかったからちょうどいいと、店を休みにしたそうだ。
忙しくさせた原因は、俺にも少なからずあるのだから一緒に行くとはコフィーの談だ。
そりゃぁまぁ、ティラミヌやイタ飯を提案したのは俺に間違いない。
間違いないのだが、忙しいのは俺のせいではないだろうとツッコミを入れたい所をグッと堪えた。
ノアナナ姉妹は目いっぱいギャンブルを楽しむそうだ。
タケシとコフィーは共にゴルフ三昧だと言う。
俺は、例の世界メジャー以外ギャンブルはしないつもりなので、ゆったり温泉に入ったり観光したりする予定だ。
マシュウは俺に張り付くだろう。
全員行動を共にするのは、世界メジャー戦の最終日の夜。
スポーツギルドでパブリックビューイングが行われるとの事なのでその日までは自由行動だ。
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