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第33話 ボルテージ④

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「あっ、ムコウマルさん、何やったん?」
「………………」
「ムコウマルさん?」
「あっ、ああ、どうした?」
「なんでムコウマルさんが呼ばれたん?」


体中に鳥肌が立つ。
思い出したくない。
あのギンギンは。

結論から言うと、体感器は使っていないとギルマスは認めた。
認められた上で、俺は攻略法を使っていると話した。
ギルマスは打ち方を見れば分かると言う。

ならば、好きに打っても構わないかと問うと、ギルマスは首を縦に振った。
そして、事務所にある店内を映し出しているモニターを指差しこう俺は言った。


「今映っているこの5人は俺の連れで、全員体感器なしで攻略法を使っている、だからこの5人も認めろ」


と。
この言葉に対しても、ギルマスは何も言わず頷く。

これで、俺達全員攻略法の使用を認められた。
後は出しまくるだけなのだが、困った事にギルマスが俺の事を気に入ったらしい。
服を着た俺に飲み物と茶菓子を出し、ゆっくりして行けとソファーを勧める。
ここで俺は大いにツッコんだ


「飲み物って精力剤ぢゃねぇ~か!!」


と。

俺としては、一刻も早くここを出たいから全て固辞。
ギルマスは俺を引き止めたそうにしていたが、無視して事務所を出た。
ちなみに、操は死守したと付け加えておく。

大事な事なので繰り返す。
俺は操を守った!!

ギルマスはクロだった。
正しくは、漆黒だな。
まぁ、人の趣味はそれぞれだからとやかく言うつもりはない。
俺を巻き込まなければ。

今回はガッツリ巻き込まれた訳だが、元いた世界での経験がものを言った。
正直、消し去りたい過去であったが思ってもみない所で役に立った。
あの時は強い意志で断わり続けたのだが、今回も同じような態度でいた所、無事脱出できた。
何事も経験だな。
もう、御免だが。

ギルマスは執拗に俺の連絡先を知りたがっていたが、断固として拒否した。
そんな態度も気に入ったのか。
はたまた、俺の気を悪くさせるのは得策ではないと悟ったのかは分からないが、事務所を出る際、「ガンガン出して下さい」と声を掛けられた。


「呼ばれたのは、予想通り体感器の件だった…… いや、予想外の事もあったが……」
「予想外って何なん?」


それは思い出させないでくれ。


「とにかく、俺達6人の攻略法の使用をギルド側に認めさせた。 後は出しまくるだけだ」


俺が言うと皆は頷く。
俺は、ナナの所に行く。


「ナナ、今日は飲みまくるぞ」
「えっ、あっ、う、うん」


今日の事務所での一件は早く忘れたい。
今晩の酒量は計り知れないだろう。



*****



「 「 「 「 「 「かんぱ~い」 」 」 」 」 」


今、俺達はタケシの店に来ている。
エアコンの修理も済み、店内は快適だ。

あれから俺達6人は出しに出しまくった。
本来ならギルドの営業が終了する時間まで打ち切るつもりだったのだが、ギルマスが泣きついてきた。


「申し訳ございません、これ以上メダルを詰める箱がありませんので、今日の所はこれでご勘弁願えないでしょうか」


店内のメダル詰め用の箱は、ほぼ俺達が使いきったと言うのだ。

攻略法の使用を認められてから、運にも恵まれたのか全員がチェリーを異常なほどにヒキだした。
そのヒキに引きずられたのか、状態へも驚くべき確率で突入した。

特に、今日ヒキが冴え渡っていたノアは信じられない程のメダルを叩きだした。
その数、5万枚オーバー。
等価交換のギルドだった為、100万エソ以上の金額となる。

ナナと夫婦も揃って2万枚オーバー。
コフィレは途中、目押し役に専念すると自身の遊技を止めてくれたが、それでも1万枚以上のメダルを獲得。

そして俺だが、ギルマスとの一件から火が付いた。
「このギルドのメダルが尽きるまで出してやる」と。

だが、火が付いただけでギルドのメダル全て出し尽くせるなら誰も苦労はしない。
意気込みとは裏腹に俺が出したメダルは3万枚。
まぁ、俺もギルドのメダルが尽きるまで出せるとは本気で思っていなかったから、十分すぎる枚数だ。
しかし、火が付いたのは本当で、千枚抜き攻略は全て俺が消化した。
気合で目押しを行ったのだ。
おかげで、すごく疲れた。
その疲れも相まってギルマスの要求を呑み、営業終了時間よりかなり早くギルドを出る事になった。

結果、俺達が叩きだした枚数は合計で15、いや16万枚を越えていた。
エソに換算すると、320万エソ以上となる。
ギルドとしては大赤字だっただろう。
今思えば、箱が無いから勘弁してくれってのは言い訳だったのかもな。


「こんばんは」
「お、来たかマシュウ。 お疲れさん」
「お疲れ様です」
「マ、マシュウ先輩! お疲れ様です」
「お疲れ様、クラキ」


仕事終わりのマシュウも合流する。
心なしか、ナナが緊張している。


「今日はどうでした? その様子だと上手く行ったようですが」
「ああ、皆快勝だ」
「それは良かったです。 尤も、サトシさん主導ですので上手く行かない訳がないですからね」


いや、そんな事は無いと思うぞ。
現に、ヤヴァい時もあったし。

イカンイカン。
それは俺だけだし、その事は忘れると決めたのだ。


「ナナ」
「はい?」
「ギルドでも言ったが、今日は飲むぞ」
「い、いや、アタシは程々にしとくわ」
「そうなのか? ギルドでは飲むと言っていたのに。 具合でも悪いのか?」
「いや、具合は悪くないで。 ちょっと今日は控えよっかなぁって」


そう言って、チラッとマシュウを見るナナ。
あ~。
なるほどね。
そう言う事なら何も言うまい。
ナナが飲もうと飲まないと、俺が飲む酒の量は変わらない。
今日はとことん飲むと決めたのだ。


「しかし、コフィーから聞いた時はそんな簡単な事でいいのかと疑問に思ったが、上手くいったみたいだな」


料理の追加を持ってきてくれたタケシが尋ねてくる。


「少し考えれば誰でも思いつく方法だろ?」
「まぁ、確かにそうなんだが、上手い話には裏があるって言うじゃないか」


人を詐欺師みたいに言うんじゃないよ。


「私は昨日、サトシさんがご夫婦に説明された時は席を外していましたので詳しい事は知りませんが、一体どうやって体感器なしで攻略したのですか?」


マシュウが攻略手順を聞いてくる。
なら、説明してやるか。
その前に。

俺は空になったグラスを持ち立ち上がる。
それを見たタケシが手で制す。

タケシの店では、俺は酒も自由に飲んでいい事になっている。
タケシはその都度用意してくれるのだが、俺の飲むペースは速い。
何度もタケシの手を煩わせるのは申し訳ないから、許可を得て自分で飲む分は自分で用意するようにしたのだ。
今回はタケシが用意するから、その間にマシュウに説明してやれって事だろう。


「何、簡単な事だ」


そう前置きを入れて俺は説明する。

体感器は使わないがある物は使う。
それは時計。
手順としてはこうだ。


1. 時計の秒針の任意のタイミングでレバーオン
2. チェリー当選まで1.を繰り返す
3. チェリー当選後は時計の秒針で3.6秒を計りレバーオン


体感器の代わりに時計を利用する。
今回は全員腕時計を用いた。

ここで疑問に思うのが3.の項目。
腕時計の秒針でコンマ6秒が狙えるのか?だ。

断言しよう。
腕時計の秒針でコンマ6秒は100%狙えないと。
では、どう攻略したのか。

初めてボルテージの攻略法をノアから聞いた時、真っ先に思い浮かんだ手順がある。
1. と2.までの手順は同じだが3.の手順を少し変え、新たに4.の手順を加えた。

腕時計で3.6秒を狙うのは不可能だが、4.0秒は狙える。
よって、まず3.の手順をこう変えた。


3.チェリー当選後は4.0秒毎にレバーオン


そして、次に4.の手順だが。


4.  3.を4回繰り返し5回目は2.0秒でレバーオン


4年間で一日分の時間が余り、4年に一度だけ調整の為に一日増えるうるう年事をヒントにしたもの。
つまり、5回目のレバーオンで誤差を調整したのだ。

だが、誤差が調整出来ても問題はある。
それは、4.の手順である2.0秒でレバーオンできるか?だ。
これはどう考えても不可能だと結論付けた。
しかも、4.の手順ではメダルロスも発生してしまう。

そこで、もっとシンプルに考えたのだ。

先に述べたように3.6秒は無理だが、4.0秒なら時計でも狙える。
4.0秒が可能なら5.0秒も可能。
なら、3.6秒×5周期=18.0秒なら時計でも狙える事になる。

つまり、3.6秒のチェリー周期をその都度狙うのではなく、5周期に一度だけ狙う。
ならば時計の秒針でも可能だ。

チェリー当選時の秒針の位置を記憶しておけば、以降は18秒毎に周期が訪れる。
さらに、3分で最初の秒針の位置に戻る為、長針の位置も記憶していれば、途中で席を立とうと休憩を挟もうと、リセット(設定変更orBIG)されない限り周期は狙えるから万全だ。
しかも、メダルロスも発生しない。

しかし、副作用もある。
それは、チェリー出現後は極端に消化が遅くなる事。
まぁ、効果と比べると無いと言ってもいいぐらいの副作用だな。


「確かに、簡単で誰でも思いつきそうですね」
「だろう? だから誰かが見つけて使いだすのも時間の問題だ。 稼ぐなら早い内に、だな」
「でも、運の要素も強いですよね」
「そうだな、現に俺も初期投資はかなり要した。 だから、今後俺はボルテージを打たないつもりだ」
「えぇ~、勿体ないんとちゃうん」


ノアは勿体ないと言うが、稼ぎの種にするにはマシュウの言う通り運の要素が強すぎる。
それに、あのギルドには行くどころか近づきたくもない。


「でも、なんでアタシじゃなくてムコウマルさんに行ったんやろ?」


それは、あのギルマスの性癖のせいだ。

はっ!
今思えば、最初に俺に声を掛けてきたスタッフは、ギルマスの性癖を知っていたのでは。
だから、あんな憐れんだような表情をしていたのではないのか?

果たして彼はその毒牙に掛かっているのか。
それとも俺同様、無事その場を切り抜けられたのか。

立場上、ギルマスには逆らいにくいはずだ。
あの表情から察するに、彼もギルマスと同じ性癖であるとは考えにくい。
後者であって欲しいものだ。


「なんだって!」


ノアの疑問に鋭く反応したのはマシュウだった。
なんだか殺気立っている。


「ノアちゃん、その話しは本当かい?」
「えっ、ええ、ホンマですけど」
「マシュウ先輩、それがどうしたんですか? アタシも何でやろとは思いましたけど」


今日、ギルドに行った俺以外の全員が疑問に思っていたらしい。
その事は忘れたいからぶり返すんじゃないよ。


「サトシさん、その時の事を詳しく聞かせて下さい」


おいマシュウ。
忘れたい事を俺の口から言わせるつもりか。
さてはお前、ドSだな。
ミヅノはそんな事…… いや、アイツもそう言えばドが付くSだったな。
俺に対してはそんな事はなかったはずだが…………


「その事はもういいじゃないか、こうして無事皆勝ったことだし」
「詳しく話して下さい!!」


うっ。
マシュウの圧が凄い。
これは正直に話すしかないのか。
それとも、適当に誤魔化すか。
でも、適当に誤魔化すのは俺には無理そうだ。
それは、タケシと初めて会った時に証明されている。

ええ~。
正直に話すのぉ~。
マシュウは一歩も引きそうにないし……

仕方ない。
これが最後だからな。


「分かった、全て話す。 だが、その前に断っておく、俺は操を断固として守った!」


最後の言葉に、皆は頭に?マークが浮かんでいる。


「この話は、もう二度としないからな」


そう前置いて俺は話しだす。
その前に、酒をできるだけ用意し俺の前に並べる。
使ったグラスは、後で全部俺が洗うから勘弁してくれタケシ。
酒なしで語るのは耐えられないからな。
まぁ、語らなくてもこれぐらいは平気で飲むが。

話している内にマシュウが怒り出している事が分かった。
それに、なぜかノアも激怒。
他の皆は苦い顔をしている。


「許せん!」
「せやね」


マシュウとノアがボソリと言う。


「アタシでさえ、ムコウマルさんの裸は見てへんのに」


“ でさえ ”ってなんだ“ でさえ ”って。
俺が、ノアの言葉に呆れていると、突如マシュウが頭を下げて言う。


「申し訳ございません。 護衛の立場でありながらサトシさんを危険な目にあわせてしまって」
「お前が謝る必要はないだろ。 お前は仕事だったんだから俺とは別行動だったし」
「いえ、有給を取るなど方法はありました。 これは私の怠慢です」
「いやいや、なぜそうなる」


とにかく頭を上げろと言うと、マシュウは渋々ながら頭を上げた。
さっき許せんとか言っていたのは自分に対してか。


「すぐに手配します」
「手配?」
「お任せ下さい」
「だから、何を手配するんだ?」
「ちょうど良い機会ですので、あそこのギルドには潰れてもらいましょう」
「えっ、潰れてもらう!?」


潰れてもらうって、お前個人にそんな権限があるのか?
いくら警官とは言え、それは無理なんじゃ。
疑問に思い尋ねてみると、マシュウは説明してくれた。

元々、このギルドにはよからぬ噂が複数立っていた。
それは、ギルマスの性癖の噂だ。

マシュウは個人的に調べ噂を辿り、被害者と思しき人物に話しを聞いても当人は言葉を濁すばかり。
俺には、その気持ちが痛い程分かる。
ギルマスの毒牙に掛かったのか、そうではないかに限らず思い出したくはないはずだ。
そんな思い出すだけでも悍ましい事を話したとなれば、精神に異常を来す恐れもある。
マシュウもそれを懸念したのか深く追求しなかったのだろうな。

今回、未遂とは言え俺は被害者となった。
マシュウ曰く証拠はそれで十分だと言う。
後は俺が被害届を出すだけだと。


「サトシさんの個人情報は勿論秘匿しますのでご安心を」
「そうだな…… これ以上被害者を出さない為にも釘を刺す必要はあるか。 よし、分かった、被害届は出そう」


証拠は不十分だと思うが、後の被害者を減らせるならと言うと、マシュウは「ありがとうございます」と頭を下げた。

しかし、マシュウはあのギルドを潰すと言っていた。
これだとギルマスを失脚させる事は出来ても、ギルド自体を潰すには無理な気がするのだが。
その事を疑問に思い尋ねてみる。
マシュウは「ここだけの話しですが」と答えてくれた。


「スケープゴート?」
「はい」


現行機のパチスロはウラモノ違法な機種が蔓延し過ぎていると言うのだ。
蔓延し過ぎた理由は現行機の規制がいささか厳しいのもあるのだが、一番の理由は取り締まる方が、違法な機種と知りながら黙認していた事。
黙認していた理由なのだが、これは俺が元いた世界でも同じ理由だった。
規制する側上層部の天下り先の確保だ。

規制する側はマシュウとナナが属する組織だ。
二人共なんとも複雑な表情をしていたが、破綻の未来しか見えなかったP・P業界の事を考えると黙認せざるを得なかったようだ。

俺も同意見だ。
エンドユーザーに被害が及ばないのであればだがな。

しかし、違法な機種をいつまでも放置している訳にもいかない。
P・Pユーザーは事情を周知していても、P・Pを遊技しない人間からすれば、その異常さは理解し難いだろう。
そう言った声は以前からあがっていたが、規制する側はのらりくらりと躱していた。
だが、最近規制する側のトップが入れ替わったと言うのだ。

その入れ替わったトップが最初に行った大仕事が規制の緩和。
ウラモノは規制の枠をはみ出ているから違法なのである。
なら、その違法を合法にすれば、ウラモノはウラモノではなくなる。
しかし、「規制を変更しましたから合法ですよ」と謳っても、世間は規制する側の都合の良い方に規則を変えただけだろうと非難が殺到するのは明白。

そこで登場するのがスケープゴートだ。
規制する側は、違法な機種を設置・稼働させている側に責任があると主張。
見せしめに、違法な機種を設置しているギルドを摘発し、非難の目を逸らすのが目的だと言うのだ。
なんとも酷い話しだ。

摘発するギルドを模索している所に例のギルマスの噂もあり、件のギルドがスケープゴートにされる可能性は高いとマシュウは言う。
ギルマスは自業自得だとしても、そこで働くスタッフは気の毒だな。

しかし、摘発されたからと言ってギルドが潰れるとは限らない。
だが見た所、器具を使わなければ攻略法を認めているだけはあって出玉面でのサービスは良いとは言えない。
勿論、客もその事は理解している。

このギルドは設置機種がウラモノであるがこその客付きだったからな。
そのウラモノが摘発・撤去されたとなると、客は皆無となるだろう。

例え出玉面のサービスを優良ギルドへと舵を切り直したとしても、その事に気付くユーザーが果たして何人居るのか。
気付くには、そのギルドで遊技するしかないのだが、このギルドの出玉サービスは悪いと認知されているのだから、遊びに行くユーザーは一握りだ。
加えて、摘発までされたギルドにわざわざ行くか?と考えるとその一握りはさらに減る。

後任のギルマスの手腕が問われるが、摘発されたギルドの長になりたがるような人間が果たして存在するのか。
まぁ、世の中にはいろんな人間が居るから、全くのゼロと言う訳ではないだろう。
だが、少なくとも俺は遠慮したいな。
そんなオファーは来ないと思うが。


それから数日後。
マシュウの言う通り、件のギルドが摘発された。

それとほぼ同時期に、P・Pの内規が変更になると発表があった。
この内規の変更が、後に俺を苦しめる事になるとはこの時は全く思ってもいなかった。



※注)パチンコ・パチスロ店は18歳未満の方は入場できません(高校生は不可)
   ネットに溢れる攻略法はガセが多いと聞きますのでご注意下さい
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