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第31話 ボルテージ③

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「 「おはようございます」 」


翌朝、ギルドに着くと夫婦が挨拶してくる。


「おはよう、準備は?」
「出来ています」
「そうか、しつこいようだが、少しでも体調が悪くなれば直ぐに止めるんだぞ」
「はい」


旦那の方に、「具合が悪そうならすぐに止めてくれ」と言うと、「はい!」と頷く。
今は薬もほとんど服用しない程改善していると聞いたが、倒れた現場を直接見ている俺にとっては不安が残る。
頼むから、無理だけはしないでくれ。


「サトっちゃ~ん」
「えっ、コフィレさん? なぜここに?」
「やめてよ~サトっちゃん。 コフィーでいいって言ったでしょ~」
「あっ、ああ、すまない、慣れないもので。 で、なぜここに? 店は?」
「実はねぇ~」


今朝になって、店のエアコンが故障したそうだ。
今の時期、エアコン無しでは暑くてお客にも迷惑が掛かるだろうからと臨時休業にしたとの事。
タケシはエアコンの修理に立ち会わなければならない為店に残ったが、コフィレはやる事がない。
そのまま店に居てもよかったのだがこの暑さだ。
自宅へ戻ろうとしたのだが、今日、俺達がこのギルドに来ているのを思い出し来たのだと言う。


「ギルドはエアコンが効いているからね~。 それに、私も結婚前はスロットを良く打っていたのよ~」
「そうか。 で、涼みがてら稼ごうと」
「目押しのコフィーとか言われていたのよ~」


そんな二つ名があったのか。
聞いた限りでは、目押し技術が高いが故に名付けられた二つ名なようだが、ボルテージは目押しの技術が特段に必要な訳ではない。
だが、目押し技術は有って得をする事はあっても損をする事は無い。
金融投資をしているコフィーにとっては、パチスロで稼ぐ金額なんて大した額ではないだろうが、息抜きぐらいにはなるだろう。


「タケさんから、仕入れた食材がいっぱいあるから終わったら食べに来てって。 その頃にはエアコンの修理も終わっているだろうからって。 そちらのご夫婦も一緒にね~」
「 「私たちもですか!?」 」
「タケシの料理は絶品だぞ」


二人は恐縮していたが、コフィーの「どうせ捨てるから食べてもらった方がありがたいのだけれどねぇ~」との言葉に、二人は「お言葉に甘えます」と頭を下げている。


「お待たせしました」


そんな話をしていると、ギルドスタッフが開店の時間だと告げる。
俺達の他に、開店待ちをしていた人数は、ザッと見た所20~30人。
このギルドにボルテージは30台程設置されているから、急がなくても確保できる。
待っていた客が全員ボルテージに行く訳ではないだろうからな。
俺はゆっくり入店するつもりだったが、ノアとナナは開店と同時に猛ダッシュ。

そう言えば開店を待っている間、二人共ずっとソワソワしていたな。
ナナの同じような様子は以前見た事がある。
トイレに行くのを我慢していると勘違いしていたが、あれはギャンブルがしたくて仕方がない時の仕草だ。

双子であるノアも同じなのだろう。
ましてや、今回は攻略法を使う。
確実ではないが、かなりの確率で勝つ事が出来る。
二人共、早くギャンブルがしたくて仕方がなかったのだろうな。

そんな二人を後目に、俺とコフィー、そして夫婦はゆっくりと店に入る。
やはり、並んでいた客が全員ボルテージに行った訳ではなく、他の機種を打っている姿が目に入る。
パチスロコーナーに到着すると、空き台が多数あった。

その中に、ノアとナナの姿が。
二人並んで座っている。
どうせなら、と俺はノアの隣に座る。
その隣にコフィーが座り、さらにその隣に並んで夫婦が座る。
奇しくも、俺達6人全員が並んで座る形となった。


「これは…… 全員出したらめっちゃ目立つな」
「目立って大いに結構、俺達は正当に攻略している」
「それもそやねって、あっ」
「おおっ!」


ノアと俺が会話している内に、ノアに早速チェリーが出現。
さぁ、攻略法の出番だ。


「投資は?」
「千エソ」


運の要素が強い為、初期投資は結構掛かると予想していたが、ノアは最低投資でチェリーを引っ張ってきた。
尤も、最低投資で攻略法の出番と相成った訳だが、これで投資が止まる訳ではない。
この攻略法は、状態の突入契機であるチェリーの出現率をUPさせる攻略法だが、UPしたからと言って、必ず状態に突入する訳ではない。
状態突入はチェリー成立時の1/11だからだ。

この1/11が結構クセモノなのだ。
現にノアは攻略法を使い、チェリーの出現率をUPさせてはいるが、ボーナスを引っ張ってきていない。
つまり、1/11を外し続けていて、状態に突入していないのだ。

そして、俺が懸念しているのは、投資額だけではない。
いや、この場合は懸念とは言わないか。

この攻略法は俺が知らない攻略法だ。
攻略法を知らないが、裏返ったボルテージの仕様は知っていて、その仕様は俺の記憶通りだ。

しかし、目の前にある機種は本当にボルテージなのか?
確かに、パネルにはボルテージのロゴがある。
あるのだが、ノアが引いたチェリーを見て違和感を覚えた。

チェリーのデザインが俺の記憶と違うのだ。
チェリーどころか、他の図柄のデザインまで違う。
そして、停止形を見る限りでは、そのリール配列も違う。
てか、このリール配列は……


「ノア、お前攻略誌を持って来ていたな」
「うん、持って来てんで」
「ちょっと見せてくれないか」
「攻略誌を? 今更なんで?」
「気になる事があってな。 もしかすると、攻略法がもう一つ増えるかも知れない」
「増える!?」
「ああ」


ノアから攻略誌を受け取りページをめくる。
後ろでギルドスタッフがゴホンとわざとらしい咳払いをする。
攻略法を認めているギルドとは言え、堂々と攻略誌を広げているのは看過できないのだろう。
俺は、一旦席を立ち外へ出て、攻略誌のボルテージのページを探す。


「やっぱりか」


そのリール配列を見た俺は、そう独り言ちる。
この図柄とリール配列は、俺の記憶にあるボルテージの“それ”ではない。
この図柄とリール配列はあの機種だ。
ならば、あの攻略法が使えるはずだが、中身はボルテージ。
これは、検証の必要があるな。
それに、この攻略法は正確な目押しが必要だ。

俺の目押し力で攻略できるか?
慣れれば出来るかもだが、最初の検証はコフィーに頼むか。
目押しのコフィーと呼ばれていたらしいから得意なのだろう。

席へ戻り、コフィーに攻略手順を説明する。
コフィーは目を丸くし「本当にそんな事出来るの!?」と聞いてくる。
それが分からないから検証して欲しいんだ。

とにかく、目押しは大丈夫かと尋ねると、コフィーはそれぐらいなら問題ないと言う。
それぐらいと来たか。
ここまで言うのなら相当自信があるのだろう。
頼もしい事だ。

こうなると、最も早く検証できるのはノアだ。
ノアには早めに状態に入れて欲しいが、こればかりは運任せでどうしようもない。


「覚悟はしてたけど、コレ、結構ヤキモキすんな」
「焦る必要はない、なんなら少し休憩してきたらどうだ」
「いやいや、大丈夫やで。 って」
「おっ、やっと来たか」


ノアにボーナスが訪れた。
状態突入確定だ。

最初のボーナスはREGボーナス。
REGボーナスでは約90枚のメダルが獲得できる。
REGボーナスに対し、BIGボーナスはフリーダムベルやコチンネタンル同様、約360枚獲得できる。
普通なら歓迎するべきではないボーナスだが、事、ボルテージに限っては歓迎すべきボーナスだ。
なぜなら、状態が転落しないから。

しかし、新たな攻略法が通用するかを検証するにはBIGボーナスが必要だ。
まぁ、ノアの台は状態が確定しているから、いつか必ずBIGボーナスは訪れる。
それまで、出来るだけREGボーナスでメダルを増やして欲しい所だ。

そんな想いとは裏腹に、次のボーナスで早くもBIGボーナスが訪れた。
これは、状態が転落している可能性があるがその確率1/11。
そうそう一発目から転落はしないだろう。
それに、検証のチャンスだ。
コフィーに合図すると軽く頷いている。


「ノア、ちょっとコフィーに変わってくれないか」
「??? なんで?」


俺は事情を説明する。
ノアは驚いている。
目押しはノアも出来る方だが、正確性は疑問が残るとの事。
ノアに「このギルドでは代打ちは大丈夫か?」と尋ねると、「う~ん、分からへんけど攻略法認めてるぐらいやし、告知もないから大丈夫ちゃう?」との事。

まぁ、確かに一つの台を二人で遊技して楽しんでいるビギナーも居る。
それをギルド側も何も言わないから大丈夫か。


「よし、コフィー、頼む」
「任せて」


コフィーは俺が説明した通りの手順でBIGボーナスを消化し始める。


「ここね」
「そうだ。 失敗しても構わないから気楽にな」
「任せて」


俺も出来ない事は無いが、成功率は決して高いとは言えない。
ノアも同じだろう。
練習も兼ねて、二人してリールを凝視してタイミングを計る。
コフィーは最初のリールを押したかと思えば、残りのリールをとても目押ししているとは思えない速度で残りのリールを止める。

おい!
話しを聞いていなかったのか?
目押し技術が必要なのは、最初に止めるリールだけではなく全リール必要なんだぞ。
そんなスピードだと、適当に押したにしか見えないぞ。


「本当に出来た」


コフィーが言う。
見ると、攻略法が成功している。

あんな速度で正確な目押しをしたのか。
バケモンだ。
目押しのコフィーの二つ名は伊達じゃないな。


マジックベンハー。
それが、このリール配列と図柄が全く同じだった機種の名前。
マジックベンハーには攻略法が存在した。

この攻略法の概要はこうだ。
ボルテージに限らず、パチスロ現行機のBIGボーナスは、30回の小役ゲームと3回のJACゲームでメダルを増やして行く。
JACゲーム1回あたり90枚メダルが増え、プラス小役ゲームを消化する事で合計約360枚獲得出来るのだが、この攻略法を使うと1000枚以上獲得できる。
つまり、同じ1BIGでも約3倍のメダルが獲得出来るのだ。

では、なぜ約3倍のメダルが獲得出来るのか。
30回の小役ゲーム中に、再びBIGボーナスをスタートさせる事が出来るからだ。
それが、この攻略法の全容。

これは、BIG中のリール制御と、配列の盲点を突いたからこそ可能となった攻略法だ。
その手順を説明するが、詳しく説明すると長くなるので簡単に。

BIGボーナス中の特定ゲームで、2枚掛け&変則押しをし、スリーセブンを揃える事でプラス2回のJACゲームが得られる。
この手順を繰り返す事で、最大10回のJACゲームを消化できる。
それに加え、30回の小役ゲームを消化できる為、最大1000枚以上のメダルを獲得出来るのだ。
この攻略法は、BIG1000枚抜きと呼ばれていた。

但し、2枚掛け&変則押し時にはシビアな目押しが必要となる。
そこで、必要となるのが高い目押し技術なのだ。

目押しが成功しても問題があった。
その問題とは、この攻略法の元となったマジックベンハーがノーマルヴァージョンである事。
つまり、ウラモノ化されていない状態でしか通用しなかったからだ。

今打っているボルテージはウラモノだ。
俺の記憶と同じなら、1000枚抜きは通用しない事になるが、どうやら通用したようだな。
まぁ、ボルテージのリール配列が俺の記憶と違ったから、ウラモノでも攻略法が通用したのだろう。

とにかく、新しい攻略法が通用する事が分かった。
しかし、この攻略法はヘタをすると、獲得枚数が減る場合もある。
目押しはコフィーに任せる方が無難だな。

コフィーにBIGボーナスの消化は頼めるかと尋ねると二つ返事で了承してくれた。
負担が大きくなり申し訳ないと言うと「サトっちゃんと私の仲じゃないの~」と背中をバンバン叩かれた。
いつの間にそんな仲になったのか分からないが、そう言ってくれるのは俺としても嬉しい限りだ。




※注)パチンコ・パチスロ店は18歳未満の方は入場できません(高校生は不可)
   ネットに溢れる攻略法はガセが多いと聞きますのでご注意下さい
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