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第20話 エンカウント

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帰りの問題が解決したので検証を行う。
こんな遠い所まで来たんだ。
タダでは帰りたくない。
頼むから攻略法が通用してくれよ。

パチスロコーナーへ到着するも、ここで新たな問題が発生。
空き台がないのだ。
このギルドは大型ギルドの為、設置台数も多いのだが全て埋まっている。
これでは検証のしようがない。

元いた世界のこの時代でもそうだったのだが、一店舗につきパチスロは一機種しか設置できなかった。
パチンコの方はそう言った規制はない。
しかも、パチスロはその店舗のパチンコ設置台数に対しての決まった割合でしか設置できないと言う規制もあった。
これは、勝ち過ぎ&負け過ぎを考慮したものだと言う。

パチスロのミニマムベットは、パチンコのミニマムベットの10倍。
払い出しも10倍となる。
パチスロの割合が増えてしまうと、それだけ勝ち過ぎ&負け過ぎる者が多くなるとの理由だそうだ。
負け過ぎるのを防ぐのは分かるが、勝ち過ぎるのを防ぐのは理解しがたい。
まぁ、依存し過ぎるからと言うのも分からなくはないが、何事も“過ぎ”なければ良いのだ。

他のギルドへ移動も出来ないので、台が空くまで待つしかない。
郊外ギルドな為、食事が出来る施設が併設されているのが救いだ。
小腹がすいていたので、そこで腹を満たす。

それでも、一向に空かない。
見た所、かなり出ている。
ただ、出ているだけで優良ギルドだと判断するには早い。
出ているのは今日だけかもしれないし、これだけ客付きがよければ出ないはずの台もたまたま出る事もあるだろう。
だが、まぁ、優良かそうでないかは気にする事はない。
今日の目的は攻略法が通用するかどうかだ。
例え攻略法が通用したとしても、これだけ遠いギルドだとそうそう来る事が出来ないだろうし、来るつもりもない。
車があれば話は変わってくるが、その車も無い。
車どころか、免許がない。
いや、有るには有るのだがそれは元いた世界での免許証だ。
この世界では無免許扱いになるだろうから運転はしない方が無難だ。

おっと。
ようやく一台空き台になったな。
これだけ客付きが良い中で空き台になるのだから、この台はダメな台だろう。
だが、俺には関係ない。
攻略法があるからな。
もし通用しなければすぐに止めて帰ればいい。
無駄足になるがそれは必要な無駄だ。

空き台を確保し席に着く。


コチンネタンル


それが、この機種の呼び名。
攻略法の手順はこうだ。


1. メダルを3枚投入
2. レバーオン
3. 直後にメダルを1枚追加投入
4. 4枚目のメダルが呑まれれば成功


以上だ。
俺がいた世界では、コチン4枚掛けと呼ばれていた。

コチンネタンルには、4枚目のメダル投入信号を感知すれば、強制的にボーナスフラグを成立させるプログラムが組まれていた。

本来であれば、4枚目のメダルを感知する事はないのだが、ランダムに4枚目のメダル投入信号を発生させる機能を持った「DS-90」と呼ばれる部品が搭載されており、プログラムと組み合わせる事でボーナスの連チャンを発生させる仕組みとなっていた。

だが、この「DS-90」には設計に問題があり、手入れで4枚目を投入すると、投入信号を感知する。
つまり、4枚目のメダルが呑まれればボーナスのフラグが立つのだ。

全滅はボーナスフラグが成立していなくても、スリーセブンを揃える事で強制的にビッグボーナスをスタートさせていた。
だから、シビアな目押しビタ押しが要求されたのだが、4枚掛けはそこまでの目押しは必要ない。
すでにボーナスフラグが成立している訳なのだから、最低限の目押しで良いので技術介入はほぼ無いに等しい。
その分、4枚目を投入するタイミングが結構シビアだったので毎回成功する訳ではない。
だが、実際に現場で使用するとなると、毎回成功しない方が都合が良かった。
何故ならスタッフに目を付けられないから。
絶え間なくボーナスに入ればそれだけ注目を浴びるだろう。
その問題を、4枚掛け攻略法の適度な難易度が解決していたのだ。

さて。
早速試すか。

メダルを3枚投入し、レバーオン。
すぐさまメダルを1枚投入。
これが吞まれれば成功なのだが、チャリンと音をたてて下皿に戻ってきた。
つまり失敗。

失敗したからと言って、攻略法が通用しないと決まった訳ではない。
4枚目投入のタイミングは結構シビアだ。

再度試す。
今度もメダルは呑まれず戻ってきた。
これは想定の範囲内。

だが、それから借りたメダルが尽きるまで試すも全て失敗に終わった。
さすがにこれだけ失敗するとは思わなかった。
確かに、4枚目を投入するタイミングは結構シビアだったのだが、俺の記憶だとここまでの難易度ではなかった。
ならば、対策済み?

この攻略法の対策は簡単だ。
「DS-90」を交換すれば良いだけだからな。
費用的なモノは俺にはわからないが、一部品に過ぎない「DS-90」が高価だとは思えない。
対策済みと考える方が妥当か。

そう結論付けたのだが、せっかく2時間以上掛けてここまで来たんだ。
俺の投入タイミングが悪いだけだと、うっすぅ~い希望を抱いて追加投資をする。
だが、やはり悉く失敗する。
「やはり対策済みか……」と諦めていた所でそれは起こった。
4枚目のメダルが呑み込まれたのだ。


「!!!!!」


しかし、安心するのはまだ早い。
4枚目が飲まれただけで、ボーナスフラグが成立しているとは限らない。
『宝馬記念』の1~5着までは俺の記憶通りだったが、それ以外はバラバラだったように、4枚掛けも一部記憶と違う可能性もある。
4枚掛けの難易度が違った以上、その可能性は高い。
果たして……



― ベップ視点 ―


「では、私は失礼します」
「お疲れ様でした」


研修が終わり施設を後にする。
我々の組織の研修施設は地方にある。
国民からの税で運営する以上、研修施設を造る場所は地価が比較的安価な地方に限られる。

昨日からの研修を終えた私は帰路に就く。
これからおよそ3時間のドライブだ。

車の運転は正直あまり好きじゃない。
今は症状がほとんど出なくなったが、パニック障害を患っていたから。
本来なら、一時間半もあれば目的地に到着するのだけれど、再発防止の為にも休憩をかなり多くとっている。
今日は仕事も終わったし、明日は休暇だから急ぐ訳でもない。
のんびり帰ろう。

30分程走った所で予定していた休憩スポットに立ち寄る。
ここは、湖畔に面した道の駅で景色も良い。
湖の向こうの山肌に沈みかけた太陽が空を朱に染めようとしている。
そんな美しい景色を見ながら摂る軽食は非常に美味だ。

食事を終え車を走らせる。
次に予定している休憩場所はコンビニ。
道の駅から15分程の距離だ。

コンビニと言ってもフランチャイズチェーンではなく、個人経営のコンビニなのでこじんまりしている。
老夫婦が経営しているこの店は、コンビニと言うより田舎の雑貨屋さんの方が似合いそう。

ここを休憩スポットにしているのは、この老夫婦と会話すると癒されるから。
研修の為、定期的にこの地に訪れるが、毎回この老夫婦の顔を見に必ず立ち寄る。
老夫婦も嫌な顔せずに迎え入れてくれるだけでなく、私に「おかえり」と笑顔で言ってくれる。
二人にはいつまでも元気でいてもらいたいな。


「今日はこの後天気が崩れるみたいだから気を付けて帰ってね」
「ありがとうございます、急ぐ訳でもありませんのでゆっくり帰ります」


昨日までの予報では雨の心配はないはずだったのだけど、大気が不安定なのだろう。
この時代ではまだ認知されていないがゲリラ豪雨と呼ばれるもの。
遭遇すれば安全な場所に車を停めてやり過ごそう。

車を走らせるとラジオかバリバリとノイズが入る。
これは、落雷がある証拠だ。
進行方向の空を見ると、雷光であろう光が瞬いている。

雨がフロントガラスを濡らし始めると、徐々に雨足が強くなってきた。
早く安全な場所に車を停めてやり過ごそうにもその停める場所がない。
幸いにも路肩は広い為、車を路肩に寄せて停めても安全は確保できるだろう。
しかし、それは少々不安がある。
パニック障害が再発しかねない。
出来るなら、狭い車内ではなく広い場所でゲリラ豪雨をやり過ごしたい。
確か、ここから目と鼻の先に大型のP・Pギルドがあったはず。
そこでやり過ごそう。

P・Pギルドに到着し車を停める。
そのタイミングで、土砂降りとなった。
周りが一瞬明るくなる。
数秒後、轟音がなり響く。
恐らく落雷があったのだろう。
光ってから音が聞こえるまで間があった事から、すぐ近くではないだろうが遠い訳でもなさそうだな。
車を出て急いでギルドへ入ろうとした所で、ひときわ大きな轟音が響いたと同時に、周辺の灯りが消えた。
落雷による停電か。
ギルド内も真っ暗だが中に入った。

程なく停電が復旧。
ギルドに灯りがともされたが、全体的に騒がしい。
無理もない。
いつの時代でも停電となれば人は動揺する。
ましてや、ここはP・Pギルド。
停電の影響で大当たりが無効になってしまうかも知れないと、大当たり中の客は大騒ぎするだろう。
しかし、ギルド内には自然災害等で大当たりが無効になった場合の補償はしないと告知されている。
尤も、パチンコパチスロ機は例え電源が落ちてもRAMさえクリアされなければ大当たりは残っているのだけれどな。

その辺りの説明はギルド内放送で説明されるはず。
そんな事を思っていると、案の定マイク放送があったのだが、その内容は全く違った。


『お客様の中でお医者様はいらっしゃいますか? いらっしゃればお近くのスタッフまでお声掛け下さい』


なんだって。
医者が要るって事は、さっきの停電でケガ人でも出たか?
それとも、急病人。

いずれにしてもこれは緊急事態だ。
私に医療の知識はないが、何か役に立てるかもしれない。


「君、私は医者ではないが警官だ、役に立てるかどうかは分からないが、何があったか聞かせてくれないか」


近くのスタッフに声を掛ける。


「えぇっとですね、お客様が倒れたみたいで」
「倒れた? そのお客は!?」
「近くのお客様が介抱されて、今は休憩スペースのソファーに居るとか」
「容態は?」
「僕にはよく分かりません、救急車は呼んだみたいですが」


この荒れた天気では救急車も来るのは遅れるだろう。
ましてや、ここは街から離れた郊外。
なら、私の車で患者を運ぶか?
私の車には連絡用の無線もある。
無線で所轄に連絡すれば、救急車を待つよりかは早く病院に辿りつけるだろう。
だが、その間に容態が急変すればどうする事もできない。

どうする。
まずは、その患者の所まで行こう。
そう思い休憩スペースへと向かうと、ソファーで横になっている女性と、傍に男性が見えた。
横になっているのが患者で、男性は介抱しているのか。


「AEDを。 誰かAEDを持ってきてくれ!」


男性がそう叫ぶ。
AEDだって。
なら、患者は呼吸をしていなく意識もない状態か。
最悪は心停止。

これはマズい。
AEDは確かに効果的だが、この時代にはまだ無い。



*****



4枚目のメダルが呑まれた。
これで、ボーナスのフラグが立っているはずだ。
後は、簡単な目押しでスリーセブンを狙えば揃うはずだ。
まずは左リールに7図柄を狙う。
が、このタイミングで、隣の女性客が俺にもたれ掛かってきた。

チッ。
一体なんだ。
大事な所なのに。

客を睨みつけるがどうも様子がおかしい。
胸を押さえて苦しそうにしている。
息も荒い。
遂には、椅子から崩れ落ちそうになる。


「おいっ、大丈夫か!?」


慌てて崩れ落ちそうな所を支えるのだが、完全に俺に身体を預けてくる。
女だったのが幸いし、体力のない俺でも抱きかかえる事が出来た。

とにかく横にさせるか。
俺は女を抱きかかえたまま、休憩スペースのソファーへと立ち上がる。
途中でギルドスタッフが気付いたのか俺に声を掛けてくる。


「どうしました」
「急に倒れたんだ、救急車を」
「!!!分かりました」


ギルドスタッフが俺の言葉に救急車を呼びに行こうとする。
その瞬間、全ての照明が消え真っ暗になる。
店内は騒然となる。

停電か。
くそっ、タイミングの悪い。

暗闇の中、女を抱えたまま休憩スペースを目指す。
郊外の大型ギルドで助かった。
通路は比較的広い。
客も騒然としているが、あわてて席を立つような者もいない。
この辺りはギルドスタッフが声掛けしているからだろう。

休憩スペースへ向かっている途中で灯りがつく。
到着し、女をソファーに寝かせる。


「大丈夫か!?」


声を掛けるも返答はない。
意識はあるようだが、息はさらに荒くなり苦しそうに胸を押さえている。
胸を押さえていると言う事は、心臓に何か疾患があるのか。
なら、最悪心停止も。

くそっ。
救急車はまだか。
ここは郊外だから来るまで時間が掛かるのか?
その間に心停止でもすれば……

そうだ。
万が一に備えて。


「AEDを。 誰かAEDを持ってきてくれ!」


そう叫ぶ。
これだけの施設だ。
AEDを置いてあっても不思議じゃない。

だが、誰一人として行動を起こすような者はいない。
それどころか、皆首を傾げているように見える。
この反応を見るとAEDを置いていないのか。
すると、一人の男が駆け寄ってきた。


「この時代にはAEDは存在しません」


男はそう言う。


「そ、そうか。 いや、そう言えば確かに」


なら、どうする。
出来る事と言えば心臓マッサージぐらいか。
ならば、ソファーより床に寝かした方が良い。


「なら、彼女を床に寝かすか?」
「いや、ちょっと待って下さい」


心臓マッサージに備え、女を床に寝かすかと提案した俺に男は待ったを掛ける。
この男、医療の知識があるのか。
なら、任せるか。


「私は警官です、失礼ですが持ち物を改めさせて頂きます」


男は手帳を見せ言う。
警官?
医者じゃないのか?
それに、持ち物を改めるってどう言う事だ。


「あった」


警官だと言う男はそう呟く。


「水を。 水を持ってきて下さい」


男は俺に言う。


「分かった、水だな」


俺は水を求めて立ち上がる。
確か、食事が出来る場所の近くに自販機があったはずだ。
自販機で水を購入し男に手渡す。
男は「これで薬を」と女に促す。
薬?
一体どこから?
女は震える手で水を受け取り薬を飲み込む。

相変わらず息は荒く苦しそうにしている。
だが、薬を飲んだのだ。
快方に向かう事を願い様子を見る。

それから10分程経った所で薬が効いたのか、女の息は徐々に整い顔色も良くなってきた。
どうやら大丈夫そうだな。
ホッと一息つく。


「ありがとうございました」


女は男と俺に頭を下げる。


「いや、俺は何もしていないと言うか出来なかった、礼なら彼に言ってくれ」


俺は、彼女を運んだだけだからな。
大して役に立てなかった。
反面、隣の男はその知識で彼女に有効な薬を飲ませたのだ。
礼を言うのはこの男にだろう。


「貴女が薬を持っていてくれて助かりました」
「薬を常に持ち歩いているので油断しました、近頃は症状も全く出ませんでしたのでさらに油断してまったのだと思います」
「そうですか、帰りは大丈夫ですか?」
「主人とここで約束していましたから一緒に帰ります、それまで待っています」
「分かりました、救急車が来るようですがそれは逆効果かもですからね、救急隊員には私から事情を説明しますのでここでゆっくりなさって下さい」


会話を聞いている限りでは、男は病状を知っているようだ。
警官と言っていたが、この世界での警官は医学も学ぶのか。
それとも、この男が優秀なのか。


「それと、何も出来なかったとおっしゃっていますが、こちらの方の助けが無ければ……」


男は俺を見て言葉を止める。
俺も男の顔を見て驚く。
確か、この男は。


「ベップ……さん?」
「ムコウマル……さん」


こうして、俺とベップは遭遇した。



※注)パチンコ・パチスロ店は18歳未満の方は入場できません(高校生は不可)
   ネットに溢れる攻略法はガセが多いと聞きますのでご注意下さい


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