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3章 言い伝えの領域へ

15-1 少年少女に慕われながら武器屋へ

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 竜との会話は有意義だった。

 まず、あの結界に訪れる勇者の情報から対策を取る算段ができた。

 討伐に当たっては竜の協力も得られそうだし、その復讐心も暴走に繋がる方向性ではなさそうで何よりだ。


 それらの結果報告は当日の内に族長にしておいたので、僕らは具体的な対策に入る。

 まずは勇者に一太刀入れられそうな武器の手配だ。

「で、この水晶を有効活用すればいいとは言われたけどさぁ。いくらドワーフでもそんな加工できるー?」

 テアは水晶のかけらをつまみ、首を傾げる。

「どうかな。鍛冶と魔法の付与に関しては僕も専門外だから」

 竜を貫いていた水晶はその膨大な魔力を吸い上げた魔石と化していた。

 水晶に付与されている力は竜に様々なデバフをかける呪いと、魔力吸収だ。

 それらを解除して竜に還元し直すだけでもいいけれど、加工して使った方が有用なこともある。

 僕とテアはそのためにドワーフの名匠を尋ねに地下集落のクレーター――鍛冶屋などが軒を連ねる商業区画へ足を運んでいた。

「エルディナンドさん、テア姐さん! お待ちしていました!」

 住宅街と商業区画を繋ぐトンネルを出たところで待ち受けていたのは先日助けたドワーフのドゥーヴルだ。


 あとはその後方。

 猫獣人のサンディと、リス獣人のウルリーカが物陰で重なり合って熱い視線を送ってくる。

 忍んでいるようで、とても目立っていた。

「重いですよねっ。素材は俺がお持ちします!」
「あ、ありがとう」

 眩しいくらいの尊敬の眼差しだ。

 彼は僕とテアが持っていた素材袋をすぐに腕で抱え、目的地を示す。

「うちの親父がこの街で指折りの名匠って言われているんです。案内はお任せください」
「ところで、後ろの二人は放っておいていいの?」

 二人の少女が隠れるのと逆方向に目的地があるらしい。

 置いていくか、わかりきった尾行をされそうな空気なので僕は真意を問うてみる。

「あ、ああ……うちへのご用事なのでお邪魔になるかなって……。その、もしよければついてくるのを許してもらえますか?」
「まあ、製作依頼をするだけだし僕らは困らないよ。ねえ、テア?」
「うん。エルがいいなら気にしない」

 と、受け答えをしていると少女たちの表情は花開く。

 ウルリーカはすぐに飛び出してくると僕の服の裾を握って、「おなっ、おねぎゃいします!」とろれつの回らない声を上げた。

 サンディもテアに近づき、似た声を上げている。


 テアは冒険者ギルドによく出入りをしているし、体術も優れているので前衛職に慕われているらしい。

 僕は後衛だし、先日ウルリーカの命を助けたこともあってこんな人気配分になっていた。

 慕われる分には悪い気がしない。

 彼らの明るい雰囲気に先導されつつ、僕らは目的地を目指す。

「ここです」

 看板もない穴倉は、知る人ぞ知る名店のような空気も感じさせる。

 奥へ進んでいくと壁に掛けられる武器が増え、熱気も増してきた。


 最奥では炉の前で金属を鍛造するドワーフ。

 彼がドゥーヴルの父で、目的の名匠なのだろう。

「お。恩人殿が来なすったか。この作業もすぐに終わるからちょいと待ってくれ! ほれ、ドゥ! ボケッとしてないで茶を用意しろ!」
「わぁってるって! それより、来るってわかっていたんだから仕事なんてせずに待ってろよ!?」
「あはは。お構いなく」

 微笑ましい家族のやり取りだ。

 大なり小なり悲劇を抱える家庭が多い獣人領の住民としては羨ましい姿であり、少しばかり胸が締めつけられる。

 傍に設置されたソファーに案内されると、ドゥーヴルの父親は慌ただしくやってきた。
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