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3章 言い伝えの領域へ

13-2 道具以上のものを族長から託される

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 近隣の村々が静かに消えていた件と合わせ、不安になっているらしい。

 族長は不安げな表情だ。

「私とイオンでマタンゴ霊洞をもう少し探索してみたんだけどね、変異している魔物を確認したよ」
「はい。いずれも大蜘蛛と同程度の力量でした。従来のレベルの冒険者に探索をさせては似た事故が増えると思われます」
「なんと。それはつまり、やつらは何か細工をし始めていたということか?」

 そう考えたくもなるのは理解できる。

 けれど、テアはそれに対して首を横に振った。

「ううん。勇者の力は本当に桁違いだから、本当に何かをしていたらもっと徹底的だよ。それこそ村が一夜で跡形もなく消えていた案件みたいに」
「確かにのう。そのような情報を掴ませる方がおかしいか。して、その顔じゃ。お前さんたちには何らかの目星がついておるんじゃな?」

 全景が見えず、頭を悩ませていた族長は降参するように問いかけてきた。

 常日頃から勇者の脅威に晒されてきた獣人領としては確かに思い至ることはある。

 この調査についてはアイオーンがテアと一緒に調べてくれたらしい。

 前もって聞かされていたこともあり、僕は彼女に目を向けた。

「はい。勇者の力はあまりにも強大で、それが振るわれた土地ではマナが少々変質し、そこに住む動植物が変異することもあります。恐らく、消えた村から流れ着いた雪解け水の影響かと」

 アイオーンは説明のために地図を取り出した。

 消えた村の一つが降雪地帯で、そこが地形的は地下水が通じそうな位置関係らしい。

「竜といい、消えた村といい、痕跡を隠そうとしているのは間違いありません。実害が出ても公にはしない方がいいでしょう。ここが次の標的ともなりかねません」
「村々を消す理由がわからぬうちは下手なことをせぬ方がマシか……」

 話を聞き、族長は頭が痛そうだ。

 けれども舵取りをする者としてはこのままでは終われない。


 はあとため息を吐いた彼は従者を呼んだ。

 その呼びかけで複数の装飾品が持って来られる。

「今までの功績もある。お前さんらを支援するのが一番の得策じゃろう。もう惜しみはせぬよ。これらが現状、用意できる耐火、耐熱のアミュレットの中で最高品質のものじゃ。これで竜のもとに赴き、勇者の目的を探って欲しい」

 何を基準に村々を襲撃しているのかもわからない連中だ。

 竜のもとを訪れる危険より明確な脅威が迫っているからこそ、判断が早かったようだ。

「お前さんらの目的は竜を助け、勇者を討伐すること。引いては砂界の緑化じゃったな? 砂漠地帯の結界に入って何をする?」
「まずは竜との会話です。そこから試みて、意思疎通ができるようなら助けて緑化に繋げたいと思います。でも、一番の目的は勇者の討伐になりそうですね」

「そうであるなら我々もありがたい。他の勇者に来られても困る。手を出すならば村々の如く、いずこで死んだかもわからぬように消し去らねばな」

 一度手を出すならば、確実に仕留めること。

 族長はそんなプレッシャーを込めて見つめてくる。

「僕らも同じ意見です。勇者の脅威がないどこかに移り住むことも考えましたけど、僕らが生き延びるだけじゃ嫌なんです」
「あいわかった。自由であるはずのお前さんたちがしてきてくれたこと、目指すものを信じさせてもらおう。必要なものがあれば最大限に融通を約束する」
「ありがとうございます」

 族長の大きな手と握手を交わす。


 必要なものはこれで揃った。

 あとは竜がいた結界に踏み込まなければ何も始まらない。


 恐らく、ここが最も先行きの見通せない挑戦になる。

 僕はテアとアイオーンに視線を向け、緊張と共に頷きかけるのだった。
 
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