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2章 砂界で始める大いなる術
11-1 成果が出てきて内輪も整理を
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治癒魔法は全身の新陳代謝を上げてくれるもの。
実用的なところで言うと、医療施設だけでなくマッサージ屋、宿屋などにも治癒魔法師が勤めている。
一晩寝ればどんな怪我も全快。
そんな冒険者もいるとかなんとか。
とにかくウルリーカは治癒魔法による後押しもあって自発呼吸ができるまでになり、引き継ぐことができた。
ドワーフの少年についても歩く元気が出てきたので彼女につきっきりになっている。
そういうわけで僕らはようやく帰路についた。
「ふう。二人とも、お疲れ様」
「私は雑魚を倒しただけだから大したことでもないけどねー」
人に称賛される活躍は主に僕とアイオーンが取ってしまった。
テアはそれを妬むわけではないけれど、お疲れさまと言われるほどの仕事もできていないので物足りないらしい。
頭の後ろで腕を組み、運動不足そうにしていた。
「苦労の甲斐があったというものです。マスター、やってきたことの成果が次第に出始めましたね?」
ふふふとアイオーンは微笑む。
当初こそ異端の移住者扱いだったけれど、今では通りすがる住民に手を振られるくらいになっている。
秘書のように控えてくれているけれど、この成果もアイオーンの助けあってのものだ。
持ち上げられても少し不甲斐ない思いがある。
「そうだね。信用も増してきたし、手に入れた真菌から抗生剤やキレート剤も作り出せればドワーフの鉱山病も克服できる。そしたらあの紅い竜と勇者にも手が届いてきそうだね」
「はい。あの真菌らが有用な成分を作ることは《解析》で選別済みですし、真菌の増殖は治癒魔法で活性化できます。順次進めていくと致しましょう」
「引き続きアイオーンの知識に頼っちゃうけど、よろしく」
アイオーンは微塵も不満がなさそうだった。
むしろひたすら嬉しそうに頬を上気させている。
「良いのです。当機能は使ってもらえてこそ、理解してもらえてこそ、価値があるもの。マスター、一つ一つ私を獲得していってください。そうして一つになれることこそ、至上の喜びです」
竜の尾を振って言うからには、かなり感情のこもったことのようだ。
自分より秀でた存在に慕われるなんてむず痒い。
けれど、彼女のように振るい手もいない聖剣みたいな存在なら自分を上手く扱ってくれる人がいることこそ嬉しいのかもしれない。
獣人領は種族からして多様だし、価値観も多様だった。
彼女がそう言うなら喜んで受け入れる。
「うん、じゃあ改めてよろ――」
「一つになるとか、猟奇的なんですけどぉーっ!?」
握手の手を伸ばそうとしたその瞬間のこと。
会話から外れていたテアが助走をつけ、アイオーンをドロップキックで吹っ飛ばした。
二人の身体能力は非常に高いとはいえ、割とシャレにならない勢いだ。
「私を差し置いてエルを独占しようなんていい度胸」
テアは腕を絡め、自分のものと主張してくる。
ドワーフ地下集落の壁面に叩きつけられたアイオーンはパラパラと振りかかった石のかけらを払い、テアを睨みながら近づいてくる。
「なるほど。そうして執着されるなら仕方ありません。私はこちらだけで十分です」
そう言ってアイオーンは奪うように僕の頭を抱きしめてくる。
「いやいや、その領土分配も猟奇的だって!?」
人の体を巡って火花を散らされても困る。
引き千切られるんじゃないかとさえ思えたので、僕は早めに二人の拘束から抜けておいた。
「二人とも、いい加減にもうちょっと打ち解けられないかな……」
テアは元々、誰彼と区別なく円満に人付き合いをする方だ。
それが未だに打ち解けてこないとは何か理由めいたものも感じてしまう。
そんな不安を視線に乗せていると、後ろめたそうな顔になったテアは息を吐いた。
「エルが私のつがいってことは抜きにして、人に好かれるのは別にいいの。こんな時代だもん。幸せになれるんなら誰が一緒でもいい。だけど、私は邪神を信用していないから」
その言葉でアイオーンはぽんと手を叩く。
「なるほど。私の発言が儀式を想起させてしまいましたか」
「そう。素性が知れないから、全部が胡散臭い」
なるほど。
やたらと当たりが激しかったのは今度こそ僕を守ろうという気持ちが先走っているからなのかもしれない。
「あれは道具の本能。言うなればただの性癖です。……しかし、わだかまりはよくありません。それに、竜を見つけた時に神造遺物の話をすると約束もしましたね。ここで深い話はなんですし、家に戻ってからと致しませんか?」
周囲にはさっきの音で人が集まりつつある。
確かにこのまま邪神などの話をするのもまずそうだ。
ひとまず僕らは家に戻り、ソファーに座る。
テアが僕にことさら引っ付き、向かいにアイオーンが座る格好だ。
実用的なところで言うと、医療施設だけでなくマッサージ屋、宿屋などにも治癒魔法師が勤めている。
一晩寝ればどんな怪我も全快。
そんな冒険者もいるとかなんとか。
とにかくウルリーカは治癒魔法による後押しもあって自発呼吸ができるまでになり、引き継ぐことができた。
ドワーフの少年についても歩く元気が出てきたので彼女につきっきりになっている。
そういうわけで僕らはようやく帰路についた。
「ふう。二人とも、お疲れ様」
「私は雑魚を倒しただけだから大したことでもないけどねー」
人に称賛される活躍は主に僕とアイオーンが取ってしまった。
テアはそれを妬むわけではないけれど、お疲れさまと言われるほどの仕事もできていないので物足りないらしい。
頭の後ろで腕を組み、運動不足そうにしていた。
「苦労の甲斐があったというものです。マスター、やってきたことの成果が次第に出始めましたね?」
ふふふとアイオーンは微笑む。
当初こそ異端の移住者扱いだったけれど、今では通りすがる住民に手を振られるくらいになっている。
秘書のように控えてくれているけれど、この成果もアイオーンの助けあってのものだ。
持ち上げられても少し不甲斐ない思いがある。
「そうだね。信用も増してきたし、手に入れた真菌から抗生剤やキレート剤も作り出せればドワーフの鉱山病も克服できる。そしたらあの紅い竜と勇者にも手が届いてきそうだね」
「はい。あの真菌らが有用な成分を作ることは《解析》で選別済みですし、真菌の増殖は治癒魔法で活性化できます。順次進めていくと致しましょう」
「引き続きアイオーンの知識に頼っちゃうけど、よろしく」
アイオーンは微塵も不満がなさそうだった。
むしろひたすら嬉しそうに頬を上気させている。
「良いのです。当機能は使ってもらえてこそ、理解してもらえてこそ、価値があるもの。マスター、一つ一つ私を獲得していってください。そうして一つになれることこそ、至上の喜びです」
竜の尾を振って言うからには、かなり感情のこもったことのようだ。
自分より秀でた存在に慕われるなんてむず痒い。
けれど、彼女のように振るい手もいない聖剣みたいな存在なら自分を上手く扱ってくれる人がいることこそ嬉しいのかもしれない。
獣人領は種族からして多様だし、価値観も多様だった。
彼女がそう言うなら喜んで受け入れる。
「うん、じゃあ改めてよろ――」
「一つになるとか、猟奇的なんですけどぉーっ!?」
握手の手を伸ばそうとしたその瞬間のこと。
会話から外れていたテアが助走をつけ、アイオーンをドロップキックで吹っ飛ばした。
二人の身体能力は非常に高いとはいえ、割とシャレにならない勢いだ。
「私を差し置いてエルを独占しようなんていい度胸」
テアは腕を絡め、自分のものと主張してくる。
ドワーフ地下集落の壁面に叩きつけられたアイオーンはパラパラと振りかかった石のかけらを払い、テアを睨みながら近づいてくる。
「なるほど。そうして執着されるなら仕方ありません。私はこちらだけで十分です」
そう言ってアイオーンは奪うように僕の頭を抱きしめてくる。
「いやいや、その領土分配も猟奇的だって!?」
人の体を巡って火花を散らされても困る。
引き千切られるんじゃないかとさえ思えたので、僕は早めに二人の拘束から抜けておいた。
「二人とも、いい加減にもうちょっと打ち解けられないかな……」
テアは元々、誰彼と区別なく円満に人付き合いをする方だ。
それが未だに打ち解けてこないとは何か理由めいたものも感じてしまう。
そんな不安を視線に乗せていると、後ろめたそうな顔になったテアは息を吐いた。
「エルが私のつがいってことは抜きにして、人に好かれるのは別にいいの。こんな時代だもん。幸せになれるんなら誰が一緒でもいい。だけど、私は邪神を信用していないから」
その言葉でアイオーンはぽんと手を叩く。
「なるほど。私の発言が儀式を想起させてしまいましたか」
「そう。素性が知れないから、全部が胡散臭い」
なるほど。
やたらと当たりが激しかったのは今度こそ僕を守ろうという気持ちが先走っているからなのかもしれない。
「あれは道具の本能。言うなればただの性癖です。……しかし、わだかまりはよくありません。それに、竜を見つけた時に神造遺物の話をすると約束もしましたね。ここで深い話はなんですし、家に戻ってからと致しませんか?」
周囲にはさっきの音で人が集まりつつある。
確かにこのまま邪神などの話をするのもまずそうだ。
ひとまず僕らは家に戻り、ソファーに座る。
テアが僕にことさら引っ付き、向かいにアイオーンが座る格好だ。
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