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2章 砂界で始める大いなる術
6-2 竜の調査を目指して族長と交渉
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「――というわけでそこにお伽噺のドラゴンみたいなものと、勇者の痕跡がありました」
「蒼き竜と紅き竜じゃな。かつてこの土地を拓いたドワーフは海より出でる竜と、火口より出でる竜が空で争うのを見たという。それによって枯れた大地には砂漠の花が咲き乱れ、竜はそれらを食み、満足すれば自分たちの領域へ帰ったとの話じゃった」
それはテアが口にしたのよりもより真実に迫る話だった。
「にわかには信じがたい。……が、お前さんたちの力量は並でないこともわかる。我らが気付けなかっただけで、そうなのであろう」
族長は、ふうむと顎髭を撫でた。
「して、話題に出したのだ。おぬしらはそれをどうする?」
「まずはそこの調査をしたいと思います。そのためにも職人から耐火、耐熱のアミュレットを入手したいですね。できるなら、ドラゴンを解放するついでに勇者を闇討ちして倒したいとも思っています」
「なるほど」
「反対しないんですか?」
眠れる獅子を起こすなとばかりに反対されるかと思ったが、それがない。
族長は考えを巡らし、はあと息を吐いていた。
「得心いったのう。まさしく厄介ごとじゃが、放置もしがたい。そこの者、砂界の地図をここへ」
族長は傍にいたドワーフに持ってこさせると、新しそうな地図をテーブルに広げた。
そこに目立つのは赤い×印だ。
この集落より北方に点在しており、どれも集落の名前に書き重ねられている。
「数ヶ月から半年に一度、集落が消えておる。それも、一夜にして跡形もなく。発覚するのはいつも行商が集落へ戻ったときだけじゃ。いずれの場所も炉で燃やし融かしたかのような地面になっておる奇妙な消失でな。魔物の仕業とも思えぬし、並大抵の者ではそのように集落を消し去るのは不可能。静かな脅威であった」
「なるほど。勇者の仕業と考えれば納得できるわけですね」
思い出すのはテアの熱量実験だ。
いっくよー! と、彼女はサンドバッグに向けてできるだけ高熱の魔法を放ったことがある。
その時は火が雪をなめ溶かすようにサンドバッグが蒸発し、冷え固まった残骸はやたらきらきらとしていた覚えがある。
ただし、それは効果範囲を度外視した熱量の追求をした時の話だ。
テアと同等に炎を扱える人はほぼいない。
そうして実現したものを集落規模に引き起こせる力の持ち主といえば、聖杯から人外の力を授かった勇者くらいだろう。
「あの砂漠地帯のドラゴンから定期的に力を奪って、道中の集落で好き放題やって証拠隠滅のために消し飛ばしているとかでしょうか」
「ありえぬことではないな」
獣人領でもそういう例は確認されている。
その気紛れがこの場所に及ばない保証もない。
族長の複雑な表情も理解できた。
「族長。ひとまず調査をさせてくれませんか? それでできるなら、僕らはドラゴンを助けて、勇者を倒します」
「手段があると?」
「いくら強くたって相手は生き物です。死なないわけじゃありません。付け入る隙を探すために調べたいんです」
「よかろう。状況把握に限り、協力はしよう。……それで? おぬしは何やらもう一つ用件があるようだったが?」
腕を組んで頷いていた族長は、長い毛をたくわえた片眉を上げる。
「鉱夫のドワーフさんたちは鉱山病を患っているようでした。発掘中の塵を吸い込んで起きる珪肺に、重金属障害のせいだと思います。僕は錬金術に心得があるので、その症状を緩和するものを作りたいなと思うんです」
そう言ってみると、テアはここに来る前の会話を思い出した様子で手を叩いた。
族長は錬金術師の小間使いの代名詞であるホムンクルス――アイオーンに目を向ける。
「ドワーフは攻撃魔法や身体強化、付与魔法が達者な者はいるが、錬金術が達者な者はおらなんだ。そのようなことが可能か?」
「やりようによっては、恐らく。そもそも、錬金術ではホムンクルスと一緒に医療技術が発達しているんです。ね、イオン?」
「はい。私に関しては人に劣る面はありませんが、錬金術師の技量や性癖によっては不完全なホムンクルスが生まれてきましたので」
使い潰しの労働力だから、数年もつだけでいい。
伴侶代わりにしたいだけだから、都合のいい要素を継ぎはぎに。
そんな欲望を設計図にしてホムンクルスは作られる。
結果、この人造生命体には短命な印象が結びついてきた。
「そうした経緯から生命活動にかかわる機能の重複や欠落を補うため、様々な試行錯誤が繰り返され、経験が蓄積しました。古くは製作者の体液――血液や骨髄液を材料としたのも、その過不足を防ぐためですね」
「えっ。エッチな意味じゃなかったの!?」
体液という言葉に反応して僕の腕を絡め取っていたテアは驚きの顔だ。
「そちらの意味も多少は。いずこかの王族や狂信者は始祖から作ったホムンクルスを母体にすることで血統を維持することもあります」
「同じ性質の子供って、気持ちはわかるような、わからないような……」
「ああ、うん。話が脱線しているから元に戻すね」
女性陣の会話を遮り、僕は改めて族長を見つめる。
「族長さん。僕たちは鉱夫のドワーフのための治療薬を作ります。そのためにもいくらかの材料と、採掘に連れていって弱ったカナリアを都合してください。それが上手くいったらアミュレットも都合してくれませんか?」
「よかろう。おぬしの働きに期待させてもらう」
そうして僕は地下集落の族長と握手を交わすのだった。
「蒼き竜と紅き竜じゃな。かつてこの土地を拓いたドワーフは海より出でる竜と、火口より出でる竜が空で争うのを見たという。それによって枯れた大地には砂漠の花が咲き乱れ、竜はそれらを食み、満足すれば自分たちの領域へ帰ったとの話じゃった」
それはテアが口にしたのよりもより真実に迫る話だった。
「にわかには信じがたい。……が、お前さんたちの力量は並でないこともわかる。我らが気付けなかっただけで、そうなのであろう」
族長は、ふうむと顎髭を撫でた。
「して、話題に出したのだ。おぬしらはそれをどうする?」
「まずはそこの調査をしたいと思います。そのためにも職人から耐火、耐熱のアミュレットを入手したいですね。できるなら、ドラゴンを解放するついでに勇者を闇討ちして倒したいとも思っています」
「なるほど」
「反対しないんですか?」
眠れる獅子を起こすなとばかりに反対されるかと思ったが、それがない。
族長は考えを巡らし、はあと息を吐いていた。
「得心いったのう。まさしく厄介ごとじゃが、放置もしがたい。そこの者、砂界の地図をここへ」
族長は傍にいたドワーフに持ってこさせると、新しそうな地図をテーブルに広げた。
そこに目立つのは赤い×印だ。
この集落より北方に点在しており、どれも集落の名前に書き重ねられている。
「数ヶ月から半年に一度、集落が消えておる。それも、一夜にして跡形もなく。発覚するのはいつも行商が集落へ戻ったときだけじゃ。いずれの場所も炉で燃やし融かしたかのような地面になっておる奇妙な消失でな。魔物の仕業とも思えぬし、並大抵の者ではそのように集落を消し去るのは不可能。静かな脅威であった」
「なるほど。勇者の仕業と考えれば納得できるわけですね」
思い出すのはテアの熱量実験だ。
いっくよー! と、彼女はサンドバッグに向けてできるだけ高熱の魔法を放ったことがある。
その時は火が雪をなめ溶かすようにサンドバッグが蒸発し、冷え固まった残骸はやたらきらきらとしていた覚えがある。
ただし、それは効果範囲を度外視した熱量の追求をした時の話だ。
テアと同等に炎を扱える人はほぼいない。
そうして実現したものを集落規模に引き起こせる力の持ち主といえば、聖杯から人外の力を授かった勇者くらいだろう。
「あの砂漠地帯のドラゴンから定期的に力を奪って、道中の集落で好き放題やって証拠隠滅のために消し飛ばしているとかでしょうか」
「ありえぬことではないな」
獣人領でもそういう例は確認されている。
その気紛れがこの場所に及ばない保証もない。
族長の複雑な表情も理解できた。
「族長。ひとまず調査をさせてくれませんか? それでできるなら、僕らはドラゴンを助けて、勇者を倒します」
「手段があると?」
「いくら強くたって相手は生き物です。死なないわけじゃありません。付け入る隙を探すために調べたいんです」
「よかろう。状況把握に限り、協力はしよう。……それで? おぬしは何やらもう一つ用件があるようだったが?」
腕を組んで頷いていた族長は、長い毛をたくわえた片眉を上げる。
「鉱夫のドワーフさんたちは鉱山病を患っているようでした。発掘中の塵を吸い込んで起きる珪肺に、重金属障害のせいだと思います。僕は錬金術に心得があるので、その症状を緩和するものを作りたいなと思うんです」
そう言ってみると、テアはここに来る前の会話を思い出した様子で手を叩いた。
族長は錬金術師の小間使いの代名詞であるホムンクルス――アイオーンに目を向ける。
「ドワーフは攻撃魔法や身体強化、付与魔法が達者な者はいるが、錬金術が達者な者はおらなんだ。そのようなことが可能か?」
「やりようによっては、恐らく。そもそも、錬金術ではホムンクルスと一緒に医療技術が発達しているんです。ね、イオン?」
「はい。私に関しては人に劣る面はありませんが、錬金術師の技量や性癖によっては不完全なホムンクルスが生まれてきましたので」
使い潰しの労働力だから、数年もつだけでいい。
伴侶代わりにしたいだけだから、都合のいい要素を継ぎはぎに。
そんな欲望を設計図にしてホムンクルスは作られる。
結果、この人造生命体には短命な印象が結びついてきた。
「そうした経緯から生命活動にかかわる機能の重複や欠落を補うため、様々な試行錯誤が繰り返され、経験が蓄積しました。古くは製作者の体液――血液や骨髄液を材料としたのも、その過不足を防ぐためですね」
「えっ。エッチな意味じゃなかったの!?」
体液という言葉に反応して僕の腕を絡め取っていたテアは驚きの顔だ。
「そちらの意味も多少は。いずこかの王族や狂信者は始祖から作ったホムンクルスを母体にすることで血統を維持することもあります」
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「ああ、うん。話が脱線しているから元に戻すね」
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「族長さん。僕たちは鉱夫のドワーフのための治療薬を作ります。そのためにもいくらかの材料と、採掘に連れていって弱ったカナリアを都合してください。それが上手くいったらアミュレットも都合してくれませんか?」
「よかろう。おぬしの働きに期待させてもらう」
そうして僕は地下集落の族長と握手を交わすのだった。
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