私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
130 / 135
第2章 これはもしかしてデートなのでは?

3ー21

しおりを挟む
  鎖帷子を中に着込み、ツーハンデッドソードを腰に提げ、マントを羽織るとかなり冒険者という気分になった。
  特にマントというのは男の憧れ。まるでヒーローにでもなったかのようだ。

「どうした、ニヤついて。そんなにこの買い物が嬉しかったのか?」

  アリーシャにしては珍しく、少し悪戯っぽい笑みで横に並んだかと思うと私の顔を下から覗き込んだ。
  さらりと揺れる前髪からは女性特有の甘い匂いが漂ってきて、ドキリとしてしまう。
  こうして見ると改めてアリーシャという女性は魅力的だ。
  彫像のように白く美しい容姿には、未だ子供らしいあどけなさも残っていて、16歳という大人と子供の狭間の年相応な部分を感じさせられて、普段大人っぽいアリーシャだがホッとする反面なんだかいつもよりドキドキしてまう。
  それに今は二人きり。
  改めて横に並んで歩くとまるでこれは……。

「そ……そんなにニヤついてはいないと思うのだが」

  私は極力平静を装い返答した。
  今の私の心の内を知られては正直かなり恥ずかしい。

「ふっ、分かるぞハヤト。私も新しい装備を手に入れた時は嬉しくてニヤついてしまったものだ。眠る前も暫くそれを眺めたりしてな……」

  そんな私の胸の内を知らず。アリーシャは右手の拳をぎゅっと胸の前で握りしめ、うんうんと納得したように頷いている。
  私はアリーシャでもそんな事があるのかと妙に感心してしまう。
  そこで私も一旦羞恥の気持ちを忘れ、店を出た時の気持ちが再び湧き起こってきて気持ちが盛り上がる。

「そっ、そうだろう! アリーシャもそんな立派な剣や鎧を持っているのだ。最初は嬉しかっただろう!?」

  一度テンションが上がってしまうともう駄目だ。
  自分でも柄にも無くニヤついてしまっているのが分かった。
  かと言って最早走り出してしまったものはそう簡単には止められそうも無い。
  私は調子に乗ってマントをバサッと翻す。その音がまた私の冒険心を擽るのだ。

「ああそうだな。……私もこの剣を貰った時は嬉しかったものだ」

  ――えええ~……。
  そんな私を一瞥しつつ、そう言うアリーシャの態度は急変してしまう。
  どういうわけか、いつに無く寂しそうなのだ。
  何か余計な事を言ってしまったのだろうか。
  流石に地雷を踏んだとあってはテンションが上がっている所ではない。
  私は急速に冷えた頭と共に今度は激しい羞恥の念に駆られる。
  顔は熱を帯びて赤くなっているのが分かった。
  アリーシャが俯き加減な事が今は却って有り難かったりする。
  とにかくここはお互いのためにも一度話題を変えてしまおうと思った。

「アリーシャ、次は道具屋だな。色々旅や戦闘に使えそうな物があれば是非購入したいのだ」

「ん?  ――ああ、そうだな」

  彼女の先程の寂しそうな表情は一瞬で雲隠れしてしまった。
  気を使ってくれたのか、それともそこまでの事では無かったのか。
  とにかくすぐにいつものアリーシャに戻ってくれて私は安堵する。
  少し気に懸かる部分はあるが、暗い表情の姫様というのは流石に男としてキツいものがある。
  しかも今は二人きりなのだ。
  色々聞くにはいい機会かもしれないが、気の利いた台詞の一つも言えない私には少々荷が重い。
  それに今くらいは楽しい気持ちで買い物したいというのもある。
  とにかく先々大変なのは目に見えている。のんびりとした時間を過ごしたいものだ。
  私は改めてそんなことを思いつつ道具屋を目指した。 
しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...