私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
124 / 135
第2章 これはもしかしてデートなのでは?

3ー15

しおりを挟む
 
 ギャバナ国での華々しい成果を引っ提げてのリスターナへの凱旋帰国。
 治安が守られ、食い物と経済が回ってきたおかげで、主都の中もずいぶんと活気が戻っている。
 おかげで正門から城まで見物客にてごった返し、ちょっとしたお祭りパレード。
 主役はもちろんリリアちゃん。
 皮肉なことにダメな兄貴の悪名のおかげで、妹の彼女が当たり前のことをしただけで民衆は拍手喝采。いいことをしようものならば、狂喜乱舞の大フィーバー。
 ましてや若い身空にて、今回の大国との交渉締結までまとめあげた功績によって、その人気は不動のものに。いまやトップアイドルへと成長。
 彼女は着々と女王へと道を歩んでいる。そろそろグッズ販売に乗り出すべきか。いちおうブロマイドとポスターは用意してあるけれども。千部ずつでは足りなさそうだ。よし、追加発注をかけておこう。
 なお、彼女の人気の裏でせっせと働いているわたしのことは公然の秘密。「なんか王さまに手を貸してるヘンな女がいるらしい」ぐらいの認識。
 だから一般には顔をほとんど知られていないので、堂々と街中を闊歩できるというわけさ。

 都民の視線がリリアちゃんの凱旋パレードへと向いているのを尻目に、わたしはルーシーとひさしぶりに街ブラ。
 最初に来たときとは雲泥の活気だけれども、大通りの商店の開店率はようやく七割といったところか。一等地だというのに、まだまだ閉じてるところや空き店舗が目立つ。
 商人たちは利に敏く、用心深い。いちど裏切ったリスターナをそうやすやすとは許してくれないから、こんなもんだろう。
 ノットガルドには冒険者ギルドはないけれども商業ギルドっぽいものはあるらしいので、そのうち接触を試みるのも悪くない。当方が誇る「っぽいモノシリーズ」をちらつかせれば、きっとパクリと喰いついてくるにちがいあるまいて。
 今後の展望なんぞを思案しながらトテトテ歩く。
 路地裏に腹を空かせた子どもたちの姿はない。
 じゃんじゃん収穫される小麦で、バンバン食い物をこしらえて、どんどん配布しまくっているからね。日持ちのするカチコチのパンだけでなく、白くふわふわのパン、あとパスタ類も好評だ。乾麺を優先して開発させたのは正解であった。インスタント麺もすでに試食段階に入っている。充分に国内にゆき渡ったら、今後は輸出にまわすとしよう。
 くくく、我ながらおそろしい開発スピードである。他の追随を許さぬぶっちぎり。
 ルーシー、えらい! 知識チート、万歳!
 喰いっぱぐれていた連中もまとめて雇い入れ、畑の管理、収穫から保管、物流、製造、その他もろもろにて従事させ、とりあえず生活の基盤は確保したから、当面はだいじょうぶだろう。
 もちっと国が安定して落ち着いたら、各々が好きな生き方を模索するといいよ。

 人形を抱いた若い女が、あえて寂しい裏通りを選んでトボトボ歩く。
 だが、ちょっかいをかけてくる不心得者はいない。
 先の賊狩りの効果が十分に発揮されているようだ。
 綱紀粛正のため、問答無用で殺処分にて、さらし首が効いたみたい。
 聞くところによると、巷では子どもがイタズラをすると、お母さんが「そんな悪い子は、王さまに首をちょん切られても知らないから」と言うらしい。
 するととたんに子どもは「ごめんなさーい」と本気泣きにてワビを入れてくるという、家庭内恐怖政治がまかり通っているのだとか。
 裏では密かに「首狩り王」と呼ばれ、恐れられているらしいシルト・ル・リスターナ。
 ごめんよ、美中年。
 そんなつもりはなかったんだけど、世間一般にはモロモロすべてが王さま主導ってことになってるから、いい評判もわるい評判もぜんぶ彼のところに押し寄せる。当人は「これぐらいへっちゃらだよ。責任ある立場とはそういうものさ」とか大人の余裕だったけど、たぶん表に出てるのなんて氷山の一角。裏の裏で何を言われてることやら。
 この分だと後世の歴史家とかに「中興の祖シルト王は、我が子に裏切られて変わられた。それまでの聡明さと果敢さに加えて、残酷さをも兼ね備えた恐ろしくも賢い王に」なんて、きっと書かれちゃうんだ。
 やんごとなきご身分だと、ひとのウワサも七十五日の法則は当てはまらない。
 リスターナの国が続くかぎり、いいや、それどころか滅んでも、たぶん他国経由にて長く語り継がれるんだから、たまったものじゃないね。
 せいぜい悪名はシルト王に背負ってもらい、リリアちゃんにはいい評判だけを残すように注意しないと。

「それにしてもギャバナから帰ったばっかりのせいかもしれないけど、リスターナってまだまだだねえ」
「そうですね、リンネさま」

 あちらの毎日お祭り騒ぎ状態を見てしまうと、こちらは完全に祭りの後にしか見えない。それも町内会レベルの。
 環境さえ整えれば、あとは勝手に隆盛するものかと安易に考えていたけれども、街づくりのシュミレーションゲームのようにはいかないか。
 国の運営や政治ってむずかしいね。独裁でもないかぎり、ちっとも物事がスムーズに運ばない。
 内側の苦労をのぞき見してしまったら、もう、安易に「職務怠慢だ」「仕事しろ! 税金ドロボウ」「やめちまえ! くそバーコード」とかとても言えやしないよ。
 そしてつくづく思うのは……。

「ダイクさんやゴードンさんもよくやってるけれども、やっぱり人不足が否めない」
「はい。騒動の折りに嫌気がさして優秀な人材ほど、早々に国に見切りをつけて出て行ってしまいましたから。残ってくれた人たちも主都より遠ざけられて散り散りにて、ほとんどが消息不明らしいですし。いずれ国がまともになったことを知れば、姿をあらわしてくれるかもしれませんが」
「でも、それだと時間がかかるよね? ならいっそのことコッチから探し出して、迎えに行くとか」
「狩りですか……、いいですね。各地の復興具合を見学がてら、ちょっと漁ってみますか。おもわぬ掘り出し物もあるかもしれませんし。ついでにあちこちに潜伏しているであろう膿も出し切ってしまいましょう」
「そうと決まればお城にいって王さまたちに相談だ」

 善は急げと、城へと向かって歩き出したわたしたち。
 次から国内行脚のぶらり旅編がはじまるよ。
 こうご期待。


しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...