私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
122 / 135
第2章 これはもしかしてデートなのでは?

幕間 ~浅い眠りの中で~

しおりを挟む
  ――ふと目を覚ました。
  朧気な頭をもたげて身体を起こす。
 
「――――?」

  ここは――一体どこだ?
  突然の環境の変化に思考がついていかない。
  夢を見ているのだろうか。
  周りの景色が灰色で一色に染められた空間。遠くは靄が掛かったように何も見えなかった。
  ここが室内のように狭いのか、はたまた何処までも果てが無いのか。そんな事も分からない。
  音も無く、とても不思議なところだ。
  私の記憶が確かならば、ピスタの街の宿屋で眠っていたはずなのだが。やっぱりこれは夢か。
  だがこれを夢と呼ぶには感覚が余りにもリアルすぎるのだ。
  ――まさか――何者かの攻撃を受けている? 
  ――魔族か?
  そう思うと私の胸に言い様の無い焦燥が駆け巡ってきた。

「おいっ、誰かいないか!」

  少し大きな声で叫んでみた。
  声は反響することなくこの空間に溶け込んでいくようだ。
  時間の感覚がない。
  一体私はどのくらいここにいるのだろう。
  まだ数分しか経っていないようにも感じるし、数時間経過しているようにも思えてしまう。
  本当に変な感覚だ。

「――おい」

  その時、不意に誰かが私に声を掛けた。
  振り返ると、いつからそこにいたのだろうか。
  私の目の前に一人の少女が立っていた。
  年の頃は十歳位だろうか。腰まで伸びた艶やかな金色の髪を垂らし、白い布地のワンピースを着ている。
  それだけ見れば普通の少女という印象であった。
  だが一つ違和感がある。
  彼女はその出で立ちに似つかわしくない一本のロングソードを腰に提げているのだ。
  それに表情も子供のそれとは異なる。
  まるで彼女の顔には言い様の無い憎悪や疑念といった、ある程度の人生の経験を積んだ者が出し得る感情を宿しているように見えるのだ。
  それを目の当たりにして私の中に一つの答えが導き出される。
  この者は恐らく――――。

「精霊――か?」

  私の問いにぴくりと体が動いたのを見た。
  その様子を見て私は確信する。
  やはりこの少女が今まで私の中にいた精霊だ。
  とするとここはもしかすると精神世界なのかもしれない。
  ぱらぱらと私の中で思考が繋がっていく。
  ということは、私はこの者の力に寄って精神世界に引き入れられたのということではないだろうか。

「――ウチはお前が嫌いじゃ」

  少女の口からは突然私に対する否定の言葉が放たれた。
  ――そうか。
  やはりシルフが言っていた通り、何らかの理由で私はこの精霊に嫌われているのだ。
  彼女の印象。
  一風変わった物言いではあるが、慎ましやかで、桜色の淡い唇から紡がれる言葉は、小鳥の囀りのようであると思わせた。
  少女はとても可愛いらしいのだ。

「何故私を嫌うのだ。私は出来る事ならお前と仲良くなりたいと思っている」

  友好的に接しようとそんな風に言ってみる。
  だがそれは逆効果だったようだ。
  少女が私を睨みつけてきたのだ。
 
「ウチはそんな事望んではおらんのじゃ」

  否定の言葉。
  だが引き下がりはしない。
  彼女は言葉ほど私を嫌ってはいないのではと思ってしまったから。

「なら何故今、お前は私の前に現れたのだ?  私と馴れ合う気がないのなら放っておけばよかったものを」

  突き放すつもりであれば精神世界に私を呼び込んだ意味が無い。
  そもそもこのままでは私は帰る事すら出来ないのではないか。
  私の問いに、少女は黙したまま俯いていた。

「精霊のとって魔族は倒すべき相手では無いのか? ならば共に戦おうではないか」

  そう告げた矢先。初めて少女の身体から刺すような気が放たれた。殺気だ。

「お前がそれを言うなっ……!!  斬り伏せられたいのかっ!」

  放たれた言葉と共に一陣の風が巻き起こり、強い圧が私を射抜く。
  気づいたら数歩後ろに下がってしまっていた。
  絞り出すような静かな怒りを伴った声色に充てられ、頬に冷たい汗が滴る。
  私は一度ゴクリと生唾を飲み込んだ。
  だが私も引き下がる訳にはいかない。
  このままこの場所に一生とどまっていろとでも言うのか。

「何故だ?  私はこの世界に召喚され、巻き込まれたとはいえ、魔族を倒すべき相手だと思っている。それはお前も知っているのではないのか?」

  相変わらず私を睨みつけてくる。
  何故それ程までに私を憎むのか。全く理解出来ない。

「――うるさいっ。とにかくウチはお主に力を貸す気は無いのじゃ。精霊の力など当てにせず、自分の力で何とかしろ」

  吐き捨てるようにそう言葉を放ち、闇に溶け込むように姿が消えていく。

「なっ!?  待ってくれっ!」

  少女へと伸ばした手は虚しく空を切り、泡のように少女は消えてしまった。
  それと同時に私の意識は再び遠ざかっていったのだった。
しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...