私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
118 / 135
第1章 人と魔族と精霊と

3ー10

しおりを挟む
「え?  ちょっと待ってよ。隼人くんまさか能力を失くしちゃったの?」

  椎名の焦ったような問い掛けに、だが私はそれには首を振った。

「正確には、一部の能力が使えなくなってしまったということだな」

「ん~??  何か解りづらいんだけど」

  椎名を含め、皆得心がいっていないというような表情だ。
  私はベッドに座り直しふうと短くため息を吐いた。

「失ったと言っても力を感じていないわけではない。力は感じるが、その力をうまく引き出せなくなってしまったようなのだ。エルメキアソードなどの形成は恐らく今不可能だ」

「――何それ?  何でよ」

  椎名が腕を組みつつ小首を傾げる。
  流石の彼女も今一その理由には思考が行き着かないらしい。
  それよりも組まれた腕で形を変えた胸の方が目の毒だ。

「それが解れば世話はない。恐らく私自身もマインドの枯渇には陥った。だが結果的にこのような事態となってしまった」

「え!?  それってめちゃヤバじゃんっ!  死活問題じゃないっ!  てか隼人くん何でそんなに落ち着いてるワケ!?  魔族に対抗しうる手段をなくしたのにっ」

「いや、焦っていないわけではない。ただ焦ったところでどうにもならないと分かるから、最善の行動を取っているにすぎないのだ」

  椎名はそう言うが、私としても心中穏やかではないのだ。
 
「は~……あっそう……」

  椎名は何故か不服そうではあったが、私の言う事が理解できたからか、窓の外へと視線を逸らし、ベッドにすとんと座り込んだ。

「――あー。シルフ、と言ったか」

「ん?  そうだよ。」

  シルフは私に名前を呼ばれると羽を二度三度とパタパタはためかせながらこちらを興味深そうに眺めていた。

「何か意見を聞かせてほしい」

「あ、そうよシルフ!  知ってることがあるなら白状なさい!」

  何故椎名がそんな剣幕になるのかはよく分からなかったが、とにかく私達はシルフの方を一斉に注目し、彼の返答を待った。
  彼は椎名のテンションとは真逆で、落ち着き払ってうむと顎に手を置き考え込んだ。

「――うん、そうだね。実はボクも今回人と契約を交わしたのは初めてたったんだよ。だからその辺のことは正直あまり詳しくはないんだ。ボクに色々教えてくれたおばちゃんがいてね。どうやって人と契約を交わすかどうか彼女に聞いたんだよね」

「おばちゃん……?」

  シルフの口からそんな単語が出てくるとは思いもよらず、私は気づけば聞き返してしまっていた。
  それを見てシルフは小首を傾げた。

「あっ、もちろん相手は精霊だよ?  ボクがおばちゃんて呼んでるだけで……ってそんなことはどうでもいいんだよっ」

「要するにシルフにもよく分かんないってことなの?」

  椎名の突っ込みにシルフの動きが止まる。
  図星か。

「う~ん、そんな事もないんだけど、正直確証は持てないね」

「そうなのか?  予想でも構わない。シルフの意見を聞かせてくれ」

「うん。ハヤトの話から予想するに、その精霊はハヤトに力を貸すことを拒絶してるんじゃないかなってこと」 

「拒絶――だと?」  

  私の呟きにシルフは満足そうに頷いて、大きなきらきらした瞳で見つめてくる。
  こんな小さな人の言葉を解する生き物と話すのは、改めて不思議な感覚であった。

「うん、そうだと思う。力を失ったというより、感じるっていうのはそういうことじゃないかな」  

「ふむ……だがなぜ拒絶される?  私は何かその精霊に対して怒らせるような事でもしたというのか?」

「そんなのボクに分かるわけないだろう?  君の精霊に直接聞いてみなよ」

「――話せるのか?」

「ん~……。今のままじゃ無理だね」

「――?  はあ……」

  シルフの物言いだけを聞いているとまるで謎掛けでもされているようで、変なため息ともつかぬ声が漏れ出た。
  現状は把握できてもそれに対する打開策が今一つ見えてこない。
  結局私はどうすればいいのだ

「……えーと、ボクの例で説明するよ」

  そう言いながら、シルフは今度は美奈の方へパタパタと飛んでいった。
  そのまま彼女の膝の上にちょこんと座る。
  美奈はというと、その一連の動作に明らかに興奮して頬を蒸気させている。いつになく瞳がキラキラ輝いていたのだ。  
  いや、べ、別にいいんですけどねっ。
しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次男坊と言っても末っ子です。

もちた企画
ファンタジー
人類において環境に準じるのは容易くは無いファンタジーな世界で集落より少し外れると魔物が溢れかえり人類存亡の危機がそこにはあった。 主神メガイス様の力で増えすぎた魔物を封じることに成功したがそれは当時の話、今は封じた空間に穴が空いて魔物が一部姿を表していた。 名称は「ダンジョン」 主神の妻で豊穣の女神アストレアは人類に加護を与えた。四大属性「火・水・風・土」。 人々は体内に流れる魔力を感じ精霊に感謝をして魔法を使えるようになった。 特に強い属性魔法の使い手を王の側近貴族として囲い込んだのが今の魔法至上主義だ。 自分の属性に合った生活をする人々で構成され、それぞれの生活を送っていた。 時はヴァルデン四世治めるウェストヴァルデン。 その首都から西に進んだ伯爵領地の首都カイランで生まれたシティーボーイ次男坊が6歳で執り行われる祝福の儀で土属性を扱えるようになったお話。 主要な国 ウェストヴァルデン (Westvalden) - 古い森と堅牢な城塞が特徴の西部の王国。長い歴史を持ち、貴族階級と騎士道が重んじられる国。 イーストリア (Eastria) - 東方に位置する、交易と文化が栄える国。多くの学者や魔法使いが集まり、学問や魔術が発展している。 ノルデンヘイム (Nordenheim) - 北方にある寒冷な地域に広がる王国。厳しい自然環境の中で強靭な戦士たちが育ち、騎士団が国を守っている。 ルミナス (Luminis) - 女神アストレア信仰を中心とする宗教国家。教会の影響力が強く、神聖な儀式や聖騎士団による巡礼が盛んに行われている。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...