99 / 135
第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に
2-25
しおりを挟む
――――今どのくらいの時間が経った?
一分か、五分か、実は十秒程なのか。
時間の流れの感覚すらなくなって、意識があるのかの確証すら持てなくなってくる。
視界もどんどん狭くなっていき、まるで夢の中の出来事のようにすら感じる。
先程から血も流しすぎているせいもあり、頭がクラクラしてくる。鼓動も速い。
息も絶え絶えで、周りの音も入ってこない。
もう限界なんかとっくに越えていた。
倒れてしまいたい。倒れて楽になってしまいたい。
終わりの来ない戦いに折れてしまいそうになる。
だがまだだ。まだ倒れない。
そう自分に言い聞かせ、既のところで踏みとどまる。
「――くっ……!」
レッサーデーモンの爪が腕を掠ってじわりと鮮血が流れ出す。
――もう少し、もう少しだけ時間が欲しいのだ。
動かなくなっていく体とは裏腹に、私の心には最初は朧げだった小さな希望が、少しずつ形を成して大きくなっていっていた。
今やその希望は確かなものに変わりつつあったのだ。
解る……解るぞ。
これはきっと。
――もう少しだ……もう少しで――――。
「しぶとい奴だっ!」
鷲の魔族が痺れを切らし空に飛び上がった。
数メートル舞い上がると、そこから勢いをつけて急降下してきたのだ。
私は咄嗟に身を捻るが、凄まじいスピードに対応しきれない。
上手く避わしきれず、胸部を抉り取られるような衝撃が走った。
だが、吹き飛んだのは胸当てだ。体の傷は少し。
不意にこの装備をくれたネストの村の人達に対する感謝の念が込み上げる。
それでも衝撃で数メートル吹き飛びいよいよ倒れそうになる。
私は地に手をつき、踏ん張り、足に力を込める。
最早力が入れられているのかどうかも分からない。
ただ結果的に倒れてはいないので、何とか踏ん張れているのだと理解出来るだけだ。
顔を上げると鷲の魔族は再び空に上昇し、私の体を串刺しにすべく獰猛な嘴を槍のようにして一直線に私に向かって急降下してきた。
私は避けようとするが、いよいよ体がその場を動かない。
もう自分の意思が体にうまく伝達できないほどに深刻なダメージを受けていた。
膝が震えて体が思うように動かない。
「クソッ……!」
私は今日何度目かの窮地に立たされ、せめてダメージを減らそうと急所を腕や剣で庇う。
だが攻撃が当たる、と予期していたタイミングに鷲の魔族からの攻撃は来なかった。
視界を塞いでいる腕を退けると、すぐ目の前の中空に鷲の魔族がいて留まっていたのだ。
「な……何だこれはあぁぁアア……」
目の前で細切れになって消失していく鷲の魔族。散々私を苦しめたが最期は何とも呆気なかった。
「なっ!? 何だと!? お前は消滅したはずじゃ!?」
狼の魔族の慌てふためく様子に少しだけ胸がスッとした。
遅れて一陣の風が吹き抜けてきた。
そこで私は自分が賭けに勝ったのだと理解した。
目の前に私のよく見知った人物が立っていたのだ。
「間に合った?」
彼女も決して五体満足とはいかないまでも、その横顔は笑みが浮かび、凛々しく美しく、とても頼もしいものに見えた。
私は彼女にフッと微笑みを返す。
「……ああ、何とかな」
それだけでも色々なところに激痛が走るが、今はそんな事、どうでも良かった。
再び彼女の横顔を見れて、私は心底安堵した。
「めぐみちゃんっ……!」
後ろで美奈が叫び声が聞こえた。
その声色には堪らない程の嬉しさも含まれていて、ほんの少しだけ妬けてしまう私は、本当に小さい男だ。
一分か、五分か、実は十秒程なのか。
時間の流れの感覚すらなくなって、意識があるのかの確証すら持てなくなってくる。
視界もどんどん狭くなっていき、まるで夢の中の出来事のようにすら感じる。
先程から血も流しすぎているせいもあり、頭がクラクラしてくる。鼓動も速い。
息も絶え絶えで、周りの音も入ってこない。
もう限界なんかとっくに越えていた。
倒れてしまいたい。倒れて楽になってしまいたい。
終わりの来ない戦いに折れてしまいそうになる。
だがまだだ。まだ倒れない。
そう自分に言い聞かせ、既のところで踏みとどまる。
「――くっ……!」
レッサーデーモンの爪が腕を掠ってじわりと鮮血が流れ出す。
――もう少し、もう少しだけ時間が欲しいのだ。
動かなくなっていく体とは裏腹に、私の心には最初は朧げだった小さな希望が、少しずつ形を成して大きくなっていっていた。
今やその希望は確かなものに変わりつつあったのだ。
解る……解るぞ。
これはきっと。
――もう少しだ……もう少しで――――。
「しぶとい奴だっ!」
鷲の魔族が痺れを切らし空に飛び上がった。
数メートル舞い上がると、そこから勢いをつけて急降下してきたのだ。
私は咄嗟に身を捻るが、凄まじいスピードに対応しきれない。
上手く避わしきれず、胸部を抉り取られるような衝撃が走った。
だが、吹き飛んだのは胸当てだ。体の傷は少し。
不意にこの装備をくれたネストの村の人達に対する感謝の念が込み上げる。
それでも衝撃で数メートル吹き飛びいよいよ倒れそうになる。
私は地に手をつき、踏ん張り、足に力を込める。
最早力が入れられているのかどうかも分からない。
ただ結果的に倒れてはいないので、何とか踏ん張れているのだと理解出来るだけだ。
顔を上げると鷲の魔族は再び空に上昇し、私の体を串刺しにすべく獰猛な嘴を槍のようにして一直線に私に向かって急降下してきた。
私は避けようとするが、いよいよ体がその場を動かない。
もう自分の意思が体にうまく伝達できないほどに深刻なダメージを受けていた。
膝が震えて体が思うように動かない。
「クソッ……!」
私は今日何度目かの窮地に立たされ、せめてダメージを減らそうと急所を腕や剣で庇う。
だが攻撃が当たる、と予期していたタイミングに鷲の魔族からの攻撃は来なかった。
視界を塞いでいる腕を退けると、すぐ目の前の中空に鷲の魔族がいて留まっていたのだ。
「な……何だこれはあぁぁアア……」
目の前で細切れになって消失していく鷲の魔族。散々私を苦しめたが最期は何とも呆気なかった。
「なっ!? 何だと!? お前は消滅したはずじゃ!?」
狼の魔族の慌てふためく様子に少しだけ胸がスッとした。
遅れて一陣の風が吹き抜けてきた。
そこで私は自分が賭けに勝ったのだと理解した。
目の前に私のよく見知った人物が立っていたのだ。
「間に合った?」
彼女も決して五体満足とはいかないまでも、その横顔は笑みが浮かび、凛々しく美しく、とても頼もしいものに見えた。
私は彼女にフッと微笑みを返す。
「……ああ、何とかな」
それだけでも色々なところに激痛が走るが、今はそんな事、どうでも良かった。
再び彼女の横顔を見れて、私は心底安堵した。
「めぐみちゃんっ……!」
後ろで美奈が叫び声が聞こえた。
その声色には堪らない程の嬉しさも含まれていて、ほんの少しだけ妬けてしまう私は、本当に小さい男だ。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ヘリオンの扉
ゆつみかける
ファンタジー
見知らぬ森で目覚める男。欠落した記憶。罪人と呼ばれる理由。目覚め始める得体のしれない力。縁もゆかりもない世界で、何を得て何を失っていくのか。チート・ハーレム・ざまあ無し。苦しみに向き合い、出会った人々との絆の中で強くなっていく、そんな普通の異世界冒険譚。
・第12回ネット小説大賞 一次選考通過
・NolaブックスGlanzの注目作品に選ばれました。
2024.12/06追記→読みやすくなるように改稿作業中です。現在43話まで終了、続きも随時進めていきます。(設定や展開の変更はありません、一度読んだ方が読み直す必要はございません)
⚠Unauthorized reproduction or AI learnin.
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる