98 / 135
第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に
2-24
しおりを挟む
朦朧とする意識の中で、私は何者かの声を聞いた気がした。
最後に見ていた景色は、四級魔族がいよいよ私の息の根を完全に止めようと一斉に攻撃してくるというものだったが。
一瞬気を失っていたのだろう。
気付けば私は愛しい温もりに包まれていて。光が私の体を修復し意識がはっきりとしてくる。
目を開くとそこには何故か美奈の顔があった。
愛しい彼女の哀しみに染められた表情を見ながら、私は彼女に助けられたのだと理解した。
いよいよ私のマインドも底をついた。傷は治っても頭はクラクラして、魔族もまだ十数体残っている。しかも四級魔族は四体いた筈だ。
このままではいずれ私は倒れ、美奈もアリーシャも殺されてしまうだろう。
私はふと美奈にアリーシャを連れて逃げる事を提案しようと思った。
私と椎名の二人で魔族を打ち倒せないならばそうしようと初めから思っていた事だ。
美奈の力では四級魔族に太刀打ちは出来ないが、この後傷が癒えたアリーシャの力を得られれば話は変わってくる。
アリーシャであればこの戦力差でも十分に勝算はあるだろう。
そのために二人が逃げる時間稼ぎをするのだ。
私が今思いつける策は正直もうそれぐらいしかない。
『せめて美奈だけでも生きてほしい――』
彼女にとってはただ残酷な決断なのかもしれないが、美奈を生かせると思えるなら再び私の枯れ果てた体にも力が漲ってくるような気がするのだ。
私は意を決し、その事を美奈に伝えることを決める。
「――――?」
だがそこで私は沈黙し、周りの景色に意識を這わせる。
「……」
何か違和感を感じるのだ。
何かが先程とは違う。私を取り巻く空気というのか、肌に纏わりつくような感じがある。
はっきりとは解らない。
これという確信も無い。
だが明らかに今、この戦場を覆う空気が変わった。気のせいでは無い、今もそれは続いている。少しずつ、少しずつ、靄が辺りへ広がっていくように。
だがこの変化には私以外気づいてはいないようだった。いや、私だから気づけたということなのかもしれない。
このままでは全滅は免れない。
ならば限りなく薄い望みでも、限りなく弱い光でも、それに賭けてみようと思った。
諦めない。最後の最後まで最善と呼べる選択をし続けるのだ。
私は再び体に力を込める。
「美奈、助かった。ありがとう」
私は一度彼女の頭に手を置く。
美奈はびくんとして、何とも悲しみを帯びた表情を作った。
だがつい先程とは違い、今の私はまだ希望を捨ててはいないのだ。まだ、皆が助かる可能性があると思っている。
だからもう一度彼女の潤んだ瞳を見つめ、新たな決意を胸に剣を拾い上げ魔族へと向かっていった。
「ちっ、死に損ないがっ……!」
再びレッサーデーモンの群れが私へと迫ってくる。
幸いなのは、美奈がアリーシャから離れてしまい、いつでも彼女に攻撃出来てしまう距離にいるというのに、魔族の注意が私にしか向いていない事だ。
だとしても私が倒れればその矛先は美奈に向くことは明らか。
簡単に負けるわけにはいかない。
私は自分を奮い立たせ、もう一度剣を強く握りしめる。
レッサーデーモンの拳や爪を掻い潜り、或いは剣で受け止めたり捌いたりして、何とか致命傷を受けないよう立ち回る。
美奈が回復してくれた。
まだ動ける。
そう言い聞かせるが側から足が悲鳴を上げる。太腿がガクガクして立っているのもやっとだ。
更にマインドも底を尽き、今の私に魔族を倒す力は最早全く残ってはいない。
だが、それでも構わない。
今の私の目的は先ほどとは違い、時間を稼ぐ事なのだ。
魔族を倒せなくとも、魔族の攻撃を受け続けないという事だけを意識するならばまだ何とかなる。
倍以上に重く感じる身体に鞭打って敵の攻撃を避わす、往なす、弾く。
しばらくそれの繰り返し。
やってやる。やってやるぞ。
私はこの状況を打破する未来だけに想いを馳せ、もう少しだけ体よ動けと迫り来る魔族と戯れのように立ち回りながらただただ時が経つのを待った。
最後に見ていた景色は、四級魔族がいよいよ私の息の根を完全に止めようと一斉に攻撃してくるというものだったが。
一瞬気を失っていたのだろう。
気付けば私は愛しい温もりに包まれていて。光が私の体を修復し意識がはっきりとしてくる。
目を開くとそこには何故か美奈の顔があった。
愛しい彼女の哀しみに染められた表情を見ながら、私は彼女に助けられたのだと理解した。
いよいよ私のマインドも底をついた。傷は治っても頭はクラクラして、魔族もまだ十数体残っている。しかも四級魔族は四体いた筈だ。
このままではいずれ私は倒れ、美奈もアリーシャも殺されてしまうだろう。
私はふと美奈にアリーシャを連れて逃げる事を提案しようと思った。
私と椎名の二人で魔族を打ち倒せないならばそうしようと初めから思っていた事だ。
美奈の力では四級魔族に太刀打ちは出来ないが、この後傷が癒えたアリーシャの力を得られれば話は変わってくる。
アリーシャであればこの戦力差でも十分に勝算はあるだろう。
そのために二人が逃げる時間稼ぎをするのだ。
私が今思いつける策は正直もうそれぐらいしかない。
『せめて美奈だけでも生きてほしい――』
彼女にとってはただ残酷な決断なのかもしれないが、美奈を生かせると思えるなら再び私の枯れ果てた体にも力が漲ってくるような気がするのだ。
私は意を決し、その事を美奈に伝えることを決める。
「――――?」
だがそこで私は沈黙し、周りの景色に意識を這わせる。
「……」
何か違和感を感じるのだ。
何かが先程とは違う。私を取り巻く空気というのか、肌に纏わりつくような感じがある。
はっきりとは解らない。
これという確信も無い。
だが明らかに今、この戦場を覆う空気が変わった。気のせいでは無い、今もそれは続いている。少しずつ、少しずつ、靄が辺りへ広がっていくように。
だがこの変化には私以外気づいてはいないようだった。いや、私だから気づけたということなのかもしれない。
このままでは全滅は免れない。
ならば限りなく薄い望みでも、限りなく弱い光でも、それに賭けてみようと思った。
諦めない。最後の最後まで最善と呼べる選択をし続けるのだ。
私は再び体に力を込める。
「美奈、助かった。ありがとう」
私は一度彼女の頭に手を置く。
美奈はびくんとして、何とも悲しみを帯びた表情を作った。
だがつい先程とは違い、今の私はまだ希望を捨ててはいないのだ。まだ、皆が助かる可能性があると思っている。
だからもう一度彼女の潤んだ瞳を見つめ、新たな決意を胸に剣を拾い上げ魔族へと向かっていった。
「ちっ、死に損ないがっ……!」
再びレッサーデーモンの群れが私へと迫ってくる。
幸いなのは、美奈がアリーシャから離れてしまい、いつでも彼女に攻撃出来てしまう距離にいるというのに、魔族の注意が私にしか向いていない事だ。
だとしても私が倒れればその矛先は美奈に向くことは明らか。
簡単に負けるわけにはいかない。
私は自分を奮い立たせ、もう一度剣を強く握りしめる。
レッサーデーモンの拳や爪を掻い潜り、或いは剣で受け止めたり捌いたりして、何とか致命傷を受けないよう立ち回る。
美奈が回復してくれた。
まだ動ける。
そう言い聞かせるが側から足が悲鳴を上げる。太腿がガクガクして立っているのもやっとだ。
更にマインドも底を尽き、今の私に魔族を倒す力は最早全く残ってはいない。
だが、それでも構わない。
今の私の目的は先ほどとは違い、時間を稼ぐ事なのだ。
魔族を倒せなくとも、魔族の攻撃を受け続けないという事だけを意識するならばまだ何とかなる。
倍以上に重く感じる身体に鞭打って敵の攻撃を避わす、往なす、弾く。
しばらくそれの繰り返し。
やってやる。やってやるぞ。
私はこの状況を打破する未来だけに想いを馳せ、もう少しだけ体よ動けと迫り来る魔族と戯れのように立ち回りながらただただ時が経つのを待った。
0
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる