96 / 135
第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に
2-23
しおりを挟む
ツーハンデッドソードを大上段から袈裟懸けに振り下ろす。その質量の剣の前にレッサーデーモンは大裂傷を作り、そのまま事切れて灰となる。
「はあっ! はあっ! はあっ……!」
これで倒した魔族は十二体に及んだ。だが、私の体にもそれと同じか或いはそれ以上の裂傷が生まれていた。
ドクドクと血が滴り、体の至る所がズキズキと脈打っているように私に苦痛を味合わせる。
息遣いも荒くなり、顔から血なのか汗なのか自分では判別のつかないものが噴き出しては伝う。
意識が朦朧としてきて本当は立っているのも辛かったのだが、私が倒れたら次は美奈やアリーシャが蹂躙されてしまうという使命感や強迫観念にも駆られたような感情だけが私を繋ぎ止めていた。
「この腐れ人間風情があっ! そろそろくたばりやがれいっ!」
私の死角から突然鉤爪の蹴りが襲ってきた。鷲の魔族だ。先程から厄介な事この上無い。度々私の隙をついては有効な攻撃を繰り出してくる。
後ろ斜め上からの蹴りに対応出来ず今回もまともに攻撃を食らう。数メートル吹き飛ばされ、たたらを踏んでしまう。それでも倒れはしない。両足が力を失う事を激しく拒否しているように持ちこたえる。最早ただの意地を張り通しているだけなのではないか。
その先には亀の魔族。太短い俵のような腕による横殴りの攻撃。今の私にそれを避ける術は無い。
「がっ……!!」
口の中が切れて血を吹いたようになるが、今更こんな傷は誤差の範囲だ。それでも本来なら首の骨でも折れてもよさそうなくらいの攻撃に歯を食い縛り堪えられているのだから、改めて覚醒の能力向上の凄さに感嘆する。
だがそれでも敵の攻撃を受け過ぎた。
膝が震えて崩折れそうだ。それと同時に精神にも限界が近いている。いや、そんな事は断じて無い。まだやれる。私はまだ戦える。
「ゴハアアァァッッ!!!」
声に目を向けるとレッサーデーモン二体が同時にヒートブレスを放つ瞬間だった。
頭では避けようと必死にもがくが身体が言う事を利かない。足が、動かない。
私は咄嗟にツーハンデッドソードの腹を盾の様にして構え、せめてダメージを減らそうと試みた。
その瞬間。
一陣の風が吹いてヒートブレスは私の横へと逸れていった。
ふと風が吹いた方を見ると、壁に着地し自身の武器へと力を込める椎名の姿。一瞬の煌めきのような強烈な光を放ち、私は目が眩みそうになった。
それでも目を瞑るまいと目を開いた瞬間、奇しくも彼女と目が合った。
その刹那、彼女は建物の壁から大きく跳躍。まるでロケットのようなスピードでレッサーデーモンのヒートブレスを跳ね返し、その衝撃で周りにいた四体に飛び火。燃えてのたうち回るレッサーデーモン。更にその勢いのままに三体の体を貫き吹き飛ばした。
鬼気迫るとはこの事だ。凄まじいまでの威力に仲間の私ですらも戦慄する。
更にその先にいる狼の魔族へと肉薄。恐らく本命はこいつなのだろう。だがレッサーデーモンを吹き飛ばした勢いで方向と勢いは完全に削がれてしまっていた。それでも結果、左腕を吹き飛ばした事は称賛に値する。
狼の魔族は特に痛がるでも無く、残った方の手で椎名の足首を掴み、そのまま地面に叩きつけた。そして直ぐ様地に仰向けになった彼女に向けて、無情な魔族の拳が腹部にめり込んだ。鈍い音を立てながら大きく九の字に曲がる体。直ぐに同じ箇所に一発二発と拳が放たれ、椎名は手足を痙攣させながら遂には動かなくなってしまった。
それと同時に、今まで戦闘の最中に私の回りに有った濃密な空気の流れのようなものも消え失せる。
恐らく椎名の能力だったのだろう。先程吹かせた風のように、自身も魔族と戦いつつも、私達にまで意識を飛ばし守られていたのかもしれない。
椎名を助けに行きたいが、体が最早思うようには動いてくれなかった。
例え全快の状態であっても一瞬では辿り着けない距離にいる椎名を、見ている事しか出来ない。
それに、こうしている間にも次々とレッサーデーモンの攻撃が椎名との間を阻むように覆い被さってくるのだ。
椎名のあの攻撃を目の当たりにした事で、自身に大きな隙を作ってしまった。私の周りにはいつの間にか十体近いレッサーデーモンが周囲を取り囲むように位置していたのだ。
そんな中でも私は椎名から目が離せない。ゆっくりと狼の魔族が彼女の方へ歩いていくのが見えた。
椎名が殺られる。
私は必死に目の前のレッサーデーモンへと剣を振り回すが、そんな闇雲な攻撃が当たる筈も無い。逆に体の各所から血を吹き出し、動きを更に鈍らせる結果を招いてしまう。
そんな隙を四級魔族が逃す筈もなく。
「おめえも早くくたばりなっ!」
鷲の魔族の低空飛行からの蹴りをまともに食らってしまう。
「がっはっ……!!」
私は数メートル吹き飛び建物の壁に激突する。
壁を破壊しないまでも、亀裂が入り、背骨が軋みを上げて、電撃が走ったような苦痛を伴わせる。いっその事壁を貫いた方が衝撃が拡散されて小さいダメージで済んだかもしれない。
私もこの一撃で善戦虚しく地に倒れ伏した。
倒れる瞬間視界の端に椎名が映り、そのすぐ横には拳を振り上げる狼の魔族が見えた。
駄目だ。待て……。
「止め……ろ……」
振り絞るように声を上げて体を起き上がらせようとするが、最早首を持ち上げるので精一杯であった。再び椎名がいる場所に何とか視線を這わせる。そんな事をしても無駄なのは分かっている。けれど見届けなくてはならないと、そう思ったのだ。
「……? ……しい……な?」
ふと彼女の名前を呟いてしまう。そこには彼女の最後の瞬間が広がっているのかもしれなかった。それとも奇跡的に何とか起き上がり、果敢に再び魔族に向かっていく椎名の姿が映るのかと。
だが結果、そのどちらでも無かった。
私の視線の先、狼の魔族の前にはもう椎名の姿は無かったのだ。
「はあっ! はあっ! はあっ……!」
これで倒した魔族は十二体に及んだ。だが、私の体にもそれと同じか或いはそれ以上の裂傷が生まれていた。
ドクドクと血が滴り、体の至る所がズキズキと脈打っているように私に苦痛を味合わせる。
息遣いも荒くなり、顔から血なのか汗なのか自分では判別のつかないものが噴き出しては伝う。
意識が朦朧としてきて本当は立っているのも辛かったのだが、私が倒れたら次は美奈やアリーシャが蹂躙されてしまうという使命感や強迫観念にも駆られたような感情だけが私を繋ぎ止めていた。
「この腐れ人間風情があっ! そろそろくたばりやがれいっ!」
私の死角から突然鉤爪の蹴りが襲ってきた。鷲の魔族だ。先程から厄介な事この上無い。度々私の隙をついては有効な攻撃を繰り出してくる。
後ろ斜め上からの蹴りに対応出来ず今回もまともに攻撃を食らう。数メートル吹き飛ばされ、たたらを踏んでしまう。それでも倒れはしない。両足が力を失う事を激しく拒否しているように持ちこたえる。最早ただの意地を張り通しているだけなのではないか。
その先には亀の魔族。太短い俵のような腕による横殴りの攻撃。今の私にそれを避ける術は無い。
「がっ……!!」
口の中が切れて血を吹いたようになるが、今更こんな傷は誤差の範囲だ。それでも本来なら首の骨でも折れてもよさそうなくらいの攻撃に歯を食い縛り堪えられているのだから、改めて覚醒の能力向上の凄さに感嘆する。
だがそれでも敵の攻撃を受け過ぎた。
膝が震えて崩折れそうだ。それと同時に精神にも限界が近いている。いや、そんな事は断じて無い。まだやれる。私はまだ戦える。
「ゴハアアァァッッ!!!」
声に目を向けるとレッサーデーモン二体が同時にヒートブレスを放つ瞬間だった。
頭では避けようと必死にもがくが身体が言う事を利かない。足が、動かない。
私は咄嗟にツーハンデッドソードの腹を盾の様にして構え、せめてダメージを減らそうと試みた。
その瞬間。
一陣の風が吹いてヒートブレスは私の横へと逸れていった。
ふと風が吹いた方を見ると、壁に着地し自身の武器へと力を込める椎名の姿。一瞬の煌めきのような強烈な光を放ち、私は目が眩みそうになった。
それでも目を瞑るまいと目を開いた瞬間、奇しくも彼女と目が合った。
その刹那、彼女は建物の壁から大きく跳躍。まるでロケットのようなスピードでレッサーデーモンのヒートブレスを跳ね返し、その衝撃で周りにいた四体に飛び火。燃えてのたうち回るレッサーデーモン。更にその勢いのままに三体の体を貫き吹き飛ばした。
鬼気迫るとはこの事だ。凄まじいまでの威力に仲間の私ですらも戦慄する。
更にその先にいる狼の魔族へと肉薄。恐らく本命はこいつなのだろう。だがレッサーデーモンを吹き飛ばした勢いで方向と勢いは完全に削がれてしまっていた。それでも結果、左腕を吹き飛ばした事は称賛に値する。
狼の魔族は特に痛がるでも無く、残った方の手で椎名の足首を掴み、そのまま地面に叩きつけた。そして直ぐ様地に仰向けになった彼女に向けて、無情な魔族の拳が腹部にめり込んだ。鈍い音を立てながら大きく九の字に曲がる体。直ぐに同じ箇所に一発二発と拳が放たれ、椎名は手足を痙攣させながら遂には動かなくなってしまった。
それと同時に、今まで戦闘の最中に私の回りに有った濃密な空気の流れのようなものも消え失せる。
恐らく椎名の能力だったのだろう。先程吹かせた風のように、自身も魔族と戦いつつも、私達にまで意識を飛ばし守られていたのかもしれない。
椎名を助けに行きたいが、体が最早思うようには動いてくれなかった。
例え全快の状態であっても一瞬では辿り着けない距離にいる椎名を、見ている事しか出来ない。
それに、こうしている間にも次々とレッサーデーモンの攻撃が椎名との間を阻むように覆い被さってくるのだ。
椎名のあの攻撃を目の当たりにした事で、自身に大きな隙を作ってしまった。私の周りにはいつの間にか十体近いレッサーデーモンが周囲を取り囲むように位置していたのだ。
そんな中でも私は椎名から目が離せない。ゆっくりと狼の魔族が彼女の方へ歩いていくのが見えた。
椎名が殺られる。
私は必死に目の前のレッサーデーモンへと剣を振り回すが、そんな闇雲な攻撃が当たる筈も無い。逆に体の各所から血を吹き出し、動きを更に鈍らせる結果を招いてしまう。
そんな隙を四級魔族が逃す筈もなく。
「おめえも早くくたばりなっ!」
鷲の魔族の低空飛行からの蹴りをまともに食らってしまう。
「がっはっ……!!」
私は数メートル吹き飛び建物の壁に激突する。
壁を破壊しないまでも、亀裂が入り、背骨が軋みを上げて、電撃が走ったような苦痛を伴わせる。いっその事壁を貫いた方が衝撃が拡散されて小さいダメージで済んだかもしれない。
私もこの一撃で善戦虚しく地に倒れ伏した。
倒れる瞬間視界の端に椎名が映り、そのすぐ横には拳を振り上げる狼の魔族が見えた。
駄目だ。待て……。
「止め……ろ……」
振り絞るように声を上げて体を起き上がらせようとするが、最早首を持ち上げるので精一杯であった。再び椎名がいる場所に何とか視線を這わせる。そんな事をしても無駄なのは分かっている。けれど見届けなくてはならないと、そう思ったのだ。
「……? ……しい……な?」
ふと彼女の名前を呟いてしまう。そこには彼女の最後の瞬間が広がっているのかもしれなかった。それとも奇跡的に何とか起き上がり、果敢に再び魔族に向かっていく椎名の姿が映るのかと。
だが結果、そのどちらでも無かった。
私の視線の先、狼の魔族の前にはもう椎名の姿は無かったのだ。
0
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

戦国記 因幡に転移した男
山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。
カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる