83 / 135
第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に
2-11
しおりを挟む
「おい!いよいよピスタの街の近くまで来たみたいだぞっ!?」
「よくわかるものだな。やはり君達の魔法は特殊だ」
工藤の感知能力にアリーシャは素直に驚いていた。どうやらこの手の魔法には覚えがないらしいのだ。
岩山を抜けて、視界が開けた場所に出た。遠くに石壁に囲まれた街が一望出来た。あれがピスタの街だろう。
しかしどうも街の様子がおかしいように感じる。
「……あれ……煙じゃないかな?」
「確かに。穏やかな雰囲気じゃないわね」
美奈、椎名も異変に気づいて呟きを漏らす。そう、遠目から見ても明らかに黒煙が上がっているのだ。察するに街で何かしらの争いが起こっているのではないか。
「工藤。何か分からないか?」
彼に尋ねると暫し思案顔で首を捻る。
「う~ん……詳しくはわからねーが……。街の人たちが走り回ってんな。……後それを追いかける足音を感じる。……人が倒れたりもしてるな」
「何者かに襲われているという事か!?」
アリーシャの顔色が険しくなる。これは早く助けに行った方が良さそうだ。
「椎名」
「はいはい行きますよ。アリーシャとでいい? 大人数は厳しいから」
呼んだだけで意図を察しため息混じりにそう答える。私はこくりと頷く。自分の方に移動してくる椎名を見て今一意図が掴めていないようで困惑した表情を作るアリーシャ。
「? ……ハヤト、一体どうするというのだ?」
「アリーシャ、恐らく何者かに街が襲われている。事態は一刻を争うのだ。先行して椎名と街に向かってくれ。椎名の風の能力で飛んでいけばここからでも数分で街に着ける筈だ」
相手が何者かは分からない。だがあらゆる状況に於いて、この二人が最も最善の対応をしてくれるだろう。
「じゃ、もう行くよ。アリーシャ」
「え? う、うわあーーーっ!!!?」
言うが早いか私達の周りに一陣の強風が巻き起こる。その推力を利用してあっという間に二人は空へと上昇。アリーシャの焦ったような声が気には掛かったがそのまま街へと飛んで行ってしまった。風が収まった後に見やれば二人は最早豆粒程の大きさとなっている。それを確認しつつ工藤の方を振り返る。
「工藤。お前も走って行ってくれ。お前の足なら五分と掛かるまい」
戦力は少しでも多い方がいい。今ならすぐに椎名達に追い付けるだろう。
「そうだな、椎名が無茶しねーか心配だしな!」
「あ、あのっ! クドーさん!」
「ん?」
フィリアが身を乗り出してきて工藤の手を握った。
「姫様のこと、よろしくお願いします。私じゃ姫様の力になれないから……。昔から、結構無茶をする人だから」
「お、おう……。フィリアちゃん大丈夫! 俺に任しときな!」
まんざらでもないニヤけた笑みを浮かべ、暫くフィリアの手を握り返し見つめ合う二人。椎名が見たらジト目で蹴り飛ばす姿が目に浮かぶ。
「じゃなっ! 行ってくるぜ!」
少しだけ名残惜しそうに、最後にフィリアにウインクを一つ残し、猛然と走り去って行く工藤。結果的に椎名達とは少しタイムロスが生まれてしまったが、あの速さならば大きな問題は無いだろう。最早工藤も豆粒程の大きさになり、あっという間に見えなくなる。
「よし、では私達も急ごう」
そして私は手に握る手綱に力を込めた。
「あ、あのっ!」
「ん? フィリア?」
馬車のスピードを上げようとした矢先、フィリアは今度は私の方を向く。一旦そのままの速度で馬車を走られる。
「あの……出来ることならお二人も先に行って下さい! 私のせいでお二人は馬車に残って街に向かってくれてるんですよね? 私は大丈夫ですからっ!」
「……だが、もしフィリアを残して私達も先に行き、万が一何かあったらどうするのだ?」
「私なら防護魔法で馬車ごと守ってますから。街に入るのも少し経ってからにします。何なら様子が落ち着くまでこの辺りで待ってますので。それよりも姫様を守ってあげてください。昔から向こう見ずな所があって、きっと無理をしてしまうから。私じゃ姫様を守ってあげることは出来ないから」
工藤に言ったような事を私達にも訴えてくるフィリア。余程アリーシャの事が心配なようだ。まあ幼少期からアリーシャの隣で侍女として共に過ごして来た相手が、危険な場所に身を投じるのだから当然と言えば当然の行為。だが、フィリアも決して安全という訳では無いのだ。
「……分かったのだ。では、街からの黒煙が消えるまではここで待機していてくれ。一時間でケリをつけてくる」
少考した後、結局フィリアの防護魔法を信用し、待っていてもらう事にした。街での戦いに、戦力があるに越した事は無い。フィリアに関しては補助系の魔法は使えるようだが戦力的には足手まといになる可能性が高い。ここは比較的安全なこの辺りで待っていてもらう方が得策と考えた。
「はい! お願いします!」
私は街道の端に馬車を止め、武器を持って道へと降りた。
「では美奈、私達も行こう」
「うん、わかった。……フィリアさん、本当に無理しないでくださいね?」
「はい。ここに隠れてるだけですから」
フィリアは微かに笑って手を振ってくれた。
私と美奈はフィリアが防護魔法を掛け終わるのを待ち、数分遅れで皆に次いで街へと駆けた。
「よくわかるものだな。やはり君達の魔法は特殊だ」
工藤の感知能力にアリーシャは素直に驚いていた。どうやらこの手の魔法には覚えがないらしいのだ。
岩山を抜けて、視界が開けた場所に出た。遠くに石壁に囲まれた街が一望出来た。あれがピスタの街だろう。
しかしどうも街の様子がおかしいように感じる。
「……あれ……煙じゃないかな?」
「確かに。穏やかな雰囲気じゃないわね」
美奈、椎名も異変に気づいて呟きを漏らす。そう、遠目から見ても明らかに黒煙が上がっているのだ。察するに街で何かしらの争いが起こっているのではないか。
「工藤。何か分からないか?」
彼に尋ねると暫し思案顔で首を捻る。
「う~ん……詳しくはわからねーが……。街の人たちが走り回ってんな。……後それを追いかける足音を感じる。……人が倒れたりもしてるな」
「何者かに襲われているという事か!?」
アリーシャの顔色が険しくなる。これは早く助けに行った方が良さそうだ。
「椎名」
「はいはい行きますよ。アリーシャとでいい? 大人数は厳しいから」
呼んだだけで意図を察しため息混じりにそう答える。私はこくりと頷く。自分の方に移動してくる椎名を見て今一意図が掴めていないようで困惑した表情を作るアリーシャ。
「? ……ハヤト、一体どうするというのだ?」
「アリーシャ、恐らく何者かに街が襲われている。事態は一刻を争うのだ。先行して椎名と街に向かってくれ。椎名の風の能力で飛んでいけばここからでも数分で街に着ける筈だ」
相手が何者かは分からない。だがあらゆる状況に於いて、この二人が最も最善の対応をしてくれるだろう。
「じゃ、もう行くよ。アリーシャ」
「え? う、うわあーーーっ!!!?」
言うが早いか私達の周りに一陣の強風が巻き起こる。その推力を利用してあっという間に二人は空へと上昇。アリーシャの焦ったような声が気には掛かったがそのまま街へと飛んで行ってしまった。風が収まった後に見やれば二人は最早豆粒程の大きさとなっている。それを確認しつつ工藤の方を振り返る。
「工藤。お前も走って行ってくれ。お前の足なら五分と掛かるまい」
戦力は少しでも多い方がいい。今ならすぐに椎名達に追い付けるだろう。
「そうだな、椎名が無茶しねーか心配だしな!」
「あ、あのっ! クドーさん!」
「ん?」
フィリアが身を乗り出してきて工藤の手を握った。
「姫様のこと、よろしくお願いします。私じゃ姫様の力になれないから……。昔から、結構無茶をする人だから」
「お、おう……。フィリアちゃん大丈夫! 俺に任しときな!」
まんざらでもないニヤけた笑みを浮かべ、暫くフィリアの手を握り返し見つめ合う二人。椎名が見たらジト目で蹴り飛ばす姿が目に浮かぶ。
「じゃなっ! 行ってくるぜ!」
少しだけ名残惜しそうに、最後にフィリアにウインクを一つ残し、猛然と走り去って行く工藤。結果的に椎名達とは少しタイムロスが生まれてしまったが、あの速さならば大きな問題は無いだろう。最早工藤も豆粒程の大きさになり、あっという間に見えなくなる。
「よし、では私達も急ごう」
そして私は手に握る手綱に力を込めた。
「あ、あのっ!」
「ん? フィリア?」
馬車のスピードを上げようとした矢先、フィリアは今度は私の方を向く。一旦そのままの速度で馬車を走られる。
「あの……出来ることならお二人も先に行って下さい! 私のせいでお二人は馬車に残って街に向かってくれてるんですよね? 私は大丈夫ですからっ!」
「……だが、もしフィリアを残して私達も先に行き、万が一何かあったらどうするのだ?」
「私なら防護魔法で馬車ごと守ってますから。街に入るのも少し経ってからにします。何なら様子が落ち着くまでこの辺りで待ってますので。それよりも姫様を守ってあげてください。昔から向こう見ずな所があって、きっと無理をしてしまうから。私じゃ姫様を守ってあげることは出来ないから」
工藤に言ったような事を私達にも訴えてくるフィリア。余程アリーシャの事が心配なようだ。まあ幼少期からアリーシャの隣で侍女として共に過ごして来た相手が、危険な場所に身を投じるのだから当然と言えば当然の行為。だが、フィリアも決して安全という訳では無いのだ。
「……分かったのだ。では、街からの黒煙が消えるまではここで待機していてくれ。一時間でケリをつけてくる」
少考した後、結局フィリアの防護魔法を信用し、待っていてもらう事にした。街での戦いに、戦力があるに越した事は無い。フィリアに関しては補助系の魔法は使えるようだが戦力的には足手まといになる可能性が高い。ここは比較的安全なこの辺りで待っていてもらう方が得策と考えた。
「はい! お願いします!」
私は街道の端に馬車を止め、武器を持って道へと降りた。
「では美奈、私達も行こう」
「うん、わかった。……フィリアさん、本当に無理しないでくださいね?」
「はい。ここに隠れてるだけですから」
フィリアは微かに笑って手を振ってくれた。
私と美奈はフィリアが防護魔法を掛け終わるのを待ち、数分遅れで皆に次いで街へと駆けた。
0
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる