私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
69 / 135
間章2 椎名と工藤の腕試し

しおりを挟む
 俺は椎名との作戦会議を終えて、再び地上へと着地した。
 やっぱり俺は空よりもこの地上が落ち着く。
 しっかりと地に足を着けて、地面を通して周りの情報を得つつ、新ためてヤツを見据えた。
 空にいる間、やけに大人しいと思ったら、金属野郎はひしゃげた腕や首がすっかり元に戻っていた。
 どうやらこのちょっとの間を修復に当てたのだろう。面倒くさい奴だ。

「まあいいさ、どうせぶっ壊すだけだ。第二ラウンドと行こうぜ」

 俺は再び意識を集中させ足元にある土を操った。
 砂塵を再び腕に纏い、それらはざらついた音を立てながら、俺の戦いの道具となる。
 金属野郎は戦いの再開と共にこっちに突っ込んで来るかと思いきや、趣向を変えたのか、手の平をこちらにかざした。
 魔法を放つのかとびびったが、手の平から放たれたのは金属の弾丸だ。
 奴の手から数発こちらに向けて射出されてきた。

「うあっ!?」

 一瞬にして彼我の距離を埋める弾丸に、俺は慌てふためいたが、何とか砂の膜を展開し防いだ。
 バスバスと音を立てて砂の防御膜にぶち当たる。
 威力はさんなに高くない。

「!!」

 だがその隙をついて金属野郎は場所を移していた。
 一瞬目を離した隙に俺の後ろにまで。中々のスピードだ。
 拳の乱打が浴びせられて俺は肝を冷やす。
 だが対応出来ない程じゃない。
 普通のヤツならまともに食らっていただろうが、足元の地面を通してヤツの動きを把握しているのだ。
 目を離したところで奴の動きは手に取るように分かる。
 俺は金属野郎の拳を前に飛んで難なく避わす。
 奴はそれが意外だったのか、渾身の一撃をあっさりと避わされて、勢い余って前につんのめった。
 しめたと思い攻撃を仕掛けようとしたら、そのままくるりと回転し、勢いをつけて蹴りを放ってきた。
 中々器用なことをする。

「ストーン・バレット!」
 
 それを俺は拳大の石の弾丸三発で牽制する。
 今しがた前に飛んだ際に手にしたのだ。
 例え地面から離れていても、一メートル程度の範囲なら土や石を意のままに操ることができる。さっきのお返しだ。
 全ての石は見事命中したが、ダメージが入ったよえには見えない。
 それでも奴の動きを止めるには十分だった。
 その隙に今度は砂を纏った右蹴りを放つ。
 蹴りは金属野郎の横面を捉え、奴の首がボギリと右に折れる。
 まるで機械を相手にしているようだ。
 どんなに物理攻撃を与えても動きが鈍る様子がない。
 だが、例えダメージは無くてもバランスは崩れるだろう。

「まだまだぁっ!!」

 更に追撃をけしかける。
 俺は手足や肘、膝に砂を纏った状態で、金属野郎をサンドバッグにして滅多打ちにする。

「オラオラオラオラァッッ!!!!」

 顔、肩、腕、足、胴。
 全力の拳を放った場所が少しずつではあるが確実にひしゃげていく。

「このっ! クソ野郎があ~っっ!!」

 気合いの声と共に十数発の乱打の最後。両の拳を頭上で組み、頭から地面に叩きつけた。
 グシャリと嫌な音を立てて地面に数センチめり込む金属野郎。

「はあ……、はあ……」

 流石にあれだけの乱打で俺も息が荒くなる。
 だが、これでそう簡単には修復できない程ボロボロにしてやったはずだ。

「どうだっ……!」

 そんな俺の意に反して、金属野郎は地面にめり込んだ体をバキリと引き抜いて、ゆっくりと立ち上がった。

「……まじかよ……」

 そんな言葉が漏れる。
 流石に色々がたが来ているようには見えるが、少しずつだが確実に修復していく。
 こんな感じだと、奴を殴って倒すのは難しそうだと思ってしまう。
 金属野郎は修復が終わらない内に、今度は真正面からユラリと俺に向かってきて、拳を振り上げてきた。

「舐めんなっての……」

 俺はニヤリと笑みを浮かべて余裕の表情でヤツを迎えた。
 奴は振り上げた拳を俺の顔に向けて放ったが、直撃の数センチ手前でピタリと止まってしまう。
 金属野は急に体の動きを鈍らせてギチギチと震え出した。
 それを悠然と手を腰に当てて見つめる。

「お前は俺の攻撃を何回受けたと思ってんだよ?」

 金属野郎の体にはいつの間にか夥しい量の砂が付着していた。
 そのまま砂は固まり、地面とも繋がり、一時的にではあるがヤツの体の自由を奪う。
 それに気づいたヤツは体の砂を振り払うべくもがきはするが、俺が砂の緩急を調整し、それをさせない。
 完全に砂で金属野郎を羽交い締めの状態にした。
 そしてそのタイミングで、俺の耳に風切り音が届いた。
 その音が何なのか、俺には分かりきっている。

「椎名ぁ! 今だっ! やれえっ!」

「わかってるわよ!」

 俺の声に応える声は、空から超スピードで落下してくる椎名だったのだ。
しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...